幻のカルピスババロアと食べ物の恨み
「うーぅー、………………飲み過ぎた……頭いてー………………」
「…………だ、誰か水を一杯くれんかのう~…………」
「……………………ぎ、気持ち悪…………………」
「………………うーぅーぅー……………」
「………………………み、水…………………」
その日 愛満宅の茶の間では、テーブルいっぱいに使用済みのコップや皿などを散乱させたまま。
美樹に山背、タリサやマヤラのすぐ上の兄になる三つ子のイサヤ、エグマ、クニタ達5人が、昨夜の少々はめを外し過ぎたドンチャン騒ぎの飲み会を行った結果。
5人が5人ともゾンビのように畳に這いつくばりながら二日酔いに苦しんでいた。
◇◇◇◇◇
そんな大人達の失態を尻目に、黙々とテーブルの上や茶の間のお片付けをしてくれているタリサ、光貴、マヤラ達チビッ子3人組から鋭い言葉が飛び。
「もう!美樹も山背も兄ちゃん達も何やってるんだよ!昨日から愛満と愛之助が里帰りしてるから『家の事お願いね』って、頼まれただろう!」
「そうへけっよ!なのにそんなに飲み過ぎて、みんな『うーぅ』言ってるへけっし。茶の間だってこんなに散らかしてしまって、何してるへけっか!?
今日の夕方には愛満と愛之助帰って来るへけっよ!こんなに茶の間が汚かったらビックリしちゃうへけっよ!」
「もう!いいおとにゃが にゃにやっちぇるの!おちゃけくちゃい!」
二日酔いに苦しむ美樹達を知らず知らずのうちに、怒りで興奮のあまり大声+子供特有の甲高い声で、さらに苦しめるのであった。
「…………分かった、分かったから、大声だすの止めて……うーぅ………くれ………………二日酔いの頭に響く…………」
「ワシ達が悪かったのじゃ、許してほしいのじゃ………だから水をコップ一杯くれんかのう~!」
「…………タリサ、マヤラ、光貴、兄ちゃん達が悪いの解ってるから……この通り謝るから………頼む………大声出さないでくれ………………」
「……………あ~ぁ…………頭に響く…………」
「……………も、もうダメ……気持ち悪い……………吐きそう………」
◇◇◇◇◇
と、美樹達5人が二日酔いに苦しんでいる訳はと言うと。
女神様一族から授けていただいた力の1つに、守護する可愛い村の者達(異世界に行った者や残された者達)がホームシックや、残された者があれこれ考え(心配し)過ぎて心や体を壊してしまう事を大変心配し。
年に2回お盆とお正月に故郷に里帰り出来る力を授けてくれていた。
しかし里帰り出来ると言っても、そこは女神様一族をしても覆せない規制がいろいろ有り。
里帰り出来る時間は37時間とちょっと微妙で、1日半ぐらいの短い里帰りになり。
基本、自宅や村だけしか自由に動き回れず。村人以外の人からは異世界に住む者は認識されず。
村人以外の人とは話したり、何か手渡したり、異世界の事を伝えたりする事等出来ず。
そのため無理矢理異世界に連れ去られた美樹や良平の事を日本に住む家族や友人達に突然行方不明になった経緯や、無事を伝えてあげる事など出来ないため。
去年は美樹や亮平の手前、愛満は遠慮して里帰りしなかった。
しかし、今年は愛之助が美樹が居ると知らずにポロリと里帰りの話してしまい。
話を聞いた美樹や良平達の強い後押しを受け。愛満は弟の愛之助を連れて、昨日の昼から実家に里帰りしているのだ。
なお、この話を知っているのは、同じ日本人の亮平を含めた愛満達と一緒に住む。愛満宅の大人組の美樹と黛藍、山背だけになり。
昨日の夜は、ここ何日か空元気で普段よりテンションの高めに無理して過ごしている美樹を心配し。愛満からも美樹の事をくれぐれもお願いされていた事も有り。山背が気を使い。
美樹と仲の良いタリサやマヤラの兄なるイサヤ、エグマ、クニタ達三つ子を愛満宅に招き。パッーと6人で飲み会をしたのであった。
ちなみに黛藍はお酒がそこまで得意ではないため。光貴の誘いで愛満宅へとお泊まりに来ていたタリサやマヤラ達と一緒に早めに寝床についており。
お酒も少ししか飲んでいないため、美樹達のように二日酔いにはならなかった。
◇◇◇◇◇
チビッ子3人組が茶の間やテーブルの上を片付け。黛藍が使用したお皿やコップを洗い。
黛藍が前もって用意していた。シェリー特製の良く効くと噂の二日酔いの薬を飲み。見事復活した美樹達が優雅に朝風呂に入っていた頃。
「あ!あーーーーーーーぁ!」
茶の間からタリサの大きな悲鳴が家中に響き。慌てた黛藍が茶の間に飛び込み。
「ど、どうしたアルか、タリサ?どこか怪我でもしたアルか?」
「た、黛藍~~!うわーーーーーん!」
心配して声をかけた黛藍に、何やら泣き叫ぶタリサが抱きついてきた。
そんなタリサの様子に何事かと黛藍が右往左往しているとタリサと同じく涙をポロポロ流す光貴やマヤラが、何やら使用済みの空のカップを握り締め。
「ひ、ひどいへけっよ!美樹達、光貴達が愛満にお願いして作ってもらった。今日のおやつの『カルピスババロア』食べてしまったへけっ!
ほら!タリサとマヤラ用にと愛之助がくれた『マイ○ロちゃんのカップ』と光貴用の『ボム○ムプ○ンが描かれたカップ』がテーブルの下に置いてあったへけっ!」
「えーーーーん!マヤラのカルピチュババロアにゃくなちゃったの~!」
悲しそうに泣き。黛藍に抱き付いてきた。
そんな3人の様子に、こんな時は基本愛満が場を納めてくれ。末っ子で育った黛藍はどうすれば良いか解らず。
右往左往しながらも何とか場を納めねばと働かない頭で考え。ババロアが入っていたカップが間違いないかと改めて確認する。
「そうアルか、それは悲しいアルね。…………ところで、カルピスババロアが入ってたカップは、そのカップで間違いないアルのか?」
「うん!間違いないよ!だって里帰りして遊べないお詫びだって言って、愛之助がわざわざ僕達用にってこの前プレゼントしてくれた新品のカップだもん!」
「そうへけっ!いつもはマイ○ロちゃん一色のプレゼントへけっが、今回は光貴に良く似た色合いだからと言って。光貴用には初めて見る『○ム○ムプリン』のカップをプレゼントしてくれたへけっよ!だから絶対間違えないへけっ!」
「そうじゃよ!にいたんのマ○メロちゃんカップは、おはなしゃんのかみかじゃりがえがいてあるけじょ。
ぼくにょのマイ○ロちゃんのカップには、りぼんのかみかじゃりがえがいてあるんじゃから、ぜちゃいまちがいにゃいもん!」
止まらぬ悔し涙をポロポロ流しながら、それぞれの手に持つカップを見せてくれながら教えてくれた。
するとそんななか、食べられた幻のカルピスババロアの怒りや悔しさが抑えきれない爆発寸前の様子のタリサが
「うわーーーーー!誰が食べちゃったの僕達の『カルピスババロア』!
この『カルピスババロア』。僕達がカルピスが大好きだからって、わざわざ愛満がカルピスを使ったお菓子を調べてくれ。苦手な洋菓子なのに、今日の日のためにって作ってくれた新作のお菓子になるんだよ!
あーーーーぁ!まだ食べた事のないカルピス菓子だったのに、すんご~~く楽しみにしてたのに、悔しいよ~~~~!!」
まだまだ止まらぬ悔し涙を流し、吠えまくる。
そんな手のつけられないタリサ達を前に、3人の頭や背中を優しく慰めるように撫でてあげていた黛藍は
「やっぱり間違いないアルか……………………はぁ~~、どうしたら良いアルやら………………愛満、助けてほしいアルよ~~!」
ついつい泣き言を漏らし。この場に居ない愛満へと助けを求めるのであった。
◇◇◇◇◇
そうしてその後、暢気に鼻唄を歌いながら風呂から上がってきた浴衣姿の美樹達は、半狂乱になったチビッ子3人組に攻められ。
アルコールとしょっぱい物をたらふく飲み食いし。途中、口が甘い物を欲し。たまたま冷蔵庫にあった『カルピスババロア』が目に入り。
何やら名前のような物を書いた紙が貼ってあるなぁーと思いつつも、そこは酔っ払っていて記憶があやふやなまま5人で仲良く食べてしまったと白状する。
そんな美樹達の話に、タリサ達のあまりの泣き方を心配した黛藍が助けを求めてやって来た。タリサ達の母親のアコラが、子供が楽しみにしていたおやつを食べるとは何事かと大きな雷が落ち。
美樹は、帰れない故郷や家族、友人の事を思い返す暇もないまま。『カルピスババロア』の代わりにはならないのだが、謝罪の意味を込めた『プリンの箱詰め』を買いに、リメルが営む『プリン屋さん』へと5人仲良く全速疾走で買いに走るのであった。
◇◇◇◇
「ふっ、ふっ、………………久しぶりの全速疾走はキツいのじゃ~!みんな待ってくれ~~~~!
ハァ、ハァ……………痛!…………あ~ぁ、おいていかれてしまったのじゃ。…………………はぁ~~。それにしても、まさかババロアを食べただけでこんな目にあうとは、食べ物の恨みとは実に根深く。恐ろしいものなのじゃ~~」
5人でリメルの店へと走り出したは良いが、体格の違いから遅れをとった山背は、見事足を絡めて転んでしまい。
山背が転けた事に気付かぬまま先を走りつづける美樹達の見えなくなる背中を悲しそうに見つめ。その場にポッんと1人座り込み。食べ物の恨みは恐ろしいものだと、しみじみ呟いた。




