新玉ねぎのかき揚げ丼と贈り物と絵付け
「おぉ~良いですねぇ、その絵!桜の花ですか?」
その日愛満は、真剣な顔をして夫婦茶碗に絵付けをしていたショウマンへと声をかけた。
すると夫婦茶碗への絵付けが一段落して一休みしていたショウマンは
「おっ、愛満か。今年も母の日のプレゼント作り手伝ってもらってすまんかったなぁ。ご苦労さん。
それからこの桜の花だろう!うちの母ちゃんこの町に移住して来て以来、町中のあちらこちらに咲き誇る桜の花を一目見てから虜になっちまってよぅ。
何かと言えば桜色の服やバッグ、桜の花が描かれた物を好んで買ってくるんだよ。
だからせっかく母ちゃんと一緒に使う事になる茶碗なら、母ちゃんの好きな桜の花を描いて贈ったら喜ぶんじゃないかと思ってよぅ。」
毎日の力仕事でパンパンに膨れ上がり、カチカチになった手で頭を豪快に照れくさそうにかきながら苦笑いする。
そんなショウマンの話に、ショウマンの妻で桜好きなマジョンの事を知っている愛満は
「あぁ、マジョンさん桜の花が好きでしたもんねぇ。この前も桜の花がモチーフの日傘をさされていて、愛之助達とも綺麗な日傘だねぇと話してたんですよ。
それにあの日傘、ショウマンさんがマジョンさんへの誕生日プレゼントに贈ったそうですね。マジョンさんから聞きましたよ。」
「おっ、母ちゃんから聞いちまったのか!?いやぁ~、恥ずかしいなぁ。
それにしても母ちゃん、あの日傘使ってくれていたのか…………プレゼントした時には日傘なんてさして歩く所なんてないよとブツブツ話していたのに……………そうかそうか、使ってくれておったのか。そりゃあ良かった。」
「えっ?そうなんですか。マジョンさんスゴく嬉しそうに日傘の事話してくれましたよ。
それにそのあと2時間もマジョンさんからショウマンさんへの日頃の感謝の気持ちから、ショウマンさんとの出会いから結婚するまでの話など、たっぷりノロケ話されましたよ。」
「えっ!?そうなのか?」
「はい!」
「………なら何で母ちゃんあの時素直に喜んでくれなかったんだろうなぁ?愛満、解るか?」
「う~ん、たぶんそれはきっとアレです。照れ隠しじゃないですか?ほら、昔から女心は難しいと言いますし。」
「そうか……………けど、ヘヘヘ。母ちゃんそんな話 愛満達にしたのか………恥ずかしいなぁ~。
けど、すまんすまん。母ちゃん話好きだから愛満達には迷惑かけただろう」
ショウマンが照れくさそうに苦笑いするなか。愛満達の話し声に、今日の一番の協力者でもあるジョルジュが2人のもとへ近付いてきて
「何やら楽しそうにお話し中という事はショウマンさん絵付け終わりましたか?ならお話し中で申し訳ありませんが、少々完成した絵付けを見させてもらえませんか?」
ショウマンに話しかける。すると絵付けに少しばかり不安があったショウマンは喜んで
「おっ!ジョルジュ先生。俺の絵付け見てくれのかい。そりゃあ、ありがたい!一応自分じゃあ上手く描けた気がするんだけど、プロの目から見ておかしな所がないか教えてくれんかのう。
せっかく母ちゃんにプレゼントする物だから、少しでも良い物をプレゼントしたくてよぅ。」
「それはそれは是非ともお力添えしなくてはいけませんねぇ。
どれどれ…………ほぉ~、粗削りながら生き生きとしたタッチで桜の花が絵付けされていますよ。」
絵付けした茶碗をしげしげと眺め。ショウマンが絵付けした絵を『素晴らしい、素晴らしい』と誉めてくれる。
そんなジョルジュの言葉に、ショウマンは何やら一安心した様子で嬉しそうに微笑むと
「本当かいジョルジュ先生!?かぁ~~、そう言ってもらえたら一安心だぜぇ!いやなぁ、俺昔から絵が下手でよう。
俺的には木を描いたつもりが、絵を見た回りの奴からは魔獣か何かを描いたのかと言われる始末でよう。
だから今回の母の日の贈り物が子供組は皿への絵付けで、大人組も夫婦茶碗への絵付けだと聞いた時は内心ヒヤヒヤしてたんだよ。」
母の日の贈り物教室参加者達だけに数日前にコッソリと知らされていた教室の内容に、密かにヒヤヒヤしていたショウマンは、嬉しそうにジョルジュへとお礼の言葉をのべる。
「いえいえ、ショウマンさんの奥さんへの愛情が込められて絵付けされたからこその素晴らしさだと思いますよ。」
「かぁ~~、さすがジョルジュ先生!またまた嬉しい事言ってくれるぜぇ!」
◇◇◇◇◇
このショウマンと仲良く話しているジョルジュ。最近朝倉町へと一家で移住してきた人物で、六代前の先祖から脈々と続いてきた。この世界では少々珍しい『陶芸家』になり。
今まではとある商家と契約を結び。自分達が手掛けた商品を卸してきていたのだが、先の戦争影響等で陶芸に適した良質の土が採れなくなってしまい。
契約していた商家も代変わりをしてから質よりも金儲けに走るようになり。嫌気がさしたジョルジュは、商家との契約を破棄。
体の弱い妻や元孤児の弟子でもあり、家族でもある3人を連れ。陶芸に適した良質の土を求め、朱冴の紹介で朝倉町へと移住して来たのだ。
そうして町の外れに陶芸の焼き釜や住居。移住して来るさいに出会った、新たに家族に加わった孤児の子供達が手伝ってくれる事にもなる。朱冴のお店に卸すとは別に、自分達でも販売できる店舗を愛満の力を使い建ててもらい。
今回の母の日の贈り物の話を朱冴から聞くと、少しでも恩返しになればと弟子を引き連れ。母の日の贈り物教室に力を貸してくれているのだ。
◇◇◇◇◇
そうして参加者達が次々と心赴くままに皿や夫婦茶碗に絵付けを終わらせるなか、お昼時間になり。
絵付け教室に参加していた友人同士や兄妹、親子連れが参加者達に無料で振る舞われるお昼ご飯を食べるため
「ウェイン、ウッド、どうだ?母ちゃんへの贈り物の皿への絵付け、上手く描けたか?」
「任せてくれよ、父ちゃん!前もって教えてもらっていたから、ちゃんと考えてバッチリ描けたんだぜぇ。」
「俺も俺も!ちゃんと絵付け出来たよ。」
や
「あぁ~~、お腹空いたぁ~~!」
「本当に腹減ったよなぁ!俺、久しぶりに頭使ったから腹ペコペコだよ。」
親子や友人同士で楽しそうにお喋りしながら、次々と食堂へと流れていくのであった。
◇◇◇
一方、そんな一気に流れ込んできた参加者達をさばくため食堂内はどんな混雑具合かというと。
食堂入口近くで、何やら板前姿の愛之助が台の上に立ち。黄色いメガホンを口に当てて
「皆さん~、お疲れ様でござるよー!
お昼ご飯を受け取るには、まず列に並び。そこに置いてあるお盆と自分が食べきれるサイズのお好みの大きさのお茶碗を取るでござるよー!そしたらそのまま前に進み。厨房内にいる愛満達にお椀を渡すでござるよー!」
食堂へとやって来た人達に大声で説明していた。
(ちなみに清潔感溢れる真っ白な板前服のはずが、そこは愛之助。前掛けや服にバッチリ、愛之助が大好きなマ○メロちゃんの刺繍が入っており。
とある料理人が登場する時代劇の影響からきた山背の強い希望で履いている下駄は、愛之助の履いている下駄の下駄紐はマイメロちゃん使用にカスタマイズしてあるのであった。)
そんな愛之助の説明のあった厨房内では、列に並んだ人達から渡されるお椀に次々と
「は~い、次は大盛り2、中盛り5、小盛り3の白米が行くぜぇー!」
「はい、きた!」
「かき揚げ揚がったよ。コレ持ってて良いよ~!」
美樹や手伝いに来てくれた凱希丸、丈山が手際良くお茶碗のサイズにあった白米をお茶碗に盛り付け。
そのまま流れ作業で、愛満や手伝いに来てくれている『天ぷら屋』で猿族の篤森達が揚げた。
新玉ねぎを使った揚げたての『かき揚げ』を同じく『天ぷら屋』の伯楽と同じく手伝いに来てくれている兎族のアルフが白米の上にのせ。
タリサ達のすぐ上の兄になり。アルフ家三つ子のイサヤとエグマ、クニタ達が最後に甘辛く作られた丼ダレを回しかけ。
完成した『かき揚げ丼』を黛藍がお茶碗のサイズごとに分けて並べ。
「お待たせしたアルよ。大盛り、中盛り、小盛りごとに分けて置いてアルから、自分が選んだサイズのお茶碗の『かき揚げ丼』を持っていってほしいアルよ。
そしたらそのまま前に進み。お好みでお味噌汁や冷やっこ、お新香が置いてアルから持っていってアル!」
そのまま列の前に進むように声をかける。
進んだ先には新玉ねぎとワカメ、油揚げを使ったシンプルな『お味噌汁』や『冷やっこ』、春キャベツ、人参等を使った『お新香』を山背やタリサ、マヤラ、光貴達が
「冷たく冷えて鰹節や小ネギ、すりおろし生姜のトッピングされた美味しい『冷やっこ』だよ。遠慮せずにドンドン貰っていってねぇ~♪」
「おしんこもおいちいよ!どうじょ~♪」
「そうへけっ、そうへけっ。今が旬の春キャベツを使ったお新香へけっよ!オススメだから是非食べてほしいへけっ。」
「味噌汁も新玉ねぎを使っておって旨いのじゃ!お代わりもあるから持っていくと良いぞー!」
呼び掛け、チームプレーで参加者達へとお昼ご飯をドンドン配って(配膳して)いっていた。
そのためドンドン列はさばけ。特に文句や不満の声も誰からも出ず。お昼ご飯を受け取って食べ始めた人達のテーブル席からは、あちらこちらで
「美味しい!玉ねぎが甘い!どうして!?」
「あぁ~~~、かき揚げて本当に旨いなぁ!この衣はカリッとしてるのに、中の玉ねぎはふんわり甘いんだよなぁ~♪」
「かっー!やっぱ、かき揚げは玉ねぎに限るなぁ。油との相性が物凄く良いんだよ!」
「…………モグモグ、モグモグ………こ、これは、止まらない美味しさです!」
『美味しい、美味しい』との嬉しい言葉が上がり。
とある野菜農家の親子のテーブル席では、かき揚げ用の新玉ねぎを寄付してもらうばかりか、かき揚げ用の新玉ねぎの下ごしらえまで手伝ってもらい。
その上配膳まで手伝ってもらうのは悪いからと愛満の言葉で、出来立て熱々の『かき揚げ丼』に舌鼓をうち。
「うんうん、やっぱ家の新玉ねぎは旨いなぁ!」
「本当に旨いよなぁ~、親父。」
「父ちゃんも兄ちゃんも何言ってんだよ!俺達が真心込めて育てた新玉ねぎを使った料理なんだから、旨いのは当たり前だろ!」
「おっ!カンタも言うようになったなぁ!」
父親や長男、末っ子のカンタが自分達が育てた新玉ねぎ料理にご満悦な様子のなか。同じテーブルに座る長女のミチャと弟のエルピコも
「う~~~ん♪美味しい!新玉ねぎ料理はどれもこれも美味しいけど、やっぱり料理するならかき揚げが一番だわ。
衣を付けて揚げただけなのに、なんだか新玉ねぎの甘味が増したような気がするのよねぇ。そう思わない、エルピコ。」
「うん、本当だね、ミチャ姉さん。それに新玉ねぎのかき揚げを揚げる時は、高温で揚げるのが美味しく揚げるコツだったよね!」
「そうそう、さすがエルピコ!しっかり覚えてるわねぇ!」
「当たり前だよ!コレでも一応、野菜料理を販売する恵み店を任されてる身としては、野菜料理の事なら覚えてなくちゃ駄目だろう。」
自分達が育てた新玉ねぎを使ったかき揚げ丼に、新玉ねぎを誉められた事を誇らしくもあり、嬉しそうに話していた。
そして更に別のテーブル席では、ビールと肉好きの獅子族の親子が
「うゎ~♪父ちゃん、このかき揚げ丼うまいね。」
「マー坊、本当に旨いな!父ちゃん、新玉ねぎと桜エビ、三つ葉だけの肉が入っとらん『かき揚げ丼』と聞いたから、ちょっと侮ちょったら度肝抜かれたわい!」
「本当だねぇ。ならコレを気に父ちゃんも、もう少し野菜を食べたら良いよ。この前母ちゃんが最近父ちゃんのお腹プニプニしてると言ってたから」
「えっ!それは本当かマー坊!ほ、他には母ちゃん何か言ってたか!?」
最近父親が気にしているビール太りのお腹の件を持ち出されるのであった。
◇◇◇◇◇
こうして、大切なお母さんに贈るからこそ、何気に毎年悩んでしまう母の日の贈り物の件は、今年もまた無事解決したのであった。




