水炊きと新婚夫婦の鍋専門店
チリーン♪チリーン♪
「愛満 おはよう。お言葉に甘えて、おじゃましにやって来たぜ。」
「朝早くにすいません。おじゃまします。」
「うんうん。僕の方がこの時間を指定したんだし、気にしないでよ。それより外は寒かったでしょう?今、温かいお茶や新作の茶菓子持って来るね。」
昨日愛満からとある話を持ちかけられたヒゲンと妻の波流の2人が、約束の時間に万次郎茶屋へと愛満を訪ねてやって来て、愛満に出迎えられる。
「はい、どうぞ。今日のお茶とお茶菓子は、緑茶と新作和菓子の『わらび餅・苺ミルク味』になるよ。お好みで練乳をかけて食べてね。
それから口に合わなかったり、お代わりのさいは遠慮せずに声をかけてね。」
「おっ!旨そうだな。ありがとな、愛満。」
「ありがとうございます。
それにしてもこの新作のわらび餅、優しい色合いのピンク色に、形も一口大の苺や兎の形をしていて、見た目も可愛く楽しめますね。幼い妹や弟達に見せたら喜びそうです♪
う~ん♪こんなに可愛いと、おもわず食べるのに躊躇しちゃいます。」
愛満が振る舞ってくれたお茶菓子を一目見た波流が、その可愛い色合いや見た目に嬉しそうに感想を述べる。
「本当ですか、ありがとうございます。
このわらび餅、今朝 愛之助の苺園から採れたての苺を使って作った『わらび餅』なんですよ。
なんやかんやとちょっとお正月の間に忙しくしてたら、また苺の在庫が貯まちゃいまして。
本当は旬じゃないんですけど、苺を使った新作和菓子を出してみたってわけなんです。
それでせっかく作るんだから形も可愛いくシャレこんで、出来立て熱々のわらび餅を特注で作ってもらった苺や兎の型に流し入れ。冷やし固めて作ったのが、この新作の『わらび餅・苺ミルク味』なんです。」
「へぇ~、愛之助さんの苺園の苺なんですか。前にヒゲンが、この町には様々な種の美味しい苺があると教えてくれて、食べさせてくれた事があったんです。それ以来私も苺が大好きになりまして、本当に楽しみです。」
「そうだったんですか!それなら良かった。遠慮せずにドンドン食べちゃって下さいね。」
波流と愛満が和やかに話し。お茶やお茶菓子で2人をおもてなししながら、愛満が何やら準備があるからと席をはず。
すると何処からともなく苺の話を聞き付けた。色とりどりの苺柄の頭巾や忍者服を着用した苺忍者隊なる者達が波流達のテーブル席に集まって来て
「どう?美味しいでしょう!なんたって苺忍者隊・隊長の苺園の苺を使った1品なんだよ♪美味しくないわけないんだから!にんにん♪」
「ちょうちょう。おいちいんじゃよ♪にんにん♪」
「そうへけっ、そうへけっ!なんたって、わらび餅の中に潰した苺の果汁と果肉、サイコロ状に切った苺果肉のW使いのわらび餅へけっよ♪
温かい炬燵やお部屋で、ほんのり冷たいわらび餅を食べるへけっ!う~ん♪美味しくないわけないへけっ!にんにん♪」
「そうでござる、そうでござるよ!
目からも楽しんでもらえるように色も可愛いらしいパステルピンクで、形も可愛く。苺や兎、リボンに花形など、マ○メロちゃんのアイテムの形をフルに取り入れ。本当に可愛いく出来てるのでござるよ♪
それに見た目だけではないでござるよ!
ほどよい甘さに、苺やプルプルしたわらび餅の食感が楽しめでござる。
甘さが足りぬ者には、練乳を加えられでござる。これはまさに、至れり尽くせりの最高の1品でござるよ♪にんにん♪」
「本当にその通りだわ。私もヒゲンに食べさせてもらって、苺が大好きになったのだけど。
このわらび餅、苺がふんだんに入っていてプルプルモチモチした初めての食感で、本当に美味しくて気にいちゃったわ。ねぇ、あたな。」
「…………あっ、…お、おう。……お、美味しかったぜ…………。」
突然現れ。わらび餅・苺ミルク味の自慢をさんざんしてた苺忍者隊の面々は、波流やヒゲンの感想に満足そうに頷き。ハッと何やら思い出した様子で
「遅れながら拙者達、何を隠そう街の苺を守り!苺の美味しさの品質管理を徹底する!苺の中の苺!
そう、その名は!『苺忍者隊』でござる!ござるー!ござるー!ござるー!ござるー!」
何やら最後の語尾にかっこ良くエコーをつけ。四人は、よくある戦隊ものを真似したポーズを決める。しかしその時、店の奥から愛満の声が聞こえ。
「ヒゲンさんと波流さん~。ちょっとすいませんけど、良かったらコッチに来てくれませんか~!」
「あっ、あの声!!
みなの者、任務でござるよ、行くでござる!
ヒゲン殿、波流殿、すまん。拙者達、新たな任務に行かねばならぬ。それではごめん。にんにん。」
苺忍者隊の者達は、愛満の声が聞こえたのを合図に、苺自慢と謎の『にんにん♪』との言葉を残し。
白い煙がモクモク上がり、風のように消えていった。
「あっ、忘れるとこだったへけっ。コレつまらないものですが、苺忍者隊からの結婚祝いの苺の盛り合わせへけっ。
町で育ててる全種類の苺が、種類ごと分けられて籠に入れられてるへけっよ。
おまけで練乳もプレゼントするへけっから、ぜひお2人で、苺の食べ比べしてみるのも良いへけっよ。それではこれで、本当にドロンへけっ。」
そして、その場に残されたヒゲンと波流はというと
「………えっと、アレはな………。まぁ、わらび餅も美味しかったし、籠いっぱいの苺も結婚祝いにと貰ったから、良いとするかぁ。」
「そうね。それにしても…フフフフッ♪頭巾から飛び出た、何やら見た事あるポニーテールや黄色いお耳、うさ耳さん達可愛かったわね。」
片や呆気にとられなが、片やその可愛さに楽しそうに微笑みながら、呼ばれた愛満の所に移動するのであった。
◇◇◇◇◇
そうして、愛満に呼ばれた店の奥にヒゲンと波流の2人が行くと、何やらチョロチョロ動き回る愛満が指差し確認をしながら、最後の確認、準備をしていた。
「えっと、専用テーブルも準備したし、野菜も出来てる。お肉もスープも準備オッケーだよね………ブツブツ……ブツブツ……よし!準備バッチリ。
あっ!ヒゲン、波流、わざわざコッチに来てもらってごめんね。それからお待たせ。
それじゃあ、昨日ヒゲン達に話した通り。
今日茶屋へ来てもらったワケは、八百屋で販売や白菜漬けだけじゃさばききれない白菜を使い。
前々から計画してた『ある鍋料理』を2人に作ってもらって、お店で販売してもらおうと思った訳なんだ。」
愛満が今日のために用意した、テーブルの真ん中に鍋が置け。温められる鍋専用テーブルに2人を座らせ。
またチョロチョロと台所の奥から、モクモク白い湯気上げる土鍋を運んで来て
「はい、お待たせ。この鍋はね、鳥の旨味がギュッとつまった『水炊き』になるんだ。まずは、スープを一口味わってみて」
鶏肉が煮込まれた土鍋の世話をしながら、ヒゲンと波流の2人に鍋から取り分けた湯飲みに入った白濁した白い鍋のスープを飲むように進める。
「あっ、あぁ、ありがとう。……………うん!なんだこれ!本当に鳥を使ったスープなのか!?」
「………うゎ~、美味しい。……本当にコクや旨味がギュッとつまっていて、なんだか上品な味わいで、本当に美味しいです!」
愛満に進められ。恐る恐る飲んだ、初めて味わう奥深くコクのある味わい深い白濁スープに驚く。
すると愛満は何やらイタズラが成功したような、いたずらっ子の顔をして
「そうでしょう、そうでしょう。
しかもね。この白濁スープ、普段捨てちゃう鶏ガラなんかを使って作ってるんだ。
前々からライさん達と話してて、なかなか使い道のない鶏ガラを廃棄しちゃってるのをもったいないと考えたんだけど、なかなかそこまで手をのばせなくてね。
密かに魔法機術師のピルクとドワーフ族の凱希丸さん、喜多丸さん家族と力を合わせて、親切簡単の寸胴鍋サイズの白濁スープをひとりでに作れる鍋を開発してたんだ!
鍋に材料を入れ、蓋をしてボタンをポッチと押せば、後はひとりでに短時間で鶏ガラを煮込み。灰汁を取り。
骨を砕いて、コラーゲンたっぷりのなめらかな舌触りのクリーミーで、料亭の味わいの白濁スープが完成しちゃう訳なんだよ。」
「ほぉ~、そんなに簡単に、この旨いスープが出来るのか!?」
「えっ!そんなに簡単なんですか!?」
「うん。正確には、ピルクと凱希丸さんと喜多丸さん家族の技術と魔法のお陰でだけどね。本当だったら、すんご~く大変で、めんどくさいんだ。
あっ、それでね。レムさん達やヒゲン達が白菜の相談に来てくれた時に、この白濁スープを使った。
ライさんの所から仕入れる鶏肉、鶏団子、白ご飯、鍋のスープ、〆のうどん麺を一人前づつセットにした販売で、店の目玉にヒゲンの畑の野菜をフルに活用して
サラダバイキングのように並べられた、食べ放題の鍋用の野菜。同じく食べ放題のサラダバイキングの『鍋の専門店』を2人にどうかなぁと思い付いた訳なんだよ。」
愛満は2人に説明し、テキパキと土鍋で煮込まれた鶏肉を取り皿に取り分けてあげたり。
準備していた白菜や白ネギ、人参、椎茸、豆腐等々の野菜達を鍋に加えてあげながら、自身が考え付いた鍋専門店の細かな説明をセールスマンなみの饒舌さで2人に説明する。
そしてその後、途中から何やら一仕事終えて来たような晴れ晴れした表情の愛之助達も加わり。
〆のうどんや餅を加えて、『水炊き』を思う存分味わい、楽しむのであった。
◇◇◇◇◇
こうして朝倉町にヒゲンと波流の新婚夫婦が営む。
白濁スープが自慢の『水炊き』や野菜がモリモリ食べられる鍋専門店が仲間入りする。
ちなみに茶屋で最初に食べた『わらび餅・苺ミルク味』と〆の後に愛之助達のおねだりから出された『苺のフローズンアイス』を気に入った波流は、愛満から作り方を習い。
店のデザートとして販売して良いか等の了解も得る。
そして何故か、愛之助達からも苺好きの認定をもらい。
本人大喜びのなか、苺忍者隊の隊員へと苺柄の頭巾と忍者服、バッチ等を贈与され。見事入隊するのであった。




