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鰻三昧と愛之助の夢と土用丑の日




「ふふふ~ん♪ふふ~ふん♪

トマトさん、茄子さん、それにピーマンさん、トウモロコシさん達お水美味しいでござるか?沢山お水飲んで、美味しく育つでござるよ。」


ミーンミミミ、ミーンミミミ


「あっ、セミさんもおはようでござるよ!今日も清々しい1日の始まりでござるね♪」


その日万次郎茶屋では、朝早くから機嫌が良い愛之助がテンション高めに自宅敷地内にある自家菜園に植えられた夏野菜達に水やりをしつつ。

何やら嬉しそうに鼻唄を歌い。いつもより率先して自宅や茶屋のお手伝いを頑張っていた。


「あーぁ、今日は本当に何て良い日でござろうか……………むふふふふ~♪何てたって、愛満が拙者の七夕の短冊に書いた願いを叶えてくれるでござるんだから!

………イッヒヒヒ♪……あーぁ、本当に夢みたいでござるよ。……まさか叶うことは無いと思いながらもわずかな夢を抱いて短冊に書いた。朝昼晩の3食とも拙者の大好物の『鰻』料理が食べられるなんて!」


7月7日の七夕の日に短冊に書いた『朝昼晩3食鰻料理で、いろんな鰻料理をお腹いっぱい食べたいでござる。』との自身の願い事が叶うことに、愛之助はついつい漏れてしまう含み笑いをおさえつつ。幸せそうに大きな独り言を呟き。


「あーぁ、しかし今朝食べた鰻料理の『鰻と三つ葉のだし巻き玉子風オムレツ』も美味しかったでござるなぁ~~♪

出し汁の風味や旨味が閉じ込められた優しい口当たりの玉子の中に、拙者の大好きな鰻の蒲焼きと、味や歯応えのアクセントにもなる三つ葉が黄色玉子の布団に包まれていて。それをスプーンで口に頬張った時の至福の時といったら…………………むっふふふふ~♪言葉では表せない至福のハーモニーでござるよ。」


更には今朝食べた鰻料理を思い出し、止まらぬ笑みをこぼした。


そうして愛之助が自家菜園の夏野菜達に水やりやいつの間にか伸びている雑草の草むしりをしていると

友達の1人のフェアリー族のピーティが慌てた様子で愛之助の元に飛んで来て


「あっ!愛之助、良いところに居たぜぇ!大変なんだよ!」


「あっ!ピーティ、おはようでござるよ。今朝も本当に良い天気でござるね。」


「バカ!呑気に天気の話してる場合じゃないんだよ!俺っちがいつもの日課の朝のパトロールをしているとよ。

滝坪の近くで人が倒れてたんだよ。愛之助、悪いけど俺っちと一緒に来てくれよ。俺っちの小さくプリティでベリーキュートの体じゃ、助けを呼ぶくらいしか出来ないし。町へと連れて来れないだよ!」


「えっ!それは大変ではないでござらぬか!!こんなところで話し込んでる場合ではないでござるよ!

ささ、早くその倒れている人の所に連れて行くでござるよ!」


「いや、最初から俺っち大変だって言ってたじゃんかよ。」


ピーティがボソッと呟き。ピーティが日課の朝のパトロールと言う名の散歩の途中に見つけた行き倒れの人を助けに向かった。



◇◇◇◇◇



「はぁ、はぁ、やっとアム滝に着いたでござるね。それで倒れている人とやらは何処にいるでござるか?」


少々山道を走り息の上がった愛之助は上がる息を整えながら、朝倉町が有る大きな山に7つ有る滝の1つ。アム滝に到着し。ここまで道案内してくれたピーティへと問いかける。


「えっと、……ちょっと待てよ。確か滝があそこだからこの辺のはずなんだが………………あっ!いたぞ、愛之助。

ほら、あそこに人らしき影が倒れてるだろう!」


「あっ、本当でござるね!それに下半身が川に入ったまま倒れているでござるよ。早く助けねば!」


愛之助はピーティと倒れている人を発見すると急いで倒れている人の元へと助けに向かう。

するとそこには、少し薄汚れた冒険者が好んで着用する服装の細身の少年が倒れており。頭には獣人特有の耳が生えていて、どうやら倒れている子供の獣人である事が解る。


「もしもし、もしもし、大丈夫でござるか?」


愛之助が少年を心配して慌てて声をかけ。少年が仰向けに倒れているため。目に見えない後頭部や背中等も含め。少年が怪我やどこか怪我をして血が出ていないか、頭などを撃ってないかなどを心配しつつ。魔法を使って確認する。


「はぁー、良かったでござる。一応確認したでござるが、命に関わる怪我はしてないでござるよ。

ただ頭を撃ったみたいで後頭部にタンコブができてるでござるから、きっと何かの拍子に川で滑って転んで気を失ったんでござろうなぁ……………」


「はぁ!?川で滑って転んで気を失ってたのかよ!人騒がせな奴だなぁー!」


愛之助の診察結果にピーティが一安心しつつも悪態をつくなか。

いつまでも下半身が川の中に入ってるのは体に悪いからと愛之助が少年を川から引き上げようと移動させる。


すると移動させた振動で意識を取り戻した様子の男性が目を覚まし。


「……………うっ、…………うううぅー………。痛てててて、あれ?俺何でこんな所に寝てるんだおすか?」


ヨロヨロと上半身を起こし。何度か瞬きをして、川辺に倒れてる事を不思議そうに首をかしげる。


「大丈夫でござるか?お主、川で倒れていたでござるよ。いったい何をしていたでござるか?」


「…ひゃ!!!だ、誰おすか!?」


「誰おすかって、お前が川に倒れてたから、優しい俺っちが発見して助けを呼んで来てやったんだぜぇ!」


自分を心配そうに見ている愛之助とピーティの掛け声に驚きながらも、初めて愛之助達の存在に気づいた少年は決まり悪そうに苦笑いをしながら頭を下げる。



◇◇◇◇◇



そうして少年が目を覚ました事に愛之助達は一安心しながら少年の体調などを心配し。軽い健康チェックの質問をして少年の話を聞く。


すると少年改めて名前をレデッキーと言い。年が23才で、立派な成人男性になり。

少数民族の小月熊(コルクマ)族と言う種族で、焦げ茶色の髪の一部に金髪の髪が生えているのが小月熊族の特徴らしい。


他にも成人しても140~150㎝ぐらい小柄な体格のため良く熊族の子供に間違えられ。あまり世間に知られていない種族らしく。


レデッキーは流れの冒険者で、たまたま依頼で朝倉町を訪れ。依頼帰りにアム滝の近くを通ったところ、滝壺の近くで昔故郷で食べていた大好物の大きく育ったナナキと言う魚を発見。

一目ナナキの姿を見たら、どうしてもナナキが食べたくなり。

悪戦苦闘しながらも何とか川岸に追い詰め。ナナキを捕まえたのだが、最後の最後に苔の生えた石で足を滑らせ。すってんころりと転んでしまったらしいのだ。


しかもその時に捕まえていたナナキを逃がしてしまい。レデッキーは、それはそれは実に悔しそうに話。

村ではお祝い事に欠かせないご馳走になり。いかに焼いたナナキが美味しいかや、先ほどからリベンジしてやるのだと息巻いていた。


そんなレデッキーの話に、愛之助はレデッキーの特徴が自身が知る鰻の特徴と良く似ていて。

意識を取り戻したレデッキーをこの場に1人置いて行くのも、とてもとても心配で忍びなく。

今にもナナキ採りを再チャレンジしそうなレデッキーを何とか説得し。万次郎茶屋へと一緒に連れ帰るのであった。



◇◇◇◇◇



「あっ、愛之助!もう、どこ行ってたの探したんだよ。」


「ちんぱいちたんじゃから!」


「本当へけっよ。どこ行ってたへけっか?」


「本当に心配したんじゃぞ、愛之助。どこも怪我しとらんか?

あっ、そうじゃった。ワシは愛満に愛之助が帰って来たと教えてくるのじゃ。」


畑仕事の途中に姿を消した愛之助の事を心配していたタリサ達が出迎える。

そんなタリサ達に謝りつつ。愛之助はレデッキーとピーティを茶屋内へと招き入れ。


「すまんでござるよ。実はピーティとちょっと人助けしてたでござる。

あっ、それよりお客さんがいるでござる。少し川に長く浸かっておったでござるから、ひとまずお風呂にいれてあげたいのでござるよ。」


矢継ぎ早に話し。キョロキョロと興味津々に当たりを見渡すレデッキーを自宅に有る風呂場へと案内してお風呂に入ってもらい。

自身もピーティと一緒に別のお風呂で手早くシャワーを浴び。汗や山道を走って汚れた体や衣服を着替え。

風呂から上がり。改めて愛満達へとレデッキーを紹介して、レデッキーとの出会いや一連の出来事を皆に説明する。


そして、たぶんレデッキーが話すナナキが鰻と同じだと魚だと思うと説明して、鰻を使った今日のお昼ご飯を是非ともレデッキーにもご馳走してほしいと他の皆に聞こえないようにコッソリ愛満へお願いする。


「愛満、今日のお昼ご飯の鰻料理たくさんあるでござるか?」


「うん。愛之助の大好物でもあるし。お客さんも招いたから、皆たくさん食べると思って、愛之助が食べたいとこの前話してた。ご飯に鰻、錦糸玉子を乗せて蒸籠で蒸す『鰻の蒸籠蒸し』や、他にも鰻料理を沢山作ってあるよ。どうして?」


「えっ!今日のお昼は『鰻の蒸籠蒸し』でござるか!!ヤッタでござるよ。拙者、前々から『鰻重』とはひと味違うらしい『鰻の蒸籠蒸し』を食べてみたかったでござる♪」


何かの拍子に雑誌で見た『鰻の蒸籠蒸し』を食べれる事に愛之助が喜ぶなか。本題のお願いを思い出し、少々歯切れ悪く口をモゴモゴさせながら


「あっ………いや、………あの、その、…………実は、レデッキーにも鰻料理を食べさせてあげたいのでござるよ。

レデッキーもナナキと言う鰻に良く似た細長く、ニョロニョロした魚を好きらしいのでござるよ。それに故郷の味とも言っていたでござるし。

だけどせっかく今日のお昼ご飯にと捕まえたナナキを逃がしてしまい。スゴく落ち込んでいたのでござる。

だから沢山作ってあるなら鰻好き仲間の拙者としては、是非ともレデッキーに拙者が太鼓判を押す鰻料理を食べさせてあげたいのでござるよ。

あっ!もちろん今日一緒に頑張ったピーティにもでござるよ!」


愛満へとお願いする。そんな愛之助の願いに


「それは良いアイディアだね。もちろん、大丈夫だよ。

鰻料理たくさん作ってあるから、皆で美味しく食べようね。」


愛之助(弟)に甘々の愛満は二つ返事で承諾し。愛之助楽しみのお昼ご飯の時間が始まる。



◇◇◇◇◇



「こ、これがナナキに良く似た鰻と言う魚を使った料理なのおすか!?村で祭りや祝い事のさいに食べてたナナキの丸焼きと全然違うおすよ!」


初めて目にした鰻料理の数々にレデッキーは瞳を大きくして驚く。そんなレデッキーの反応に、何故か山背が満足そうに頷き。

愛之助達やピーティが愛満のお手伝いで、汁物や漬物、冷たいお茶などを運んでいる事を良いことに


「そうじゃぞ。すごいじゃろ!

まずお主の目の前に置いてある料理が鰻と玉ねぎを使った『鰻と玉ねぎのかき揚げ』じゃろ。その隣に置いてあるのが鰻と胡瓜を使った『鰻と胡瓜のうざく』

他にもワシが好きな玉子と鰻と使った『う巻き』、鰻と韮、玉子を使った『鰻のニラ玉炒め風』

鰻と夏野菜をふんだんに使った『鰻と夏野菜のゼリー寄せ』、『鰻と夏野菜サラダの冷製うどん風』

スタミナ満点に『鰻と長芋の甘辛炒め』、『鰻と豆腐の蒸しあんかけ』なんか、いろいろ作ってあるのじゃぞ!

もちろん、鰻の肝を使った『肝焼き』や『肝吸い』もあるのじゃ。」


何故か自分の手柄のように鰻料理の説明をし始め。


「あっ!おっと忘れておった。今日の主役の鰻料理の他にも、愛満お手製の鰻の蒲焼きダレを使った『茄子の照り焼き』や『豚肉の生姜焼き風』

鰻ダレで炊いたご飯に大葉、白ゴマ、いり玉子を混ぜ混んだ『鰻ダレのおいなりさん』もあるのじゃ。

ちなみに『おいなりさん』は、鰻と胡瓜が入った2種類があるぞ。

きっとお主の気に入る料理が有ると思うから遠慮なく食べると良いのじゃ!」


「お、おす!俺、ナナキ大好きだから腹一杯食べるおす!」


「自分も解ったでやんすよ、山背!おいなりさんの事なら自分に任せるでやんす!」


「了解したニャゴよ、山背!初めて目にする高級魚の鰻とやらの魚料理ニャゴだから、ワシも心して味わうニャゴよ!」


「そうそう、遠慮しなくていいぞ、レデッキー。

ワシも愛満に焼いてもらった『鰻の蒲焼き』をつまみに、今日は午前までの勤務の美樹と心行くまで冷たく冷えたビールや、この日のために仕入れた冷酒を楽しむのじゃ♪むっふふふふ~♪」


自身も今日の為に用意した冷酒やビールの事で頭がいっぱいで、何やら人数が増えた事に気付かない山背は、今だ鰻料理に目が釘付けのレデッキーへと話すのであった。



「ニャフフ~、朱冴。今回も怠らずにアンテナをはっておって良かったニャゴな。

何やら珍しく、めったに食べられないらしい高級魚の鰻が食べれるニャゴなんて、妻のミムや子供や孫達の目を掻い潜って茶屋へとやって来てラッキーニャゴよ!」


「本当でやんすね、コテツ殿。私もまだ味わった事の無い『おいなりさん』を食べれるとあってワクワクが止まらないでやんす!」



◇◇◇◇◇



こうして、その後お招きした今日仕事が休みのタリサやマヤラの両親になるアルフ、アコラ夫妻やドワーフの凱希丸(ときまる)

黛藍や黛藍が営む『包子(パオズ)屋』の従業員家族、黛藍の姉の光紅(ワンホワ)家族も加わり。

皆で鰻料理を楽しんだ愛之助達は、今日の事を嬉しそうに夏休みの絵日記に画くのであった。



ちなみにその後、基本ナナキの丸焼きしか食べてたことのないレデッキーは、万次郎茶屋で食べた『鰻の蒸籠蒸し』をことのほか気に入り。涙を流すほど感動。

愛満から『鰻の蒸籠蒸し』の作り方を教えてもらうと鰻好きの愛之助やケットシー族のコテツ達の強い後押しを受け。

愛満の力を使って、店舗兼住居になる日本建築の立派なお店を建ててもらい。

アム滝付近で豊富に採れる鰻に良く似たナナキを使って、愛満の薦めで村でくすぶっていた弟や妹達を町に呼び寄せ。

朝倉町初の『鰻の蒸籠蒸し』を提供する『鰻屋』を開店させた。






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