兜パイと秋刀魚のぼりと、ある親子の1日
「うわーーーー!父様、見て下さいよ!空いっぱいに魚の絵が描かれた変な布みたいなのが泳いでいますよ!何ですかアレは、沢山有り過ぎておかしいです!!」
「えっ!そんな事ないと思いますよ、兄様。僕は沢山のお魚さん達が泳いでてスゴいと思いますよ。」
朝倉町の本通りになる広々した歩道を歩いている2人の男の子が頭上を見上げ。
興奮した様子で後ろを歩く、子供達が参加した教室の作品やお土産品等をバックにパンパンに詰め込んで抱えた付き人や護衛の者と話していた父親に話しかける。
すると息子達の話し声に話を止め。息子達と一緒に頭上の上で風にはためく沢山の鯉のぼりを見上げた父親が、上流階級特有の少々丁寧な口調で話始め。
「本当ですね。沢山の魚が建物と建物に張られた紐で吊るされ、悠々と泳いでいますね。これはこれは、実に面白い光景です。」
「そうでありますか?自分には、何やらヘンテコな光景に見えますけれど」
「本当ですよねぇ、お父様。沢山のお魚さん達が大空を泳いで、見ているだけで面白いですよね。
……あっ、けれど何故こんなに沢山のお魚さん達を空へと吊るしているのでしょうね?不思議です。」
兄クリオが喋り終るのを待ちきれないように弟のルイスが話し始め。最後にポッリと自身が感じた素朴な疑問を口にした。
すると近くで待機していた執事が素早く動き。主人のグラフィへと素早くパンフレットを手渡す。
「ちょっと待て下さい。確かさっきほど貰ったパンフレットに何か書いてあったようなぁ…………なになに……ふむふむ、ほぉ~!
マリオ、ルイス。あれは『鯉のぼり』と言う物で、天の神さまに男の子の誕生を知らせ『この子を守って下さい』と願い。
産まれた子供が何事もなく、無事すくすくとたくましく成長することを願う意味合いなどがあるらしいですよ。
それに赤や青、黄、白、黒(紫)などの沢山の色合いの鯉のぼりが泳いでる訳は、一種の魔よけの意味合いもあるみたいです。」
パンフレットに書かれた鯉のぼりの説明文をかいつまんで息子達へと説明し。その近くに書かれていた『とあるイベント』説明文を興味深そうに読むと、更に続けて息子達へと
「それから、この鯉のぼりの中に何処か一匹だけ秋刀魚と言う細長い魚が描かれたプレミアの『秋刀魚のぼりが』有るみたいですねぇ。
その為、それを見つけた者には、ご褒美として豪華なお菓子の詰め合わせが貰えるみたいです。
どうだですか?貴方達クリオとルイスも探してみませんか?
そしたら宿で休んでるプリナスや熱を出して寝ているピューナにお土産話が出来ますよ。」
とある町民からの強い要望から特別に作られた秋刀魚のぼりを使った『何処にあるかなぁ?秋刀魚のぼり探し』イベントを説明すると、弟のルイスは大喜びして
「えっ!何ですかその面白そうなイベントは!
僕、お母様とピューナのためにお菓子の詰め合わせ絶対貰えるように頑張ります!!」
跳び跳ねながら喜ぶ一方、先ほどから何やら少しイライラして、不機嫌そうだった長男のクリオも渋々といとたポーズをしながら
「はぁ~、ルイスはまだまだ子供ですねぇ。
しょうがない。弟のルイス1人だけ探させるのは忍びないので、兄である私も一緒に探してあげましょう。」
沢山有る鯉のぼりの中から『秋刀魚のぼり』を探し始めた。
◇◇◇◇◇
実はこちらの家族、王都に住む、とある貴族一家になり。
知り合いの友人から朝倉町の『朝祭り』の話を聞き。家族や幾人かの使用人連れ。朝祭り初日から風呂屋・松乃の何部屋を予約して家族旅行に来ており。
日々変わる種類豊富なイベントの数々や1日中大好きな両親や兄達といれる事から、あまりの嬉しさや楽しさに昨日の夜から一番下の妹で、まだ4才のピューナが知恵熱を出してしまい。
朝倉町にある病院で診てもらったのだが、今日1日だけ、一応大事をとって母親や妹のピューナ、幾人かのメイド達は宿で留守番をする事になり。
家族大好きな長男のクリオは、家族で観光できない事に朝から少々不貞腐れ。
先ほどから何を見ても聞いても悪態ばかりついていたのであった。
◇◇◇◇◇
そしてその後、見慣れぬ沢山の鯉のぼりを前にクリオ達はなかなか『秋刀魚のぼり』を探し出せずにいた。
「う~~~ん、お父様。なかなか秋刀魚のぼりありませんねぇ。いったい何処ではためいているのでしょうか…。お兄様は見つけられましたか?」
少々しょんぼり顔のルイスは、隣を歩く兄のクリオへと問いかける。すると兄クリオも何処か悔しそうに項垂れ。
「すまむ、ルイス。弟のそなたのために秋刀魚のぼりを早く見つけてあげたいのだが、私もいまだに見つけられておらぬのだ。」
「いえいえ、お兄様が悪いのではありません。また皆で頑張って探し出しましょうよ。ねぇ、お父様!」
「そうだね。ルイスの言うとおり、クリオもそんなに落ち込むことはないですよ。
まだまだ時間はあるのですから、皆で協力して一緒に探し出せば良いのです。」
父親のグラフィも一緒になり長男クリオを慰めていると、何処からともなくお腹をくすぐる美味しそうな匂いがしてきて、幼いルイスのお腹が鳴り。
グゥ~~~♪
「あっ、エヘヘヘへ。何やら小腹が空きました。」
ルイスが照れ笑いするのであった。
◇◇◇◇◇
「お買い上げありがとうございましてなのじゃ♪」
「ありがとうございましたでござるよ~♪」
何やら店先で小さなテントで対面販売していた小さな亀族の者や珍しい黒髪、黒目の少年達に見送られながら、美味しそうな匂いの元のお菓子を宿で待つ母親や妹、メイド達のお土産用まで買って貰った子供達は、父親にお礼の言葉をのべ。
父親から食べて良いよと許しの言葉を貰うと、大人の手のひら大もある大きな兜パイにかぶりつき。嬉しそうにモグモグと食べ始めた。
「ハァ~~~♪父様、このパイという焼きお菓子でしたっけ?本当にサクサクして絶妙な甘さで美味しいです!
それに産まれて初めて食べ歩きなるものをしてみましたが、実に気分が良いですね♪」
「本当にこの街の食べ物は味もさることながら、見た目にもこっていて、この兜の形をもようしているという形もカッコ良く、実に素晴らしいです!」
万次郎茶屋が『こどもの日限定メニュー』で販売している。パイ生地を兜に折り、中に餡子や白玉を詰め込んで焼いた『兜パイ』を頬張りながら『美味しい、美味しい』と父親に話し。
いくら旅先の王都ではないといえ、上流階級の者(大人)が外で食べ歩きするのは憚られると宿に帰って食べると話ていた父親へと、この美味しさを味わってもらいたいと弟のルイスが何やら閃いたとばかりに
「あっ、そうだ!お父様も一口いかがですか?
私の食べかけで悪いのですが、一口だけ他の者達へ見えないように口にすれば大丈夫ではないでしょうか?」
話し。小さな体を必死で背伸びして、父親へと兜パイを分けてあげようとする。そして兄のクリオも
「さすが、私の弟ルイス!それは良い考えです!
さぁさぁ、お父様。私や護衛達で壁を作ってもらい見えないようにしますので、今のうちにルイスのパイを一口お食べ下さい。」
弟のルイスよりは少し大きいものの、まだまだ小さな体を大きく広げ。護衛達と父親とルイスの体が見えないようにと壁を作ってくれる。
そんな息子達の成長した姿や優しさに、グラフィは目頭や胸を熱くしながら、いまだ必死に背伸びしているルイスの兜パイを一口貰い。2人の息子、ルイスとクリオの頭を撫で
「二人ともありがとうございます。クリオやルイスの言うように、この兜パイは本当に美味しいですねぇ。」
「そうでございましょう!私も初めて食べたのですが、本当に美味しくてビックリしたのでございますよ!」
「私もでございます!このパイなるサクサクした食感がクセになる美味しさでございますよね!」
親子3人で楽しそうに話し。長男のクリオが側にいる護衛や荷物を持ってくれている付き人達へと
「あっ、護衛や付き人の皆さんの分の兜パイもちゃんと買っておるから宿に帰ったら皆で食べくれ。」
声をかける。そして弟のルイスも父親の側に立つ執事のセバスへと
「ねぇねぇ、セバス。セバスの分の兜パイ買ってあるから、作りたてじゃなくて悪いんだけど宿に帰ったら食べてね。」
いつもは大好きな父親の真似をして言葉らしくない丁寧な話し方をしてるのだか、セバスの前では子供らしい可愛らしい口調でコッソリ話しかけた。
ちなみにその後、グラフィ付きの古くから付き合いのある執事で
、クリオやルイスを赤子の頃から知るセバスは、グラフィや子供達との一連のやり取りを見て、感動のあまり大粒の涙を流すのであった。
◇◇◇◇◇
そうして、兜パイを買った店で定員(愛之助と山背)から秋刀魚のぼりの情報を聞き。
無事ケットシーが営む魚料理専門店前で秋刀魚のぼりを見つけたクリオ達は、豪華お菓子の詰め合わせをゲットして、宿で待つ母親や妹達へとお土産の兜パイやお菓子の詰め合わせの中身を見せたりと。今日1日あった出来事でもあるのお土産話を睡魔に負けてしまうその時まで、興奮した様子で話尽くした。




