米菓子『五平餅』と、プチ米騒動
万次郎茶屋………………いや、『風呂屋・松乃』等を含め。朝倉村初の念願の冒険者のお客さんを迎え。
何やら一仕事終えたかのような達成感に愛満が満ち足りていた、とある日の事。
その日何やら万次郎茶屋では、兎族のアルフ家三男で、村全体の畑を管理している。
アルフ家兄妹の中で農作業担当と言うか、畑担当責任者になる。
いつも奥さんのマリアさん達と楽しそうに笑顔を浮かべ。
まるで日本で言う所の夫婦漫才を繰り広げているような。細かい事は気にしない。陽気で明るいシャル夫妻と会っていた。
◇◇◇◇◇
「愛満、この前は『米』という珍しい穀物の苗をわざわざ俺達の為に仕入れて来てくれてありがとうな、本当助かったよ!
それに田植えの事にかんした作業の手順なんかも丁寧に、俺達でも解るように絵にしてノートにまとめてくれてたから、本当解りやすくて、感謝の気持ちでいっぱいだぜ!」
シャルの頭に生えた小麦色したウサ耳を含め。日々の農作業で鍛え上げられたムキムキの腕で、自身の頭(+ウサ耳も)を豪快にかきつつ。
愛満が農作業担当のシャルから頼まれ準備した。愛満の祖父が毎年田植えの為に苗から育てていた『米の苗』を自身の力を使い手に入れ。
昔、愛満も祖父から教わった田植えや、米を育てる為の情報等をシャル達にも解りやすいように1冊のノートに絵でまとめ。
自分達へと無償でプレゼントしてくれた事に感謝の言葉を伝え。
何やら照れくさそうに笑みを浮かべながら
「いやなぁー、実はここだけの話。前に愛満や愛之助達が開いてくれた歓迎会が合っただろう。
あの時に愛満が作ってくれた『握り飯』や『いなり寿司』、『炊き込みご飯』等々。
あの時に始めて口にした穀物の『白米』って言うんだっけか、そんな米料理を食べて以来。
一族の皆から兄妹の中で農作業担当になるんだっから、お前達で『白米』なる穀物を育てられないのかって、連日のように皆から聞かれていてなぁ。」
先の歓迎会の折りに、チョコレートフォンデュが1番目立っていたのだが、実は愛満が大好きな祖母から習い習得した。
愛満にとっては普通の家庭料理になるのだが、異世界人のシャル達にとっては、どれもコレも見た事もない。
大変珍しい料理の数々が所狭ししと並べられていて。
戦争の影響で食糧難の中。
そんな見た目から美味しそうでいて、珍しい料理の数々を口にした者の中には、あまりの美味しさに途中、密かに涙を流して喜び出す者が続出したりした程で。
何やら愛満が知らないだけで、村の畑関係を一手に担当しているシャル達は、その後いろいろ兄妹達とあったそうで、…………………。
その事を初めて聞いた愛満が驚く中。シャルは話を続け。
「それに愛之助やタリサ達から教えてもらったんだけどよ。
おおまかに『パン』って言うだっけ?
そんな小麦を練って焼いた。パンのような物を毎食食ってた俺達パン食にとって、愛満が食わせてくれた何種類かの米料理は本当に度肝を抜かれるくらい旨くて、また驚いたつうか、何と言うか………………。
まぁ、ハッキリ言うと、皆『米』が気に入り。連日のように、愛満が作ってくれたような『米料理』を家で食べたいとの要望が多々あって。
本当、家族全員でどうしたものかと困ってた所だったんだよ。」
「本当本当!だから愛満がお米の稲をくれた時、本当に助かったのよ!ありがとうね、愛満。」
人族で元冒険者の白魔導師になるシャルの妻マリア達2人が、本日何度目かになる愛満へのお礼の言葉を伝える。
そんなシャルらマリアからのお礼の言葉に、先ほどシャルから聞いた話から立ち直っていない愛満は、逆に此方の方こそ迷惑かけてすいませんと頭を下げつつ。
「いえいえ!此方の方こそ、何かご迷惑をかけたみたいですいません。
それに此方の方こそ、シャルさん達が毎日畑仕事を頑張ってくれているから、今では毎日美味しいお米や野菜が食べれて助かってますよ。」
『番茶』やお茶請けの『どら焼き』を2人に振る舞いつつ。
その後、和やかな雰囲気の中。お茶やお茶菓子のどら焼きを味わっていた所。
何やらマリアから肘で合図されていた様子のシャルが、話しづらそうにオズオズと
「あのな、愛満。………実は、……その、………なんだ、……………さっき話した米の事なんだがな。
………実は、………愛満から貰った大切な苗だからって、……コレは絶対に枯らす事は出来ないと、マリアが少しハリキリ過ぎてしまってな……………。
何と言うか、…………苗と畑自体にと言うか、苗と田んぼへと、自身が使える魔法をかけてしまった訳なんだよ。
いやいや!魔法事態は珍しいものではなかったんだが、……………………どうにも土地と稲と魔法の相性が良すぎたみたいでだな。
苗を畑に植えて約2週間足らずで、稲を刈り取れるまでにグングン成長してしまうやら。
家族総出で畑の稲の刈り取りを終えた後も、何故か次の日には、ひとりでに新しい苗が畑に植わってしまっている状態で、…………だな。
そう、無限に!まさに無限に稲と言うか、米が採れる状態になってしまっているんだよ!
………すまん、……愛満、本当にすまん。…………もう蔵にも米をなおす場所も隙間も無いんだ。
それでも2週間に一度は、新しい米を収穫せねば、たわわに実った稲と苗が田んぼの中でゴッチャになり。
本当に、本当に大変な事になってな……………………。
今まさに!米が有り余って、有り余って本当に困ってる状態なんだ。
それでだなぁ、……………………。家族と話し合って考えたんだが、…………本当にこんな事を頼むのは心苦しいんだが、愛満頼む!
この通りだ!!!
良かったら、あの倉や家に眠る米達を村に訪れる人達にも販売できる場所を貸してもらえないだろうか?
いやいや!米を売る場所と言っても、その辺の道端で良いんだよ!」
「私からもお願いします。
私のせいで家族にも沢山迷惑をかけてしまっていて、そのうえ愛満にも迷惑かけてしまう事になるんだけど、…………………。
お願い、愛満。私達にまた力を貸してくれないかしら!
本当に、本当迷惑かけてしまってごめんなさい。
この通り、お願いします!!」
シャルとマリアの2人は、愛満に何度も頭を下げながらお願いし。
そんなシャルやマリアの姿に驚いた愛満が、2人に頭を上げてくださいと大慌てする中。
勿論!自身が産まれ育った国のソウルフードの米文化が、沢山の人達に食べてもらえる事に喜びを感じると共に、嬉しいだけですよと伝え。
二つ返事で2人の願いを聞き入れた。
また、シャルが提案した『米』を売るだけじゃなく。有り余ってる米を加工して販売する事等を提案し。
シャル夫妻やシャルとマリアの子供達、シャルの両親のアルフとアコラ。
アルフの補佐であり、シャルの兄でもある長男のルクチを茶屋へと呼び寄せ。
愛之助も交えて、これからも2週間には一度採れる事になる『米』の使用方法について話し合うのであった。
◇◇◇◇◇
そうして長い長い話し合いの末、決まった事が
★まず一つに!
シャルの職業が畑担当の野菜農家から、お米専属の『米農家』へとシフトチェンジする事になり。
米作りをシャル家主体にして、畑担当改めて野菜農家から米農家へと、米全般にあたる米担当・責任者をシャルに任命する。
その為、今まで任されていた畑担当・責任者をアルフ家三男シャルから、今までシャル家族と一緒に畑仕事を任されていた。
元畑担当副責任者のアルフ家六男・レム家族のレムへと畑担当の責任者が繰り上げで任命された。
★そして二つ目に!
村初になる『酒蔵』・『酒作り』を開始する事が決まり。
朝倉村名産の一つにする為。愛之助指導の元、シャルやシャルの子供達、兎族の男衆が主体になり。
『米』や、豊富に地下から湧き出ている『湧き水』を使用した。
ゆくゆくは村に在る神社へと奉納する事になるであろう、日本酒作りが始まる。
★三つ目に!
村初の『酒屋』、『米屋』が開業される。
此方の『酒屋』や『米屋』は、米農家のシャル家が主体になり。
まだまだ酒は出来ていないので、暫くの間は『米屋』だけになるのだが、自分達で育てた米や手作りした日本酒の販売をする事になる。
★四つ目に!
それでも有り余る米を使って、『米菓子』を販売する事が決まる。
実は、日本酒が完成するまでの間。『米』だけの販売では寂しいからとの、シャル家女性陣からの強い要望を受け。
女性陣が主体となり。手作りした何種類かの『米菓子』を販売する事が決まる。
ちなみに『米菓子』は、愛満に習い。手間暇があまりかからない簡単な米菓子を販売する予定。
との、等々の事が話し合いで決まり。
他にも、お酒を作る為の『酒蔵』や、『米』、『酒』、『米製品』等々を販売する店舗が要り。
それと共にシャル達、シャル家が移り住む事になる。住居等の広々した土地が必要な為。
その建築場所も話し合いの末、『風呂屋・松乃』の隣に決まり。
早速シャル家の皆に要望を聞きながら、愛満お得意の力をフルに使い。
新たに酒作りに必要な、上質な水が涌き出る井戸を掘ったり。
造り酒屋風の軒下に、杉玉が下がった立派な家屋を建てて上げ。
その後、気の早い愛之助やシャル達は、村初になる日本酒作りに取り掛かり始め。
此方もじっとしてられない。シャル家女性陣のマリア達も愛満へと声をかけ。
蔵に有り余った『米』を使用した、米菓子作りの教えを頼む。
◇◇◇◇◇
「と、このように粘りが出るくらいまでしっかりつぶした炊いた米を、小判型にして綺麗に加工した棒に刺しですね。
炭火で香ばしく焼きながら、先ほど作った胡桃味噌や、甘めに味付けして白胡麻が入った砂糖醤油を両面に塗り。
軽く炙る程度に焼いたら完成です。
ちなみに砂糖醤油の方は、仕上げに海苔をのせても美味しいですよ。
では皆さん、ご自分で作った米菓子を食べてみて下さいね。
そもそも味を知らなきゃ、お客さんに自信を持って売れませんから!」
愛満自身も祖母から冷飯等を使って自宅で手作りしていた。
『胡桃味噌味』や『砂糖醤油味』になる2種類の『五平餅』の指導を終え。
焼き上がったばかりの『五平餅』を始め。
愛満とマリアが考え生み出した魔法を使い。マリア曰く、そこまで難しい魔法を使わず簡単に作れた『ポン菓子』
そのポン菓子を使って、愛満から習いマリア達が作った『雷おこし』の3種類の米菓子を皆で試食し始め。
「うわ~美味しい!この五平餅、食感がもちっりしていて、焼いているから香ばしさもあり。
胡桃味噌や砂糖醤油なんかの風味と共に、胡桃や白胡麻の食感も加わってね。
『胡桃味噌味』も『砂糖醤油味』も、どちらの五平餅も美味しいわ!
それにお米を使ってるからか適度にお腹にたまって、オヤツや軽い軽食にって販売しても良いんじゃない?
ねぇ、お母さん。お母さんはどう思う?」
「そうそう!それにね、愛満が言うように山道に面した店先で『五平餅』を焼きながら売れば、この香ばしい匂いにつられてお客さんが来てくれそうじゃない、お母さん?」
「お母さん、お母さん!こっちの『ポン菓子』もサクサクして小さい子供達に良さそうよ。
それに小分けにして安く売り出せば、子供達のオヤツ変わりに売れるかも知れないわね!」
「あのね、お母さん。『雷おこし』の方も、愛満がくれたお茶に合ってて、スゴく美味しいよ。
それにどうせなら、この小分けにしたお茶の茶葉と『雷おこし』をセットにして売り出したら、売れるかも知れないよね?どうかなぁ~?」
始めて食べるお米を使用した『米菓子』を思い思いに食べて、自身の考えや愛満からのアイデアを母親のマリアへと好き勝手に伝える中。
そんな娘達の意見を纏めるのにマリアは忙しそうつつも、どこか嬉しそうに満面の笑みを浮かべ。
初めはどうなる事かと不安いっぱいだった朝の様子が嘘のように、子供達とこれからの事を楽しそう希望に満ちた様子で話し始め。
朝倉村のちょっとしたプチ米騒動は、無事幕を下ろしたのであった。