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焼き蜜柑と米たんぽ



「うぅー!寒みぃ、寒みぃ!おい、何処か暖かい店にでも入って体を暖めようぜ!」


「そうだなぁ!こんな寒みぃなか、うろうろしてると風邪引いちちまうぜ!」


少し先の目の前が白く霞、雪と一緒にビュービューと冷たい強風が吹き荒れ。余りの寒さに外を歩く屈強な冒険者達も、コレはまずいと逃げ出すなか。


その日 万次郎茶屋では、何やら反省しきりの山背が愛満にある物を縫い直してもらっていた。


「……と、よし!はい、山背。これで大丈夫だと思うけど、また壊れたり、解れたりしたら言うんだよ。」


愛満に縫い直してもらった。お気に入りの亀のイラストが描かれた米たんぽを受け取りながら、山背はよりいっそう反省する。


そもそも何故こんなに山背が反省しているかと言うと、山背が朝から何度もくしゃみを連発し。

吹雪をともなう。急に寒くなった天候などの影響で、風邪を引いてしまったのかと愛満達が心配していると

マヤラからの情報で、愛満が一人一人用にと縫てくれた。お米と唐辛子を使った『米たんぽ』が、山背の寝相の悪さでもみくちゃにされ。米と唐辛子を詰めた袋が解れ。中身がこぼれ出てしまい。

大分前から使い物にならなくなっていた事が発覚したのだ。


そして、その事を愛満に秘密にしていた事も芋づる式にバレ。こうして反省しきりの山背が出来上がったという訳なのだ。


「それにね、山背。形ある物は、いつか壊れてしまうものなんだよ。もちろん山背が、この米たんぽをわざと壊したんじゃない事ぐらい僕にでも解るし。

そもそも僕が山背に怒ってる訳は、昨日からまた急に寒さが振り返してきたでしょう。

だから昨日の晩も皆に米たんぽか湯たんぽなんかを使って、お布団の中を暖め。各自風邪を引かないようにしてって、言ってたの覚えてる?」


「………うむ、言ってたのじゃ。」


「風邪を引く事が悪いと言ってる訳じゃないんだよ。

山背が今みたいに風邪ぴきになっても、ちゃんと前みたいに看病してあげるし。山背の好きな卵酒も作ってあげるよ。

けどね、風邪を引いて一番辛くて苦しい思いをするのは山背本人なんだよ。

こればかりは僕でも肩代わりしてあげれないし。魔法で直ぐに治してあげたとしても、なんで風邪を引かないように暖かい格好をしたり。温かくして寝るのか、風邪を引かないように予防をするのかを考えなくなるでしょう。」


「……そうじゃのう。」


「だから、山背が少しでも風邪を引かないように、苦しい思いをしないようにと作った米たんぽが、山背の役に立たなかったら意味がないだよ。」


話し、山背お気に入りの柄でもあり、米たんぽにも使われた。亀のキャラクターが描かれた厚手の布に、寒くないようにと綿をたっぷり詰め。縫い上げた半纏を着せてあげる。



◆◆◆◆◆



この『米たんぽ』。愛満の婆ちゃんが毎年寒くなる前に家族一人一人に作ってくれる。湯たんぽがわりの物になり。


お好みの手拭いサイズの生地2枚を返し口を残して2枚の布の表を合わせ、中表を縫いし。

表に返して米、唐辛子1本を入れ、返し口を閉じて完成になる、簡単な作りで。


使い方も簡単で、電子レンジで1分半温めれば、ほかほかの米たんぽになり。

眠る前の布団に入れておけば、ホカホカでぐっすり眠れ。腹痛の時や肩こりの時など患部に置けば、じんわりと暖めてくれ。痛みや凝りをやわらげてくれるのだ。


もちろん愛満作の米たんぽは、自身のチートをフルに使い。

簡単に使えるようにと、ある秘密の呪文を唱えたら一晩中温かいままで使える。素晴らしい1品になっている。


そもそも、この米たんぽ。幼い頃の愛満達が湯たんぽで低温火傷をしては危ないと婆ちゃんが考え。

湯たんぽよりも安全で、じんわりしみこむような温かさが特徴の『米たんぽ』を見つけ。作ってくれたのが始まりになる。



◆◆◆◆◆



そうして、風邪ぴきの山背に暖かい格好をさせたり。熱を測ったりと、愛満がかいがいしく世話をする。


するとお正月の福袋で手に入れた。マ○メロちゃんが描かれたベビーピンク色のオーブントースターを持ってやって来て、何やらテーブル席でコソコソとやっていた愛之助達が


「愛満、山背。焼けたでござるよ。」


「焼けたよ!焼けたよ!」


「甘くて良い匂いがするへけっ!」


「ホカホカじゃよ!」


嬉しそうにザルいっぱいに盛られ、焦げ目がついた『焼き蜜柑』を持って戻って来る。

そして、大人しく炬燵に座っている山背に


「はい、山背。拙者達が心を込めてトースターで焼いた『焼き蜜柑』を食べるでござるよ。」


声をかけながら、ホカホカの焼き蜜柑を渡し。一緒の炬燵に入り、焼き蜜柑を食べ始める。


「…ゴッフ!…あ、あちいのじゃ~!」


「……あっふ!アチチチッ!」


「フーフーフー、ぱく……あちゅいね!」


「……ハフハフ………ハフハフ…ふぅ~!

上の方の焼き蜜柑は焼きたてでござったから、とっても熱いでござるよ!」


「……へけっへけっ!!………熱いへけっ!」


無防備に口にした。見た目とは違う一口目の焼き蜜柑のあまりの熱さに、それぞれ悶絶し。涙目になりながら、なんとか1つ目の焼き蜜柑を食べ終え。


「とっても熱かったけど、焼き蜜柑美味しいね!

皮のまま焼いたから、中の蜜柑が蒸されるようになってて、甘味が増してるみたい。」


「熱かったへけっが、本当に甘くて美味しいへけっ!」


「ちゅごくあちゅかったけどね。マヤラ、やいちゃミカンのほうが、あまくちぇちゅきよ!」


「本当に熱かったのじゃ!けど、熱さの奥におる甘味が口いっぱいに広がり。本当に旨かったのじゃ。」


「すごく熱かったけでござるが、蜜柑の実がホカホカでござって、甘くて美味しかったでござるよ。

はい、愛満。愛満にも食べてみてほしいでござる!」


熱かった事をまず最初に教えてくれながら、涙目のなか、口々に焼き蜜柑の美味しさを愛満に教えてくれ。愛之助が下の方から取った焼き蜜柑を手渡してくれる。


「愛之助も皆もありがとうね。それに焼き蜜柑 熱かったみたいだけど、美味しかったみたいで良かったね。

甘い匂いがしてたから、トースターで何を焼いてるのかなと思ってけど、蜜柑を焼いてたんだね。解らなかったよ。………それにしても焼き蜜柑か……愛之助達も良く考えたね。

蜜柑は食欲増進効果の他に、喉や鼻の粘膜を潤し、風邪予防効果もあるんだよ。だから風邪ぴきの山背のおやつにピッタリなんだ。

それに生食の蜜柑は、少し体を冷やしてしまう傾向があるから、今日のように寒い日には、いつものように1度に沢山の蜜柑を食べるのは、あまりオススメじゃなかったんだ。」


愛之助から受け取った小ぶりの焼き蜜柑を皮ごと4等分に分け。焦げ目がついた皮だけを外すと、残りの皮ごとの焼き蜜柑を口にする。


「えっ!愛満、蜜柑の皮は剥いて食べるのでござるよ!」


「そうだよ!愛満、大丈夫!?苦くない?」


「ちゃいへん!ちゃいへん!」


皮をむいた小ぶりの焼き蜜柑を贅沢食いだと話し。一口でパクりと丸々一個の焼き蜜柑を食べていた愛之助達が、ビックリした様子で声をかける。


そんな愛之助達のビックリした顔に苦笑いしながら愛満は


「心配しなくても大丈夫だよ。この焼き蜜柑は、家の庭で採れた無農薬の蜜柑だから皮ごと食べれるし。蜜柑の皮にも薬効があるんだよ。爺ちゃんも焼き蜜柑の時は皮ごと食べてたし。

婆ちゃんも実家の庭で採れた無農薬の蜜柑の皮を干しては、料理やお菓子なんかに使ってたんだから。

それに愛之助達がヘタとお尻をそれぞれ焦げ目がつくほどじっくり焼いてくれてるから、皮がパリパリしてて以外に美味しいんだよ。」


説明すると話を聞いていた愛之助達も恐る恐る皮付きのままの焼き蜜柑を口にし。


「…………う~ん………う~ん………愛満、すまんのでござるが、美味しいかと聞かれたら美味しくないでござるよ。」


「……………よしみちゅ、ごめんなちゃい。マヤラやコレおいちくにゃいでしゅ。」


「……うげぇ、僕には無理。………………あっ!愛満、ごめんね。」


「…………愛満、ごめんへけっ。皮付きは美味しくないへけっ。僕、実だけの方が好きへけっ。」


愛之助達が口の中の皮付き焼き蜜柑を無理矢理 水で流し込んだり。ティッシュに吐き出したりと愛満に謝る。

するとただ一人、山背だけが


「…う~ん、そうかのう。ワシは皆が言うほど、この皮付きの焼き蜜柑、嫌いではないのじゃ。」


呟き、嬉々として皮付きのままの焼き蜜柑を食べ進めるのであった。



◆◆◆◆◆



そうして皮付き焼き蜜柑を食べたおかげか、山背の咳も次の日には全く出なくなり。少しあった微熱も下がり。

新たに直してもらった米たんぽや愛満が縫ってくれた半纏を上手く活用しながら、まだまだ寒い2月を乗り切る山背なのであった。




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