5話
「もうすぐ森の出口だ」
杜の氏族と出会って二日間森の中を進み続けたリーゼロッテ達はミリアムの言葉に、ようやく森を抜け出せると皆嬉しそうな顔をしている。浮かない顔をしているのは森の民と呼ばれるエルフのミリアムだけだ。
「ようやく森を抜けれますね。国境まではもうすぐですね」
リーゼロッテの言葉にフィンとミュゼも嬉しそうだ。
「やっと気味の悪い森を抜けれてほっとした~」
ミュゼの言葉にミリアムが反応する。
「気味の悪い?」
「そりゃそうよ。日もほとんど射さない、薄暗い森の中でキャンプを張るのは良い気持ちしなかったわ」
ミュゼの言葉にフィンも頷く。
「ほんとに良かったわ。これで、夜トイレに行くミュゼにつき合わされなくていいものね」
その言葉にミュゼは慌てる。
「フ、フィン!? 何てこというの!」
その言葉に一行は笑っているが、ミリアムだけは怒りを顔に表していた。
「私に言わせればこんな木もないような所によく人間たちは住んでいられるわね! 森の精霊達もいない、自然に囲まれていないような暮らしをしているから人間達は戦争なんて野蛮な事をするんじゃないの? 本当にこれだから人間達は!」
ミリアムのその言葉にミュゼはミリアムに言い返す。
「なんですって!? あなたにそんな事言われたくないわ! あなた達だって最初森の中を通っているだけで威嚇してきたじゃないの! あなた達だって同じ様な者じゃない!」
もうこうなっては売り言葉に買い言葉で二人の喧嘩は激しさを増していくばかりだろう。そうなる前にカインが二人を止めに入る。
「ミュゼ! お前の言葉はあまり適切とは言えなかっただろう。森に住むエルフにとって森とは神聖な場所だ。それを気味の悪い森なんて言葉で穢すような事を言うんじゃない。それに、その森に土足で踏み込んでしまったのは我々の落ち度だ。ミリアムに謝るんだ」
「でもカイン様も森を抜けれてほっとしたでしょ? それにミリアムは私達を、いえ、人間達を野蛮だなんて言った。イーリスは、いや、リーゼロッテ様はそんな他の国の人達と違います!」
ミュゼにそこまで言われるとカインも言葉を返せなかった。
「ミュゼ。あなたの気持ちは解ります。でも、杜の氏族方々にとって大事な場所である森を気味の悪いという言葉で穢してしまう訳にはいきませんよ。それに私は森の中は何処か安らげる、守られてるように感じる場所でもありました」
リーゼロッテの言葉にミュゼは納得してはいないようだったが、一応謝る事にしたようだ
「わ、悪かったわねミリアム」
ミュゼの言葉にミリアムも言葉を返す。
「いや、私も言い過ぎた。悪かったなミュゼ」
「わ、解ればいいのよ解れば」
少し照れたように、そっぽを向いて答えるミュゼ。それをあまり気にせずにミリアムは進む。
「さあ、森を抜けるぞ」
木の数がだんだんとまばらになり、ようやく森を抜けた一行。目の前には平原、そして遠くに山々が見える。その山々に向かうように一本の道が続いている。
「国境までは後半日ほどの距離です。森を抜けるのに少し時間が掛かってしまいましたので、予定より少し遅れています。少し急ぎましょう」
そうカインはリーゼロッテに話しかける。
「解りました」
そうカインに言ってリーゼロッテはミリアムの方を見て話しかける。
「ミリアム。ここまでありがとうございます。このご恩はいつか返させて頂きます」
そう言って頭を下げるが、ミリアムはリーゼロッテに言葉を返す。
「いえ、どうせまた帰りにこの森を通られるのでしょう? では、私はこのまま帰りに森を抜けるまで同行させていただきます」
「しかし、フレイアム様には何も言っておりませんでしたが、よろしいのですか?」
「構いません。父には帰りましたら私の方から伝えておきますので」
ミリアムの言葉にリーゼロッテは少し驚いた。
「フレイアム様はミリアムのお父上だったのですか?」
「ええ……まあ」
少し照れたように顔を赤くして答えるミリアム。
「そうでしたか。今まで知らぬこととは言え失礼をしていました」
「いえ、お気になさらずに」
「しかし、本当によろしいのですか? 申し出は嬉しいのですが……」
「構いません。私も見聞を広めたく思いますし、これは良い機会でもあります。どうかご一緒させてください」
少し考えるリーゼロッテ。しかし、有難くその申し出を受ける事にしたようだ。
「ありがとうございます。では、よろしくお願いいたします」
リーゼロッテはぺこりと頭を下げる。頭を下げられたミリアムは少し驚く。やはり国王が簡単に頭を下げる事に違和感があるのだろう。リーゼロッテの横に立つカインがまた困った顔をしている。ミリアムはそのカインの顔を見て苦笑してしまう。
「では、参りましょう陛下」
カインにそう声を掛けられ一行は国境に向け進んで行く。その途中、ミリアムはカインの馬に並走するように並び小声でカインに話しかける。
「あなたも大変ですね」
カインもその言葉に苦笑するしかなかった。だが、カインはリーゼロッテのそういう所が王としての資質かも知れない。そうも思っていた。そして、半日の移動の末、ようやく国境となる川が見え始める。




