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ルルドの国  作者: 流民
一章
2/7

1話

「…………と言う事でして、今現状、イーリスの周りの状況は予断を許さない状況で……」

 内務大臣ルーベール・ハートレット公爵が、イーリスの周りの戦乱の状況を説明している。それを大きな円卓に集まっているイーリス王国の重鎮達が黙ってそれを聞いている。

「陛下、どうかなさいましたか?」

 ルーベールに陛下と呼ばれた少女、リーゼロッテは、声の聞こえた方に顔を向ける。

「いえ、何も。続けて下さい」

 ルーベールはその言葉に頷き話を続ける。

「そして、今一番の問題は隣国、グライラット帝国の事ですが。グライラットと、セルジオとの戦況はグライラット側が若干劣勢な状況になっております。少し前の話になりますが、かなり国境を超えられたとの報告も入っており、その影響か、我が国とグライラットの国境にかなりの数の流民が集まって来ているとの事です」

 それを聞いたリーゼロッテは静かに話し出す。

「ルーベール。その流民たちをイーリスで受け入れる事はできませんか?」

 リーゼロッテの言葉に、ルーベールは難しい顔をする。

「陛下、恐れながら流民の受入は難しいかと……」

 リーゼロッテはその答えは解っていたように頷く。しかし、それでもリーゼロッテはその流民たちを何とか救いたいと考えていた。

「解っていますルーベール。しかし、食糧の援助等何かできる事はありませんか?」

 少し困った顔をするルーベール。そこで、ルーベールの部下のシャインが発言する。

「恐れながら陛下。今のイーリスの財務の状況を鑑みると、これからますます増えていくであろう流民に対して、援助を行う事は財政的には不可能と思われます」

 リーゼロッテは黙って頷く。恐らく、こういう話し合いは何度もされたのだろう。その度にリーゼロッテはいたたまれない気持ちになる。しかし、流民を受け入れる事も、それに援助を行う事も基本的にはイーリスはする事は無い。それが他国との摩擦になりかねないからだ。永世中立国を国是にしている以上、こちらから不用意に摩擦を作る事は避けるべきだろう。それはリーゼロッテにも理解はできていた。

 しかし、理解できるのと感情とは必ず一致するわけではない。その状況にいつもリーゼロッテはその無力さを痛感するのだ。

「はぁ……」

 小さく少しため息を吐くリーゼロッテ。それに気が付いたルーベールはリーゼロッテに声を掛ける。

「陛下、少しお休みになられた方がよろしいのでは? ここから先は陛下のご裁可を必要とする様な案件は有りませんので」

 あくまで言葉は丁寧だが、ルーベールは明らかにこの若い国王を煙たがっているようだ。そして、その言葉の意味をくみ取ったリーゼロッテは、その言葉に従う。

「そうですね……解りました。では、少し休ませていただきます。では、後の事はよろしくお願いします」

 リーゼロッテはそう言うと席を立つ。それを円卓に座った全員が立ち上がり、見送る。リーゼロッテが部屋を出た後、全員が再び着席する。そして、国防大臣のザイーツ・ケイジオがルーベールに話しかける。

「いろいろ大変だなルーベール卿」

 その言葉を苦笑いで返すルーベール。その後、リーゼロッテがいない中会議は滞りなく進み、その日の会議はお開きとなる。会議が終了すると、ルーベールは自室に戻り、その日の会議の報告書をまとめさせた物をリーゼロッテの下に届ける。リーゼロッテの部屋の前には近衛騎士が二人構えている。

「ご苦労」

 一言声を掛けると、近衛騎士は敬礼をしてリーゼロッテの部屋の扉を開ける。一つ目の扉を抜け、すぐに有るもう一つの扉の前で、立ち止まる。

「陛下、ルーベール・ハートレットでございます。今日の会議の報告書をお持ちしました」

 するとすぐにリーゼロッテから入室の許可する声がかかり、ルーベールはリーゼロッテの部屋に入る。そこには近衛騎士団の団長、カイン・アルベールの姿。カインに軽く頭を下げるルーベール。カインはそれに敬礼で返す。

椅子に座るリーゼロッテに眼を向けると、その傍らには宮廷道化師ピエールの姿もあった。

「陛下、お休みの所申し訳ありません。本日の会議の報告書をお持ちしました。また後ほど御目通しいただきますようお願いいたします」

「解りました、ありがとうございます」

 ルーベールはそう言われると退室する為軽く頭を下げ、リーゼロッテに背を向け、今入ってきた扉に向かう。ノブに手を掛ける所でリーゼロッテに声を掛けられる。

「ルーベール」

 その声に振り向くルーベール。

「何か?」

 少しためらいながら話し出すリーゼロッテ。

「やはり流民の受入はできませんか?」

 ルーベールは顔色を変える事無く答える。

「はい。先ほども述べさせていただきましたが、流民の受入は他国との摩擦を生む可能性があります。そうなってしまうと、最悪戦争に発展するかもしれません。陛下はそれでもかまいませんか?」

 リーゼロッテにもその言葉の意味は解る。しかし、それでもやはり困っている人達を見捨てたくはない、そうリーゼロッテは思ってしまうのだ。

「それは……」

 言いよどむリーゼロッテにルーベールは更に続ける。

「幾人かの流民を受け入れて、その為に自国民を戦争に駆り出させる……陛下はそう言う決断をされるのですか?」

「ルーベール殿。今の発言少し失礼ではありませんか? 陛下にもお考えがあっての事です」

 隣に控えるカインがルーベールに声を掛ける。

「これは失礼いたしました。しかし、国の政治を預かる私にも考えあっての事です。どうか非礼をお許しください」

 その言葉にリーゼロッテは言葉を掛ける。

「ルーベール、申し訳ありません。今の話は忘れて下さい。忙しいところ申し訳ありませんでした。下がって休んでください」

 リーゼロッテの言葉にルーベールは頭をさげ、リーゼロッテの部屋を退室する。

 ルーベールが退室した後、リーゼロッテは自分の黄金色の長い髪を少しいじりながらため息を吐く。カインはそのリーゼロッテの姿に声を掛けることが出来ない。しかし、ピエールはそんなリーゼロッテを元気づかせるかのように、表情をころころと変えながら、手品や軽業を披露する。その姿を見たリーゼロッテは少し微笑む。

「ありがとうピエール」

 その言葉に大仰にお辞儀をして答えるピエール。その後、リーゼロッテは何かを考えるようにふと黙り込む。そして、徐に口を開く。

「カイン」

「ご用でしょうか陛下?」

「カイン、申し訳ありませんが、私を国境まで連れて行っていただけませんか?」

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