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梅昆布茶と春の彼岸入り



「愛満、愛之助、ありがとうね!」


「2人とも本当にありがとうな!」


「……ぅ、う、……あ、ありがとう!」


その日愛満と愛之助の2人は、涙を流して喜ぶ街の人達に囲まれ、お礼の言葉を口々に言われていた。

しかし、もっと早く建ててあげられなかった事を悔やんでいる様子の愛満達は、何やら申し訳なさそうに頭を下げる。


「ううん、僕の方こそもっと早く作ってあげれなくてご免なさい。」


「申し訳なかったでござるよ。」


「何言ってんだい!お礼を言うのは私達の方だよ。

こんなに見た事もない立派なお墓建ててもらって、むこうでお父もお母も喜んでいるよ。」


「そうだぜ!こんな見晴らしの良い花畑に囲まれてる墓地なんて見た事もないぜ!本当にありがとな!」


「本当だよ!私達家族の命を助けてもらったばかりか、こうして先祖を供養する場所まで作ってくれたんだから!」



◇◇◇◇◇



何をこんなに愛満達が感謝の言葉をかけられているかと言うと。

実は前々から街の人達から、先祖や先の戦争などで亡くなった両親、家族を供養する墓を村の何処かに造って良いかと要望が有り。


それならばと愛之助といろいろ話し合い。

更にはアルフ夫妻や凱希丸、ギルド長の琴柏谷達にこちらの世界の墓事情などを聞いて調べた結果。

こちらの世界では、亡くなった人が禁断黒魔術の死霊使いや死霊魔導師達などに利用されないように火葬してから埋葬されとの話を聞き。


明るく誰もが来たくなるような墓地を造りたいと考え愛満達は、朝倉町の有る隣の山の頂上付近に、身体の不自由な人達の事を考え。

隣の山と行き来できる立派で頑丈な、荷馬車がすれ違える大きな橋を架け、墓地まで続く長いエスカレーターのような魔法器具を造り設置。


更には墓泥棒や死霊使い、死霊魔導師達から墓を荒らされないよう、こちらの世界の人達には馴染みのない日本風立派な墓を一家族に1つの墓を建ててあげ。

墓地の周りには季節折々の花が咲き乱れる花畑や広々した公園を整備してあげたのであった。


ちなみにこの公園は、後に朝倉学園の生徒達の遠足地にも活用される事になる。


そしてギルド長琴柏谷にお願いしていた。

琴柏谷の友人でもある、自然を愛でる森の番人との呼び名高い『ドルイド僧』を呼び寄せてもらい。

朝倉墓地の墓守や公園を手入れしてもらう庭師としての雇用を無事結び、契約を成立する。



◇◇◇◇◇



そうして街の人達へと希望する場所の墓を振り分け、村の皆が家族や兄弟で嬉しそうに墓参りを行うなか。

お墓の無い愛満や愛之助、美樹、光貴の4人は、まだまだ寒い寒空の下、墓地内に整備した東屋に座り。持参した愛之助達ドハマり中の『梅昆布茶』をまったり飲んでいた。


「う~~~ん♪梅昆布茶美味しいへけっ!」


「はぁ~~~~~~♪いつ飲んでもホッとする味だね。」


「久しぶりに梅昆布茶飲んだけど旨いな!」


「梅の酸味とともに昆布の旨味が口中に広がり美味しいでござるよ!」


4人で墓参りする街の皆を見ながらボッーとしていると、何やら少し寂しそうな表情で、愛之助と美樹の間にムギュと割り込み座る光貴が愛満に話しかけてくる。


「ねぇ愛満、どうして今日みんなにお墓プレゼントする事にしたへけっか?お墓だけなら3日前に出来てたへけっよ?」


お墓だけなら3日前に完成してる事を知ってた光貴が質問する。

そんな家族と突然引き裂かれ、今なお家族や両親が見つかっていない光貴の頭を優しくて撫で。


「それはね、僕の故郷では今日が『春のお彼岸入り』の日になってね。せっかくならと思って、今日まで造り忘れや見落としがないか確認しながら待ったんだ。」


「『春のお彼岸(ひがん)入り』へけっか?」


「そうだよ。春のお彼岸入りは『春分の日』と『秋分の日』の、それぞれ前後3日間の計7日間が『彼岸』になってね。

少し難しいかも知れないけど、『彼岸』とは、僕の故郷の仏教用語で『向こう岸』という意味で、煩悩を脱して達した涅槃(ねはん)(究極のやすらぎ)の境地のことを指していてね。

これに対して、生死の苦しみに迷う現世(げんせ)が『此岸(しがん)』というだ。」


愛満が光貴に『春の彼岸』の説明していると、一緒に話を聞いていた美樹が驚いた様子で話し。


「へぇ~~!彼岸て、そんな意味があったのか、全然知らなかったぜ!」


「えっ!知らないの美樹!?これって一般常識じゃないの?」


「ふぇ!?いやいや、普通今の若い奴はそんな事知らないと思うぜ!………と言うか、逆に愛満が知ってる方が驚きなんだけど」


「………そ、そうかなぁ。」


「いやいや、誉めてないって!」


彼岸の意味を知っている愛満の方が変わっていると驚かれ、つこまれるなか、彼岸に墓参りをする意味などを知りたい光貴が話しかけ。


「あぁ、ごめんごめん。それでお彼岸にお墓を渡したり、お墓参りをする理由はね。

さっき話したように『彼岸』は生死を超越できない人間界(此岸)の煩悩を解脱して、悟りの境地である来世(彼岸)に渡ることをいってね。

お彼岸に墓参りするのは、春分・秋分には太陽が真西に沈む事から、阿弥陀仏を礼拝するにふさわしい事と言われていたり。

春分・秋分は昼夜の長さが同じで、太陽が真西に沈む日で、仏教では極楽浄土が西方にあるとし、この日に仏事を行うようになり。

お彼岸の間に、各家庭や寺院では彼岸会(ひがんえ)という法要が行われ。人々は亡くなった人をしのんでお墓参りをし、寺院では読経や説法などを行うのが習わしになってきたからなんだよ。

難しかったけど解った、光貴?」


こちらには無い仏教やら人の生死など少し難しいかも説明だったので、光貴が理解できたのか愛満が心配して光貴に問いかける。

すると難しい顔をしていた光貴が


「う~~~ん!良くは解らなかったけど、とにかく彼岸の間にお墓参りなんかをしたら良いて事でしょう?」


「そうそう!そうなんだよ。さすが光貴!頭良い~♪

だからうちの実家でも毎年お墓参りは、お彼岸中であればいつ行っても良いから、彼岸中に先祖代々引き継いだお墓にお墓参りに行って、先祖の霊を供養してたんだよ。

他にも自宅に仏壇があったから、いつもより丁寧に掃除して、普段菊の花を飾ることが多いいんだけど、曾祖母ちゃんや曾祖父ちゃんが好きな薔薇の花を飾ってあげたり。

毎朝あげてる水と一緒に曾祖父ちゃんが好きな梅昆布茶をあげたりして、彼岸の間は毎晩お灯明(とうみょう)をともして線香をあげ。

故人の好きな物や精進料理、牡丹餅などを供えてたんだ。」


話し、光貴は納得した様子で頷いてくれる。すると今度は愛之助が自分が知ってる『彼岸』の情報を話し始め。


「それに彼岸の最初の日を『彼岸入り』、最終日を『彼岸明け』と呼ぶでござるもんね!

あと、彼岸の間の春分の日の頃になると『暑さ寒さも彼岸まで』の例え通り、一年の中でも過ごしやすい気候になるでござるし、春分の日を境に冬が去り、春が訪れると例えられているでござるよ!」


「そうへけっか!?愛之助も物知りへけっね、スゴいへけっ!」


光貴に誉められ、何やら得意そうに照れ笑いする愛之助なのだった。



◇◇◇◇◇



こうして、朝倉町に街の人達が待ち望んでいた先祖や家族を供養できる朝倉墓地が完成して、街の人達が涙を流して喜ぶのであった。



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