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七福豆とぷにぷに力こぶ



「愛満ー!ワシもじゃ、ワシも!

ワシにもシナモン味の福豆を作ってほしいのじゃー!

タリサや光貴達には、苺味やココア味の福豆作ってあげていてズルいのじゃー!」


タリサ達が味見としょうしてモグモグしながら、福豆を小袋に詰める作業をしているなか。

遅れてやって来た山背が、調理中の愛満に、最近ハマっているシナモン味の福豆を作ってほしいと騒いでいた。


「山背、解った、解ったから、ちょっと待ってて。

今、黛藍にお願いされた『黒胡麻味の福豆』を作ってるから、これを作り終えたら、山背の好きなシナモン味の福豆を作ってあげるよ。

あっ!そうだ。どうせシナモン味作るなら、乾燥させて作った林檎チップを砕いて入れちゃおうか!」


「おっ!それは良いアイデアなのじゃ!ならワシは、林檎チップを砕くのを手伝いするのじゃ!」


山背が宣言すると、台所に常備している。愛之助にプレゼントされた、マイ○ロちゃんがワンポイントで刺繍されたている。

ベビーピンク色のフリフリエプロンをつけ。林檎チップを砕くお手伝いを始める。



◇◇◇◇◇



その日万次郎茶屋の台所では、愛満が明日朝倉神社で行われる『節分祭』用の七種類の大量の福豆を作り。

愛之助達は、お多福さんが描かれた厚手の紙の小袋に、重さをまちまちにした。

遠くに飛ぶように重たい小袋や近くに飛ぶように軽めの小袋をせっせと袋詰めして作っていた。



「山背、お待たせ。山背希望の林檎シナモン味の福豆作るよ。」


すり黒胡麻、煎り黒胡麻、きな粉がまぶされた。大量の黒胡麻味の福豆を作り終えた愛満は、林檎チップを砕き終わった山背に声をかける。


「おっ!やっとワシの福豆の番じゃな!愛満、任せるのじゃ。ワシはキビキビ働くぞ。」


ガーリーで、乙女チックなフリフリエプロン姿の山背が元気よく返事する。


「おぉ!山背、ヤル気がみなぎってるね。

う~ん、……そうだ!なら山背には、福豆の仕上がりを左右する。仕上げの粉類を、砂糖衣を絡めたいり大豆に手早くまぶしつける重要な作業をお願いしょうかな。どう山背、出来る?

街のみんなに配らなきゃいけないから、大量のいり大豆に粉類をまぶしつけなきゃいけないし。

砂糖衣が乾く前にまぶしつけて、作り終えなきゃいけないから、本当に大変だよ。」


愛満が、少し脅すように福豆作りの大変さを山背に伝えると


「な~に、ワシに出来んことはない!なんてたって、ワシは無敵の山背なのじゃぞ!

ほら!見てみるのじゃ、この男らしい力こぶを!!カチッカチじゃぞー!」


何やら聞き覚えのあるフレーズを言い。見えない力こぶをアピールして自信満々に宣言するも、愛満からは軽くあしらわれ。


「はい、はい。無敵の山背ね。力こぶもスゴいね。ぷにぷにだね。

悪いけど僕も忙しいから、早速シナモン味の福豆作り始めるよ。山背も遊んでないで、粉類扱うからゴーグルやマスクをして準備するんだよ。」


「くっそーー!見ておれーー!」


山背が悔しそうに吠えるなか、鍋で砂糖と水を煮立てて作った砂糖衣と細かく砕いた林檎チップを大量のいり大豆に手早く絡めた愛満は、ゴーグルとマスク姿の山背と交代する。


「じゃあ山背、後はお願いね。」


「うむ、任せとけ!この大豆に、この粉類をまぶしていくのじゃな。」


愛満からバトンタッチされた山背は、大きな木のしゃもじでせっせと混ぜながら、シナモンときな粉が混ざった粉類をいり大豆に『ふぅふぅ』言いながら、まぶしていく。


「ふぅ~。…よし、このくらいまぶせばいいじゃろ。完成じゃ!」


混ぜるさいに少々飛び散ったシナモンときな粉の粉まみれの山背が、ゴーグルとマスクをはずしながら満足そうに頷く。


「あっ、山背の方も終わった?僕の方もバナナ味の福豆作り終えたよ。お疲れ様。」


山背にバトンタッチした後、バナナ・オーレの粉末や細かく砕いたバナナチップでバナナ味の福豆を作っていた愛満が、山背に話しかけ。

山背が混ぜ合わせてくれたシナモン味の福豆の出来映えを確認する。


「どれどれ。混ざり具合はどうかなぁ?

…………………うん、うん。ちゃんと混ざってるね。これならバッチリだよ。山背、やるじゃん!」


「ふっ!ワシにかかれば、これくらいどうて事ないのじゃ~!」


「そうだね。無敵の山背だもんね。

ならそんな無敵の山背にご褒美として、出来立てのシナモン味の福豆の味見をしてもらおうかな。」


粉まみれの山背の頑張りに、愛満が最初の味見を許可する。


「えっ!食べて良いのかのう!?」


「うん、いいよ。無敵の山背が頑張って完成した福豆なんだから、遠慮しないで味見してみてよ。

……あっ。けど、この後愛之助達と一緒に袋詰めも手伝ってもらう予定だから、他の味の福豆も食べながら袋詰めする事になると思うんだ。

だからシナモン味の福豆の味見は、ほどほどにするんだよ。食べ過ぎ注意!」


この後も袋詰め作業のお手伝いが、いつの間にか決まってるなか。

愛満の話しなど右から左の様子の山背は、さっそく握れるだけ片手で福豆を握り。モリモリと味見の量を超えたシナモン味の福豆を口に含む。


「…むふぅ~♪旨いのじゃ!いり大豆の回りにまぶされた砂糖衣から、ほのかな甘さや林檎チップからの風味が感じられて最高なのじゃ。

それにワシ一押しのシナモンが良い働きをしておって、全部の素材が口の中で合わさり。素晴らしいハーモニーを生み出しておる!

……モグモグ、モグモグ………う~ん♪この最後にフワッと鼻から抜けるシナモンの香りが実に良いのう~♪やっぱりシナモンは最高なのじゃ~!」


山背がうっとりシナモン味の福豆の味見していると、何やら不思議そうに首をかしげ。


「ところで、愛満や。なぜこんなに大量の福豆を作っておるのかのう?そもそも福豆とは何なのじゃ?」


今だ、追加の苺ミルク味の福豆を作っている愛満に問いかける。


「あれ?タリサ達に節分や豆まきなんかの説明した時、山背居なかったかな?」


「うむ。聞いた記憶がないから、多分居なかったと思うのじゃが、節分や豆まきとは何じゃ?」


シナモン味の福豆をモグモグ食べながら、愛満や亮平の世間話から開催する事になった節分祭の節分や豆まきの意味を質問する。



◇◇◇◇◇



実は一月の下旬に、愛満達が日頃のご褒美にと異世界人で日本人の亮平(りょうへい)が営む寿司屋にお寿司を食べに行ったところ。

亮平が作ってくれた太巻きを食べながら、何かの拍子にもうすぐ訪れる節分の話になり。


そこにたまたま亮平とキハル達が育てている元孤児の子供達と遊んでいた。

白梅園の子供を迎えに、朝倉神社の香夢楼(かむろ)と愛之助仲良しの緑香(ろこ)がやって来て、愛之助に強引に誘われ。話の輪に加わり。

あれよあれよと言う間に、節分の日に朝倉神社で大規模な節分祭を開催する事になったのだ。



◇◇◇◇◇



そうして、追加の分の苺ミルク味の福豆を作り終えた愛満が、山背の方を向き。


「えっと、ちょっと長くなるんだけどね。

節分とは、簡単に言うと季節の変わり目の厄除けや鬼退治の事を言うんだ。

もともと節分とは、年に4日ある季節の変わり目をあらわす言葉なんだけど。かつては立春、立夏、立秋、立冬の前日の事をそれぞれ節分と呼んでいたんだよ。

けど、いつしかやがて旧暦の立春前後に年が改まる事から、立春前の節分だけを『節分』と呼ぶようになり。」


あちらの世界の日本での節分の意味を説明し出す。


「それでね、節分の日に何故『鬼退治』をやるかと言うと。

古くは季節の変わり目に鬼がやって来て、災いや疫病をもたらすと考えられていたんだ。

それを追い払うために、かつては鬼の面をつけた人を邪気に見立て、弓を鳴らして追い払うという行事が行われていたんだ。

だけどいつしかそれが『豆まき』をまく行事に形が変わり、庶民の間に広まったそうなんだ。」


「ほぉ~、節分や豆まきとひとくちに言っても、いろんな意味や昔からの歴史や考え方が脈々と受け継がれているのじゃな。」


「うん、それでね。何故『豆まき』で豆を使うかと言うと、豆を『魔目(まめ)』や()(めつ)する『魔滅(まめ)』に通じ、鬼の目を打つためのものと考えられたそうなんだ。

だから、鬼の正体の災害や厄に豆をまき。

家の中の鬼を追い出し、『鬼は外、福は内』との掛け声と共に、外から福を招き入れ。一年の無病息災を祈ったり。

『豆を打つ』とは言わず。『種をまく』から『豆をまく』と言って、五穀豊譲を願う気持ちも込められているそうなんだよ。」


「ほぉ~、『鬼は外、福は内』かのう。…モグモグ。

しかし、愛満。そなた達が前に住んでた所にも鬼族が住んでおるのかのう?鬼族の中にも乱暴者が居る事は居るのじゃが。

あやつらは体格が大きく、顔が厳ついだけで、たまに細身の愛之助達が言うようなイケメンも居るし、心優しい奴らじゃぞ。

そんな鬼族の者達を外に追いやるのかのう。………なんじゃが、可哀想なのじゃ。……モグモグ。」


福豆をモグモグ食べながら、しょんぼりした様子で呟く。


「…えっと、誤解がないように言うけど、節分の日に追い払うのは、疫病や厄、異形の魑魅魍魎(ちみもうりょう)たちであって、こっちの世界の鬼族の人達じゃないよ。

それにね、僕の住んでた所には鬼族の人は居なかったと思うし。

……………ただね。闇に心を奪われ、鬼のような形相で、あんな残酷な所業をしてしまう人達もいたんだ…………。」


愛満が話し、遠くをぼんやり眺め、何もしゃべらなくなる。

そんないつもと違う愛満の様子に、心配した山背が愛満の体を揺さぶりながら話しかける。


「愛満、どうしたのじゃ?急に黙って、具合でも悪くなったのか?大丈夫なのか!?」


「………えっ!あれ?僕、ぼんやりしてた。」


「そうじゃよ。突然、黙ってぼんやりして、しゃべらんくなったのじゃ!本当に大丈夫なのかのう!?心配したのじゃよ!」


「ありゃ、なんか心配させちゃって ごめんね。

えっと、……何処まで話したっけ?……あっ、鬼族の事だったね。

ほら、さっきの説明で、旧暦の立春前後に年が改まるて説明したでしょう。

一つのものが終わり、新しいものが始まる前の橋渡しの時には、どこにも属さない不安定さが支配すると婆ちゃんが言ってたんだ。

そんなとき、時空間の隙間から異形の魑魅魍魎たちが忍び出し。道端の暗がりや家の陰にひそみ、僕達をのぞきこむらしいんだ。」


「うひゃー、そりゃあ怖いのう~!」


「そうでしょう。僕も幼い頃、節分の日に婆ちゃんからこの話を聞いて、なんか恐ろしくて、しばらく一人でトイレに行けなかったもん。

だから節分の日は、あちらこちらと念入りに豆まきしたのを覚えてるんだ………って、どこまで話したっけ?解んなくなちゃったわ。

………まぁ、節分とはそう言う日だと言う訳なんだよ。解った、山背?」


「うむ。…モグモグ…まぁ、解ったと言えば解ったのじゃ。…モグモグ…説明ありがとうなのじゃ、愛満。…モグモグ。」


肝心の『福豆』の説明が無いまま。今だシナモン味の福豆をモグモグ食べ続け。

解ったような、解って無いような様子で、山背が福豆を食べていると。袋詰め作業をしているはずのタリサがやって来て


「愛満~。福豆無くなっちゃたよ。もう無いの?

……て、あっーーー!!!山背一人だけで新しい味の福豆食べてる!!!ズルいーーー!!」


山背が新作のシナモン味の福豆を1人食べいる事に気付いたタリサが大声で叫び。

タリサの声を聞き付けた愛之助達もやって来て、皆からの『ズルい』コールがおき。

山背がタリサ達から責められるなか。仲を取り持った愛満は、山背が食べ過ぎたシナモン味の福豆を新たに作る事になるのであった。


「はぁ~、何時になったら福豆作り終わるんだろう……。混ぜすぎて腕がパンパンで、辛いよ~~!」



◇◇◇◇◇



こうして、明日行われる『節分祭』用の大量の福豆作りが、万次郎茶屋の台所で完成していく。













◆◆◆オマケのひとこま◆◆◆



「あっ、そうだ。あのね、『福豆』ってね。年の数より一つ多く豆を食べれば、今年も病気知らずと言われているんだよ。」


追加で大量の福豆を作り終え。皆で福豆を袋詰めするなか、愛満が何やら思い出した様子で呟く。


「えっ!年の数より一つ多くしか食べちゃダメなのかのう……!!」


「えっ~!どうしょう!僕、年の数より福豆たくさん食べちゃったよ!」


「あにゃあにゃ~!マヤラも食べちゅぎちゃよ!」


「ひぇー!僕も食べ過ぎたへけっ!」


「拙者もでござるよ!愛満!年の数より福豆 食べすぎて、拙者達の今年の健康は大丈夫でござるか!?」


愛之助達が軽くパニックてるなか、皆の慌てように軽く驚いた様子の愛満が


「……だ、大丈夫だと思うよ。それに年の数プラス1つより、食べちゃダメとは聞いた事ないし。

けど、そんなに慌てるなんて、皆どれだけの福豆食べたの!?」


「えへ♪」


「へけっ♪」


「えへへ♪」


「えへへなのでござる♪」


「えへへなのじゃ♪」


愛満の問いに、愛之助達がいっせいに愛想笑いをする。

そんな愛之助達の様子に愛満がじっ~と愛之助を見詰めると


「えへへ、いや、あの、…………愛満が作ってくれた福豆が美味しくて、気が付いたら無くなっていたでござるよ。」


「そうそう、スゴく美味しかったんだよ!」


「おいちかったの!」


「そうそう、()められない、()められないほどの美味しさだったへけっよ!」


愛之助達が白状し。愛満が大量の福豆を作りながら、不思議感じていた謎が溶けるのであった。


「うわ~~!!どうりで作っても作っても小袋の数が増えないはずだよー!!」





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