きなこ麩餅とステンド硝子作家の師匠と弟子
「ほぉ~、ここが最近話題の朝倉町なのかのう。噂通り綺麗で立派な街じゃなぁー!視宝もそう思わぬか。」
ショウ達が営む乗り合い馬車から街に降り立った宝樹は、ショウ達から荷物を受け取り。忙しそうにしている弟子の視宝に声をかける。
「あっ、ありがとうございます。…あっ、そのバックです。どうもすいません。
ちょっと師匠!嬉しいのは解りますが、荷物も持たずに一人で先に行かないで下さいよ。また迷子になっても知りませんよ!
はい、これが師匠のバックです。」
「おぉ、すまん、すまん。すまんのじゃ。
しかし視宝や幼いうちからそんなにカリカリ怒るでない。健康に悪いぞ。」
「もう!僕を怒らせて健康を悪くさせてるのは誰ですか。師匠あなたですよ!
まったく、ちょっと目を離すとチョロチョロと居なくなるし。
新しい年になって、まだ2月しかたってないのに、もう27回も迷子になってるんですから!
少しは、毎回師匠を探す僕のみにもなって下さいよ!師匠聞いてます?
……て、あれ?師匠何処に行ったんですか!師匠ーー!!」
若干13歳の視宝が慌てるなか、師匠の宝樹は予想を裏切らず。視宝が少し目を離した隙に、またフラフラと居なくなっていた。
◇◇◇◇◇
「ほぉほぉ。この建物の窓は、こんな構造になっておるのか!
しかし興味深いのう。こんなに美しい透明度の硝子があるなど、驚きなのじゃ!」
視宝の注意など綺麗さっぱり忘れた様子の宝樹は、街中をフラフラ歩き回り。家々の窓ガラスを見て回っては、歪みがなく、透明度の高さや完成度に一人驚き感激する。
「おや!あっちの建物の硝子は、何やら少し違うみたいじゃぞ!」
またフラフラと歩き出す、この宝樹。
実はちょっとした有名人で、王都の教会、王城、貴族宅などに自身の魔法で生み出した色とりどりの硝子を使い。
美しいステンド硝子を作り上げては販売している、人気のステンド硝子作家なのだ。
そして宝樹が魔法で生み出す硝子なのだが、愛満達の知るガラスと違い。どんな衝撃を与えても割れず、頑丈で、汚れもつかず。
長い時を美しいままあり続ける。素晴らしい1品になる。
そのため門外不出の魔法になり。代々一族の中で受け継がれていて、師匠の宝樹と弟子の視宝は遠縁の血縁関係にあたり。
ステンド硝子作家として一流の腕を持っているのだが、生活能力が極端に欠けている。かなり変わり者の宝樹の世話を弟子の視宝が、何かと手助けしている状態なのだ。
◇◇◇◇◇
「ハッ、ハッ、ハァ、やっと見つけましたよ、師匠!
あれほど勝手に一人でフラフラしないで下さいねとお願いしたではありませんか!まったく、何やってるんですか、あなたは!」
「ありゃ?視宝やっと来たのか、遅かったのう~。」
汗だくになりながら街中を走り回り。やっと宝樹を見つけ出した視宝は、反省の様子が見えない師匠の宝樹をこんこんと説教し始める。
「と、解りました 師匠!」
「うむ、解ったのじゃ。」
「本当ですか?なら、僕が何と言ったか繰り返してみて下さい。」
本当に反省してるか疑った視宝は、自身が何と言って注意したのか問い詰める。
「ワシが言うのか?」
「ええ、師匠が言うんです!」
「……えっと………、そうじゃあ!
これからは、何か興味を示すものを見付けても、視宝に声をかけてからしか動きません。
もし視宝とはぐれたら、安全確認をしたのち、その場で視宝が探しに来てくれるまで待ちます。
ただし、命の危険にさらされた場合はのぞきます。」
うろ覚えではあるが宝樹が、先程 視宝から注意された言葉を簡単にまとめて思い出しながら話す。
その言葉を聞いて、視宝は少し渋りながらも
「う~ん。まぁ、ちょいちょい抜けてる箇所もありますが、それで良いでしょう。
解りましたか、師匠。その言葉を忘れずに日々の行動を心掛けて下さいね。
初めて訪れた街で、師匠を探すの本当に大変だってんですからね!」
「すまんのう、本当に迷惑かけたのじゃ。」
「まぁ、過ぎてしまった事はしょうがありません。
師匠も歩き回って喉が乾いたと思いますので、何処か近くのお店でお茶でもしましょうか?」
『…………コクコク』
神妙に反省した様子で言葉なく頷く宝樹に、なんやかんや言っても宝樹に甘い視宝は
「……そうだ!師匠、知ってましたか?
師匠を探してる時に、この街の人達に声をかけたら
この街は、師匠が食べた事のないような、珍しいお菓子が食べられるそうなんですよ。
師匠甘い物お好きでしょう。せっかくだから食べに行きませんか?」
「甘い物?」
「ええ、師匠が食べた事のないような甘いお菓子だそうですよ。」
視宝が宝樹を探している時に耳にした。珍しい甘いお菓子を食べに行こうと宝樹を誘うのであった。
◇◇◇◇◇
「へぇ~。宝樹殿がステンド硝子作家で、視宝殿はそのお弟子さんでござるのか。」
愛之助達と一緒に温かい炬燵に入り。愛満お手製の『きなこ麩餅』をモグモグと食べている宝樹達は、愛之助が煎れてくれ緑茶を一休みして美味しそうに飲み。
「そうなのじゃ!ワシがステンド硝子作家で、この横に座っておる視宝が、弟子にあたるのじゃ。」
教えてくれて、また『きなこ麩餅』をモグモグと美味しそうに食べ始める。
「ねぇ視宝、そもそもステンド硝子作家てどういうお仕事なの?」
「ちょうちょう、どうゆうおちごと?」
「光貴も解らないへけっ?」
今まで耳にした事の無いステンド硝子作家となる言葉に、どんな職種か意味が解らないタリサ達が、弟子の視宝に質問する。
ちなみに師匠の宝樹に質問しなかった訳は、きなこ麩餅の入った深皿のボールをガシッと抱え込み。
食べるのに忙しすぎてタリサ達の話など聞こえていなさそうだったからである。
「ステンド硝子作家とはですね。僕も我が一族の門外不出のため、詳しいお話はお教えできないのですが。
例えて言うのなら、このお店の窓にはまっている、透明の窓ガラスに色がついていると考えていただいて。
その色ガラスを使用して、画家や作家のように絵や物語を画いていくお仕事になります。」
「へぇ~ガラスで絵を描くの!すごい~♪」
「視宝たち ちゅごいんだね!」
「ガラスで絵を描くへけっか?すごいへけっ!」
「まぁ、窓ガラスと説明しましたが。
愛之助さんの話だと、あのガラスは愛満さんの魔法に守られていなければ、本当だと強い衝撃で割れてしまったり。汚れたら掃除しなければいけないようなのですが。
我が一族が生み出す硝子は、どんな衝撃でも割れませんし。
汚れも寄せ付けづ、長い時を美しい姿のまま保っておれますので、王族や教会の方々や貴族の方から根強い人気をはくしているのですよ。」
何やら誇らしそうに教えてくれる。そんな誇らしげな視宝の様子に
「視宝殿の話を聞いておって、ステンド硝子作家と言う仕事は、素晴らしい仕事のようでござるね。
それに視宝殿は、ステンド硝子作家と言う仕事に誇りを持っておるのが良く解ったでござるよ。」
「はい。僕は、自分達の手で生み出されたステンド硝子の作品で、人々が感動してくれる姿を見て、ステンド硝子作家とはなんと素晴らしい仕事かと感銘を受けましたし、尊敬しているのです。
それに『きなこ麩餅』を独り占めして馬鹿のように食べている師匠もこうしていますが、ステンド硝子作家としては、我が一族きっての天才と言われているんですよ!」
との視宝の言葉に、無心に『きなこ麩餅』を頬張り、独り占めして食べてる宝樹とは結び付かず。胡散臭げに宝樹を見つめ。
「………………本当に?」
「…………人違いではござらぬか?」
「……………うちょだ!」
「ほ、本当ですよ!本当にスゴい人なんです!うちの師匠は!」
師匠の宝樹を今だ疑いの目で見つめる愛之助達に視宝が説明するのだが、視宝の事はスゴい人だと思っても、宝樹は違うだろうと3人の瞳がものがっていて、何とか師匠の宝樹のスゴさを認めさせたいらしい視宝は
「あっ!そうです。ならこの話はどうですか?
普通ですね。我が一族では僕のような年頃の者達は、自覚を持ち始める頃より一族の中のステンド硝子作家のどなたかに弟子入りし。
衣食住を共にしながら、師匠から技術を学んだりするものなのですよ。
しかし、うちの師匠は弟子入りする前の幼い頃より、その素晴らしい片鱗をみせ。
脈々と続く一族のなか、ただ1人、どなたにも弟子入りせずにステンド硝子作家になられたお方になるのです。
ねっ!スゴくないですか!スゴいでしょう!」
懸命に愛之助達へと説明するのだが、『みんなで仲良く食べてね』との愛満の言葉を聞いていなかったかのような傍若無人な宝樹の行いに。
愛之助達は、それが事実だとしても認めたくなく、視宝の話に力なく首を降るのであった。
そして視宝も、こんなに師匠の事を考えて必死に説明しているのに。
今だ『きなこ麩餅』を独り占めして、モシャモシャ食べている師匠の宝樹を見ながら、残念そうに項垂れた。
◇◇◇◇◇
そうして、そんなこんなしていると新たに作ったお代わりの『きなこ麩餅』を持った愛満が、愛之助達の元に戻って来て声をかける。
「みんなお待たせ。お代わりの『きなこ麩餅』持って来たよ。きなこ麩餅美味しかった?」
愛満から聞かれ。本当はほとんど宝樹に捕られ。『きなこ麩餅』を2つ、3つしか食べてはいない愛之助達であったが、そこは大人の対応で
「うん、さっくりふんわりした食感で美味しかったよ!」
「そうへけっ、そうへけっ!きな粉の味が良く合っているへけっ♪」
「おいちかちゃよ♪」
「本当に美味しかったでござるよ!軽い食感で、何個でも食べきれそうな美味しさでござる♪
それにスッキリとした甘さの三温糖と香ばしい風味のきな粉、少量ながらも甘さを引き締めてくれている塩のきな粉糖がまぶされておって、最高でござる!」
愛之助達がいつもように感想を教えてくれるなか、愛之助につられて大人の対応をする視宝や、純粋な感想の宝樹が
「愛之助達が言うように口の中で『ふわっ』と溶ける軽い口当たりで、一口食べたら止められない美味しいでした。」
「うんうん!こんなに美味しい菓子、初めて食べたのじゃ!
今までこんな美味しいお菓子が存在していた事を知らなんだ事を思うと、人生損した気分なのじゃ♪
ところで愛満、ワシこの『きなこ麩餅』毎日食べたいのじゃが、ワシの弟子の視宝でも作れるかのう~?」
初めて食べた『きなこ麩餅』を絶賛し、作り方を愛満へと訪ねる。
そんな宝樹の様子に、弟子の視宝はまたかと緩く首を振り。諦めたような苦笑いを浮かべ。
「申し訳ありません、愛満さん。こうなったら師匠はテコでも作り方を聞くまで動かないので、お店の大切なレシピで門外不出かもしれませんが、絶対に外部に漏らしませんし。
謝礼も愛満さんの望まれる金額を支払いますので、何卒僕だけに作り方を教えてもらえませんか?」
頭を下げお願いする。そんな視宝の話や態度にビックリして、キョトンとした様子の愛満であっだが、何やら視宝の苦労が垣間見えたらしく、大きく頷き。
「そんなに頭を下げなくても大丈夫だよ、視宝君。
それに謝礼も要らないし、『きなこ麩餅』の作り方も教えてあげるから、頭を上げな、ねっ!」
優しく声をかけ。大人ぶってはいるが、まだまだ甘えたいであろう視宝の頭を優しく撫で、台所へと移動して『きなこ麩餅』の作り方を教える事にする。
◇◇◇◇◇
「……と、フライパンにサラダ油を加え熱し、この丸いコロコロした形の『餅麩』を入れてね。
油を絡めるように弱火でじっくりと、焦げないように焼くんだよ。」
「こんな風にですか?」
「そうそう、それで大丈夫だよ。
それからこの油で絡めるように餅麩を炒める訳はね、焼かれてカリッとする食感を出すためや
この後の三温糖と塩、きな粉を合わせたきな粉糖が餅麩にくっつきやすくなるようになんだ。」
「へぇ~~!そんな意味があるんですね。」
視宝と2人、お揃いのエプロンを着けた愛満達は、仲良くフライパンで餅麩を炒めていた。
「よし!それじゃあ、麩餅もきつね色の焼き色がついたから、きな粉糖が敷かれたバッド麩餅を入れ。熱いうちにきな粉糖を麩餅にまぶしていくよ。
熱いうちにまぶさないときな粉糖と餅麩がくっつかなくなる事もあるから、ココはスピーディーにね!」
「はい!」
2人は楽しそうにお喋りしながら、宝樹のために沢山の『きなこ麩餅』を作っていくのであった。
◇◇◇◇◇
そうして大満足の宝樹が、自身の魔法バックに大量の『きなこ麩餅』を直していたところ、タリサ達が話しかけ。
「視宝も今回は無事、宝樹のワガママ解決出来て良かった♪
それに宝樹も沢山の『きなこ麩餅』貰えて良かった。けど、弟子だからと言って視宝をあんまり困らせちゃダメだよ!解った!」
「ほんちょうによかちゃね♪ほうちゃんもあんまりわがままじゃめよ!めっ!じゃからね!いい?」
「本当に良かったでござるね。これで王都でも宝樹が大好きな『きなこ麩餅』が食べられるでござるよ♪
それに、あんまり視宝を困らせたらいけないでござるよ!」
いつのまにか愛之助達から宝樹が呼び捨てにされ。
口々に宝樹のワガママが無事解決した事や、弟子の視宝に無茶なお願いをしてはダメだと宝樹に注意する。
そうして宝樹がご機嫌ななか、本日の宿でもある『風呂屋・松乃』に移動する視宝達が愛満達にお世話になったと挨拶しょうとしていた所。何やら考え込んでいた愛之助がポッり。
「………あっ!やっと解ったでござる!そもそも王都には、きなこ麩餅を作るための餅麩が売っているでござるか、不思議だったでござるよ!
あぁ~~~~♪スッキリしたでござるよ!
ずっーと宝樹のワガママを聞いた後、何やらグルグルと頭の中で不思議に思っていたでござる!」
宝樹のワガママを聞いて、何やらずっーと違和感があったらしい愛之助は、謎が溶けてスッキリしたようで微笑むのであった。
「!!!!!!!!!」
「!!!!!」
「………あっ!本当だね!」
「………あぁ~~~~それを言っちゃったか……。」
「愛之助、それは言ってはいけなかったへけっよ………。」
「……あちゃ!」
◇◇◇◇◇
そうしてあの後、語り尽くせぬ出来事が多々あり。………そう、長い、長い、戦いであった。
きなこ麩餅が食べられないのであれば、王都には帰らないとの宝樹のワガママに始まり。
頑として意見を変えない宝樹に、途中 視宝からの知らせによりやって来た。一族のお偉いさん達が万次郎茶屋に押し掛けたりとか………。
お偉いさん達の話をガン無視して、宝樹が突然『きなこ麩餅』を食べ始めたりだとか…………。
そんな宝樹の様子に幾人かのお偉いさん達が、マジギレしたりとか…………。
あんまりにも宝樹が『きなこ麩餅』を美味しそうに食べるから、『きなこ麩餅』を弟子の視宝から貰い。食べた一族のお偉いさん達がコロッと意見を変え、朝倉町への移住を許したりとか……………。
(なぜ弟子の視宝から貰ったかと言うと、宝樹にくれと言っても絶対に、頑なに分けてあげなかったからである。)
愛満予想外の団体さんからの大口の『きなこ麩餅』の契約が、結ばれてしまったとか…………。
その結果、ステンド硝子作家の宝樹と弟子の視宝達は、朝倉町に移り住む事になり。
愛満の力で、王都の作業場や自宅にも負けない広々して、収納スペースも多々あり。
片付け嫌いの人でも片付けられる解りやすい作業場兼自宅を建ててあげ。
更には愛満の提案で、宝樹や視宝が作り上げたステンド硝子の商品を飾った『ステンド硝子の美術館』を建て。
師匠の宝樹が気まぐれに作った小物作品や、弟子の視宝が作った小さな作品などをお土産として販売出来るコーナーや商談部屋などが設備されている。
こうして、朝倉町に子供みたいな天才ステンド硝子作家の宝樹としっかり者の弟子の視宝が町の一員に加わり。
『ステンド硝子美術館』が町の新たな名所へと仲間入りするのであった。
◇◇◇◇◇
ちなみに作業場や自宅の収納スペースや解りやすい片付け方、お土産コーナーなどの発想は、視宝と『きなこ麩餅』を作ってる時に、片付けられない宝樹の話を聞き。
毎日何かと宝樹の世話や、本来の弟子入りした理由でもある修業で忙しい視宝を少しでも楽をさせてあげたいと愛満が考え。
作業場や自宅、美術館を建てるさいに、意見して取り入れたのであった。




