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和菓子『おひな様』とおひな祭り



その日 万次郎茶屋では、『おひな祭り』をお祝いしたスタンプラリーを楽しむお客さん達へとひな祭り限定の和菓子『おひな様』と、愛之助がたててくれるお抹茶の『ひなセット』や店内に飾り付けられたテーストの違う雛壇飾り、ひな飾り達が訪れる人を笑顔にさせていた。



◇◇◇◇◇



「お(とう)、お(かあ)、この店の雛人形、いろいろ違う雛人形で可愛いね♪それにこの『おひな様』の和菓子、あまくて美味しい!」


雛人形をモチーフに作られた愛満お手製の和菓子『おひな様』を女の子は美味しいと両親に話し。

自分の分を食べ終え、父親や母親から分けて貰った。2個セットである『おひな様』の片方の和菓子を嬉しそうに頬張る。


そんな我が子を愛しそうに見つめている女の子の両親は、娘の話しに微笑み。


「本当だね。他のお店の雛人形も綺麗だったけど、このお店の雛人形は可愛らしい物が多くて、可愛い物好きのお母には嬉しいばかりだよ。

それにミミの言うとおり、この和菓子と言うお菓子、甘くて美味しいね。お母、こんな上品な甘味のお菓子、生まれて初めて食べたよ。まるでお貴族様になった気分だ。

こんな素晴らしい所へ連れて来てくれて、贅沢をさせてくれたお父に感謝だね、ミミ。」


「うん!お父、ありがとう!ミミ幸せ♪」


「私からもありがとね、お父。」


朝倉町や万次郎茶屋へと連れて来てくれた父親のサンにお礼の言葉を伝える。


この人族のサン家族、元は山を越えたとなり町で暮らしていた家族になり。

今日は、戦争終わりでまだまだ貧しい暮らしのなか、5人いた子供のなかで唯一残った幼い娘のミミを連れ。

朝早くから父親の仕事の関係で引っ越した、引っ越し先の朝倉町を家族で探索し。

引っ越したお祝いにと探索途中に万次郎茶屋へと立ち寄り、格安で食べられる和菓子セットを堪能しているのであった。



「おう!お父こそミミもお母もいつもありがとな。ミミとお母が居てくるれるから、お父も毎日頑張れるんだよ。」


嬉しそうにサンが2人へ、お礼の言葉を返す。

そうして和やかな雰囲気のなか、3人が楽しそうしていると店の奥から和菓子『おひな様』のお代わりを持った愛満がサン達のテーブル席へとやって来て、サン達に声をかける。


「楽しそうなお喋り中すいません。可愛いお姫様の美味しいとの嬉しい声が聞こえたので、万次郎茶屋からのサービスで、お代わりの『おひな様』と、あちらの席のお客様からの『苺大福』、『白桃カルピス』になります。」


何やら吹き出しそうになるのをこらえた様子の愛満が、サン達の前にお代わりの『おひな様』や『苺大福』、『白桃味のカルピスジュース』を置き。炬燵席の方を指差す。


するとそこには、ぬくぬく炬燵席の指定席に座る愛之助達がサン達へとニコニコ笑いながら手を振り。


「せっかくの親子水入らずの日でこざるよ。拙者達オススメの苺大福と春限定の白桃カルピスを家族3人仲良く楽しむでござる♪」


「そうだよ。ミミちゃんの日でもある『おひな祭り』を楽しみなね!」


話しかけ、愛之助達も和菓子『おひな様』を美味しそうに食べ始める。



◇◇◇◇◇



実はサン、久しぶりのポカポカ陽気のなか車椅子の花夜やタリサ達が楽しく遊んでいたさい、運悪く花夜の車椅子の車輪が溝にはまり。たまたま愛之助も居らず。

どんなに頑張っても子供達の力では、溝から車輪が抜け出せず困っていた所、たまたま仕事で朝倉町に訪れていたサンが通りかかり、助けてくれたのだ。


そこからタリサ達とサンは仲良しになり。タリサ達からの紹介で愛満達もサンと仲良くなり。


何度か日雇いの仕事の関係でサンが村を訪れたさい、お茶やお茶菓子などを無料で振る舞ってくれる万次郎茶屋へと立ち寄り。

世間話をしていたところ、ついポロリと今の現状の事などを話してしまい。

それを聞いた愛満が、急な街の発展で今だ人不足になる朝倉町の町役場へと転職しないかと持ちかけたのだ。


最初は学もなく、読み書きも出来ない自分には、到底勤まらない仕事だとサンは遠慮していたのだが、愛満から学や読み書きが出来る人を求めてるわけじゃなく。

タリサ達の他にも、サンにとっては何気ない事だったかもしれないが、サンの手助けを感謝する町の人達の話を聞いていた愛満達は、サンの辛抱強く、人を思いやる優しい人柄に惹かれ勧誘しているのだと説明され。


さらにサンにしてほしい仕事も、そんなサンの人柄から朝倉町に住む一人暮らしや高齢者夫婦の家に立ち寄り。

安否確認や御用聞き等の仕事をしてもらいたいと説明される。


そのため給料面も良い事や、役場所員専用のファミリータイプの社員寮も有り。ミミを学校へと通わせられる等の事からサンは家族を連れ。朝倉町へと転職、引っ越しして来る事を決めたのだ。



◇◇◇◇◇



そうして、茶屋や愛之助達からの差し入れを受け取ったサン達なのであったが、タリサからミミちゃんの日と言われたミミは、何やら不思議な顔をして愛満へと質問する。


「ミミの日?ねぇ、愛満兄ちゃん、タリサ兄ちゃんがミミの日て言ってたけど、どういう事なの?今日はミミの誕生日じゃないよ?」


「あぁ、それはね。簡単に説明すると、今日3月3日は僕の故郷では、茶屋内みたいに雛人形を飾って、女の子の成長をお祝いする日と考えられているんだよ。

だからタリサは、今日の主役でもある女の子のミミちゃんに、今日はミミちゃんの日だから楽しんでねって言う意味で言ったのかもしれないね。

あっ、それにね。今ミミちゃんが食べているこの和菓子の『おひな様』も、緑色の着物を着ている方がお内裏様で、桃色の着物を着ている方がお雛様をモチーフにして作ってあるんだよ。美味しかった?」


幼いミミでも解るようにと、かなり簡単な『桃の節句』の説明をしてあげ。他にもミミが気に入った様子の和菓子『おひな様』の事も説明してあげる。


「えっ!そうなの、?ミミ、知らなかった。

それにね。この『おひな様』もあんまりにも美味しいから、ミミ食べるのに夢中で、そこまで気づかなかった!エヘヘ♪」


ミミが照れくさそうに笑うなか。ミミの前の席に座るサンが、ミミの頭に手を伸ばし愛しそうに優しく撫でる。

そんなサン達の仲の良い姿を見て、愛満は家族の大切な時間を邪魔してはいけないと思い。サン達に挨拶をすると店の奥へと帰って行く。



◇◇◇◇◇



そうして家族3人になったサン達は、また楽しそうに喋りしだし、何やら思い出した様子のサンが


「おっ、そうだ!あのなぁ、お母とミミがさっきから行く店、行く店で楽しそうに押して集めているスタンプカードな!

アレ、最初にスタンプカードを貰った『おひな祭り』本部に持って行って係りの人に見せれば、記念の雛人形が貰えるらしいぞ!」


「えっ!本当にお父!?」


「本当なのかい、お父!?………そりゃあ、景気が良い話だね。」


サンの話しに2人が驚き、思わずサンに詰め寄る。

そんな2人の驚く様子に、何やらしてやったりとサンが満足そうに頷き。


「本当だとも!1枚のスタンプカードにつき、1人1つの雛人形が貰えるらしいぞ。

俺もお母も学がないから字が読めず解らなかったが、このスタンプカードにも書いてあったらしいんだ。

それに俺達みたいな人のために口頭でも説明をしていたらしいんだが、ほら!スタンプカードを貰う時、人が大勢いて係りの人が何て言ってるか聞こえないてお母も話してただろう。」


サンが妻のキユに問いかける。するとキユもあの時の事を思い出した様子で


「あぁ、あん時だね。あん時はあまりの人の多さに係りの人の話も聞こえなかったし。人の波に流され、ミミと離れ離れになるんじゃないかとヒヤヒヤしたもんだ。」


思わず隣の席に座るミミをキユが大切そうにギュッと抱き締める。


そんな妻のキユを見て、最近症状が少しづつ治まってきていたのであるが、立て続けに子を4人も亡くし。

ミミの姿が見えなくなる事に並々ならぬ恐怖感を覚え、情緒不安定気味だった昔の妻の様子を思い出し。心配したサンは、あえて明るい調子でキユ達へと声をかける。


「そうだなぁ、あん時はお父もヒヤヒヤしたもんだ。

それよりミミもお母も見てみろよ。ほら、さっき愛満が記念品の3種類から選べる雛人形が描かれた紙をくれたんだぞ、スゲーぞ!」


愛満から貰った3種類から選べる記念品の雛人形の写真がのったチラシを見せる。するとミミが飛び上がらんばかりに喜び。


「うわー!スゴいスゴい!お父もお母も見て~~!この雛人形スゴく可愛い~~~♪ミミこの雛人形貰う!」


チラシにのった桜の花ビラの中に親指姫の用に作られた雛人形を指差す。するとそんな元気なミミの様子を見たキユも落ち着きをとり戻し、ミミが選んだ雛人形とは違うテディベアの雛人形を指差し。


「ミミがその雛人形を貰うなら、お母はこっちの雛人形を貰おうかなぁ♪」


「おっ、ミミとお母がその2つを選ぶなら、お父はドワーフの凱希丸さんが作った銀細工のお内裏様とお雛様の形をした雛人形セットを貰おうかなぁ。

実は凱希丸さんのお店で見た、銀細工で出来た影の形のお内裏様とお雛様がセットになった雛人形を見て、シンプルでいてカッコいいなぁと思ってたんだよ。」


3人は楽しそうに話し、幸せそうに顔を寄せあい微笑むのであった。



◇◇◇◇◇



そうして、朝倉町にある全店舗で開催された参加型の『おひな祭り』のスタンプラリーも無事終わり。


愛満達は、その日の万次郎茶屋の営業終わりに茶屋内に飾り付けていた雛人形を一体、一体、丁寧に仕舞っていた。


すると自身の雛人形達を仕舞い終えた愛之助が愛満に話しかけ。


「愛満、拙者の雛人形仕舞い終わったでござるから、愛満のお手伝いをするでござるよ!」


「えっ!良いの愛之助、疲れてない?………そう、ならありがとね。

ならそこに並んでいる台傘(だいがさ)沓台(くつだい)立傘(たてがさ)仕丁(しちょう)達3体から仕舞っていってくれる。」


12段飾りで一番雛壇飾りの品数が多い愛満のお手伝いをしてくれ。2人でテキパキと雛人形を仕舞っていると愛之助のお腹が勢い良く鳴り。


「………エヘヘ♪お腹が空いてきたでござるね、愛満。」


愛之助が照れくさそうに笑う。そんな愛之助に愛満がすまなそうに謝る。


「お腹空いたよね。ごめんね、愛之助。もしアレだったら、おでん仕込んであるからら先に戻って晩ご飯食べていて良いよ。」


「何を言っているでござるか、愛満!兄者(あにじゃ)の愛満1人に片付けを押しつけ、弟の拙者1人戻り、ご飯を食べる事など出来ないでござるよ!」


「…………いまだに止まらぬ お腹の音が鳴っているのに?」


「そうでござるよ!!」


「絶対?」


「絶対でござる!」


愛満の問いに愛之助が可愛らしくぷりぷり怒るなか、そんな可愛い弟である愛之助の様子に愛満はクスクス笑い。

お腹を空かせた可愛い弟の愛之助のため、少しでも早くご飯を食べさせてあげれるようにと手を動かす。


すると何やら考え出した愛之助が質問する。


「愛満、つかぬことを聞くでござるが、この雛人形は明日の朝早くに片付けては駄目なのでござるか?

愛満も一日中お客さんの接客や準備などで疲れて、お腹空いているでござろう?」


「愛之助 気を使ってくれてありがとうね。

それから雛人形の事なんだけど、そうなんだよ。雛人形って、今日のうち片付けた方が良いだ。

なんかね、婆ちゃんが雛人形は3月3日を過ぎたら直ぐに片付けたほうがいいだよって言って、昔3つの理由を教えてくれたんだ。

1つ目が世間でよく知られている、いつまでも出しておくと婚期が遅れる説や

2つ目が、片付けの出来ない娘は良いお嫁さんになれないという戒め説

3つ目が、今では飾るものになった雛人形だけど、もともとは子供の身代わりであり。穢れを移して流すものだったんだ。

それが時代とともに凝った豪華な物へとなってくるうちに『すぐに片付ける』事で、流す代わりとすると考えられるようになり。

だからおひな祭りが終わって、いつまでも飾っておくのは縁起が悪いという考えに基づいた説とかね。」


「ほぉ~、拙者まだひな祭りは2回目でござるが、そんな説があるのでござるね!う~ん奥深いでござる。」


「まぁ、うちの家には女の子や女性が居ないから、あんま意味ないと思うんだけどね。」


2人は話し。愛満達は茶屋内全ての雛壇飾りを片付け、愛之助おまちかねの晩ご飯を食べるのであった。



◇◇◇◇◇



こうして、今年もまた朝倉町で開催された『おひな祭り』は無事終わり。たくさんの笑顔の花が咲き乱れたのであった。






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