鰆の木の芽田楽と『山椒は小粒でも ぴりりと辛い』
「どう?ポポロも多喜も『鰆の木の芽田楽』美味しい?」
「うん!この木の芽が入った味噌が香り良いニャ♪それにお魚の身もホクホク、ホロホロしていてスゴく美味しいニャ♪」
鰆の木の芽田楽を食べているポポロが愛満の問いかけに答え。ポポロの隣に座る多喜の肩を優しく揺すり、口を大きくゆっくりと動かしながら話しかける。
「多喜、多喜もこの魚、美味しいニャンか?」
「……うん、ポポロ 美味しいよ。それにこの木の芽って良い香りがするね。まるで木のような爽やかな香りがする、僕この香り好き。」
鰆に添えてあった木の芽を取ると匂いをかぎ、多喜は嬉しそうに微笑むのであった。
◇◇◇◇◇
その日 万次郎茶屋では、大好きな魚料理を『焼き魚・煮魚のポポロのお店』で、販売しているケットシーのポポロと片耳しかない猫族の少年の2人が、少年の治療をかね、愛満の元へと遊びに来ていた。
「多喜も美味しいかったかニャ♪それは良かったニャ!」
「……うん、良かった、良かった。」
顔を寄せ合い楽しそうにクスクスと笑いあう2人の姿を、愛満は愛しいげに見つめ。何やら台所から取って戻って来ると2人に声をかけ。
「ポポロも多喜も喜んでくれて良かった。そうだ、ポロロと多喜。この新しく持ってきた木の芽を手のひらにのせて軽く数回たたいてみて、葉の細胞をつぶして香りを引き出すから」
パフパフ! 「こう?」
パンパン! 「…こう?」
「そうそう、多喜はバッチリだよ。さっきの鰆に添えてあった木の芽より、より強く木の芽の匂いを楽しめるはずだから!
………それからポポロは……何かごめんね。ポポロの手、肉球だからちょっと微妙だったね、貸してみて」
愛満はポポロから木の芽を受け取り。手のひらにのせて軽く数回たたくと、またポポロへ木の芽を返す。
「本当に良い香りだニャ~~♪」
「……本当だね。軽く数回たたいただけなのに良い香り。愛満スゴいね、物知りだね。」
「本当に愛満は物知りニャ♪
あっ、それから愛満、この美味しい魚料理ポポロのお店でも出しても良いかニャン?
多喜が一緒に働いてくれる事にニャってから、やっぱり1人で仕事するよりも2人で働く方が仕事の効率も良くてニャ、季節感を取り入れた美味しい魚料理を皆に食べてもらいたくニャったのニャ!
だから、ポポロや多喜でもこの魚料理作れるかニャ?」
木の芽の匂いを楽しんでいたポポロが相談してくる。そんなポポロの問いに愛満は、何やら嬉しそうに微笑み。
「うん、大丈夫だよ。この『鰆の木の芽田楽』は、9割程度焼いた鰆の切り身に木の芽味噌を塗り。
味噌に少し焼き色がつくまで焼いたら完成になるんだ。
だから『木の芽味噌』作りが少し大変になるだけで、多喜と2人で頑張っているポポロや多喜の2人なら、美味しい鰆の木の芽田楽作れると思うよ。」
優しく話しかけ。木の芽味噌の作り方や分量などを解りやすいように絵で紙に書いていき、口頭でも伝える。
「『木の芽味噌』の作り方はね。
お鍋に白味噌、酒、味醂、卵黄、砂糖の材料を入れ、木べらでよく混ぜ。なめらかになったら中火の火にかけるんだよ。
そして味噌がブツブツ泡立ってきたら、弱火に火を弱め2~3分練り。すり鉢ですった木の芽と合わせたら完成になるんだ。
黄身が入ってるから、要冷蔵になるんだけど3日程度なら保存が可能になるよ。」
そんな愛満が描いていく絵や話を聞いていたポポロと多喜は、2人で何やら相談したり話しつつ、最後は大きく頷き。
「 うん、うん!これならポポロ達でも頑張ればやれるニャ♪」
「……僕もポポロと一緒なら作れると思う!」
元気良く、嬉しそうに話す。
◇◇◇◇◇
ポポロのお店で働いている多喜、猫族の18才の男性になるのだが、体がちまっ子の愛満より小さく小柄で、学もなく読み書きや計算も出来ず。
獣人族の誇りでもある頭に生えた耳が片耳しかなく、尻尾も途中から切り落とされている。
実は多喜、幼い頃に奴隷狩りにあい。
同じ頃に連れてこられた奴隷達が次々売られていくなか、黒耳、黒尻尾の見た目から、縁起の悪い黒猫に似てるいるからと奴隷商で売れ残り。
日々雑用などを押し付けられ、食事も満足に食べさせてもらえず、理不尽な暴力などにあいながら生きてきた。
しかしある日、とある塩商人の失脚により、その塩商人と付き合いがあった奴隷商の主人達が国から調べられ。数々の悪事が発覚し、主人家族は奴隷へと落ち。
他にも奴隷商に勤める者の中で悪事に加担した者達や、主人の名を使い好き勝手した者達が、各々の罪の重さに分けられ罰せられた。
そして、多喜のように違法に連れて来られ奴隷に落とされた者達は、一時的に国に保護され。
未払いだった賃金や奴隷に落とされた身分を元に戻され。
その後の生活の行く末を決めていったのだが、他の者達が故郷の村や街、本来住んでいた場所などに帰って行くなか
多喜は奴隷狩りにあったさい幼すぎ、村の場所をうろ覚えにしか覚えておらず。
多喜のかすかな記憶を頼りに故郷の場所を見つけようにも、先の戦争で情報などが錯綜してしまい。
結局、多喜の故郷や親族が発覚する事はなかった。
そのため多喜が生活のために他の仕事を探そうにも、奴隷商で受けた虐待や暴力などの影響から、成長期などの栄養不足がたたり、身体的に成長してない体格がネックになったり。
勉強なども教えてもらっていないため、読み書きや計算が出来ない事もネックになったり。
更には切り落とされた片耳のため、右耳しか聞こえない事が原因になったりと、新しい仕事を探そうにも、多喜が働ける仕事先は何処にも無かったのだ。
そこで国からの薦めで、元は塩商人が無断で作った村になるのだが、一連の事件の功労者になる人物の願いから、新しく誕生した村へと行く事にする。
新しく誕生した村ならば、何か自分が働ける仕事が有るんじゃないかと多喜は考えたのだ。
そうして、多喜は他の新天地に向かう者達に交ざり、荷馬車で移動していたのであるが、運の悪い事に移動の途中に高熱をだしてしまい。
途中立ち寄った街にある病院へ、護衛で付いてきていた国の騎士に連れられ行くと肺炎になりかけていた事もあり、そのまま入院する事なる。
しかし病院へと連れてきてくれた騎士は、時間や日数がないからとお金を払うと急いだ様子で立ち去り。
多喜は1人、病院がある見知らぬ街へと置いていかれてしまう。
そんな不安な出来事に、体も弱っている事もあり。
多喜が不安に押し潰されそうになっていると朝倉村にある病院の医師のリサや、看護師で雀族の仲良し3人組のタレ目の陽翠、クリクリ目の翼沙、つり目の結翔達から大変良くしてもらい。
多喜が退院する少し前には、リサ達の紹介でポポロとも出会え。
あっという間にポポロが営む魚料理専門店の『焼き魚・煮魚のポポロのお店』で住み込みで働く事が決まっていた。
そうして、今は毎日楽しくポポロと2人、魚料理を焼いたり、煮たりしながら、朝倉村で生活している。
ちなみに多喜と言う名前は、それまで番号で呼ばれていた多喜へ、初めてのプレゼントを渡すとのだとポポロが愛満と一緒に考え。
多くの喜びに出会えますようにとの意味で、ポポロが決め『多喜』という新しい名前をプレゼントしたのであった。
◇◇◇◇◇
そんな多喜とポポロの3人が楽しくおしゃべりしていると、何やら不思議な顔をするポポロが質問する。
「けど、愛満。どうしてこの木の芽は良い香りがするのかニャ?それに木の芽ならどのなんの木の木の芽でも使って良いのかニャ?」
するとポポロの問いかけに愛満が、何やら慌てた様子で話だし。
「ダメダメ!木の芽は、家の庭に生えてる山椒の木のしか使ちゃダメだよ。良い、解ったポポロ!」
「?????」
「それに多喜も悪いけど、ポポロが山椒の木の芽以外を使おうとしないか気を付けていてね。お願い!」
「……うん、解った。」
意味が解らずキョトンとした様子のポポロに言い聞かしたり、多喜にお願いする。
「……まぁ、とにかくポポロのお店で使う木の芽は僕が持って来てあげるから、ポポロも多喜も僕が持って来た木の芽しか使ちゃダメだよ、解った。」
しつこいようであるが念を押し、更には木の芽や山椒の事を教える。
「木の芽とはね、山椒の木の若芽のことでね。
ポポロ達が良い香りと話してた清涼感のある独特の香りや風味がある僕の故郷になる日本原産のミカン科サンショウ属の植物になるんだよ。
他にも消化促進や食欲増進、抗菌作用があり。
良い木の芽の選び方が、葉の間隔が狭く詰まっていて、葉がやわらかいものを選ぶと良いんだよ。
逆に葉に黒い斑点があるものは鮮度が落ちてるものだから避けてね。」
愛満が説明するのだが、興味が無い様子のポポロは残りの『鰆の木の芽田楽』をムシャムシャと食べていた。
そこで愛満はポポロや、話を聞いてくれている多喜達が更に興味を持ち、少しでもポポロ達の記憶に山椒、木の芽の事などが残るようにと考え。
「あのね、多喜、ポポロ。この木の芽が採取できる山椒の木はね、木の芽だけじゃなく、花や実も料理や菓子に使えるんだよ。
それに山椒の実は、ピリッとや人によってはスッーとする刺激的でバニラアイスクリームやチョコレートにも合う、病み付きになる味なんだって、スゴいと思わない?」
「えっ!木の芽だけじゃないのかニャ?花や実まで食べられるのかニャ、スゴいニャン♪」
「………花や実も食べられるのなんて、万能な植物ですね。」
木に実った果実を食べる事はあっても、1つの木から木の芽や花、実を食べられる植物など、ポポロ達が知るなかで無かったので、2人は興味深げに愛満の話を聞く。
「そうなんだよ。更にスゴい云われもあってね。僕やポポロ、多喜みたいな小さい体格の人を馬鹿にする人や嫌な事する人がいるでしょう?」
「いるニャ!嫌な事する人いるニャンよ!ポポロ達、ケットシーの見た目が可愛らしいからと無理矢理捕まえてペットにしょうとするニャン!」
「……僕も知ってる。そんな人達にたくさん会って来たから………。」
「そうだよね、そんな嫌な事を言う人やする人がいるよね。だけどね、この山椒の小さな実は
山椒の実のように体は小さなものでも、ピリッとした辛さのように気性の鋭さと才能を持ち合わせた人物であるので、侮ってはいけないぞ!とか、小さくても優れているんだぞ!
て、例えの『山椒は小粒でも ぴりりと辛い』て、言われてるんだぞって、むかし爺ちゃんが教えてくれてね。
まぁ、かなり爺ちゃんの考えで例えられた話かもしれないけど、僕も故郷で働いてた時、仕事関係で研修とかに行かなくちゃいけない時があってね。
そこで会った初対面の人から、体格や身長が小さい事や童顔な顔の事で嫌な事言われたり、馬鹿にされた事があったんだ。
だけど、そんな時は大きく深呼吸して、爺ちゃんのこの言葉を思い出し。『何クソ~~!負けるもんか!』て、自分の心を奮い立たせて頑張ってたんだよ。」
愛満が山椒の実を例えた話で、むかし仕事関係で辛かった時に乗り越えられた爺ちゃんが励ましてくれ事を2人に話す。
「…『山椒は小粒でも ぴりりと辛い』か、良い例えだね、愛満。」
「ニャ、ニャ!良い例えニャン♪ポポロも小粒でもぴりりと辛い男になるニャ!」
3人が山椒の話をしていると、万次郎茶屋の扉のベルが鳴り、遊びに出掛けていた愛之助達が帰って来る。
◇◇◇◇◇
そうして、ポポロと多喜が営む魚料理専門の『焼き魚・煮魚のポポロお店』には、春限定の『鰆の木の芽田楽』が新登場し。久しぶりの新商品に魚好きな人達を喜ばせるのであった。




