心太と三杯酢派vs黒蜜派
日に日に暑さが厳しくなってくる今日この頃。
万次郎茶屋では、愛之助達とも仲良しの花夜達魔族の子供6人の養い子を育てる右里が営む。
コプリ族が手染めして織った布を使い。店主の右里や長女の朝霞達が浴衣や着物、和装の服や小物等を手作りして販売する。
和装店で、今年の夏から新発売されてから人気をはくしている。
綿100%で、真夏でもサラリと着用でき、快適に過ごせる。
様々な色や柄から選べ。老若男女から可愛い(格好い)と今年一番のヒット商品になるステテコ。
マイメロちゃんがプリントされた半袖姿の愛之助達が、小上がりの座敷で、仲良く双子コーデならぬ四ツ子コーデで寛いでいた。
「はぁ~♪茶屋内は涼しくて最高でござるね。」
「本当だね~♪僕、今日は1日中ここでゴロゴロしてたい気分だよ。」
「本当へけっねぇ~♪」
「あ~ぁ、ちじゅちぃ。ごくりゃく、ごくりゃく♪」
朝からのカンカン照りで茶屋内にお客さんがいない事をいい事に愛之助達4人が畳の上でゴロゴロ寝転がりながら話していると。
片手に雑巾を持ち。浴衣姿に前掛けをした山背がやって来て
「こらこら、お主達!いい若者が、こんなに天気のいい日に家にこもっておってどうするのじゃ!どっか遊びに行かんのか?
それに今からそんなにだらけておったら、ますます暑くなる夏本番に耐えれんぞ。
どうせ暇しとるなら、ちっとはワシを見習い店の手伝いでもするのじゃ!」
喝を落とす。しかし、ここ連日の暑さでヤル気の出ない様子の愛之助達は
「えっ~!そう言うけど山背、だって何かダルくてヤル気出ないんだもん。」
「そうでござるよ、山背。いくら若いと言われる拙者達でも、こう照りつけるように暑く。このカンカン照りの暑さでは、どこか遊びに行こうと思う気持ちも萎えてしまうでござるよ。
それに外遊びは昨日花夜達と沢山遊んだでござるから、今日は家の中でまったりする日って、タリサ達と話し合って決めてるのでござるよ。」
「そうへけっ、そうへけっ。今日は茶屋でのんびりする日になるへけっよ。」
「やまちろ、マヤラね。きょういちにち、ちゃやでゆっくりちてるひにゃの。わかちゃ?」
口々に言いつつも、素直で優しい愛之助達は重い腰を上げ。茶屋内を掃除して、山背や愛満のお手伝いをしてくれるのであった。
◇◇◇◇◇
「みんな茶屋内の掃除やお手伝いご苦労様。頑張ってくれたご褒美の『心太』だよ。」
お手伝いを終え。またまた小上がりで寛いでいる愛之助達へと、愛満はガラス皿に入った『心太』を差し出す。
「あっ!心太でござるね。愛満、拙者黒蜜でお願いするでござるよ。」
「僕も!愛満、僕は黒蜜+きな粉でお願いするへけっ♪」
「黒蜜にきな粉じゃと!いやいや、愛之助に光貴よ。そこはさっぱりと食せる三杯酢と青海苔、白ごま。そこに器の端にちょっと添えられた辛子の組み合わせじゃろうに!」
心太を食べなれた様子の愛之助や光貴、山背達3人が甘味として食べる黒蜜か、間食として食べる三杯酢かで突然揉め始める。
「ちょころてん?よしみちょ、ちょころてんちぇ、にゃに?」
「何んかツルツルした透明な麺みたいだね。面白い!
けど愛満、この心太て甘い食べ物なの?それともしょっぱい食べ物なの?」
初めて目にしたツルツル、キラキラした麺のような食べ物にマヤラやタリサが不思議そうな顔をして愛満へと質問する。
「あぁ、マヤラもタリサも心太初めてだもんね。
この心太はね。今年の夏から茶屋とフニオさん達ホルタ族の皆が営む『納涼床の甘味屋さん』で新登場した新メニューになるんだよ。
去年大吉村で採れる海草を運んでもらった時に海草の中に天草を見つけてね。今年用にと、天草だけ分けて集めてもらってたんだ。」
「天草?」
「てんぐちゃ?」
「そう、天草。僕も詳しくは知らないんだけど、海で採れる海草の仲間でね。
心太はその天草を煮て、煮汁を冷やし固めたものになるんだよ。」
「へぇ~!海草て、今日のお昼御飯にサラダで食べた食べ物でしょう。青じそドレッシングがかかってて美味しかった!
けど、あの海草が煮込んだらこんなに見た目が変わるんだね。不思議~!」
「ふちぎ~!」
改めてタリサとマヤラが、器の中の心太を見つめて不思議そうな顔をしていると。愛満は懐かしそうな顔をしながら
「それから心太は、僕が住んでた故郷(日本)独特の食べ物になるんだよ。
婆ちゃんが言うには、はるか昔(平安時代)には、すでに食されていたらしく。
その当時は、今みたいに『心太』じゃなく『心太』と呼ばれていたらしいんだ。
『心』は、凝り固まるという意味の『凝』が変化したとも言われているし。そこから『心太』になったのかなぁ。
他にも一説によると、『心太』の文字を『心天』と昔の人が書き間違えてね。それから『ところてん』になったとも言われているんだよ。」
「えっ!書き間違えて名前が変わったの!?
それは心太と教えた人はビックリしたろうねぇ!」
「ほんちょ、ほんちょ!」
愛満の話を聞き。タリサとマヤラが可笑しそうにクスクス笑うなか
「後、爺ちゃんが教えてくれたんだけど。
『心太』には食べ物の名前とは別に、心が動じない様子を表す時にも使われた言葉になるらしいんだ。
だから爺ちゃんが言うには、『心太』とは見た目は飾り気が無く。一見、麺のように見えてもコシも無く。そのままで食べるには味が今一つに感じられ。
不思議で、へなちょこのような食べ物に感じるかもしれないが、暑い夏を乗り切れそうな心強い名前の食べ物になり。
そこから人は見た目じゃなく。三杯酢をかけたら食事(間食)としても食べられ。
黒蜜やきな粉をかけたら甘味としても食べられる心太のように常識にとらわれず。何にでも柔軟に対応できる人になるんじゃぞって、話してくれてたんだよ。」
爺ちゃんの教えをタリサとマヤラに話してくれる。
「それでね。茶屋と納涼床店の新メニューとしてお客さんにお出しする前に何回か家で作って試食してみたら
三杯酢や青海苔、白ごま、辛子で間食としてさっぱり食べる派と、黒蜜やきな粉をかけて甘味として食べる派に見事真っ二つに別れちゃってね。
心太を食べるたびに、ああして言い争いになちゃうんだ。」
愛満は少々困り顔で、苦笑いしながら悲しそうに話す。
するとそんな愛満の顔を見たマヤラがすくっと立ち上がり。人差し指を愛之助や山背達に向けると
「いいかげんにちなゃい!ちぇかくよしみちゅが、おいちいちょころてんちゅくちぇくれちゃのに!
そんにゃことじぇ、けんかちてちゃら、おいちいものもおいちくたべれにゃいでちょ!
みんにゃ、にゃかくよちゅるの!ほら、しゃんにんともごめんにゃさいしなちゃい!」
今だ黒蜜か三杯酢で揉めていた愛之助達3人に喝を落とす。
するとこの中で一番の年下になり。幼いマヤラから喝を受けた3人は気まずそうに顔を見合わせ。
「あっ!……………………すまんかったでござる。」
「えっ!……………僕もせっかく愛満が美味しく作ってくれた心太なのに、喧嘩しちゃってごめんなさいへけっ。」
「うっ!……………………ワシも心太にかけるタレの事で、ここまで熱くなて大人げなかったのじゃ。皆すまんかったのう。」
口々に謝り。心配そうに見ていた愛満にも改めて謝りの言葉をかける。
そんな3人からの謝りの言葉を受けた愛満は、事態が無事解決した事にホッと胸を撫で下ろし。何やら嬉しそうに微笑むと
「僕が作った心太で、そこまで熱くなってくれるのは嬉しかったよ。ありがとう。
けどね。やっぱり一番は皆が仲良く、美味しいと言って食べてくれるのが嬉しいから、ほら!心太が温くなる前に食べちゃようよ。」
声をかけ。6人は仲良く心太を食べ進めるのであった。




