4種類の「ミニぱん」と、エルフ族3兄妹と愛満の読書
香夢楼達8人兄弟が朝倉村に在る神社に住みはじめて、早3週間。
白梅園一角に愛満が生み出した魔方陣から早くも召喚され。白梅園へと仲間入りした3人の色落ちになる子供達の世話を始め。
度々、今までの生活では香夢楼達がどんなに頑張ったとしても、お目にかかれなかったであろう。高価な魔道具(のような物)が自宅に置いてあったり。更には気軽に使用でき。
また村のアチラこちらにも、そんな魔道具が沢山設置されており。
香夢楼達は村の中を歩くたび。あんな高価な魔道具を見張りも付けずに道の端に何個も設置して、悪い人に盗まれたりしないのか?、悪い奴等に村が狙われたりしないのか?等と驚き、心配になる事が多々有ったりする中。
少しずつではあるものの。香夢楼達が村の生活に慣れてきている様子が分かり。
他にも、目に見えて香夢楼達兄弟の顔に色濃く残っていた不安が影を潜め。
本人達も気づかぬうちに、知らず知らずに笑みが独りでに溢れる事が少しずつ増えてきていて。
その事に喜びを感じている愛満と愛之助の2人は、ホッと胸を撫で下ろしつつ。
今日もまた、万次郎茶屋でまったりとお茶の時間を楽しみながら、のんびりとお客さんが訪れるのを待っていた。
◇◇◇◇◇
「ハァ~~~、それにしてもお客さん全然来ないでござるね、愛満。……………ハァ~~~~~、……………本当に暇でござる………………ぷぅ~~~!!!
…………って、愛満。今日もまたその本読んでいるのでござるか?
確か昨日は4巻を読んでいたと思うでござるが、今日はなん巻目になるでござるか?」
飲みかけ『ホット苺ミルク』のカップをイジイジしながら、本日もかなり暇そうなご様子の愛之助が、知らず知らずのうちに出てしまうため息を連発する中。
相変わらずのお客さんの少なさに手持ち無沙汰も相まって、最近読書にハマっている。読書中の愛満へと話し掛ける。
「うん。今は6巻目の『微笑みの殺意』を読んでいるよ。
あっそうだ。この小説スゴく面白から、愛之助も読んでみない?
この作者の先生の本はね。僕が言うのも何だけど、登場人物それぞれの特徴を良くとらえられていてね。
話も読みやすくて、こんなに分厚い長文の本なのに読んでて全然疲れないんだ。
それに僕と同じお爺ちゃん子で、少し年よりくさい喋り方の主人公・探偵先生と、今風の若者の助手さんの2人のやり取りがユーモアたっぷりに描かれてて、そんな所も面白いし。
主人公の探偵先生が犯人に問いかける言葉も変に気取ってなくて、またカッコつけてもいないから、僕だけかもしれないけど、探偵先生の言葉が心に響いてくるって言うか、何だか共感が持てるんだよ。
後、僕一番のオススメポイントがあってね。
探偵先生の隠れた能力の1つでもある。
初めて会った人でも一目見るだけで小さな癖や仕草、顔や目の動きを覚えて瞬時に分析するスゴい癖が探偵先生には備わってて!
そんな探偵先生の癖と、スゴい情報収集の腕をもつ助手君が集めてきた情報を照らし合わせて、ソコから難解な事件を紐解く鍵を見つけ出し。
どんどん摩訶不思議な事件を解決していくんだよ!」
自身オススメの本を紹介しているうちにテンションが上がってきた様子の愛満は、本人が気づかぬうちに後半のほとんどをかなり早口になる口調で話し続け。
「でねでね!まだ6巻までしか読んでないけど、それぞれの巻で起きた事件のトリックがシンプルながらも奥深く。
時には犯人の事件を起こさなければならなかった事情を汲み取って、探偵先生自身が犯人を解っているものの。
自分は警察じゃないからって言って、そっとそのままにしておく場合もあったんだよ。
…………うんうん、今思い返しても話の内容が良く考えられてて、本当素晴らしい作品ばかりなんだよ!
……………まぁけど、いくらお客さんが居ないからって仕事中に本を読むのは駄目だとは分かっているんだよ、………けどね、………………あまりの面白さについつい読み進めてしまって、……………ダメだ、ダメだと解っていても、気がついたら本に手が延びちゃってるんだ。
………………ハァ~~~、ダメな大人だね……………………。」
愛満が最近どっぷりハマっているミステリー小説を握り締めて熱く、熱く語りながら、最後は仕事中に読書をしてしまう自分を戒めつつ。
軽く落ち込んだ様子で話すのだが、やはり読みかけの小説が気になるのか、また栞を挟んだページを開こうとしていて…………。
そんな愛満の様子を見つめつつ。愛満からの小説の進めに愛之助は
「ふぅ~ん。その本、そんなに面白いでござるか!
しかし拙者、愛満には悪いでござるが、血が流れるような話やミステリー小説は少々苦手でござるよ、………面目ない。
なので誠に申し訳ないのでござるが、今回は遠慮するでござるよ。
あっ、それより愛満!拙者、この前見た世界の絶景写真集があまりにも綺麗でスゴく驚いたでござるよ。
愛満も見たでござるか?
う~~ん♪あの白銀の中のお城は実に幻想的でいて、本当に綺麗だったでござったなぁ~♪」
「そっか、…………それは残念。けど人それぞれに好みがあるから、それはしょうがないよね。
後、世界の絶景写真集は僕もこの前見たけど、僕は青の湖が美しくて気に入ったかなぁ。
……………あっ、そうだった。危ない危ない、忘れてた!
あのね、愛之助。今僕がハマってるこの本の最新シリーズを仕入れに行った時、世界の絶景写真集の新しいのが出てたから愛之助が見るかなと思って仕入れてきてたんだよ。
だから良かったら、後で書庫室に置いてあるから見てみて。」
「ほ、本当でござるか!?愛満、ありがとうでござるよ!
ヤッタ~~♪後で書庫室に見に行こうでござるよ♪」
愛満と愛之助の2人が、それぞれ違う本の話で盛り上がっていると
ドン!ドンガシャ!ガラガラ、ガラ~~~!
突然、外で強風が吹き荒れ。茶屋の窓を大きな音を立てながら叩きつけるように強風が吹き抜けていき。
突然の窓を叩きつける大きな音に、初めは純粋に驚いた様子の愛之助であったのだが
「うわ!!………………ビ、ビックリしたでござる!
…………ハァ~~、フゥ~~~、ほ、本当にビックリしたでござるよ!
拙者あまりにビックリして、心の臓がギュッとなってしまったでござるよ!
あ~~~~ぁ、驚いた。本当に驚いた!まだ心の臓がバクバクいっているでござる!
う~~~ん、……しかし何故こうも、今日は冷たい風がビュービュー吹いているでござるのか…………。
あ~~~ぁ、誰か、誰かどうしてこんなに冷たく、強い風が吹くのか私に教えてくれ!!
♪~~~♪~♪♪♪~~~♪♪♪~♪~♪♪~~~♪」
何やら少々演技臭さが見栄かくれする中。
苦しそうに胸を押さえた愛之助が、突然舞台俳優のような身ぶり手振りに加え。
声を無駄に低音ボイスにして、何やら苦悩の表情を浮かべ。その場に座り込むようにして話し始め。最後の方には何故か歌い始め。
愛之助曰く、あまりの暇さに一人芝居ごっこをし始める。
「本当だね。まだ時々、雪やアラレが降る日もあるぐらいだから、いつになったら暖かくなるんだろうね。」
そんな突然始まった愛之助の一人芝居ごっこを見ているはずの読書中の愛満は、愛之助を気にした様子もなく、チラリと顔を上げ。
外の様子を伺いながら、愛之助の一人芝居ごっこを華麗に無視し。
まだ時折、雪やアラレが降る事を告げ。いつ温かくなるんだろうねと呑気に話して、自身が飲みかけた。温くなった『ほうじ茶』を口にする。
するとそんな愛満の話に、一人気持ち良く大声で舞台俳優のように歌を歌い。
踊りを含んだ芝居ごっこをしていた愛之助が、突然歌う&踊る事を止め。何やら考え込み始め。
「…………………う~~~ん、そう言われると、ここ最近の天気は何やらおかしいでござるね。
それに拙者の調べでは、こちらの世界の四季は愛満が元住んでいた日本と同じように春夏秋冬と四つの季節が巡るはずでござるよ。
なのに一向に温かくなる気配がないでござるし、……………………う~~~~ん、これでは困ったでござるよ!
だってねでござるね!!!
ちゃんと春がきてくれねば、この前タリサやマヤラ達と約束した『お花見』が出来ぬではござらんか!!
これはこれは、実に由々しき事態でござる!
あ~~~ぁ、春殿!頑張るでござるよ!お主にかかっているでござるよ!!
何卒!何卒!拙者達楽しみの『お花見』が出来ますように!!頼むでござるよ!
ガッツを!ガッツをみせてほしいでござる!
この通りでござる。ここは是非とも頑張るでござるよ!」
先程までの一人芝居遊びしてい姿とは違い。実に悩ましげに、このままの天候では『お花見』が出来ないと話し始め。
話の途中からは茶屋の窓に移動しすると、窓にベッタリと張り付き。
空に向かって、愛之助達楽しみの『お花見』が計画通りに出来るようにと必死に祈り。
また空を励まして、激を飛ばす愛之助なのであった。
◇◇◇◇◇
そうして、それから暫くしてタリサとマヤラの2人が万次郎茶屋へとやって来たのだが、そこにはタリサやマヤラの他に、村では見かけた事のない人物が立っており。
愛満達の目を一番引いた。3人が3人とも腰まである長い長髪でいて、美しい銀色の髪色になり。
そんな銀色の髪からチラリと覗く、細長い耳を持つ3人組の人物が愛満達を見つめていた。
「愛満、愛之助、おはようー!この人達、克海の友達で、愛満を探してたから茶屋に連れて来てあげたよ~♪」
「おちゃようー!マヤラもちゅれてきてあげちゃんじゃよ~♪えらい~?」
連日の寒さにも負けず。元気の良いタリサとマヤラの2人は、万次郎茶屋へと来る途中に出会った。大吉村に住む克海の友人になる人物を茶屋まで案内してくれた事を教えてくれ。
『寒い、寒い』と口では言いながら楽しそうに3人を伴って茶屋へと入り。大好きな炬燵へと一目散に駆けていく。
そうしてその場に残された愛満と克海の友人になる3人は、寒いので茶屋内のテーブル席へと移動してもらいつつ。
何気無い様子を装いながらも入店した3人組をチラ見していた愛満は、先程まで読んでいたミステリー小説の主人公・探偵先生に感化されてか。
先ほどの愛之助が遊んでいた一人芝居ごっこにも負けない。
愛満大ハマりの、探偵先生になりきった。『対象人物分析・大ミッション』を頭の中でスタートさせる。
(愛満の心の声をお伝えしおります。しばらくの間、良ければお付き合い下さいませ。)
名探偵・愛満、ミッションスタート!
今日のミッション対象人物は、初めて会う3人組の人物になる。
★ミッション1、まず始めに3人とも良く似た顔立ちや体型になり。
普通ならば、うっかり見間違えそうになる所。そこは名探偵・愛満!3人の瞳の色が違う事に目敏く気づき。
某ミステリー小説の探偵先生のように華麗に対象人物達を分析するならば、一番手前にいる1人目の人物を見ていませんよ~~~うっと装いながらも、そこはチラッと目敏く見た名探偵・愛満先生は!
ふむふむ!この一人目の人物の瞳の色は、美しいアクアマリン色になるのだなぁ。
それでいて見た目で言うならば、年の頃が20代前半に見え。
何やら神秘的な雰囲気を醸し出す。
辛うじて確認できた。この人物の喉元にある喉仏から、1人目の対象人物が男性だと解り。
【愛満先生だって、人の事を言えないものの。】
一人目の対象人物が、中性的なイケメン?………美人なお兄さんだと分析した。
★ミッション2。
よし、このままの勢いで2人目の対象人物を分析開始する!
まず2人目の対象人物の立ち位置は、1人目の男性の右斜め後ろになり。
1人目の男性に良く似た顔立ちになるものの。全体的に少し幼さが残り。
1人目の対象人物同様、辛うじて喉元に喉仏が確認でき。
愛満先生の見立てでは、年の頃は15から17才ぐらいの少年だと思る。
他にも1人目の対象人物のアクアマリン色した瞳の色とは違い。2人目の対象人物の瞳の色は美しいエメラルド色になるのを確認できた。
★ミッション3
よしよし、残すは最後の1人だ!
この波に乗った勢いのまま、愛満先生はやりきるぞ!!!っと、愛満は己にカツを入れつつ。
残す所3人目の最後の人物は、1人目の男性の左斜め後ろに立っており。
他の2人の時とは違い、喉元に喉仏も無く。
ささやかな胸の膨らみから、何とか辛うじて3人目の人物が女性だと予測………判断でき。
他にも瞳の色や年の頃はと言うと、3人の中で一番意思が強そうな、真っ赤なガーネット色した美しい瞳の色になり。
年の頃は女性という事もあり。愛満先生はオブラートに包んで、10代後半の女性と分析する。
しかし、ここだけの話。
3人目の女性を分析し終えた次の瞬間。そのガーネット色した真っ赤な瞳に睨まれ。
何やら背筋に寒気を感じた名探偵・愛満先生は、身の危険を禁じて、愛想笑いでやり過ごしながら素早く『ミッション』を中断するのであった。
『フゥ~~~~、危ないですねぇ~、危ないですねぇ~!
分析対象者に感づかれる所でしたよ。これでは名探偵・愛満の名が泣いてしまいますよ!
うんうん、しかし今日も素晴らしい分析でありました。
さすが名探偵・愛満!次回も好御期待ですよ!!』
あの短い時間の中で、大好きな探偵先生の真似をし。
何故か口調までも探偵先生を真似て、意味のない1人ミッションを成功させたと思っている。
満足げな愛満先生は、心の中でかなり失礼な事をしているとは感じさせない素晴らしい笑顔を浮かべ。
「はじめまして。私、この茶屋の主人の愛満と申します。
隣に居りますのが、私の弟、愛之助です。
それで大吉村の克海さんの友達と聞きましたが、私に何かご用でしょうか?」
隣村の大吉村に住む克海の友達と聞き。克海に何かあったのかと心配しながらも、克海の友人だと名乗る3人組に愛満が話し掛けると
「はじめまして。私、エルフ族のターハと言います。
横に居りますのが、妹クミルと弟ココムになります。
実は、大変厚かましいお願いがありまして、…………こちらに訪ねさせて頂た所存になりまして………………。
あっ、そうでした。こちら大吉村の克海から預かってきた手紙になります。どうぞ、お読み下さい。」
「あっ、ありがとうございます。
それではちょっと読ませて頂きますね。」
頻りに頭を下げるターハから大吉村の克海からの手紙を受け取った愛満は、一旦ターハ達が居るテーブル席を離れ。
別のテーブル席に座ると早速、克海からの手紙の封を開け、手紙を読み始めた。
◇◇◇
するとそこには、大吉村に住む克海と彼らターハ達3人兄妹は古くからの友達になり。
長男のターハとは、気心の知れた古くからの親友になるのだが、先の戦争の為、気軽に会う事がここ何年も出来なくなっていたそうで……………………。
更には、なかなか外の世界との情報交換等が出来なかった大吉村に住む克海は、ここ何年も親友のターハ達がどうしているのかと心配していた所。
ある日、着の身着のままでボロボロの姿のターハ達が3年ぶりに克海を訪ねて大吉村にやって来たとの事。
そんなターハ達の姿を見て克海はヒドく驚いたらしいだが、ボロボロの服装だけではなく。
全体的に疲れたはてた様子と共に、目の下には真っ黒なクマが3人とも出来ているやら
元々細身の体型なのに頬が痩けてるやらで、どうした事かと心配した克海がターハ達に詳しい話を聞いた所。
先の戦争で兄妹3人でコツコツと約10年かけてパン屋を開く為。
何とかお金を貯めて、やっと手に入れた念願の店舗兼住居、今までコツコツ集めたり手作りした。
パンを作る、焼く為の全ての道具や器具が、町に攻めいって来た敵兵士達に無惨にも破壊され。
最後には残酷にも見せしめのように町全体に火をつけ、燃やされてしまったらしいのだ。
しかも運が悪い事に、その時期雨が全く降らなかった事もあり。瞬く間に敵兵士が放った火が町全体に燃え広がっていき。跡形もなく全て燃え尽き。
少しでも消化活動が出来ていたら違ったかも知れないのだが、皆逃げるのや家族や、街の人達を救う為に敵兵と戦うのに必死で、満足な消火活動も出来ず。
復興も出来ない程に全て燃え尽き。町全体が崩壊してしまったそうだ。
その為、頼みの国からも町を領地する領主からも賠償や保証など何もなく。
兄妹3人、行く宛も無かった所。僅かな望みをかけ。
見た目の美しいエルフ族を狩る、違法の奴隷狩りにも気を付けながら、安全の為に用心に用心を重ね。
かなり遠回りをしながら、遥か遠くの大吉村の克海を目指し。
何ヵ月もかけ、徒歩ではるばる遠くの大吉村へとやって来たらしい。
そうして何とか大吉村にたどり着いたターハ達は、克海に村外れでもいいので、兄妹3人、大吉村に住まわせてもらえないかと頼み込んだそうで。
ターハ達の話を聞いた克海は、暫くの間3人が健康になるまで栄養満点の食事を食べさせたり。
自分の実家でもある自宅で療養させてあげていたらしいのだが、
せっかく3人とも美味しいパンを作れる素晴らしい腕を持っているのに、自分と一緒に不馴れな漁師の仕事をさせるのは心苦しく。また見ていて悲しくもあり。
ターハ達3人を大吉村で埋もれさせているのはもったいなと日々考え始め。
更には小さいものの。大吉村にはすでにパン屋が在る事もあって…………………。
愛満達さえよければ、ターハ達3人を朝倉村に住まわさせてもらい。
『パン屋』を開かせてくれないだろうかとのお願いが書かれていた。
◇◇◇
そんなターハ達の事を頼むと必死にお願いする克海からの手紙を読み終えた愛満は、香夢楼達と出会ったその日に誓ったとおり。
自分達に助けを求める人に出会ったその時は、自分のできる範囲の事を一生懸命やろうと心に決めていた為。
もちろんターハ達を朝倉村に迎え入れる事を即決し。
ちょうど昨日来店していたアルトや凱希丸、愛之助達と村に在ったら助かる店や施設等を話し合っていた中の一つに『パン屋さん』が入っていた事を瞬時に思い出し。
早速、これからの事等を詳しく話し合う為。ターハ達が待っているテーブル席へと移動するのであった。
◇◇◇◇◇
一方、愛満が克海からの手紙を読んでいる間。
愛満からターハ達のお世話を任された愛之助は、3人が座るテーブル席へと。
寒空の下、長時間外を歩き回り。冷えきって疲れはてた3人の体を労る為。
3人の為の温かい『玄米ホットミルク茶』や、今日の愛之助達のオヤツでもある、籠一杯に沢山焼いてもらった。
愛満がハマっているミステリー小説の主人公・探偵先生の友人刑事の張り込みの相棒の『餡パン』ならぬ。
食べやすい一口サイズでいて、愛之助曰く、ミニぱんシリーズになる。
『粒あん』、『白餡』、『カスタードクリーム』、『果肉ゴロゴロの手作り苺ジャムパン』の4種類をのミニパン達を気前良くターハ達に振る舞ってあげ。
タリサやマヤラ達を含めた6人で、和やかに4種類のミニパン達を食べていた。
【ちなみにミステリー小説の主人公・探偵先生の友人でもある刑事の話は、スピンオフで刑事ドラマになった事がある為。愛之助もDVDで見た事が有り。
その為、友人刑事の張り込みの相棒ならぬ。『餡パン』の事を知っていて、今回愛満におねだりしてオヤツに作ってもらっていた。】
「タリサ、マヤラ、どうでござるか?
拙者も手伝って焼いたミニぱんでござるよ!美味しいでござろう?
あの刑事さんが食べていた『餡パン』にも負けず劣らずの美味しさでござるよ!」
「おいちい、おいちい!
マヤラ、いちゅごがちゅきだからいちゅごチャムパンがちゅき♪
しょれににぇ。チャムのにゃかにいちゅごがゴニョゴニョいっぱいはいってにゅの♪
あいのちゅけ、このチャムパンちゅくちゃの?
ちゅごいね!ちゅごいね!」
「えっ~~~!!愛之助も作ったの?
すごいね~ぇ!本当ビックリだよ!
あっ、それにね。どのパンもスゴく美味しいかったけど、やっぱり一番を選ぶとしたら、僕の大好きな愛満お手製の『粒餡』を使った『餡パン』が一番美味しくて好きだったかなぁ~♪
だってさぁ、さっきも言ったけど、愛満作る『餡子』はお豆から一つ一つ丁寧に『粒餡』、『こし餡』として作りあげられているし。
そんな『餡子』を使用した食べ物ならば、和菓子にしてもパンにしても、全~~~部美味しくなるのは絶対だもん!!!」
タリサ達がそれぞれ美味しかった『苺ジャムパン』や『餡パン』の事を熱く語ってくれ。
そんな苺好きや餡子好きのマヤラやタリサ達の横では、何やらヒドく驚いた様子のクミルとココムの2人が
「うわぁ!な、何これ!お、美味しい……………………けど、コレって……」
「ちょ、ちょっと兄さん!このパン!中身は食べた事もない物ばかりだけど、このパン生地はエルフ族秘伝のパン生地に似ているよ。
どうして?」
自分達が食べているパンを見つめ。
何やらパン生地の匂いを嗅いだり、パン生地だけを食べたりし。
そう変わらないタイミングで、隣に座る兄のターハへと真剣な眼差しを浮かべ。
何やらエルフ族のクミル達には一大事になるらしい。愛満が作ったパン生地の謎を問う。
しかしそんなまだまだ幼い妹や弟の問いに、愛満お手製のミニパンを美味しそうに食べていたターハは、初めからその事に気づいていたのだが、ただ静かに微笑みを浮かべ。
「そうだね、よく似てるね。
たぶん私の考えだけど、私達が習ったエルフ族秘伝のパン作りの魔法で出来たパンとそんなに変わらないと思うんだよ。
しかし、この中に入ってる『粒餡』とやらは本当に美味しいね。是非とも私も、この『餡パン』とやらを作ってみたいもんだ。」
すでに7個目のミニ餡パンを食しつつ。実にあっけらかんとした様子で話。
ターハ曰く、いくらエルフ族秘伝のパン作りの魔法にしても、エルフ族の長い歴史の中。
他の種族の人達からも、まれに使える者もでてくるだろうと常々考えていたターハは、そんなパン生地の事よりも、パンの中身の製法の方が気になって仕方がない様子で、自身の考えをクミルやココムへと話。
今は何も考えずに、目の前にある4種類のミニパン達を味わおうと促すのであった。
◇◇◇◇◇
その後、ターハ達の元に手紙を読み終えた愛満が戻って来。
ターハ達3人へと店舗兼住居等を朝倉村で用意するので、お店の場所は、村のどの辺りが良いか。
お店やパンを作る作業場、自宅の内装のリクエスト等はないか等、矢継ぎ早に質問され。
愛満からの突然の話に、軽いパニック状態になったターハ達なのであったが、愛之助達のフォローもあり。
次第に落ち着きを取り戻して、何とか頭を働かせながら、愛満と共に詳しい話をドンドン纏めていき。
ターハ達の強い希望から、愛満達心配の中、万次郎茶屋を出て、ターハ達のお店の場所等を決める為。
またターハ達へと朝倉村を案内する為に村の中を歩き回って、少し落ち着きを取り戻したものの。
まだ信じられない程のありがたい話に、今だドキドキが止まらないターハ達3人であったが、愛満達の案内で一通り朝倉村を見て回り。
3人でも色々と話し合って、山道挟んだ万次郎茶屋の斜め前にと、ターハ達の店舗兼自宅を建てて貰う事を決め。
場所が決まったらこっちのもんとばかりに行動の早い愛満は、自身の力を使い。
チャッチャッと店舗兼住居の広々した作業場。
自身の記憶を頼りに最新式の業務用パン焼き器、パン作りの器具等も装備してあげ。
漆喰と木目が美しい和と洋が上手く混ぜ合わさった日本家屋でいて、室内は和モダンの装いの2階建ての店舗兼住居をターハ達へと建ててあげるのであった。
その後、やっぱり何と言うか、朝から強風吹き荒れる寒さにやられたタリサ達を含めた7人は、足早に万次郎茶屋へと帰り。
ミニパンシリーズの『餡パン』の美味しさに感動したターハ達から『是非ともお店を開いたおりには、この素晴らしい『餡パン』や『白餡パン』、『苺ジャムパン』、『クリームパン』達をお店に出したい』との熱い要望を受け。
『粒餡』や『白餡』、『苺ジャム』、『カスタードクリーム』等の作り方を教える事になり。
◇◇◇◇◇
「と、ここまでが『粒餡』の作り方になります。
餡子作りは、時間をかけた分、風味豊かな小豆の美味しさがでるし。作り込んでいくうちに自分好みの甘さや、小豆の潰し加減が決まってきますよ。
それに今日は小豆で作りましたが、大粒の大納言で作っても美味しいですし。
1日ではなかなか『餡子』作りのコツを掴むのは難しいので、追々一緒に頑張りましょう。
じゃあ、餡子作りはここら辺にして、次は『カスタードクリーム』作りに移りますね。
………………って、ターハさん達体調の方は大丈夫ですか?旅の疲れ等でてませんか?」
ターハが強く望んだ『餡子』作りを終え。
怒濤のような1日を過ごしているターハ達3人の体調が気になる愛満は、実に心配した様子で、3人が3人とも目が充血しているターハ達へと不安そうに問いかける。
「いえいえ、お気になさらずに大丈夫ですよ!
逆に今まで知らなかった新しい技術を沢山知れ。心が踊る程に興奮している程なのですから!
なので愛満さん、私達が知らなかった新たな技法を教えてくれ。本当にありがとうございます。
まだまだ大丈夫ですので、引き続きよろしくお願いします。」
「私も大丈夫です!」
「僕もまだまだやれます。よろしくお願いします!」
新しいレシピを学べる楽しさ嬉しさで心がワクワクして、知らず知らずのうちに頬が緩むターハ達3兄妹は、アドレナリンが溢れまくっているのか疲れなど忘れ。
必死に愛満が話す言葉や、技を見聞きし。
それを愛満がプレゼントしてくれた鉛筆や、レシピ帳なる美しく使いやすいノートへと書き写し。
また体験しては、自分のものにしょうと楽しみながら積極的に学んでいき。
◇◇◇◇◇
こうして朝倉村に異世界初の『餡パン』や『白餡パン』、『クリームパン』、『苺ジャムパン』、エルフ族秘伝のパンを販売する。
ターハ達、エルフ3兄妹の『パン屋』さんが誕生したのであった。
ブックマーク、お気に入り、評価をしてくださった方、本当にありがとうございます。
誤字、脱字の多い作者ですが、これからもよろしくお願いします。