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和菓子『桃の水まんじゅう』と悩める乙女の肌



「うっ、うーーーー、……………うっうーーーー!」


人気の無い茶屋内に少女の泣き声が響くなか


「どう、少しは落ち着いた?ほら、冷たく冷えた緑茶とおしぼり持って来たから、ひとまずお茶飲んで水分補給しな、ねぇ。」


「そうじゃぞ、さっきからずっーと泣いておったから、ハナ、喉渇いたじゃろう。ほら、遠慮せずに飲むのじゃ。

それにその泣きすぎて腫れた目もおしぼりで冷やすと良いぞ。………あっ!いや、その前に。ほれ、ティッシュやるから鼻をかむのじゃ」


泣き続ける少女のハナのため、急きょ茶屋の扉の看板を準備中にひっくり返し。冷たく冷えた緑茶とおしぼりを持った愛満とハナの隣の席に座り。先程から右往左往して心配していた山背が、少し泣き声が収まった様子で、すすり泣くハナに優しく声をかける。


するといろんな意味で顔が涙や汗、鼻水などでぐちゃぐちゃになったハナが、真っ赤に赤くなった顔を上げ。


「よじみづもやまじろもありがどう~!」


鼻づまりで濁音気味に感謝の言葉をのべながら、山背から箱ティッシュを受けとると豪快に鼻をかみ。泣きすぎてカラカラに渇いた喉を冷たい緑茶で潤すと、空になったコップを愛満に渡し。遠慮なく冷たい緑茶のお代わりを頼む。


そんないつものハナの様子に、普段のハナの姿に戻ったとホッとした山背は、そもそもハナが大泣きして茶屋へと駆け込んで来た訳を質問する。


「今度こそ落ち着いたか、ハナ。それで、いったい全体どうしたのじゃ?そんなに突然大泣きしながら茶屋へと飛び込んで来て、ワシも愛満もビックリしたのじゃぞ!」


「………えっと、………へへへ!なんか迷惑かけちゃって愛満も山背もゴメンね!

……………う~んと、……………えっと、………そう!たいした事じゃないから気にしなくても大丈夫たがら!ちょっと泣きたくなったたけだから……大丈夫、大丈夫!本当に大丈夫だから…………………」


山背からの問いにハナは、照れ臭そうに照れ笑いしながらも、何やらモゴモゴと口ごもり。迷惑をかけた愛満と山背に頭を下げながら、大丈夫、大丈夫と繰り返して、最後は悲しそうに泣き笑いして口ごもる。


「そんな事気にしなくても大丈夫だよ。僕達とハナの仲でしょう?それより本当にどうしたの?全然大丈夫そうに見えないよ。

元気だけが取り柄だと日頃自分で言ってるのに、今日のハナ全然元気に見えないよ。……………ハナさえ良かったら、何があったか僕達に話してくれたら嬉しいなぁ………」


「そうじゃぞ、ハナ。今日のハナからは、ワシが大好きなハナの笑顔がまだ1度も見えとらんぞ!

ほれ、何があったかワシと愛満に言うてみぃ。何も出来んかも知れんが、誰かに話すだけでも心が軽くなるのじゃぞ。」


愛満と山背が心配して優しくハナに声をかけるとハナは大粒の涙をポタポタと流し。ポツリポツリと話してくれた。



◇◇◇◇◇



それによれば、毎日きちんと洗顔など気をつけていたのだが、夏の間の連日の暑さや自身が汗かきな事もあり。おでこや頬にかけて、赤いポツポツしたニキビが沢山できてしまい。どうケアすれば良いか解らず。


町のお姉様方御用達のカリン達が営む化粧品店には、学生と言う事や金銭面が心配で、恐れ多くて来店出来ず。


日々悩んでいたところ。ハナが通う学校の同級生で、少し前から気になる異性の男子がおり。

今日たまたま友達と遊んでいた所、その気になる男子グループとばったり会ってしまい。

その中の一人の男子が自分の女友達と顔見知りだったらしく。男子グループから声をかけられ。

何かの拍子に、日頃気にしていた赤いポツポツしたニキビの事を男子グループの1人の男子にからかわれ。


気になる男子がいる事や、仲良しの女友達がいる前でからかわれた事から、恥ずかしさや悔しさ、悲しさで心がいっぱいになり。その場を飛び出してきてしまったらしいのだ。



◇◇◇◇◇



そんな17才という多感な年頃のハナの話を聞き。学校帰りに仲良しの女友達や母親、姉妹でも良く万次郎茶屋に和菓子を食べや買いに来てくれるハナと仲良しの愛満や山背は、ハナをからかった男子に怒り心頭で怒り。


「ひどい!17才の年の頃なんて一番多感な時期なんだから、ニキビだってできやすいし。

その事で他人をからかうなんて絶対しちゃダメな事なんだよ。何を考えてるんだろう、その子!

あっ!ハナ、その子が言う事気にしなくても大丈夫だからね。ハナぐらいの年の頃にはニキビができやすかったりするんだよ。

それにね、僕の従姉妹のお姉ちゃんも高校3年間運動部で連日直射日光に当たってた事や、ハナと同じ汗かきでニキビに悩んでたんだよ。

けど、大人になるとともにニキビも跡形もなく綺麗に治ったし。今では都会で人気の凄腕のエステティシャンなんだから!」


「なんという奴じゃ!男の風上にもおけぬ!

自分以外の人の容姿を、ましては女性の容姿をバカするなど絶対にしてはならんことじゃ。

何を考えておるのじゃ、その小僧は!ワシが今から行ってとっちめてやろうかのう~!

確かトヨがやっとる図書館近くと話しておったのう。ハナ、待っとれ!今、ワシが敵をとって来てやるのじゃー!!」


2人とも鼻息荒く話して、山背などはさらに鼻の穴を大きく膨らませ。そのまま今にも茶屋を走り出しそうになるのを慌てたハナや、山背を見て冷静さを取り戻した愛満から必死に止められ。

機転を利かせた愛満から、桃を使った夏の和菓子の1つ『桃の水まんじゅう』と、桃繋がりで山背大好きなカルピスの『白桃カルピス』を出され。ひとまず落ち着き。


「うんうん。相も変わらず『白桃カルピス』は旨いのう~!

それにこの桃を使った『桃の水まんじゅう』とやらも、餡子が包まれた普段の水まんじゅうと違い。ジューシーな生の白桃が水まんじゅうの中にゴロゴロ入っておって実に旨いのじゃ!ハナも旨かろう?」


先程までの怒りに包まれた顔とうって変わり。白桃カルピスと桃の水まんじゅうを交互に口にしながら満面の笑みを浮かべる山背は、隣の席で同じく『白桃カルピス』と『桃の水まんじゅう』を食べるハナに話しかける。


「うん、本当に美味しいよね。このモチモチした水まんじゅうの生地と桃の組み合わせが最高!

私この町に来てから初めて桃を食べたけど、甘くてジューシーでとろけるような桃が大好きになったから、こうして食べた事の無い桃を使ったお菓子が食べれて嬉しい!」


先程の山背が起こした一騒動で、何やら吹っ切れた様子のハナは、少々目が腫れ上がり。腫れぼったくなっているものの、山背と2人ニコニコと幸せそうに桃を使った水まんじゅうを食べ進める。


「本当に?それは良かった。桃はね、女性の強い味方の果物になってね。

便秘解消に効く食物繊維や冷え症の緩和、血行をよくしたり。老化防止やガン予防の効果が期待できるんだ。

この前 黛藍と話してて、少しでも茶屋に足を運んでくれるお客さん達に体に良いものを食べてほしいと改めて思ったから、女性にも人気で、7、8、9月が一番美味しい時期の桃を使って、さっぱり食べれる和菓子を作ってみたと言う訳なんだ。たくさん有るから遠慮せずに食べてね。」


「へぇ~桃ってそんな効能があったんだ!全然知らなかった。美味しいだけじゃないんだね。

それにしても相変わらず愛満はスゴいね!小さなお菓子一つ一つやお客さんの為に、そこまで考えて作ってるんだから…………モグモグ………うん、美味しい!」


愛満の話に感心した様子で、甘い桃の果実シロップがかかった『桃の水まんじゅう』を食べ。空になったガラスの器を悲しそうに見つめ。何やら照れ臭そうに笑い。


「…………えっと、………愛満、悪いんだけど」


「お代わりだね。大丈夫だよ。ちょっと待っててね。あっ、山背はお代わりどうする?」


1人黙々と『白桃カルピス』や『桃の水まんじゅう』に舌鼓うっている山背にも声をかけ。愛満はお代わりを持って来てあげる。



そうして、表面上だけでも落ち着きを取り戻したハナの様子に少し安心した愛満は、改めて今だ赤みの残るハナの顔を見つめ。


「あ、あのね、話をぶり返して悪いんだけど、ハナが気にしてるニキビにね。聞くローションて言うの?化粧水になるのかなぁ。それが家の冷蔵庫に有るんだけど…………ハナ、使ってみる?」


愛満がハナに問いかけると、ひどくビックリして様子で、口の中の水まんじゅうを喉に詰まらせかけ。慌ててカルピスで水まんじゅうを流し込み。


「…!!!………ぐっ!……ゴクゴクゴク………ゴホ!ゴホゴホゴホ!はぁ~~危なかった!水まんじゅうが喉に詰まり死にかけた。

ところで、ほ、本当に!?本当にニキビが治る化粧水が有るの?しかも分けてくれるの?」


「うん。桃の葉と水を使ったシンプルな化粧水で、僕の手作りで保存料とか一切入ってないから、悪いんだけど1週間しか日持ちしないんだけど

確か昔、従姉妹の姉ちゃんがニキビに困ってる時に婆ちゃんが作ってあげて、従姉妹の姉ちゃんのニキビが治ったと思うんだ。

あっ、ちょっと待ってて。婆ちゃんに聞いて書き写したノートにその辺の事が書いてあると思うから、ちょっとノート取って来るね。」


興奮して口が開きぱなしで、嬉しすぎて言葉が出ないハナを残して愛満は自室へとノートを取りに行き。


「ごめん、ごめん、お待たせ。

えっとね。…………………あっ、やっぱりそうだった。

婆ちゃんが教えてくれた事にはね。桃の葉エキスには、抗炎症作用、殺菌作用、保湿作用という、ニキビを治すのに必要な働きを一つの成分で3つ持ってるらしくて

特に白ニキビや黒ニキビ、ハナが気にしてる赤ニキビなんかの全てのニキビを治すことが期待できるみたいなんだ。

他にも日焼けによるシミ、ソバカスを防ぐ効果も有るみたいで、見た目は僕の手作りだから茶色い液体に見えるけど、赤ちゃんの汗疹やアトピー、肌荒れにも使える安心安全な化粧水になるんだよ。

だから家では光貴や愛之助、黛藍達の汗疹も対策で、化粧水として皆で使ってるんだ。」


ノートを取りに行ったついでに持って来た。新品のボトルに入った茶色い液体の桃の葉化粧水を手渡し。


「あっ!けど桃の葉エキスが肌に合わない人もいるから、少しでも刺激感や発疹、発赤、痒みなんかを感じたら絶対使用しないでね。

それにさっきも話したけど、桃の葉と水を煮て作った自家製の化粧水だから、保存料なんか全く入ってないから絶対冷蔵庫になおしてなきゃいけないし。1週間過ぎたら必ず破棄して、中身の桃の葉化粧水を捨ててね。また新しいのプレゼントするから」


桃の葉化粧水の注意点を紙に書き写しあげながら、嬉しさで両手をプルプル震わせるながら化粧水のボトルを見つめるハナへと説明してあげる。



◇◇◇◇◇



そうしてその後、ハナを探して町中走り回っていたらしいハナの友人のマーレット、カトレア、リリィ達3人が万次郎茶屋へと飛び込んで来て、ハナを囲んでひとしきり泣いて騒ぐと

口々にハナをからかった問題の男子を以下にしてコテンパンに言い負かしたかや、女心の解らないまだまだお子ちゃまな男子の愚痴を話しつつ。

ハナが走り去った後、ハナが気になる男子がハナの事をすごく心配していて、からかった男子の事を怒っていたとも教えてくれ。


ハナ達は、さんざんお喋りや泣いて渇いた喉や、町中走り回って小腹が空いたお腹を愛満のサービスで出してくれた。冷たく冷え緑茶や『白桃カルピス』、『桃の水まんじゅう』などで満たし。


愛満や山背、友人達から慰められたハナは、来た時とは見違えるような笑顔を浮かべ。友人達と肩を並べて、楽しそうな笑い声と共に茶屋を後にするのであった。



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