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ルルドの国  作者: 流民
一章
7/7

6話

「陛下、ようやくグライラット帝国との国境が見えてまいりました」

 カインの言葉にリーゼロッテは頷き、川の方に眼を向ける。そこにはイーリスの軍が張る幕舎が幾つか見え、渡ってこようとしている流民達をグライラット側から渡らせない様に橋の前に陣を張っていた。近づくにつれ、その様子がよく解って来るが、流民達は決して良い環境で生活をしているようには見えなかった。それに数も聞いていた数よりもかなり膨れ上がっており、今にも橋を渡ってきそうになっているのを、イーリスの兵隊たちが押しとどめている。その様子を見てリーゼロッテがカインに声を掛ける。

「急ぎましょうカイン」

 そう言ってリーゼロッテは馬の足を速める。それに続く様に他の者も馬の足を速める。そして到着した国境の状態はかなり酷く、その状況にリーゼロッテは思わず眼をそむけてしまいたくなるほどであった。

「酷い……」

 そう一言漏らすミュゼに、フィンも頷く事もせずにその状況を見ている事しかできなかった。国境となる川はそれ程の幅は無い。せいぜい三〇メートルほど。しかし、深く流れの速いその川があるせいで、流民達は唯一有るこの橋を渡らなければイーリス側に渡って来る事は出来ない。そして、川の向こう側と、こちら側ではかなりの違いがあった。川の向こうでは幾人もの人が倒れ、傷の手当てもまともに受けられず、全く動かない、寝ているのか死んでいるのかも川のこちら側では判別できないような者達があちらこちらに横たわっていた。

「守備隊の責任者を呼んできてください」

 いつもと違うリーゼロッテの声色にカインは急いで副官に守備隊の隊長を呼びに行かせた。そしてほどなくして、守備隊の隊長がリーゼロッテの前に傅く。

「へ、陛下。どうしてこのような場所に!?」

 かなり慌てた様子で話しかけるが、それには答えずにリーゼロッテは話始める。

「なぜあのような状態になるまであの人たちに手を差し伸べなかったのですか!」

 突然の叱責に隊長は委縮しながら答える。

「ハッ。しかし、国からは流民達に手出しは無用、との命令が……」

 その言葉を遮る様にリーゼロッテが話す。

「だからと言ってあのように困っている人達を、あなた方は何もせずに黙って見ていたというのですか?」

「も、申し訳ありません」

 ただひたすら頭を下げるしかできない隊長を見かねたカインがリーゼロッテに話しかける。

「陛下、今はそんな事より早くあの者達に運んで来た物を」

 その言葉で少し冷静さを取り戻したリーゼロッテはカインと守備隊の隊長に命じる。

「そうですね。運んで来た物をあの方達に渡してください。それと、治療が必要なものは私の所へ。私が治療魔術で治します。さあ、急いでください!」

 リーゼロッテのその言葉で一斉に皆が動き出す。それ程物資を持ってこれたわけではないが、もともと守備隊が持っていた物資も含めて、何とか全員がしばらくは食べれるほどの食料がいきわたる。そして、次々と運ばれてくる怪我人にリーゼロッテはもくもくと治療魔術を掛け、怪我人を治していく。そして、何時間も寝食も忘れ一人で治療魔術を掛けていたリーゼロッテは最後の一人に治療魔術を掛けた所でその場に倒れてしまい、気を失ってしまった。

「陛下! 陛下! おい、直ぐに医者を呼べ!」

 カインは守備隊の医者を急いで呼び、駆け付けた医者にリーゼロッテの容体を見させる。

「恐らく過労と魔力の使い過ぎでしょう。とにかく今は安静にしておくよりほかにありません」

 医者の言葉に少し安心したが、カインは自分を責めているようだった。

「こんな事ならお連れするのではなかった……」

 カインはそう言うとリーゼロッテを抱きかかえ、ベットの上に横たわらせる。そして、外にいる衛兵に話しかける。

「暫く誰も中には入れさせるな。いいな?」

「はい!」

 衛兵二人はカインに敬礼する。それに眼で答え、カインは流民達の様子を見に行く為に歩き出す。


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