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「椎茸と豚肉のオイル漬け」と秋の野分



「………へ、へけっ~~~!何へけっか、この空。………薄暗くて真っ黒へけっ、………こ、怖いへけっ…………。

へけっ、へけっ…………いったい全体、あの空は何なんだへけっか?

さっきまでいつもと同じ空だったへけっに、気が付いたら空がどんどん真っ黒雲に侵略されていってるへけっよ!」


愛満宅台所窓から外の様子を観察していた光貴は、少し目を離した隙に空全体を真っ黒な雲が(おお)い隠し。

辺り位置面をどんよりとした薄暗い天候に変えてしまった事に驚き。心細さと共にもの悲しく、怖くなってしまい。


何やら朝早くから台所で作業している愛満の元へと小走りで駆け寄り。


「愛満、愛満!何やら空が真っ黒クロスケ(まっくろくろすけ)ばりの雲に覆われてへけっ。辺り位置面が薄暗くなってしまったへけっよ!

アレが愛満が朝言ってた野分へけっか?

それともあの空はまだまだ序の口へけっで、もうすぐ真っ黒クロスケの大きな、大きなジャンボバージョンの姿をした野分と言う怪物が空からやって来るへけっか?

……そうだったら何だか怖いへけっ。」


運が良いと言って良いのか悪いのか、愛満達が住む場所から遠く、遠~~く離れた光貴が生まれ育った(場所)には、何故か野分がたどり着く前に消滅なり。威力がかなり、かな~り弱まり到着しており。


生まれてこのかた大規模な『野分』を経験した事のない光貴は、先程見た真っ黒な雲繋がりで、何故だかト○ロに出て来る真っ黒クロスケが巨大化した怪物をイメージし。

良く解らない『野分』に不安を覚えて、火を使った調理中の愛満に野分の事を訪ねつつ。

火の作業中は近付いては駄目な為。愛満のお手伝いで沢山の『お握り』を握っている黛藍に抱き付く。


そんな光貴の怖がりように愛満は鍋の中身を焦がさないように気を付けながら、ガス代前の台所の窓から外の様子をチラッと見つめ。


「そうだね。僕が見てもあの真っ黒クロスケばりに真っ黒な雲は、光貴の言うようにトト○に出て来る真っ黒クロスケに見えなくもないけど…………。」


何やら1人納得した様子で呟き。


「光貴、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。

光貴が怖いと思ってる『野分』とはね。真っ黒い姿形をした真っ黒クロスケみたいな怪物の事じゃなくて

野を分け、草木を吹き分ける荒々しい風の事で、暴風や雨(大雨)が吹き荒れる事なんだ。」


簡単にでは有るが、光貴が怖がる『野分』の事を説明し、更に


「それにね。今回、村に来る『野分』はね。

黛藍のお兄さんのご友人で、王国全土の天候等を予知する機関(施設)に勤める方が、たまたまこの辺り一帯の天候を予知する責任者で、黛藍の事をお兄さん経由で聞き知っていた事もあり。

この辺り一帯に野分がやって来る事を黛藍のお兄さんに教えて下さってね。

黛藍のお兄さんが黛藍の事を含め、僕達の朝倉村に住む人達の事を心配して下さり。

わざわざ朝倉村まで、その日のうちに(高額な)魔法便を飛ばして教えて下さったんだよ。」


そもそも『野分』が村へやって来る事を愛満達が知った訳も教え。


【ちなみに心優しき黛藍の兄は、愛満達が住む山近くの、………近くと言ってもまぁまぁ距離が有るのだが

とある体の一部の面積の広がりを心配すると共に、家族や町民達と力を合わせ町を納める。

立地上、気苦労の多い領主にも今回の野分の事をギルドを通じて、朝倉村と変わらない時期()に教えてあげている。】


「だからその分、何日も早く村全体で野分への準備も出来たし。どの家々も家の補強や備蓄品を指導したり、手渡して準備してね。

今日から明日、明後日までの野分が通りすぎるまでの間、村長の僕が自宅待機を命ずると共に。

避難場所にもなる。備蓄品や医療品等々を設備した村の公民館も新たに建てて、万全の体制で野分に対応してるから安心して大丈夫なんだよ。」


大人の愛満でさえ、少し不気味にも思えるような薄暗い空模様に怯えた様子の光貴を安心させる為。

またまた簡単にでは有るものの。『野分』が村にやって来ても大丈夫な事を教えてあげる。


すると光貴に抱きつかれながらも野分用の『お握り』を握り続け。愛満の話を聞いていた黛藍からも


「そうアルよ、光貴!

ここ何日間ヵかけて、美樹や愛之助達もお手伝いして、村の皆の家々や店を補強すると共に野分用の備蓄品を配り歩いたアルし。

いざと言う時の避難通路や避難場所のマップも手渡して有るアルよ。

だから村の皆も安心して、今回の野分に備えているのでアルよ。安心するアル!」


光貴を安心させる為か、村の家々で『野分』の準備が出来てる事を話。

光貴の顔に少しずつ笑顔が見えてきた事に満足そうに頷きながら、今度は完成した鍋の中身、『肉じゃが』を蓋付きの盛り皿に盛り付けていた愛満へと話しかけ。


「それにアルね、愛満。

いつもは週に3通や5通も意味のない長文の手紙を送ってくる兄さんには、本当に珍しい事アルが、今回の手紙には王都の南側の領地の辺りでアルね。

今回村に来る『野分』とは別の『野分』の大雨や暴風の影響から、王都へ続く大事な橋が流されたり。作物に色々と被害が出たらしいアルよ。」


兄の手紙に書かれていた。今回村に来る『野分』とは別の『野分』の暴風や大雨の影響から、王都の南側の領地には被害が出た事を話。


「あっ!けどアルね。『野分』の情報が王都の天候機関から早い段階で領主に伝えられてアルね。

領主から領民達にもたらされていたらしいアルから人や家畜等には被害は少なかったらしいアルよ。

うんうん!命あっての人生アル!それだけは本当に良かったアルよ!

それでアルね。これからますます野分の発生する時期になるでアルから、領地を納める領主達が『野分』を警戒して、連日天候機関に確認の連絡が来てるらしいアルよ。

で、それに釣られて兄さんもこの辺り一帯の『野分』の事を警戒してくれてアルね。

天候機関に勤める兄さんの友人の人に悪いでアルが、連日のように暇さえあれば『野分』の確認の為、その友人に連絡を取っていたらしいアルよ。

そしたら兄さん曰く、自身の日頃の行いから運良く。朝倉村やこの一帯を通る新たな『野分』が確認出来た、その日にその事を知ってアルね。

朝倉村の皆の事を心配した兄さんが、1日でも早く村の皆が『野分』に備えて十分な備えや準備が出来るようにと教えてくれた訳アルよ!」


「そうそう、そうだったね。

それで黛藍が朝倉村の人達や大吉村の克海達。朝倉村のギルドなんかに大々的に教えてくれて、この一帯の村や町に『野分』の情報が広まったんだよね。

あっ、けど隣の町には一足先に、黛藍のお兄さんが気をきかせて教えてくれていたんだっけ。

後、その何日ヵ後にギルドの方にも王都のギルドから『野分』の連絡がきたりと、ちょっとバタバタしちゃったっけ…………へへへ~♪。

まぁ、それにしても黛藍の情報のおかげでアルフさん達も言ってたけど、普段(いつも)より数日でも早く作物や各家庭での『野分』への準備や対策が出来たから、みんな本当に黛藍や黛藍のお兄さん達に感謝してたよ。本当にありがとう、黛藍。

一応お兄さんにもこの前、感謝の気持ちを込めて万次郎茶屋の『菓子折(かしおり)』送ったけど、改めて野分明けに、感謝の手紙と共に村の名産品なんかの箱詰め贈らせてもらうね。」


「えっ!いやいや、愛満!そんな気を使わなくても良いアルよ!

兄さんが勝手にやった事アルし。

あんまり優しくしたらズにのって、週7の勢いで手紙を送ってくる事になるアルよ!」


「いやいやいや!あんな僕の手作りしただけの菓子折20箱でおしまいだなんて、お兄さんにも天候機関に勤めている友人の方にも悪いよ。もしかしたら足らなかったかも知れない訳だし。

せめてもう一回位は、今度は村の名産品なんか箱詰めして、黛藍のお兄さん、家族の皆さん。

天候機関に勤めている友人の方、その職場の人達に村の名産品を味わってもらって。

皆さんが『野分』の事を予知して教えてくれたからこそ、無事に作物が育ち。収穫出来ましたとお礼の気持ちを伝えたいんだ。」


黛藍が兄がズにのるからと嫌がるなか。何やら愛満が強い意思を持った様子で話し始め。


「それにね。今まで当たり前に知れてた。その日その日の天候が当たり前じゃなかったんだと再認識させてもらえたし。

何より何かを知りたいと思った時、見えない誰かの力を借りなきゃ難しいって考えさせられたんだ。

だから今回は僕の顔を立てると思って、黛藍には悪いんだけど、力をかしてもらえないかなぁ?」


愛満が黛藍へとお願いすると、苦笑いを浮かべた黛藍は、最後は優しく微笑みながら力をかしてくれる。


そんな愛満と黛藍のやり取りを聞いていた光貴は、何やら難しい話が終わったの?と、ばかりに2人の顔をキョロキョロ見つめ。

やっと2人のお喋りに参加出来るとばかりに


「本当に黛藍のお兄ちゃんってスゴいへけっね!

いつも黛藍や美樹にパンパンの封筒に便箋5~6枚になる長い手紙を頻繁に書いて送って来ては、2人が読むのが大変と頭を悩ませる困ったちゃんかと思ってたへけっが、黛藍のお兄ちゃんって、本当は心優しきスゴい人だったんだへけっね!

知らなかったへけっ…………エヘヘヘ~♪」


光貴が照れ笑いを浮かべるなか。


「あっ!光貴それは、」


愛満が止める間もなく。愛満宅の黛藍への暗黙の秘密でもある。黛藍家・家族からの手紙の事を暴露してしまい。

自身の兄からの美樹への手紙の事等、全く知らなかった黛藍は、光貴の手前。静かな怒りを含む、引きったような笑みを必死で浮かべつつ。


「………………そ、それはどういう事アルかなぁ、光貴?

ま、まさか…兄さん。美樹にもあんな意味のない、長々しい長文の手紙を送って来てるって、………事、アルか?」


「うん!そうへけっよ!……………って、アレへけっ?この話しちゃダメだったへけっか?

アレ、アレ??????…………ねぇ、愛満。ダメだったへけっか?」


何かしらの黛藍の姿に何かを感じた様子の光貴が、不思議そうな表情を浮かべ、愛満へと聞いてしまうなか。

愛満は、怒りを秘めた静かな微笑みを浮かべるパンダ顔の黛藍からの無言の圧力を受け。静かに首を横に振る事しか出来ず。


「そんな事ないアルよ。光貴、良かったら黛藍に詳しくその話しを教えてほしいアルよ。」


「あっ、良かったへけっか!

ふぅ~~~!一瞬この話しちゃダメだったのかとビックリしちゃったへけっ…………エヘヘヘ~♪

えっとへけっ、黛藍のお兄ちゃんからの美樹への手紙の話しへけっはね。

黛藍のお兄ちゃんからの美樹への手紙は、意味のない手紙か何かは解らないへけっが、黛藍への手紙と同じくらいの頻度で良く送られて来てるへけっよ!

あっ、後なんかへけっね。僕が知ってるぐらいだと、日々の黛藍の様子や体調面。最近ハマってる事なんかの細かな質問形式の事が書かれた手紙が来てるみたいへけっよ!

エヘヘヘ~♪実はへけっね。一度、美樹の部屋で黛藍のお兄ちゃんからの手紙チラっと見た事が有ったへけっよ!」


「へ、へぇ~~~!そんな事してるアルか………………。

(ボソボソ………な、なんなんアルかそれは!黛藍知らなかったアルよ!

そんな面倒くさい事、日々の仕事なんかで疲れてる美樹に頼んでたアルか!?まったく兄さんは何考えてるアル!

あ~~~ぁ!今すぐにでも兄さんに会って、注意したいアルよ!

……………………あっ!そうアル!だから最近、兄さんから贈られてくるプレゼントが、あんなに的を得てたアルね!……ボソボソ)」


初めて知った話に黛藍の怒りが爆発寸前で、幼い光貴の前からだと怒りを抑え。小声でプリプリ怒り心頭のなか。


更に追い討ちをかけるように無邪気な笑みを浮かべた光貴が


「あっ!そうへけっ。あと手紙は黛藍のお兄さん1人だけじゃ無いへけっよ。

他のお兄さん達やお姉さん、お父さん達からも良く、こんな分厚いお手紙届いてるへけっよ。

だから僕や愛之助なんかは頻繁に良く美樹から、その返事用への封筒や便箋を買って来てねってや、ギルドに返事のお手紙を届けてねって、お使い頼まれてるへけっ!」


止めの一撃になる暗黙の秘密話を暴露してしまい。

黛藍を膝から崩れ落ちらせる程のショックを与えるなか。


これはまずいと慌てて話題を変えようとする愛満が


「そ、そうだ黛藍!ターハさんの所のクミルが作った『桃ジャム』と『ミルクカスタードクリーム』が包まれた『桃ミクパン』食べてみた?

あのパン、本当に美味しいよね!

ふあふあ食感のパンもさる事ながら、クミルお手製の桃の果肉がゴロゴロ入った桃ジャムにでしょう。

それに濃厚で有りながらサッパリした口当たりのミルク風味のカスタードクリームがパンの中にギッシリ包まれて、本当最高なんだよねぇ~!」


無駄に空元気な様子で、朝倉村でパン屋を兄妹で営む。

エルフ族の3兄妹、紅一転になり。兄のターハと弟のココムの間に挟まれた。

ジャムやカスタードクリーム作りが兄妹1上手い、クミルお手製の新商品になる『桃ミクパン』の話題を振る。

………のだが、今だ知ってしまった家族からの手紙の裏事情等々に

そのショックさから立ち直れない様子の黛藍は、愛満と光貴の2人に両肩を支えてもらいつつ。

少し横になり。気持ちを落ち着かせる為にと、自室へと戻る事にした。


ちなみに光貴は、自身の発言から黛藍がショックを受けたとは夢にも思ってもいなく。

急に具合の悪くなった大好きな黛藍の事を心配して、黛藍の部屋で付き添ってあげる。



◇◇◇◇◇



そうこうしていると『野分』の為に家周りや畑等の最終確認をしていた美樹や愛之助、山背達3人が確認を終え。自宅へと帰って来て


「フゥ~~!………ただいま。あっ!ありがとう。

ハァ~~~、しかし疲れたぁ~!いくら風が有るとは言え、ジメジメした蒸し暑い生暖かい風だったし。

それにいつの間にか空全体に真っ黒な雲が居座っていて、アッという間にどんよりした空模様になっちまってて、気分的にもテンションが上がんねっーて言うか……………。

ハァ~~~!いくら台風が接近しているとは言え、本当に嫌な天気だぜ!」


汗だくの美樹が、愛満から差し出されたタオルを受けとりながら外の天候の事等を教えてくれ。


「あっ、そうだ。一応、家周りや茶屋や黛藍、俺の店なんかの其々(それぞれ)の店、畑周りなんかへの台風への備えを確認して来たけど、あれで大丈夫だと思うぜ。

それで俺達3人は一応台風への確認作業終わったけど、他になんか手伝う事あるか?」


「愛満、愛満!拙者も美樹と一緒に家や茶屋、大事なイチゴ畑等への野分用の備えバッチリ整え、確認して来たでござるよ!

他に何か手伝える事はあるでござるか?」


「ワシの方も城や城周りの備えバッチリなのじゃ!」


各々が終えた野分への確認作業の事を教えてくれながら、愛満から手渡されたタオルで汗を拭いつつ。他に何かお手伝いする事はないかと聞いてくる。


そんな汗だくの様子の美樹や愛之助達に愛満は労いの言葉をかけながら


「3人共、外の作業は大変だったでしょう。ありがとう。

それに家の中の台風用への準備はバッチリだから大丈夫だよ。

僕の方も後少しだけ備蓄用の保存がきく料理の仕上げをするだけだから、3人はお風呂に入ってゆっくり休んでてよ。」


お風呂に入って来るように進めると


「おっ!そうか?………いや、けど愛満1人だけ働かせるのも悪いし。」


「そうでござるよ!愛満の方が、朝早くから台風用の準備をしておったのでござるのに!」


美樹と愛之助の2人は、愛満に悪いからと断り。


「大丈夫、大丈夫って!僕の事は気にしなくて大丈夫だから、ほら!早くお風呂に入って汗流しておいでよ。

外蒸し暑かったんでしょう?汗だくの体で居たら気持ち悪いでしょう。早く行った行った!」


遠慮している2人の背中を押し。愛満が押しやるように風呂場の方に誘導すると


「そ、そうか。なら愛満の言葉に甘えて、俺達は風呂に入ってくるぜ。」


「なら、拙者も愛満のお言葉に甘えて。愛満、ありがとでござるよ!」


少々渋々とした様子であったが、美樹と愛之助の2人がお風呂に入る為。愛満宅のお風呂場の方へと移動して行く。


すると何故か先程から無言を貫いていた山背だけが、何故かコソコソと作業中を再開した愛満の基へと近づいてきて


「アレ?山背はお風呂良いの?山背も外仕事で汗かいたでしょう?気持ち悪くないの?」


不思議に思った愛満が声をかけると


「うむ、実はのう。ワシは美樹達2人より早く作業が終わったんじゃよ。

じゃから2人には内緒で、1人早々と風呂に入ってきておって…………。

それより愛満。何やら旨そうな物が出来ておるのじゃが、それは何を作っておるのかのう~?」


美樹達に悪いと思うのか、小声で教えてくれながら愛満が作っている料理に興味津々の様子で質問してくる。


そんな山背の様子に愛満は苦笑いを浮かべながら、美樹達に聞こえないようにコソコソと


「ありゃ!?2人がまだ作業してるのに1人だけ作業終わらして先にお風呂に入ってたの?

それは只でさえ蒸し暑い所で、汗だくになりながら作業してた2人には言えないね。」


「そうじゃろう、そうじゃろう。

まさか2人があんなに汗だくで野分の作業をしとるとは思わんかったからのう。

さっき知って悪いとは思ったんじゃが、終わった事はどうしょうも出来んからのう~。

それより、その瓶に移してる中身は何なのじゃ?実に美味しそうじゃのう~♪」


「コレ?コレはね。野分用の非常食でね。

賽の目に切った『椎茸』と『豚バラ塊肉』を『きび砂糖』、『味噌』、『花椒』、種を除いて小口切りにした『赤唐辛子』と良く揉んでから、暫く置いてね。

『なたね油』と一緒に中弱火で、豚肉に火が通るまでゆっくりと煮た。婆ちゃん直伝の『オイル料理』になるんだ。

あっ、それにね。更に煮沸消毒した瓶なんかに詰め込んだら、冷暗所で1週間は保存できて、そのまま食べても美味しいし。

白ご飯やラーメン、豆腐、白身魚なんかにのっけて食べても美味しい1品なるんだ。」


作業途中だった、残りのオイル漬けを瓶に移しながら、愛満が山背へと婆ちゃん直伝の『椎茸と豚肉のオイル漬け』の事を教えてあげる。


すると愛満の説明を聞いてる間中、ヨダレを垂らさんばかりに食べたそうにしてる山背の姿に気付き。


「しょうがないなぁ。本当は野分用の非常食だけど、皆には内緒だよ。」


困った人だと言う顔をしつつ。出来立ての『椎茸と豚肉のオイル漬け』を味見させてあげると

『椎茸と豚肉のオイル漬け』を一口食べた山背が、突然わなわなと体を震えだし。


「……モグモグ……………な、なんじゃこの料理は、ゴロゴロと大きく切られた椎茸や豚肉から、噛むたびに旨味が溢れてくるのじゃ。

それにほのかに香る花椒の香りが食欲をそそり。実に最高なのじゃ。

後、漬け込んでおるオイルも、また実に良いのう~!

オイル自体に椎茸や豚肉の旨味が行き渡っておって、愛満の言う通り。この料理は米にも麺にも合うと思うのじゃ!」


野分用の保存食の為、皆には内緒だと言うのに仁王立ちになって大声で絶賛し始め。


愛満が慌てて口を押さえるなか。

その声は、風呂上がりの美樹や愛之助達にもバッチリ聞こえてしまい。

野分が接近してるというのに愛之助や美樹達を納得させる為。

その後復活した黛藍や光貴も加わり。

皆で仲良く、塩お握りやラーメン、パン等に『椎茸と豚肉のオイル漬け』をトッピングしながら食べる事になるのであった。




◇◇◇







【おまけ】



「ねぇ、愛満。どうして美樹は『野分』の事を台風て言うへけっか?そもそも台風とは何へけっ?」


美樹が話す台風と言う言葉を不思議に思った光貴が、台所で洗い物をしてる愛満にコッソリと質問してくる。

【ちなみに愛満や愛之助も美樹と話す時、美樹に釣られて『野分』の事を『台風』と言っている】


「あぁ、台風とはね。野分と同じ意味合いになるんだよ。

もともと僕や美樹が住んでいた所では、さっきも話したかも知れないけど

『野の草を分けるように吹く強い風』という意味で、古くから『野分』と言われていたんだ。

だけどね。いつしか外国(英語)の言葉から『台風』と言う漢字を当てた言葉が一般的になってしまってね。

時代と共に『野分』の言葉は忘れ去れていって、誰しもが台風と言うようになってしまったんだ。」


「そうだったへけっか。『野分』と『台風』は同じ意味合いになるへけっね。……………………けど、何だか古くからの言葉が忘れ去られていくのは寂しく感じるへけっね。」


「本当だね。『野分』の言葉の意味を僕は爺ちゃんから『野の草を分けるように吹く強い風の事なんだよ』と、光貴ぐらいの時に教わってね。

その時に幼いながらにも、何だか暴風になぎ倒されていく草への思いが感じられる言葉だなぁと感じたんだ。

だからね。たった二文字の言葉かもしれないけれど、その二文字の言葉から色んな意味を感じられる言葉が、時代と共に少しずつ忘れ去られていく事が、無性に寂しく感じてね。

まぁ、けど、言葉とは時代の流れ共に少しずつ変わっていく物だし。

誰が悪いとかそう言う訳じゃないから、しょうがないと言ったらしょうがないんどけどね。」


「そんな事ないへけっ!せっかくの昔の人が考えて生み出された言葉が忘れ去れられたり、消えて行くのは寂しいへけっ!

僕もそう思うへけっ!」


「ありがとう、光貴。

うん!そうだね。皆が忘れてしまってとしても、『野分』と言う草への思いが感じられる言葉の意味を僕や光貴だけでも覚えていたら、少しは違うもんね。……ありがとう、光貴。

それに今日は難しい話ばかりしてゴメンね。

………よし!それじゃ洗い物も終わったし。皆の所に戻ろうか?」


お手伝いしてくれた光貴に声をかけ。愛之助達がいる茶の間へと戻るのであった。




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