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和菓子『よもぎ団子』と花祭り


その日万次郎茶屋では、愛満が山背が昨日朝摘みしてきてくれたヨモギを使い。沢山の『よもぎ団子』を作っていた。


「そうそう、だんご粉と水を手でこねて、全体が1つにまとまったら、昨日のうちに下ゆでして、ペースト状にたたいておいたヨモギを加えてなめらかになるまでこねるんだよ。」


ヨモギ団子生地を山背と力を合わせて作っている愛之助達へと話しかける。

すると鼻の頭や、山背にいたっては頭の上に団子粉をつけた2人が楽しそうに笑い声をあげ。


「よいしょ、よいしょ!…………アッハハハハ~~~♪あぁ~楽しいでござるね♪」


「えっ、何が?どうしたの愛之助?」


「こう言ったら悪いでござるかも知れないでござるが、愛満。何やらヨモギ団子生地作りは、粘土遊びをしているようで、拙者、スゴく楽しいでござるよ!」


「そうじゃぞ、愛満!ほらほら、どうじゃ!

ワシ達がこねた団子粉が、最初はボソボソして粉っけが強かったのが、真心込めてこねていくうちにツヤツヤしたなめらかな団子生地になっていくのじゃぞ!どうじゃ、スゴかろう!

うん、うん。ワシのこねたヨモギ団子生地は、本当(ほん)にツヤツヤしておって綺麗じゃのう~♪

のう~愛満、ワシの団子こね、上手じゃろう~♪」


調子にのった様子で、どんどんヨモギ団子生地を作り上げていく。

そんな明日筋肉痛になって苦しむとも知らず、頑張ってヨモギ団子生地を作ってくれている山背達の話を聞きながら、愛満はそれ以上調子にのらないよう、ちょいちょい誉めてあげ。


次に隣の作業台で、お口をモグモグさせながらヨモギ団子生地に包む『こし餡』を丸めてくれている。タリサやマヤラ、光貴の様子や『こし餡玉』の出来を確認する。


「どれどれ?タリサやマヤラ、光貴達3人が頑張ってくれているこし餡を丸める。『こし餡玉』作り作業は、はかどっているかなぁ?」


「……モグモグ………モグモグ…あっ、愛満!ちゃんとこし餡丸めてるよ!」


「……モグモグ………モグモグ、ゴックン!

そ、そうへけっ、そうへけっ!ちゃんと一口大の大きさに丸めて『こし餡玉』作っているへけっよ!」


「…モグモグ……モグモグ…あぁ~~~こしあんおいちい♪」


「フッフフ~♪何やらお口と一緒に手も動いてるみたいだね。まぁ、この後『よもぎ団子』を食べる予定だからお腹を壊さない程度に味見するんだよ。」


愛満の姿を見て、何やら『こし餡玉』作りの頑張りを話す3人に、餡子好きのタリサがいる事から、少々の味見をする事を見越して多目に『こし餡』を仕込んでいた愛満は、そんな3人の姿を微笑ましそうに見つめながら3人に激励の声をかけ、その場を離れる。


そして愛之助達自慢のヨモギ団子生地や、タリサ達が丸めてくれたこし餡を使い。ヨモギ団子生地でこし餡を包み込み。

一口サイズの真ん丸『よもぎ団子』を作ってくれている美樹や黛藍達の作業台へと移動し。

少しお喋りを楽しむと、沢山出来上がっている『よもぎ団子』を大鍋たっぷりに湯を沸かしていた、沸騰した鍋に丸めた『よもぎ団子』を入れ、茹で始める。



◇◇◇◇◇



そうしていると、こし餡を口の回りに付けたタリサが味見で喉が乾いたのか3人分のお茶を取りに来る途中、何やら愛満の作業が気になったらしく話しかけてくる。


「あれ!?愛満、今日の『よもぎ団子』は蒸さないで茹でるんだね!いつもは蒸してるのに、今日はどうして茹でてるの?」


「あぁ、それはね。今日は沢山の『よもぎ団子』を作り、明日の花祭りの参加者達に配る予定だから、蒸すよりも茹でた方が簡単に沢山作れて冷凍保存も出来るから、今日は茹で作ってるんだよ。」


「へぇ~!蒸すだけじゃなく、茹でて『もよもぎ団子』作れるんだね。知らなかった!それに冷凍保存も出来だ!スゴいや♪

あっ、けど、そしたら何日間に分けて『よもぎ団子』食べれるから良いね♪」


よもぎ団子が冷凍保存出来る事や、茹でても作れる事を愛満の話から知り、タリサは嬉しそうに大きく頷く。


「そうだよ。僕も婆ちゃんから習ったんだけど、今日みたいに茹でて作った『よもぎ団子』は、冷凍保存したのち、また今みたいに再度茹でると柔らかくなって美味しく食べられるんだ。

それに今茹でてるよもぎ団子も普段蒸して作るよもぎ団子と少し違い。

『よもぎ団子』が浮き上がってきて3分茹でたら、冷水にとってサッと冷ましてね。ザルに上げ、婆ちゃんは団扇で扇いだりして更に冷ましてたけど、食べる時にきな粉をお好みでまぶして食べたら、素朴な美味しさだけど、スゴ~く美味しかったんだ。」


愛満は、祖母が作ってくれていた『よもぎ団子』の美味しさを懐かしそうに思い出した様子で、タリサへとよもぎ団子の事を話す。


「へぇ~美味しそうだね♪何だか愛満の話を聞いてるだけで、早くよもぎ団子食べたくなってきちゃったよ!

あっ!けど、どうして今日こんなに沢山の『よもぎ団子』を作って、明日の花祭りの参加者達に配るの?」


明日朝倉神社の一角で行われている『花祭り』の参加者達へと『よもぎ団子』を配る事を不思議に感じたタリサが愛満へと質問する。


「それはね、明日の4月8日がお釈迦様の誕生日になるからなんだよ。

それでお釈迦様の誕生日をお祝いして『草餅』や『よもぎ団子(餅)』をお供えする風習があってね。それに習って、うちの実家でも『よもぎ団子(餅)』をお供えしてたんだ。」


「お釈迦様?お釈迦様て何んなの?」


「う~~~ん、そうだねぇ…………僕の住んでた故郷の神様の1人になると言えば良いのかなぁ……?

僕の住んでた村では元々女神様一族の神様を奉っていたんだけどね、昔村へとお嫁に来た方が仏教の方でね。

ムカシカラお釈迦様の誕生日をお祝いする『潅仏会(かんぶつえ)』や『仏生会(ぶっしょうえ)』とも言われる『花祭り』を嫁ぎ先の村でも祝う事が出来るなら開催したいと旦那さんにお願いしてね。

それを聞いた旦那さんが村人達に相談して、誕生日は皆でお祝いした方がお釈迦様も喜ぶだろうし。お祝い事なら皆でお祝いした方が楽しいよねと話し合いで決まり。

女神様一族もお祝い事は皆でお祝いしましょうと示された事から、村でも神社の一角で行われる事になったんだ。」


「ほぉ~!お嫁さんのお願いを聞いてあげるなんて旦那さん優しいね。けど花祭りって何?」


「花祭りはね。お堂に見頃の菜の花やれんげ、他にも沢山の綺麗な花を飾り付け『花御堂(はなみどう)』を作り。

花御堂の中に生まれてすぐに右手を天、左手で地を指し『天上天下唯我独尊てんじょうてんげゆいがどくそう』と言った、お釈迦様の姿を表した釈迦像を置き。釈迦像の頭から柄杓(ひしゃく)で甘茶をかけ。

振る舞われた甘茶を飲み、無病息災をお祈りしたり。持って帰って甘茶入りの墨で習字の練習をすると綺麗な字が書けるようになると言われているんだ。あと、他にも害虫除けにも効くと婆ちゃんが言ってたけ。」


「甘茶?」


度重なるタリサの不思議顔のクエスチョンに愛満は少し苦笑いしながらも


「甘茶をかける意味はね。お釈迦様が生まれた際に、天空から九頭の龍が舞い降りてきて産湯のために香湯をかけたという伝説を元に香湯が注がれてきたのが、いつしか(江戸時代に入った頃から)甘茶に代わったそうなんだ。

そうだ!甘茶はね、アマチャの葉を乾燥、発酵させて煎じたお茶だから、ほんのりとした甘味があり。漢方としても使われてあるんだよ。」


愛満が『よもぎ団子』を茹でながら、自分が祖母から習った『花祭り』の事をタリサに説明していると、いつの間にか話を聞いていた美樹が


「へぇ~!話を聞いてるだけでも面白かったけど、天上天下唯我独尊てお釈迦様の言葉だったのか!?知らなかったぜ!

あっ、けど、そもそも天上天下唯我独尊て何を意味してるんだ?」


驚いた様子で話しに加わり、愛満に質問する。


「天上天下唯我独尊とはね。僕も婆ちゃんから習ったから正確にあってくのかは解らないんだけど、確か『生きとし生けるものすべて尊い命を持つ尊い存在』じゃなかったかなぁ?」


「はぁーー、そんな意味があったのか、俺、今までわりとのほほ~んと生きてきたけど、全然知らなかったぜ。」


知らなかった言葉の意味などを知り、美樹やタリサが大きく頷きながら感心する。


「まぁ、普通そんなもんだと思うよ。それに僕達が気付かないだけで結構普段の生活から仏教に由来する言葉が沢山有ってね。

例えば、普段良く使ってる『ありがとう』て言葉も『有り難う』から派生したものになり。

たくさんの生き物の中で人間に生まれる事は、非常に確率の低い『有り難い』ことなんだから、人として生まれたこと自体に感謝しなさいとの教えによる言葉だし。

『有頂天』は仏教の三界(無色界、色界、慾界(よくかい))の頂点(無色界)を指し、調子に乗っていい状態から落ちないように戒める意味になってるんだ。」


愛満が生活に根付いた仏教から由来する言葉の意味を話すと美樹は興味深そうに頷き。


「へぇ~他にも有るのか?」


「そうだねぇ………僕が婆ちゃんから教わった言葉では他に『往生』も極楽浄土に住って、生まれ変わるという意味になるらしいし。

『経営』と言う言葉も『自分自身をどう生かすか』という事や、『玄関』は『奥深い仏の道への入り口』など仏教用語にあたるらしいんだ。

う~ん、そう考えると意外なところに仏教の教えが深く根付いているよね。」


「本当だよなぁ~!」


美樹共々愛満は興味深そうに大きく頷くのであった。



◇◇◇◇◇



こうして4月8日の花祭り用の『よもぎ団子』を沢山こしらえた愛満達の1日は、のほほ~~~んと過ぎていくのであった。





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