「柚子茶」と、ササ族の黛藍
その日、茶屋の住人に新しく加わった美樹が王都から遠く離れた村までの長旅の疲れがでて。自室でぐっすり眠りについてる頃。
愛満と愛之助の2人は、タリサとマヤラ達2人が連れてきた予想外の人物に戸惑いながらも簡単な自己紹介し。お茶やお茶菓子を振る舞いながら、心ばかりのおもてなしをしていた。
「どうも、ありがとうアルね。けど、そんな気を使わなくて良いアルよ。お構い無くアルよ。
う~~~ん♪しかしこのお茶、すごく美味しいアルね!
こんな見た目も綺麗でいて、風味豊かなお茶、初めて飲んだアルよ。どうやって作るアルか?」
150cmあるかないかの小柄な体格に、ぷくぷくして可愛らしい見た目をした二足歩行のパンダ君が、愛満が振る舞った『柚子茶』と茶菓子の『笹団子』を美味しそうに食べながら質問してくる。
「ありがとう。そのお茶はね。『柚子茶』と言って、すごく簡単に作れる万能茶なんだ。
後、恥ずかしながら素人の僕の手作りでいて、家の畑に自生してる柚子の木からもぎたて新鮮な柚子を使ってね。
柚子を綺麗に水洗いした後、水気をふきとり。皮ごと薄くスライスして、千切りにした柚子皮と同じ分量のグラニュー糖をさっくりと混ぜ合わせ。そのまま2~3時間おき。
熱湯消毒した瓶に隙間ができないようにしっかり詰めこんだら完成なんだよ。ね、簡単でしょ。」
「へぇ~!こんなに美味しいアルのに、『柚子茶』とはそんな簡単に作れるアルか!?」
「そうなんだよ。こんなに美味しいのにスゴく簡単に出来ちゃうんだ。
あっ!それから後ね。涼しい所で保管してもらって、寒い季節には、お好みの濃さにお湯を加えて飲んでも良いんだよ。
それに暑い季節には、お湯の代わりに炭酸水を入れてもらって飲んだりしても柚子の風味や甘味がして美味しいし。
他にもお菓子やお餅なんかにも使えてね。
柚子にはビタミンСやペクチンが豊富に含まれているから、二つの相乗効果で血行を促進させ。シミやそばかすなんかを防いでくれたりするんだ。
それから僕の姉が蜂蜜が好きだったから、グラニュー糖を少し減らして、その分蜂蜜を加えて作ってるんだけどね。
蜂蜜を加える事で、グラニュー糖だけじゃだせない蜂蜜のコクや風味が加わって、蜂蜜入りの柚子茶も美味しいだよ。」
パンダ君の前の席に座り。パンダ君のあまりの可愛さについついタリサやマヤラに接するように甘々で接しながら『柚子茶』の作り方や、柚子の効能等を親切丁寧に教えてあげる愛満なのであった。
◇◇◇◇◇
このある日突然、万次郎茶屋へとやって来たパンダ君ことササ族の黛藍とは何者で、そもそも何故万次郎茶屋へとやって来たかと言うと
黛藍は、王都で保護された美樹のお世話をしてくれていたチャソ王国の貴族、唐家の三男坊になり。
家族の中で美樹と年が一番近い事もあって、無二の親友のように仲が良かったのだが、黛藍が私用で王都を数日離れている僅かな間に、美樹が供もつけずに一人で王都を離れ。遥か遠くの村、大吉村を目指して旅に出たとの話を聞き。
美樹の身を案じて大慌てで美樹の跡を追いかけ、朝倉村までやって来たらしい。
そしてたまたま立ち寄った朝倉村で、万次郎茶屋へと向かっているタリサとマヤラの2人に出会い。
美樹の風貌等を事細かに説明して、ここ数日の間に美樹に似た人物が村を通ってないか等の話を質問した所。
その人なら僕達が今から行く万次郎茶屋に居るよと教えてもらい。
半信半疑であったものの、タリサ達に連れられるまま3人で茶屋へとやって来たのであった。
◇◇◇◇◇
「ごめんね。今、愛之助が美樹を起こしにいってるから、もうちょっと待っててね。直ぐに来ると思うんだけど……。」
愛之助達が2階の美樹の自室に美樹を呼びに行ってから、なかなか降りてこない事に美樹に何かあったのかと心配になった様子の黛藍に気付いた愛満が、黛藍を安心させるように話し掛けていると
所々にピョンピョン寝癖がついた美樹が、大アクビをしながら愛之助に連れられ(連行され)店内へと、やっと降りて来る。
「もう!美樹、ちゃんと起きてるでござるか?
ちゃんと起きるでござるよ!
ちゃんと起きなければ、先程のように階段から落ちそうになるでござるよ!
拙者が美樹の腕をガッシリ掴んでいたから間一髪で助かったから良かったものの。拙者、今だに心の臓がドキドキしてるでござるよ!」
「本当だよ!せっかく僕とマヤラがお客さんの前に出るからって寝癖綺麗に直してあげたのに、美樹が髪の毛触るから寝癖が復活しちゃたじゃないか!」
「よちき、マヤラ、プンプンよ!」
なかなか起きてくれなかった美樹に悪戦苦闘だった様子の愛之助達3人がプリプリ怒っている中。
今だ欠伸が止まらない様子の美樹が
「悪り、悪り。
ファ~~~~!何か今日に限って寝ても寝ても眠気が覚めないんだよ。
で、俺への客って何処に居るんだ?そもそもココに居るの誰にも教えてないんだけど…………いったい誰なんだ?」
まだまだ眠気眼で、半分しか開いてないような眠そうな目を擦りながら不思議そうに愛満に問いかけ。
おもむろに茶屋内を見渡し。まるで可愛らしいぬいぐるみのようにソファーにちょこんと座わるパンダならぬ。親友の黛藍に気づくと、瞳をこれでもかと見開き。
暫くの間思考が停止した様子で、その場にピタリと固まり。
次の瞬間には大慌てしつつ、藍藍の元へ駆け寄って来て
「た、黛藍、どうしてココにいるんだ!?王都にいるんじゃなかったのか!?
それにこんな遠くまで1人で来たのか!?御付きの人達は??
あっ!それより体調や具合は大丈夫か?また無理してんじゃないのか?どうなんだ?
どこも具合悪くなったりしてないか!?大丈夫なのか!?」
何やら黛藍の体調面が心配なのか、矢継ぎ早に早口で質問すると
「プッ…クスクス。相変わらず美樹は心配性アルね。そんなに心配しなくても大丈夫アルよ。
自分でも何故か解らないアルが、今回は旅の途中からずっーと不思議と具合が凄く良いアルよ。」
前と少しも変わっていない美樹の自分に対する過保護と言うか、まず第一に自分の事よりも黛藍の体調面を心配してくれる姿に嬉しくもあり。
照れ臭さもあって、ついつい笑みが溢れつつもココ最近の体調が良い事を伝えつつ。
いくら愛満達から美樹が無事な事を聞いていても、自身の目で一目美樹の顔を見るまでは安心できず。心配していた事は事実なもので………………。
それに加え。親友の黛藍に一言の相談なしに王都を無鉄砲にも飛び出し旅に出た美樹の安易な考えにも少々……………いや!かなり爆発寸前の怒りが沸き上がっていて
下手したら旅の途中に魔獣なり、盗賊、悪気心を持つ人物に襲われていた可能性も多々あった訳で……………。
美樹の元気な姿に安心しつつも、その無鉄砲さや黛藍を気遣う心を自分に向けてほしいと言う思いと共に怒りがモクモクと甦ってきて
「それより美樹!私怒っているアルよ!1人で勝手に旅に出て!なぜ私に一言相談しなかったアルか!
前もって相談してくれてたらアル。一緒に旅に出てたアルし。
タリサ達から聞いた美樹がおった旅の苦労も負わずアルね。もっと楽に、安心安全に目的地の村へとたどり着けたアルよ!
本当に本当に!黛藍すごく心配したアルんだから!分かってるアルか、美樹!」
いつになく怒り心頭の様子の黛藍が美樹へと詰め寄り。
「分かった!分かったから、本当にごめんな黛藍。ゴメンごめん。本当に悪かったよ。この通り謝るから、な、そんなにカリカリするなよ。ちょっと落ち着いて、落ち着いて
ほら黛藍、深呼吸、深呼吸。
せっかく体調が落ち着いてるんだから、そんなにカリカリしてたらまた体調悪くなって、寝たきりの生活にぶり返しちまったら勿体ないだろう。」
興奮状態の黛藍へと美樹が謝り。必死に黛藍の体調が急変しないように落ち着かせつつ。
「それにさぁ、ちょうど黛藍が王都に居ない時に大吉村の話をたまたま耳にしちまって……………。
何だかいてもたってもいられなくなっちまって…………黛藍達には悪い悪いと思いつつ。気付いたら王都を飛び出し1人旅に出てたんだ。」
歯切れ悪く自身が旅に出た訳を少々言葉足らずではあるももの。手短に話し。
何やら思い出したように天をあおぎ。額に手をあてしかめ面しながら
「それより黛藍。お前ちゃんと家族に話してココに来てるのか?
ただでさえ昔から体調を良く崩してたから、家族や周りの皆がお前の事心配してくれてるだろう?
だから今頃、お前の姿が見えないからって、あのお前ラブの親父さんや兄貴さん達、姉貴さん達が何時かのように発狂して
また勝手に軍やら私兵を使って、お前を探す捜索隊を組んで動かしてないかって俺、…………心の底から王都の皆が心配だよ。」
黛藍ラブになる唐家当主や、その嫡男、他兄妹達のドか過ぎる規格外の行動を心配して問い掛けると
かなり、…………そう!かなりボカしにボカした。オブラートに包まれた数々の父親達の行いしか周りから知らされていない黛藍が、そんな美樹の姿をおかしそうに笑い。
「もう!本当に美樹は父様や兄様、姉様達みたいに心配症アルね。大丈夫、本当に大丈夫アルよ。」
何やらぷにぷにした可愛らしい腕で、力こぶらしき物を作り。自身の元気さをアピールしつつ。
【そう!力こぶらしき物です。
大変高貴な身分の貴族でありながら、軍人でもある筋肉質の父親や兄達と違い。
黛藍の力こぶは実際筋肉では無く。大変ぷにぷにした。触り心地良く、柔らかく可愛らしい『(仮)力こぶ(らしき物)』になります】
「それにアルね♪体調だってさっきも言ったアルが、旅の途中から不思議と凄く良いアルし。ここ何日間の間、一度も熱も発作も出てないアルよ!
後、美樹が心配しなくてもアルね。黛藍も分別をわきまえた大人あるアルから、ちゃーんと家族にも
『今から美樹を追いアルね。美樹と一緒に大吉村に住むと決めたアルから、一刻も早く美樹に追い付けるように旅に出るアルよ。婆様、母様、心配しないでほしいアル。』
と家に居た婆様と母様に説明してきたアルよ。
そしたら婆様と母様が、仕事で家に居なかった父様や兄様姉様達に仕事から帰って来たら、きちんと説明しておいてくれると約束してくれたアル。
だから美樹。何度も言うアルが、そんなに黛藍の事ばっかり心配しなくても大丈夫アルよ!」
本人的には大満足なご様子で、途中何やら美樹の旅の目的地でもあった。大吉村に一緒に住むなるおかしな話が聞こえてきたりしたものの。美樹的には、やや不安が残る返事をもらい。
「黛藍が、そこまで体調が良いと言うなら信用するが……………………。
でも!少しでもおかしいと思ったら、直ぐに俺にでもココに居る愛満達にでも良いから包み隠さず言うんだぞ!コレ絶対約束!
この約束守れるか?」
念を推しつつ。満面の笑みを浮かべる黛藍から気持ちの良い返事を貰い。
「はいアルよ♪黛藍、その約束絶対守るアルね♪」
何やら嬉しそうにタリサ達と手を繋ぎ。クルクル回って一緒に踊り出すなか。
「………………………………まぁ、黛藍の体調面の事はひとまずおいとくとして………………
あの親父さん達がなぁー………………………あのお前を溺愛しまくりで、ゲロ甘で過保護の親父さんを始めとする。
黛藍の顔を1日一回は見ないと禁断症状が現れると真顔で話す兄貴さん、姉貴さん達に話してきてない事がネックと言うか、不安材料になるのだが…………。
……う~ん。けどまぁ、親父さんの惚れた弱味と言うか、黛藍家はかかあ天下で、婆様やお袋さん達の方が家での主導権をガッチリ握っていて。
親父さん達もお袋さんの悲しそうな顔を前にすると何も言えなくなるから大丈夫だとは思うんだが…………………。
う~ん。それでもまだ少し心配だ……ここは1つ。お袋さん達の頑張りに期待しよう。」
自信満々の様子の黛藍の話を聞いても今だ不安が拭えず。
本当に大丈夫なのかと美樹の心の中に不安を残しながら、美樹を追いかけて来た黛藍のこれからについて愛満達を交えた話し合いが開かれる事になるのであった。
「…………ハァ~~~!本当に大丈夫か?………………」
◇◇◇◇◇
そうしてその後、長い長い話し合いに話し合いを重ねた結果。
最初は美樹の提案で、体の弱い黛藍を心配し。美樹と同じ万次郎茶屋奥にある愛満宅に一緒に住み。
働いてみたいとの黛藍の強い要望から、美樹が営む『美容室』か愛満が営む『万次郎茶屋』のどちらかのお店で働いてみてはどうかと黛藍に聞いてみた所。
『唐家の男子たるもの、自分の食いぶちは自分で稼ぐ!』
と言って頑として聞かず。
美樹と黛藍の間で、かなりのひと悶着があったのだが、愛満や愛之助が間に入り。
住む所だけは、すんなりと愛満宅で納得してもらい。
美樹がコレが有ったから何とかこの世界で生き延びられたと言っても過言ではないと力説する。
見た目も美味しいらしい。婆様直伝の黛藍お手製『焼き包子』を
愛満達がそれとなく本人に気づかれないよう。
黛藍の体調面等を何気なく気にかけれるような作りの店を万次郎茶屋の一部を増築して建て
【ちなみにお互いの店の匂いが喧嘩し合わないよう、邪魔をしないようにや、互いの店のテーストを崩さないよう。
その辺はバッチリ愛満の力を使い対策済み】
まず黛藍一人で店を切り盛りする為。その辺を配慮して、本人には追々品数を増やしていこうと説得し。品数少な目に。
お持ち帰り専用の『焼き包子』一種類に加え。
黛藍が先ほど飲んで気に入った『柚子茶』等を販売する事を決め。【包子の中の具材は季節折々で変わる】
日本で言う所の飲茶風の食べ物を販売する事になる。
黛藍のお店。その名も『包子屋』を開店する事が決定する。
◇◇◇◇◇
こうして、朝倉村初種族になるササ族の黛藍と、美樹イチオシの『包子屋』さんが村へと仲間入りしたのであった。