あんこう鍋と駄々っ爺の風邪ぴき
「おいち、に。おいち、に。」
その日も毎朝日課の乾布摩擦を愛満家坪庭にある自身が(勝手に)建てた城前で、寒さなんて何のその。
上半身裸で、元気良い掛け声と共に寒空のした山背がやっていると
「山背、おはようでござるよ。うぅー、しかし毎朝寒いでござるね。こんなに寒いと寒さで底冷えしてくるでござるよ。
ほら、見るでござるよ。『はぁー!!』ねぇ、息をはくと白くなるでござろう。これは相当寒いでござるよ。」
「本当じゃのう~。この寒さで息が白くなったのう。
それにしても愛之助。こんな寒い中、わざわざどうしたのじゃ?ワシに何かと用かのう?」
わざわざ乾布摩擦を途中で止め。山背が愛之助に話しかけると、何やら池の庭をしゃがんで覗きこんでいる愛之助が
「あっ!山背。この寒さで池の氷面が凍ってるでござるよ。それにこっちの竜の髭には霜がふってるでござるよ。……あっ!あっちの方の木が何やらキラキラ輝いてるでござる! 」
坪庭にある池や庭に植えられた竜の髭に寒い冬特有の霜等に気づいた愛之助は、寒空のした上半身裸の山背を放置し。興味深げにキョロキョロと坪庭の様子を観察し始める。
そうして一通り観察し終え。満足した様子の愛之助は、自身が寒空のした軽く放置して小刻みに震える山背の様子に気づかず。
「それにしても山背。こんな寒空のした上半身裸で寒くないでござるか?それに毎朝寒い中乾布摩擦してるでござるが、寒くないのでござるか?
拙者は、こんな寒い朝はぬくぬくの炬燵で、まったりとほうじ茶を飲んで過ごすのが一番の至福でござるのよ。
あっ!けど、毎朝愛満と行く幣殿への神饌のお供えは別でござるよ!
神様への神饌は大事な事でござるし、数少ない愛満と2人だけでゆっくり話せる時間でござるもの!
あの時間だけは寒さなんてへちゃらでござるよ。」
自身はモコモコの寒さ対策バッチリのマイ○ロちゃん仕様の温かそうな外着姿で一通り話し終えると
「そうでござった。朝ご飯出来たから愛満に山背を呼んで来てと頼まれたのでござった。
なので山背。乾布摩擦が終わったら皆で朝ご飯食べようでござるね。では拙者は寒いので、先に戻っているでござるよ。」
自分勝手に話し終え。今だ小刻みに震えている山背を放置して、早足で自宅へと帰って行く愛之助なのであった。
◇◇◇◇◇
ちなみに神饌とは、神様へのお供え物の事で、幣殿とは、神様へのお供え物をするための建物の事になる。
(基本 幣殿には、斉主等以外の一般の人は入れないのだが、異世界にある朝倉町では、愛満と愛之助の2人だけは特別に入れる。)
そして万治郎茶屋では、村の皆が毎日幸せに暮らせる事への感謝の気持ちや自身をこの世界に送り出してくれ、見守ってくれている神様一族への御礼にと。
毎朝、愛満が端正込めて手作りした和菓子等を愛之助と2人。朝倉神社の幣殿へと神饌としてお供えしているのだ。
◇◇◇◇◇
「は、は、ぶぇーくしょん!!ぶぇーくしょん!!あーぁ、寒々。なにやら甲羅がゾクゾクするのじゃ。」
あの後 朝食を皆で食べ終え。美樹や黛藍達を仕事へと送り出し。その日も愛満のお手伝いで万治郎茶屋の店番をしてくれている山背が、豪快にクシャミを連発する。
「すごいクシャミだったけど山背、大丈夫?それに甲羅がゾクゾクするなんて、もしかして風邪ひいちゃったのかなぁ?」
「風邪?それは大変だ!山背、大丈夫?」
「山背、大丈夫へけっか?」
「やまちろ、かじぇにゃの?コンコンのじょいちゃい?」
『山背、風邪引いたの?ゴホンゴホン 喉痛い?』
甲羅がゾクゾクすると言って小刻みに震え。愛満から受け取ったティッシュで鼻をかむ山背を心配するなか。山背のくしゃみの素をつくった原因でもある愛之助が
「山背、大丈夫でござるか?う~ん、風邪でござるのかなぁ?
今年は町でも風邪が流行っているでござるから、後でリサの所の病院に一緒に行くでござるか?」
心配した様子で問いかける。
すると山背の熱を測ったり、暖かい裏地付きのケープを着せてあげていた愛満が
「そうだね。愛之助、悪いけど今から一緒にリサの所の病院に山背を連れて行ってあげてくれないかなぁ。」
「解ったでござる。なら拙者、ちょっと準備してくるでござるね。」
「うん。愛之助お願いね。そうだ。外は寒いだろうから愛之助も暖かい格好して、寒かったらカイロや貼るカイロなんかを使うんだよ。それからマスクを忘れずにね!」
愛之助と愛満の2人が話し終え。愛之助が自室に準備をしに行くなか。2人の話を聞いていた山背がいきなり立ち上がり。
「嫌、愛満、愛之助。ワシは病院に行かんでも大丈夫じゃよ。ちと、いつもより大きなくしゃみが出ただけなのじゃ。
じゃから病院は行かんでも大丈夫じゃよ。なっ、な!ほら、この通り元気じゃから大丈夫じゃよ。じゃから愛之助待つのじゃあ!」
必死な様子で話し始め、元気アピールの為なのか突然踊り出した。
「いやいや、山背。風邪を甘く見ちゃいけないんだよ!お母さんが言ってたよ。
それに風邪の引きはじめなら、リサ先生が出してくれた薬を飲んだら一発で治ちゃうんだから!
それにね。この前兄ちゃんが風邪を引いた時にリサ先生の病院に行ったら、風邪の引き始めですねて言われて。リサ先生が出してくれたお薬を飲んだら直ぐに治ったんだよ!」
「そうじゃよ!おくちゅりのんじゃら、にいたんねちゅ ちゃがちゃもん!コンコンは、くるちいよ。」
山背を心配してずっと山背の近くに居て。寒い寒いと話す甲羅を服の上から撫でてあげながら、愛満達の話を聞いていたタリサやマヤラが病院へ行く必要性を話すのだが、それでも山背は諦め悪く。
「いやいや、そう言うがのう~。病院に行くと、何やらチックとするものをされたりするのじゃろう。
この前 丈山が病院に行ったら、チックとされたて泣いていた者もおったのじゃが、自分は泣きもせずへちゃらであったと自慢しておったわ。
じゃから、ワシは病院に行きたくない!ワ、ワシだってチックとは平気だし。怖くないのじゃが、病院には絶対行きたくない!嫌じゃ!」
あきらかにチックとが嫌で病院に行きたくない様子の山背が、解りやすい嘘をつきながら、チックとなんか平気じゃと言い続けて駄々をこね続ける。
一方、丈山が病院に行ったと聞いた愛満は、他人に優しく、自分に厳しく。
周りの人達に迷惑をかけれないと、いつも自身の健康を人一倍 気をつけている丈山が病院に行ったと聞いて驚いた様子で
「えっ!?丈山が病院に!?
どうしたんだろう?どこが具合悪かったのかなぁ?それにチックとって、なんの事?
う~ん…………………あっ!解った。もしかしてチックとって、この前丈山が受けた予防注射の事じゃないかなぁ?………うん!きっと予防注射の事だよ。」
「予防注射?ねぇ、愛満。予防注射てなんの事なの?」
「予防注射?予防注射ってなんの事へけっか?」
「よぼうちゅうちゃっちぇ、にゃに?いちゃいの?」
『予防注射って何?山背の言うとおり痛いの?』
聞きなれない予防注射と言う言葉にタリサ達チビッ子3人組が不思議そうな顔をして愛満に質問する。
「あれ?タリサ達も予防注射の事 忘れたの?
この前タリサ達も受けた悪い病原菌にかかりにくくする為の風邪なんかを予防する注射の事だよ。
去年の一時期とある過去に飛ばされた医者をモチーフにした漫画に愛之助がハマッちゃってね。
その関係で、愛之助がアッチで仕入れて来た理学関係の本を読んでるのをリサが見たらしく。
医学の事ならと興味を持ったリサが、愛之助にお願いして、医学書を貸してもらってから、寝る間も惜しんで勉強したらしく。
器具なんかは、魔法機術師のピルクやドワーフ族の凱希丸さん達と試行錯誤の結果、上手に作り上げ。今年から予防注射が始まったんだよ。
それにピルクや凱希丸さんが試行錯誤で作り出した注射だから、針も細くて痛くなかったでしょう。」
「あ~ぁ。あの注射の事か。うん。あの注射と言うの痛くなかったよ。
それにあの注射してたら、風邪引きにくくなるだよねぇ。お父さんとお母さんが教えてくれたよ。
まぁ、兄ちゃんは受ける前に風邪ひいちゃったのけどね!」
「うん。僕も注射痛くなかったへけっ。」
「マヤラもいちゃくなかちゃよ。にゃかにゃかちゅったもん。」
『マヤラも痛くなかったよ。それにね。泣かなかったんだよ。』
「そうだね。みんな泣かなかったもんね。偉かったね。
それに丈山が見た泣いてた人達も、確かコプリ族の皆の事だと思うんだ。もとからね。コプリの皆は、怖がりと言うか………初めて体験する事なんかの時は、いろいろ考えすぎちゃって極度にガチガチに緊張しちゃうんだよ。
だから予防注射が無事終わった安堵感や、それまでの緊張が一気に解けちゃって、涙があふれて泣いていたのかも知れないね。」
予防注射の事や丈山が見たという泣いていた人達ことコプリ族の皆の事を説明すると、まだ嫌だ嫌だと言っている山背に改めて向き合い。
「それに山背。多分、今日山背が病院に行っても注射はされないと思うから安心して病院に行っておいでよ。ねっ。」
優しく諭すように声をかけ。
「…………う~ん。そう言われてものう~?絶対と言う確信はないからのう。…………いや、しかし、万が一と言うこともあるかもしれんからのう~…………。やっぱり病院に行くのはのう~。う~ん。」
「そんなに病院に行くのが嫌なの?
そうだね。そんなに嫌がるならねぇ。どうしょうか、う~ん。
………あっ!そうだ。山背が今日病院に行ってくれるなら、また食べたいって山背が言ってたアレをたっぷり使った『あのお鍋』を作って上げるけど、どうする?
病院から帰って来た時には、熱々のお鍋がお昼ご飯として食べれるよ。
あーぁ。今日はこんなに寒いから、きっとアレがたっぷり入って、出来立て熱々のアレを使ったお鍋を暖かい炬燵で皆でつつきながら食べたら、すんーごく美味しいだろうなぁー。」
「えっ!アレを使った鍋とは、あの時食べたあの鍋なのかのう!?」
「うん。山背が大人しく愛之助と病院へ行ってくれたらね。山背大好物のアレをたっぷり使ったお鍋を今日のお昼ご飯として作ってあげるよ。」
なかなか病院へ行きたがらない山背の為に、愛満が最後の切り札のように交換条件で話すアレをたっぷり使った鍋とは何かと言うと。
ある日愛満がチートを使った仕入れ先で、新鮮なあんこうの切り身やあん肝を見つけて仕入れてきて。
その日の晩御飯にと、旬の食材の白菜や大根、他の野菜等と下処理した。たっぷりあんこうの切り身やあん肝を使った鍋を作ってあげたのだ。
すると、その鍋を食べて以来山背がその美味しさにドハマりして気に入り。
毎日のように『また食べたい。食べたいのじゃ。愛満や~。お願いじゃから、また作ってくれんかのう~。』とリクエストしてきて、すでにその後3回も食べたほどの大好物の鍋なのだ。
「………う~ん。しょうがないのう。鍋のためではないのじゃが、愛満達がそこまで言うならばワシも男じゃ。ここは1つ、愛之助と一緒に病院に行ってやろうではないか。」
何やら考え込んだふりをした山背は、明らかに『あんこう鍋』が食べたい為とまる分かりの様子で、しぶしぶといった演技をしながらと宣言するのであった。
こうして朝から一仕事終えたような疲労を感じた愛満達は、何とかやっと愛之助と2人。山背を病院へと送り出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
チリーン♪チリーン♪
「愛満、ただいま~。病院から帰って来たでこざるよ。」
「みなのものー!ただいまなのじゃ~♪山背が病院から帰って来たぞうー!
なべ♪ナベ♪鍋なべ~♪ウゥー鍋!!あんこう鍋!イェーイ!楽しみじゃのう~♪」
「「「あっ!愛之助に山背、お帰り~。(へけっ。)」」」
「2人ともお帰り~。山背の病状も気になるけど、その前に2人とも外から帰って来たら手洗いうがいをお願いねぇ。」
お昼少し前に愛之助と、あんなに病院に行くのを嫌がっていた山背がウキウキと変な歌を歌いながらご機嫌な様子で帰って来る。
ちなみに山背の病状はと言うと。案の定風邪の引き始めとの診断らしく。心配していた注射を打たれる事も無く。風邪薬を処方してもらって帰って来ていた。
◇◇◇◇◇
「はーい!皆 お待たせ。山背お待ちかねの『あんこう鍋』だよ!
このあんこう鍋はね。皮の部分にコラーゲンがたっぷりあって、別名美肌の鍋と言われるほどの鍋なんだよ。
食べる時は、鍋の煮汁で好みの濃さにしたポン酢に薬味の大根おろしや刻みネギなんかを加えて食べてね。
後、茹でたあん肝をつけダレのポン酢にすりつぶして加えて食べても美味しいよ。」
話しながら、良い具合にグツグツ煮える2つの土鍋の蓋を取ってあげ。まずはチビッ子達の取り皿にあんこう鍋の中身を取り分けてあげる。
「はい。まずはマヤラからね。どうぞ。」
「あい!よしみちゅ、あいがと。にゃべ、おいちちょうね♪」
『はい!愛満、ありがとう。あんこう鍋 美味しそうだね♪』
まずは一番年下のマヤラから取り分けた『あんこう鍋』を渡してあげる。
するともう1つのあんこう鍋から愛之助に具材を取り分けてもらっていた山背が待ちきれず。
「う~ん!いつ食べてもこの『あんこう鍋』は、あんこうの切り身は淡白で上品な味わいをしておるし。
旬の白菜や大根、その他の野菜達もあんこうの旨味がつまったダシ汁がしみておって、何度も食べたくなる旨さじゃのう!
それにこのあん肝もとろ~りととろける濃厚な味わいで、旨味の集大成みたいなのじゃ!」
力説すると『旨い、旨い』と言いながら、お昼ご飯を食べに帰って来ている美樹達にもおかわりを取り分けてもらい。
ガツガツと大好きなあんこう鍋を〆のおじやまで、綺麗に食べ進むめる山背なのであった。




