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涼菓『あゆもち』と定例会



その日 万次郎茶屋には、朝倉村のそれぞれの種族の(おさ)や朝倉学園の学園長のターハ、各店舗の店長、ギルド長の琴柏谷達が集まり。毎月行われている朝倉村の定例会が話し合われていた。


「と、最近の村への調査の結果。

朝倉村の噂を聞きつけ、移住してきた村人や村を拠点にする冒険者達もだいぶ増えたようです。

それから村に病院や学校、ギルドなどができ。各施設への良い評判などから村人達の間で安心して暮らせる環境に結婚や子供を産む者達も増え。

前月の6月には10組の夫婦に7人の新生児が誕生しました。

そのため村で取り決めた決め事(ルール)に従い。10組の新婚夫婦と7人の新生児の家族には、お祝い金と共に粗品を贈与した事をお伝えします。」


「ナバさん、ありがとうございました。

では他に何か発言したい方や要望などありませんか?なければこれで定例会を終了したいのですが。」


当番制で回ってくる本日の定例会 進行役ターハが定例会を終わらされるため発言すると

兎族でアルフ家三女、夫婦で朝倉役場に勤めているラスカが


「すいません。朝倉役場から少々要望があるのですが、よろしいでしょう?」


手を上げ。進行役のターハから発言の許可をもらい。


「ありがとうございます。定例会にご参加の皆さんも大事な時間を頂戴してすいません。

実は、少し前から愛之助と一緒に私や夫のナバ、ケンタウルス族のマーレット、コプリ族のフラン達5人で朝倉役場なる機関を立ち上げ。

朝倉村の村人達の家族構成、年齢、生活が貧困してないか、自宅所在地の確認、産まれた子供達の出生記録等を管理したり。

先程の報告にもあった新婚夫婦や新生児誕生へのお祝い金と粗品贈与の記録と管理。村への要望がないかなどの聞き取り調査。

1人暮らしのお年寄りや片親家庭への声かけなどを実地したりしているのですが、なにぶん村人達も増えてきてる今、私達5人だけでは手が足らないと感じる時が多々あり。

よければ我ら朝倉役場なる機関に人員を増やしたいので、募集をかけたいのですが、よろしいでしょうか?」


愛之助が立ち上げた朝倉役場の役場長のラスカから人員募集の張り紙をだしたいと要望がもたらされる。

するとその要望を聞いていた他の定例会参加者達も、この機会にと自分も要望があるとして次々手を上げ。


風呂屋・松乃の番頭アルフからは


「なら自分も良いでしょうか?

最近、ありがたい事に村へと訪れてくれる人達がかなり増え。

あちらこちらで宿泊宿が足りないと声があがっていると噂を耳にしました。

実際、お恥ずかしい話。風呂屋・松乃でも多岐にわたるお客様をお迎えしているのですが、あまりの人気に部屋数が足りない時がありまして

この先ますます村を訪れてくれる人達が増えると予想されますので、出来る事ならば、あと2~3軒宿を増やしてもらえると助かるのですが。」


「自分の方も良いですか?

実は、お客さんから………………」


「私も……………」


定例会参加者達から大小様々な要望がもたらされるなか、話を聞き終えた議長の愛満は


「皆さん、多岐にわたる要望ありがとうございます。

まずラスカさんからの役場への人員増かの要望ですが、安心して下さい。

少し前に愛之助から役場への人員を増やして欲しいと話が有り。その次の日には、村の人達に役場勤務に興味がある人や良い人員は居ないかと声をかけていますし。

琴柏谷さんにも相談して、ギルドの方でも役場への人員の募集をかけてもらっているので、明日、明後日には、面接出来るしだいです。

なので申し訳有りませんが、もう少し辛抱して下さい。

次にアルフさんの要望の宿の件も松乃が忙しい中、いろいろ迷惑かけてすいません。

一軒、直ぐにでも宿に出来そうな当てがあるので安心してお任せ下さい。

あと、他のお店の方のお話()も了解しました。後日他の店舗の方々にも聞き取りをして随時改善していきますね。

あとは…………」


村を少しでも良くするための話し合いなので、普段より固い喋りの愛満のもと。テキパキと今回上がった要望の解決策の答えをだしながら、なんとかお昼過ぎから始まった定例会を2時間で終わらせる。


すると定例会が一段落したのを確認した書記の愛之助が立ち上がり。


「長時間の定例会お疲れさまでござった。

みんな疲れたでござろう。愛満が作ってくれた茶菓子と冷たい水だし緑茶を持ってくるでござるから、定例会で暖まった頭を甘い茶菓子と冷たい緑茶でクールダウンするでござるよ!」


台所へと移動して、定例会のため愛満宅で遊んでいたタリサとマヤラ、光貴にも手伝ってもらいながら茶菓子と緑茶を持って戻って来る。



「あい、どうじょ。つめちゃい(冷たい)おちぼり(おしぼり)でしゅ。」


「僕もはい、どうぞ。今日の茶菓子の『あゆもち』だよ。どら焼きみたいな1枚の皮に挟まれた求肥(ぎゅうひ)が美味しいんだよ。」


茶菓子の『あゆもち』を定例会参加者に配っているタリサが話していると、同じ『あゆもち』を配っている光貴も


「それにへけっ!焼印で焼き付けられた鮎の目やヒレがとっても可愛いへけっよ♪食べるのがもったいないぐらいへけっ♪」


「そうそう!見た目も可愛い和菓子なんだよね!」


「あと、ひやちてありゅからほんにょり(ほんのり)ちゅめたくて(冷たくて)おいちいね。」


チビッ子3人組がお手伝いしながら『あゆもち』の事を話していると、緑茶を配っている愛之助も何やら誇らしそうに


「はい、どうぞでござる。拙者特製の『水だし緑茶』でござるから、冷たく綺麗な緑茶の色と緑茶本来の風味がでていて『あゆもち』とも良く合い、やみっきになる美味しさでござるよ!」


参加者達に声をかけながら一人一人に緑茶を渡していく。


そして参加者全員に茶菓子や緑茶が行き渡るとタリサの掛け声のもと第一回定例会後から毎回行われている。参加者達の密かな楽しみの1つ、お茶会が始まるのであった。



◇◇◇◇◇



「うんうん。今回の定例会後のお茶も茶菓子も美味しいですね。」


「ゴクゴクゴク……プハァ~~~!あーぁ、ウメなぁ~~!!」


「本当に旨いな親父。俺、この『水だし緑茶』が特に気に入ったぜ。後で愛之助から作り方聞いて、家に帰って母ちゃん達にも飲ませてやらなきゃな!」


「…………ハァ~~♪緑茶も茶菓子も旨いなぁ」


「カーァ!この緑茶うめぇぜ!

俺もサナハじゃないけど、後で『水だし緑茶』の作り方を愛之助に聞いて、家で待つ嫁さんや子供達に飲ませてやるか!」


「…………ゴクゴクゴク…………ゴクゴクゴク…………フゥ~♪美味しい♪

よし!お代わり貰わなくちゃ!」


愛之助お手製の『水出し緑茶』が感想が飛び交うなか。


「美味しいだっぺ♪しっとりした皮にほんのり甘い求肥(ぎゅうひ)が包まれていて、魚の鮎のように細長い形も食べやすくて最高だっぺね!」


「本当ね。それにタリサ達が言うように、この焼き付けられた鮎の顔が何とも言えないユルさで、ついつい笑みが溢れちゃうチャーミングさだわ。」


「本当ですね、アコラ。それに見た目も可愛らしいですが、それ以上に家の子や孫達にも食べさせたい優しい美味しさになりますね。」


「うんうん。変な癖も無くて食べやすいし、家のチビが見たら喜びそうだぜ。」


「ガハハハハー!皆の言うとおり味も旨いが、この茶菓子の顔は愛嬌があって面白いな!」


「うんうん!旨いだっぺな!」


たまたま同じテーブルに座り。愛満お手製の夏が旬の魚、鮎をモチーフにした。求肥を包んだ『あゆもち』を食べていた風呂屋・松乃の代表で主席しているアルフや、村に一軒だけある産婦人科医院代表のアルフの妻アコラ、各店舗の代表で参加しているアルフとアコラの子供達の兎族の面々に加え。

アルフと茶飲み友達になり。酒嫌いで大の甘党のドワーフ族の凱希丸。

凱希丸の兄で鍛冶屋を営む喜多丸達が始めて食べる『あゆもち』に舌鼓うちつつ。

定例会終わりのホッとした空気のなか楽しそうに話していた。


そして、その近くの席に座っているケットシー族の代表コテツや店舗参加者の朱冴が


「旨いニャ!旨いニャ!

しかし欲を言えば魚ではないのはガッカリなのニャが、これはこれで旨いニャゴよ!」


「うんうん!実に美味しいでやんすね!

しかし今回の茶菓子が『いなり寿司』で無いのが実に残念でやんす。けれどそこは、また次回に期待して我慢でやんす。

それにこの本日の茶菓子『あゆもち』。皮も美味しいでやんすし。このヒンヤリとした求肥(ぎゅうひ)が食べ進めるうちにまた癖になり。ついつい、もう一個、一個と手が延びてしまうでやんす!」


あちらこちらのテーブルで茶菓子の『あゆもち』や冷たく冷えた『水出し緑茶』への絶賛の言葉が上がる中。

無駄な争い事など起きず。今回の定例会も無事終わるのであった。



◇◇◇◇◇



そしてその日の夕方、山背と2人、自宅縁側で夕涼みしている愛満が


「ハァ~~~しかし人生何が起こるか解らないね。

初めは愛之助と2人、人通りもない山道沿いに作った村と呼ばれか解らないほどの小さな始まりが、いつしかどんどん村人達が増えてきて、今では一山全体に村の規模が拡大しているんだから………………。

けど、嬉しい事と同時に大変な事も沢山有るだろうけど、これからの村の発展が楽しみだよ!

ねぇ、山背!山背もそう思わない?」


何やら考え深げにしみじみと大きなため息をはき。最後はヤル気に満ち溢れた様子の愛満が、隣に座る山背へと話しかけるのだが、何やら愛満とは別の意味で大きなため息をはく山背は


「ムシャムシャ、ムシャムシャ。

ハァ~~~塩茹で枝豆は、いつ食べても旨いのう~♪

おっ!こっちの胡瓜の1本漬けも割り箸に刺されておって食べやすいのじゃ!…………バリバリ…バリバリ…モシャモシャ…………モシャモシャ…………

愛満、どうじゃ?お前も食べんかのう?………ありゃ?今、ワシに何か言ったかのう?」


夕涼みのお供に持ってきた『塩茹で枝豆』や『胡瓜の1本漬け』に夢中で、まったく話を聞いてない様子の山背は、逆に残り少ない『枝豆』や『胡瓜の1本漬け』を愛満へと進めてくるのであった。


こうして新たにやらなければいけない事案をいくつか抱えることになった愛満であったが、今日もまた朝倉村の1日は、何のアクシデントも無く。綺麗な夕日色に包まれながら過ぎていく。








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