老若男女に人気の「カレーパン」と、エルフ3兄妹・次男ココムの悩み
その日、愛満や愛之助、タリサ、マヤラ、エルフ三兄妹の次男ココム達5人の姿は、万次郎茶屋の広々した台所にあった。
「そうそう。タリサにココム、上手上手!
今みたいにパン生地に包むカレーの具は心持ち少なめにしてね。この前作った餃子の要領で口をピッタリ閉じるんだよ。
それにパン生地の同士で口をしっかりと閉じておかないと、この後のカレーパンを揚げる時に閉じた口が開いてしまってね。
せっかく包んだパン生地の中のカレーの具が飛び出してきちゃうかもしれないだ。
そうなったらガッカリでしょう。
だからカレーパンを作る時は、そんな所も気を付けながら作業していこうね。」
「うんうん!せっかく作ったカレーパンからカレーの具が飛び出してきちゃったら本当ガッカリだよね!僕頑張る!」
「口をしっかり閉じるんだね。解ったよ、愛満。」
何やら愛満やタリサ、ココム達3人の口から『カレーの具』やら『パン生地』と言う言葉が飛び交い。
ズバリ『カレーパン』と言う言葉も聞こえてきていて、『カレーパン』を作っているんだなと解る中。
無事、用意したカレーの具をパン生地で包み込み。
カレーパンの成形を終えたタリサ達は嬉しそうに愛満へと声をかけ。
「どれどれ……………うんうん!カレーパンの形も綺麗なプレーンオムレツみたいな形に出来てるし。
さっき注意したパン生地の口もしっかり閉じられてて、閉じめを下にして置いてるね。バッチリ、バッチリ、上出来だよ!」
愛満が頑張ったタリサやココムの2人を労いながら『2人とも本当に頑張ったね』と誉めていると、別の作業をしていたマヤラや愛之助達が近づいて来て
「マヤラもちゃまごぬいぬいしゅるのちょうず?ちょうず?チュゴイ?」
「うん!マヤラもパン生地に溶き卵塗ってくれてありがとうね。上手だよ。スゴいスゴい!
それに愛之助もパン生地を包みやすいように準備してくれてありがとう。すごく包みやすかったし、助かったよ。」
愛満が『カレーパン』作りを頑張っている皆へと感謝の言葉を伝える中。
ココム達5人が何をしてるかと言うと
実は今朝、タリサやマヤラ、愛之助達3人がいつものように茶屋内で遊んだり、勉強したりしていた所。
何やら思い詰めた表情のココムが万次郎茶屋へと1人来店して、カウンター席奥で饅頭の箱詰めを作っていた愛満へと声をかけ。
ココムお気に入りの『抹茶ラテ』を頼み、静かに口にしていく中。
何かあったのかと心配した愛満が話を聞くと、口数少なくであるものの。ココムが最近悩んでいる悩みを手短に打ち明けてくれ。
何か自分だけの新しいパン作りを教えてくれないかと相談され。
いつもと違う思い詰めたようなココムの表情に愛満を始め。
小上がりの畳コーナーで遊んでいた愛之助達も心配した様子でココムの元に集まって来て。
自分達が食べていた『醤油煎餅』をココムへと進めながら、ココムに詳しい話を聞いた所。
ココム曰く、エルフ族秘伝のパン生地を使い。3兄妹でコツコツと力を合わせ営んでいるパン屋で、3兄妹・長男で兄のターハは、愛満から習った『あんぱん』や『白餡パン』の中身になる『小豆餡』、『白餡』作りが兄妹の中で一番上手く。
最近では愛満から新たに教わった。『あんぱん』の中に生クリームをプラスした『生クリームあんぱん』を作り、売り出した所。
村の人達から
『ふんわりもっちりしたパン生地に餡子と生クリームが最高に合ってて、口の中で素晴らしいハーモニーを生み出しているわ♪』
『生クリームと餡子は合うんだね♪』
『余りの美味しさにビックリだ!』
等々の絶賛の声が上がり。見事お客さん達の心を掴み。
長女で姉のクミルも愛満から習った『クリームパン』や『ジャムパン』の中身、『カスタードクリーム』や『ジャム』作りが兄妹の中で一番上手く。
最近では愛之助から新たに教わった。チョコレート味の『チョコカスタードクリーム』を使い。
巻貝のような形の『チョココロネパン』や、村に自生している果実を使い作った何種類かの小分けしにしたジャムを売り出した所。
兄のターハ同様、村の人達から人気を得ていて………………。
しかし自分は兄のターハが得意になる餡作りにしても、姉のクミルが得意なカスタードクリーム、ジャム作りにしても、兄や姉達に一歩及ばず。
兄や姉も優しく、塞ぎ混んでいる自分へと
『まだココムは若く頑張り屋なのだから、そんなに焦らずに頑張っていれば、徐々にコツを掴み。直ぐに自分達のようになるよ』
と励ましの言葉をかけてくれたのだが、いつしか大好きな兄や姉達を困らせる自分自身が嫌になっていき。
あんなに大好きだったパン作りにしても、今では楽しみを見出だせなくなり。
要らない事をアレもコレもと考えていってしまい。
ここは心機一転、何か自分だけの新しいパンを前みたいに楽しみながら作りたいと愛満達に教えてくれる。
そんなココムの話を聞き。勿論の事、愛満達はココムに力を貸す事を決め。
アチラに住んでいた頃、様々なパンを食べたり見てきた。少しばかり皆よりはパンに詳しい愛満が考えた結果。
甘いパンの系統は、ココムの兄や姉のターハやクミル達に任せる事にし。
ココムには思いきってもらい。まだそこまで店で販売していない惣菜パン系のパンになり。
失敗が少ない揚げパンの、老若男女に人気の高い『カレーパン』の作り方を教える事に決める。
他にも惣菜系のパンと言うか、ココムが惣菜の揚げ物のパンを販売する事になる為。
現在在るパン作りの作業場を匂い等の関係から、甘いパンを作っている他の2人の作業を邪魔しないようにと考え。
愛満の力をフルに使って、新たに惣菜パン専用の作業場を増築してあげ。ココムにプレゼントしてあげた。
◇◇◇◇◇
「じゃあ、ベンチタイムも終わったから、次はカレーパンを揚げ始めるよ。」
との愛満の声を合図に、今から油を使って危ない為。
タリサとマヤラの2人には、茶屋台所隅の休憩コーナーで仲良くお休みしてもらい。
愛満と愛之助、ココム達3人は、ベンチタイムの終えた『カレーパン』に水で倍に薄めた溶き卵とパン粉を順にまぶし。揚げ油でカリッと軽くキツネ色になるまでカレーパンを揚げていき。
「いい、ココム。カレーパンを揚げる時はね。
慣れるまでの間、この時たえずカレーパンをひっくり返しながらカレーパンを揚げていかなきゃいけないんだ。
じゃないとカレーパンの裏表別々の揚げ色になってしまって、実に見た目が不細工なカレーパンになっちゃうんだよ。
……………と、ここだけの話。僕もそれで失敗した経験があってね。あんなにカレーパン作り頑張ったのに、最後の最後に揚げるので失敗してしまって、本当ガックリと肩を落とした記憶が残っているんだ。
だからココムもカレーパン作りに慣れるまでの間は、大変だとは思うけど、今みたいにカレーパンをたえずひっくり返しながら揚げると良いよ。
そしたら両面綺麗な揚げ色になった、美味しそうなカレーパンに.揚がるからね。
まぁ、慣れてきたらそこまでしなくても大丈夫だと思うけど、慣れるまでは気を付けてね。」
愛満の失敗話を交えたアドバイスを真剣な顔でココムは聞きながら、今までのカレーパン作りの作業を細やかに書いた紙に、この事も忘れないようにと書いていく。
そうして無事、スパイス香るカレーの匂いを漂わせながら『カレーパン』が次々と揚がっていき。
5人で力を合わせて作り上げた『カレーパン』が完成して、モクモク白い湯気上がる。
揚げ立て、出来立ての『カレーパン』と『牛乳』を持って茶屋に移動した5人は、待ちきれない様子で席につくと、いただきますの挨拶をした後、大きく口を開けてガブリとカレーパンに齧りつき。口一杯にカレーパンを頬張る。
「う~~~~ん♪美味しいでござるよ!
この外はカリッとした食感と共に、パン生地はもっちりとしていてでござるね。
カレーパン中のカレーの具には、大きなお肉がゴロゴロ入っておって、それだけでも感激でござるのに!
そんな食べごたえある大きなお肉が、拙者の歯があたるだけで口の中でホロホロ崩れてしまい。
実にスパイシーでいて、食べごたえある美味しさでござるよ!」
「うゎ!!!何コレ、凄い!
ねぇねぇ、皆見てよ!タリサの食べてるカレーパンね、中に半熟玉子が入ってるんだよ!
う~~~ん♪美味しい!!」
「えっ!にいたん、カリェーパンにょにゃかにちゃまごがはいちぇるの、いいにゃぁ~~!
マヤラのカリェーパン、ちゃまごはいちゅてにゃい…………。」
「えっ、そうなの?ならマヤラ、はい。
兄ちゃんの半熟卵入りのカレーパンの美味しい所、一口食べな。」
「にいたん、いいの?ありがちょう。
パク……モグモグ………う~~~ん♪にいたん、おいちいねぇ~♪マヤラこれちゅき!」
「うわゎ~~~!僕のカレーパンの中にはチーズが入ってたよ!
皆、見て見て!
ほら、カレーパンを半分に割ると中のチーズがビョ~ンと延びてさぁ。
また程好くチーズが溶ろけていて、スゴく美味しそうだよね!
………モグモグ……モグモグ……………うんうん!何も入ってないカレーパンも美味しかったけど、このチーズが入っているカレーパンもまろやかな味わいで美味しいや!」
愛之助達4人が嬉しそうに思い思いの『カレーパン』の感想を述べる中。
姿が見えなかった愛満が、何やら台所から新しく焼き上がったパンを持って戻って来て
「皆お待たせ。新しいパンが焼けたから、コレも食べてみて」
焼き上がったばかりのパンが乗ったトレーをテーブルの真ん中置きながら、新たに焼き上がったパンに目が釘付けな様子のココム達へとトレーの上のパンを進め。
「えっ?新しく焼き上がったパン?
愛満、そのパンは何のパンになるの?
それに新しいパンって、さっきカレーパン以外にもパン作ってたっけ?」
パンの事には積極的になるココムが、愛満にこのパンは何なのと聞くと
「あぁ、このパンはね。カレーパンに使ったパン生地が余ったから、パン生地をヒモ状にのばして、ウィンナーにくるくる巻きつけ、溶き卵を塗り。
ケチャップとマスタード、乾燥パセリをトッピングして焼いた『ウィンナーロールパン』だよ。
他にもマスタードを溶ろけるチーズに変え。ケチャップとチーズを組み合わせた『ウィンナーチーズロールパン』になるよ。」
2種のウィンナーロールパンが並べられたトレーを指差しながら説明して上げ。
そんな愛満からの説明を聞いたココムが、初めて見るウィンナーロールパンを興味津々な様子で見つめながら、まずは一番最初に愛満が説明してくれた。
ケチャップやマスタード、乾燥パセリ等がトッピングされた『ウィンナーロールパン』を一口食べ。
「うゎ~~~♪スゴく美味しいよ、愛満!
さっきのカレーパンと違って焼いたパン生地になるから、もっちりとした食感のパン生地と共にさぁ。
噛み締める事にほのかな甘味やケチャップの酸味、マスタードのピリッとくる後引く辛さ。
それに皮がパリッとしたウィンナーの肉汁が口中に溢れてきて、ジューシーさと共に歯ごたえが楽しめる肉の塊が感じられて、スゴく美味しいんだ!
愛満、このパン売り出したら絶対人気が出るよ!」
ひどく感激した様子で、初めて食べた『ウィンナーロールパン』の感想を教えてくれ。
「ありがとう、ココム。そう言ってもらえて嬉しいよ。
それにこの『ウィンナーロールパン』に使ってる『ウィンナー』はね。
大吉村の克海と取引している『ウィンナー』を使っているから、ココム達のパン屋さんで販売出来るし。
ココムさえ良かったら『カレーパン』と一緒にココムが作って、お店で販売したら良いと思うよ。
って、愛之助達3人ともパン頬張りすぎだよ!
焦らなくてもパンは逃げないんだから、もっとゆっくり噛んで、味わって食べなさい!
ほらほら、牛乳飲んで…………もう~!喉につまったら大変なんだよ!解ってる?」
愛満とココムが話してる横で、頬をパンパンに膨らませながら美味しそうにパンを頬張る愛之助やタリサ、マヤラ達3人の姿に愛満がパンが喉に詰まっては大変だと心配しながら注意されつつ。
ココムは残りの『ウィンナーチーズロールパン』に舌鼓をうっのであった。
◇◇◇◇◇
こうして朝倉村に在る。エルフ族3兄妹が営む村のパン屋さんへとココムお手製の惣菜パンになる。
3種類の『カレーパン』、『半熟卵入り・カレーパン』、『チーズ入り・カレーパン』の他に
大吉村のウィンナーを使用した『ウィンナーロールパン』、『ウィンナーチーズロールパン』が新登場して、瞬く間に村の人達の人気を得る。




