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懐かしい思い出の味「ハンバーグ」と、勇者と美容師



その日愛満と愛之助の2人は、いつものように朝の日課を終えて、まったりとした雰囲気のなか


「はぁふ~~~♪いつ食べても黒糖饅頭は本当に美味しいでござるねぇ~♪

それにこの一口サイズの食べやすい大きさがまた良いでござるよ!

うんうん!拙者、こんなに美味しい愛満お手製の『黒糖饅頭』なら、あと100個は余裕で食べれるでござるよ!!」


愛之助が幸せそうに黒糖饅頭を頬張りながら、合間合間に饅頭と愛称バッチリの緑茶を飲んで口の中をサッパリさせつつ。

愛之助曰く。口当たり良い『こし餡』と饅頭の生地がしっとりとして旨い。

万次郎茶屋ヒット商品の1つ『黒糖饅頭』を『美味い、美味い』と1人モグモグと食べ進めながら、空になった愛之助の湯飲みへとお代わりの緑茶を注いでくれている愛満と2人。

そろそろやって来るであろう。タリサやマヤラ達の訪れを待っていた所。

来客を知らせる茶屋の扉のベルが『チリーン、チリーン』と鳴り。

始めタリサとマヤラ達2人がやって来たのかと思っていた愛満と愛之助の2人が万次郎茶屋出入口の方を振り向き確認すると…………



そこにはマントと帽子を深く被った。シルエットで男性だと思われる人物が立っており。

愛満達が予想していたタリサやマヤラ達ではなかった為。少々驚いた愛満であったのだが、そこは上手く取り繕い(とりつくろい)つつ。

男性が茶屋へのお客さんだと考え。初めて茶屋へと訪れたお客さんになる男性を接客しようと近付こうとした所。

何故か愛之助に腕を掴まれ止められ。


愛満のガーディアンになる愛之助曰く。男性が深く被っている帽子で、男性の顔が良く見えず。

体全体をマントで(おお)っていて、体のシルエットや、何を持っているのか確認できない為。

念のためにその場で『いらっしゃいませ』と男性に声をかけつつ。初対面になる男性の様子を伺っていると


「京町屋の建物に黒髪黒目、あんた達日本人だろう?

なぁそうだろう?………そうだよな?

……………頼む、そうだと言ってくれ………………じゃないと俺、………俺、……」


目深く被っていた帽子やマントを男性が取り(脱ぎ)

愛満達と同じ黒髪に、色白の小顔の顔の中に切れ長な奥二重の黒目が見えて、すっーと鼻筋が通った男らしい綺麗な顔立ちの。

170cm後半位の細身でいて、少しやつれた男性が瞳を潤ませながら、声をつまらせ愛満達に話しかけてきた。


そんな男性の姿に、こちらの世界に来て(しばら)くしたさい。元商人の朱冴から、とある国等では、はるか昔に使用する事を禁止された違法な魔法を使い。

異世界人を無理矢理召喚しては、様々な分野で酷使している等の噂話が、商人仲間の間で昔からあるでやんすと聞き。


愛満は驚愕しながらも、まさか今もなお、まだそんな残酷な事があってなるものかと不安を覚えた事を思い出して、自然と涙が溢れそうになるのを堪えつつ。

自分と同じ日本人でいて、かなり苦労してきたであろう男性の姿を前に、少しでも男性を安心させる為。


「そうだよ。僕はあなたと同じ、日本生まれ日本育ちの朝倉 愛満だよ。そして隣に居るのが弟の愛之助。あなたは?」


落ち着いた様子で愛満が聞くと、ワナワナ震え始めた男性が


「に、日本語だ、………………あ、あんなに聞きたかった日本語だ!

それに俺と同じ日本人!!!!」


愛満と愛之助の元に走り寄り。2人を力一杯ギュッと抱き締め、大粒の涙を流して、その場に泣き崩れた。



◇◇◇◇◇



その後、落ち着きを取り戻した男性に日本人には慣れ親しんだ『緑茶』を差し出しつつ。詳しい話を聞いた所。

名前を『立石(たていし) 美樹(よしき)』と言い。年は25才になり。


日本の東京で美容師を生業に生活していたそうで、ある日突然、仕事終わりに家に帰っていると急に足元が光だし。

次の瞬間には目が開けていられないくらいの眩しい光に包まれ。

気が付くと見た事もない、お城のような一室の中に立っていて


またもや日本ではなかなかと言うか、滅多に肉眼で見る機会がないであろう。見た事もない。腰には物騒な剣を差し。

日本ならば確実に警察に職務質問なり、捕まるであろう。全身鎧姿の騎士達に四方を囲まれ。

驚きと共に恐怖で美樹が何も考えられず。その場で固まってしまう中。


訳の解らないまま。その王国の王や王女と名乗る者達に会う事になり(会わされ)

貴方は選ばれた勇者や、民を残酷に虐げている隣のチャソ王国を倒す為に力を貸せ等々。

美樹には良く解らない事を丁寧な言葉を使いつつも、実に偉そうでいて、威圧的な態度で矢継ぎ早に話され(言われ)

美樹が混乱してる間に、いつの間にかクコン王国の勇者にしたてあげられていたそうだ。


そして良く良く考えれば、実にありがたかった事になるのだが、何故か日本人になる美樹が異世界の国の言葉が理解出来ており。

その事を周囲に隠しつつ。自分なりに考え。

何故自分が見知らぬ異世界の、こんな場所に居るのかを城内でコソコソと立ち聞きしたりして情報を集めをした所。

どうやら自分は、クコン王国に僅かに残っていた遥か昔の資料を使い。

沢山の犠牲者をだしながら作り上げた魔方陣を使用して、無理矢理召喚されたらしく。


その為、何とかこの胡散臭いクコン王国から逃げたしたくても四六時中、屈強な騎士の男達や、気配無く出現する城勤めのメイド達の監視の目があり。

仲間のいない美樹1人では、クコン王国から逃げだすには困難である事は目に見えて分かり。


日々、異世界の情報なり、技術を聞き出そうとするクコン王国の者達から言葉が解らないふりをして上手く逃げつつ。

また日々、そもそも理解出来ているクコン王国の言葉を勉強させられ。

美樹的には、生理的に受け付けない王女からの色仕掛けに吐き気を(もよお)して、気分が悪いふりをして、……………いや、本当に悪くなって、その場を回避しつつ。

毎日クコン王国の王や王女達の言葉を疑問に思いながらも逃げ出す機会を密かに伺い。

その後、加えられた。戦いに出る為の訓練らしい。剣の稽古を行っていた所。


偶然クコン王国が全ての国で禁じられている召喚を勝手に行い。異世界人を召喚した事を知ったチャソ王国の隠密達の手により。召喚魔方陣や資料等を二度と使用・召喚出来ないように崩壊するさいに一緒に助け出してもらい。


その後、保護されたチャソ王国で、何とか日本に帰れないか等を調べていたのだが、残念な事に今まで異世界より召喚された者で、元の世界に帰れた者は一人もおらず。

美樹が失意のなか、チャソ王国で暮らしていた所。

ある者から、遥か昔に滅びた王国に無理矢理召喚された。黒髪黒目の日本という国から来た男が密かに作った、小さな村がチャソ王国の端にあると聞き。

僅かばかりでも故郷を感じられる場所で生活したいと考え美樹は、一人王都を離れ。

王都から遥か遠い大吉村を目指して、ここまで旅をしながらやって来たそうなのであった。


そうして大吉村へと向かう途中。当然、朝倉村を紹介する看板が目の前に現れ。

日本では見慣れていた造りの看板ながら、コチラの世界に無理矢理連れて来られてからは見た記憶がない久し振りの看板に驚きつつも、少しでも早く大吉村に着きたい一心の美樹は、そんな看板を横目に歩みを進めた所。


今度は日本感満載の日本家屋の建物等が目の前に現れて、自分以外の日本人が居るかも知れないと強く感じた美樹は、自分と同じ日本人を夢中で探し始め。

運良く、早い段階で黒髪黒目の愛満達を見つけ。

感動のあまり取り乱してしまった事等を、泣いて真っ赤になった顔で、照れくさそうに照れ笑いしながら教えてくれ。

愛満達も自分達がこの異世界に移住して来た訳などを正直に話。

3人は夢中で、これまで異世界で体験した話など、尽きぬ沢山の話をするのであった。



◇◇◇◇◇



そうしてその後、いろいろ話し合った結果。

同じ日本人なのだから助け合うのは当たり前だと説得して、美樹も愛満達の住む万次郎茶屋奥の愛満宅で一緒に住む事に決め。


他にも美樹のたっての希望で、元の世界でやっていた美容師を再開したいとお願いされ。

それならばと万次郎茶屋の山道挟んで目の前に建つ。

エルフ三兄妹のターハ達が住む。住居兼パン屋の隣に美樹のための美容室を愛満の(チート)を使って建て上げ。

美樹は、日本で磨いた美容師の技術を駆使して、美容師として働く事になるのであった。


ちなみに美樹の美容室のテーストは、もちろん和好きな愛満の趣味満載で、美樹の意見も聞きながらではあるものの。

和と洋が上手に混ざり合った。白壁の漆喰や木目調が美しい。

シンプルでいて使いやすい、お洒落な和風な造りの美容室になっている。



そして他にも、美樹の話の中で、こちらの世界の食事がなかなか口に合わず。毎日苦労していたと涙ながらに話す美樹の話を聞き。

心を痛めた食いしん坊の愛満や愛之助の2人は、美樹が食べたいと話していた『ハンバーグ』を食べさせてあげる事を決め。


「ハァ~~~、……………僕、女神様一族の皆様から授けて頂いたショッピングチートに改めて感謝の気持ちでいっぱいになるよ。

だってね、このショッピングチートが無かったら、今みたいに美味しい物も食べられず。

生活も大変になって、美樹みたいに生活だけじゃなく、食事の面でも苦労してたんだもん!

ハァ~~~、美樹の立場を自分に置き換えたとなると、本当恐ろしくて涙が出てくるよ!

本当、もう無くなっちゃらしいんだけど、元クコン王国の王様達は酷い事するもんだよね!本当に頭にくる!!」


「本当でござる!あんなにやつれてしまって、拙者本当に美樹が可哀想で泣きそうになったでござる。

けど、拙者が泣いては失礼かと思い、必死に我慢したでござるよ。

それに無理矢理知らない世界に召喚されるのも辛いでござるが、一番はその世界の食事が口に合わないのが一種の拷問でござるよ!

あ~~~ぁ、拙者も考えただけで恐ろしいでござる。

………………愛満。拙者、美樹には今までこの世界で苦労したぶんでござるね。これからは沢山優しくしてあげたいと思うでござるよ。」


改めてショッピングチートなる、日本の品が気軽に帰る(チート)を授けてくれた女神様一族に感謝の気持ちを持ちつつ。

万次郎茶屋の台所で愛之助と2人。

玉葱のみじん切りのせいだけではなく。大いに瞳を潤ませながら、美樹の為の『ハンバーグ』を大量に作り。

お腹いっぱい『ハンバーグ』を美樹に食べてもらう為、せっせと焼き上げていくのであった。



◇◇◇◇◇



「……それでね、タリサは愛満が作る和菓子が一番好きなんだよ!」


「マヤラもいっちゃん(一番)よしみちゅ(愛満)ちゅくる(作る)わがち(和菓子)ちゅき(好き)なの♪」


愛満が出してくれたお茶と『黒糖饅頭』をのんびりとつまみ(食べ)ながら、短時間の間にかなり打ち解けた愛満達は、その後やって来たタリサやマヤラも加わり。

かなり打ち解けて、愛満と愛之助の2人がご飯を作るために台所へと移動し。

その場に残った(残された)美樹とタリサ、マヤラ達3人は、仲良くたわいもない話しを楽しげにしていた。


すると何やらジュワジュワとお肉が焼ける音が近付いて来て


「はい、おまたせ!美樹大好物のハンバーグだよ。

ハンバーグのお代わりも胃薬もちゃーんと両方用意してあるから、後の事は気にせずにお腹いっぱい食べてね!」


美味しそうな匂いと共に、モクモクと白い湯気上げる料理をお盆いっぱいに乗せた愛満が、美樹やタリサ、マヤラ達、それぞれの前にジュージューと白い湯気上げる。

熱々の鉄板の上に乗った肉汁溢れる『ハンバーグ』

皮目がパリパリに焼かれた、食べごたえありそうな、半身の鶏モモ肉の『チキンステーキ』

パリッとした歯ごたえが期待出来そうな、大きな『ジャンボウィンナー』が仲良く鉄板の上に並び。

付け合わせの『ポテトフライ』、甘くて美味しい『人参のグラッセ』、『コーン』、『いんげんのソテー』が彩り豊かに添えられていて


タリサ達リクエストの『ミニグラタン』を運んで来ていた愛之助が、またまだ幼いタリサやマヤラ達が服を汚さないようにと紙でできた前かけをかけてあげながら


「愛満は、ご飯と味噌汁を取りに行ったでこざるから皆は気にせずに熱々のうちに食べるでござるよ。」


すっかり『ハンバーグ』に目が釘付けの様子の美樹達へと声をかけ。


そんな愛之助の言葉に、さっきから生唾ばかりを何度も飲み込み。

お腹ペコペコで、久しぶりの大好物の『ハンバーグ』を前に心躍らせていたた美樹は、早速豪快にハンバーグを切り分け。

大きく口を開け、口いっぱいにハンバーグを詰め込み。

ハンバーグを噛み締めるたびにポロポロと涙を流して、何度も首を大きく振り。

口いっぱいに詰め込んだハンバーグを飲み込むと


「ハァ~~~~~~、……………………う、旨い!!…………………やっぱりハンバーグは旨いな!

そうそう、これこそが俺が食いたかったハンバーグだよ!

変に肉が生臭くなくて、硬い筋も入ってない柔らかく。肉汁溢れるジューシーなハンバーグ………これこそが俺が、ずっーと食いたかったハンバーグだぜ!

ハァ~~~、本当、こんな旨いハンバーグ食うなんて、なんて久しぶりなんだろう。」


感動した様子で、前の前にある食べかけのハンバーグを見つめ。しみじみと話し始め。

そこからは止まらなくなった様子で


「それに旨味が詰まったハンバーグにかかってるデミグラスソースが旨すぎだぜ!

ハァ~~~、これだよ、これ!これこそが本物のハンバーグだぜ!

クコン王国のくそマジ~い飯よりは、かなりましなチャソ王国の飯だったけど、やっぱ肉団子スープレベルでハンバーグの旨さは味わえなかったし。

向こう(日本)じゃあ当たり前に食ってた飯と言うか、日頃お世話になってたファミレスの有り難みがしみじみ感じたぜ。」


幸せそうに話して、一口食べると止まらなくなった様子の美樹は、その後ガツガツと久しぶりに味わうハンバーグの美味しさを堪能する。


そんな美樹の明るくなった表情に、台所から戻ってきた愛満は、ホカホカの炊きたての『白米』や、油揚げ、ワカメ、玉葱等が入った『味噌汁』、『漬物』等を手渡してあげながら、残り僅かになった鉄板の上のハンバーグを見て『ハンバーグ』のお代わりを美樹に聞いた所。


そこはもちろん!『ハンバーグ』のお代わりを頼んだ美樹は、新しいハンバーグが来るまでの間。

鉄板の上の『チキンステーキ』や『ジャンボウィンナー』、付け合わせの野菜をおかずに、炊き立て熱々の白米と一緒に美味しく食べ始め。


新しいハンバーグを取りに行った愛満が、今度は先ほどの『デミグラスソース』がかかったハンバーグとは違う。

トロ~リッと溶けたチーズの上に、焼き目がつくまで香ばしく焼かれた厚めの輪切りトマトが乗ったハンバーグを持って戻って来て


そんな美味しそうなハンバーグを見た残りの3人は、目の前に食べかけのハンバーグが残っているにも関わらず。


「あ~~~ぁ!美樹良いなぁ~。タリサも次は、そのハンバーグが良い!」


「愛満、愛満~!

拙者、次は大根おろしと千切り大葉がのった。ポン酢でさっぱり食べる『和風おろしハンバーグ』が良いでござるよ!」


「マヤラにぇ、マヤラにぇ!う~~~んちょ、う~~~んちょ、あっ、しょうじゃあ(そうだ)

こにょまえ(この前)ちゃべた(食べた)めんちゃい(明太)まよねーじゅ(マヨネーズ)』がいい!」


思い思いのハンバーグソースをリクエストするのであった。



◇◇◇◇



そうして和やかな雰囲気の中。

かなり早い昼ご飯を仲良く食べながら年代が近い事や、食べる事が大好きな痩せの大食い等の共通点が多々ある5人は、更に打ち解けていき。


これからの美樹の生活に必要な服や生活雑貨。

美樹の部屋になる万次郎茶屋(まんじろうちゃや)2階、客室の改造等の話をしながら、茶屋の新しい住人になり。

異世界人で、愛満達と同じ日本人になる『立石 美樹』との新しい生活が始まると共に。

朝倉村初の美容室が村へと仲間入りするのであった。




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