第二十七話 素材集め ~ビッグウッド~
勇達と分かれたマルコ、琴美、エーシャの三人はビッグウッドを探してミリオンの森を訪れた。しかし、現れるのはデビルツリーや他の魔物ばかりで、目的のビッグウッドがいた形跡でさえ見つかっていない状況だ。
「ねぇ……本当にビッグウッドって魔物はミリオンの森にいるの? というか、私どんな魔物かも知らないし。もう、そこら辺の木かデビルツリーでいいじゃん」
長時間の探索に飽きてしまった琴美が妥協案を提示するが、もちろんマルコがそんなことを許すはずもなくすっぱりと断られた。
「ダメだ。デビルツリーはただ普通の木より丈夫なだけで他の機能は全くない。ビッグウッドは丈夫さに加えて火耐性と保温性に長けているから風呂の木材として重宝されてるんだ」
「へぇー」
興味ない情報を右から左へと聞き流しながら、飛んできた皇帝蜂を杖で叩き落す。
「それでそのビッグウッドなんだが、どうやらこの森の奥に生息しているらしい。俺も実際に見たことはないが勇が借りてきた本には特徴的な大きな脚をした五メートル以上ある人型の木の魔物らしい。強さはギガグリズリーと引けを取らないとまで書かれていた」
「それは厳しそうだね」
「大丈夫よ。ギガグリズリーを倒せたんだもの。ビッグウッドだって倒せるわよ」
「……だといいんだがな」
嫌な予感を抱きながらもマルコはエーシャと琴美と一緒に奥へと向かう。
奥に進むんで行くにつれて、周りの木の背丈が少しづつ高くなっていき、昼間にもかかわらず数メートル先しか見えないほど暗い。
「流石にこれでは見えないな。琴美、明かりを頼む」
「オッケー」
軽く返事をしてから杖に魔力を込めて火を灯す。それでも、暗闇が火の明かりを包むように広がっているが、ないよりはましだった。
「全然見えないわね」
「それでも、手元がよく見えるか見えないかで大きく違うと思うよ」
「……シッ! 何か聞こえないか」
マルコの顔つきから何か起きていることを察した二人は静かに耳を澄ます。
ドスン……ドスン……何かがこちらに近づいてくる。
次の瞬間、暗闇の中からマルコたちの背を優にこえる脚が出現し、土を蹴り上げた。マルコ達は土と一緒に宙を舞う中、琴美の明かりで一瞬照らされた姿を見逃さずに捉える。
大きな脚には人間の上半身に不釣合いなほど以上発達した脚を持った木の魔物。まさしくマルコ達が探していたビッグウッドの特徴そのものだった。
三人は上手く着地をして、ビッグウッドと対峙する。
マルコは急いでフレイムを無造作に放ち視界を確保した。
「ようやくお出ましだ。琴美! エーシャ!」
「「分かってる!」」
視界を塞がないように明かりの傍で武器を構える。そんな中、マルコが構えたのは剣ではなくガントレットで覆われた拳。
「ようやく、これを試すことが出来る」
闘技大会のベリア戦で確かに感じた感覚。あの時の感覚を忘れないうちに勇に頼んで作られたのがガントレット。実際に使うのは今回が初めてだった。
「さて……試させてもらうぞ!」
明かりにより視覚て捉えることが出来たビッグウッドに向かって駆け出すマルコとエーシャ。
琴美は一定の距離を取って魔力を込める。
「フレイム!」
火の塊は標的に直撃するが、傷一つ付けることが出来ていない。
「火耐性あること忘れてた……なら、フリーズ!」
今度は氷の塊がビッグウッドに直撃。フレイムよりはダメージがあるようだが、微々たるものだった。
「ボクに任せて」
琴美に続きエーシャが攻撃を仕掛ける。
風の斬撃はビッグウッドの脚を切り裂く。しかし、すぐに切り裂かれた部分は再生してしまい。無傷同然となってしまった。
「ウソ!? 早すぎるよ!」
「なら俺だ!」
ビッグウッドの足元まで来たマルコが構える。
「エレメント・コンボ!」
片足に強い衝撃と共に五属性による追い打ちを受けた。今までで一番手ごたえがあったが、エーシャの時と同様にすぐに再生してしまった。
「クソ! これでもダメか!」
ビッグウッドはその場に佇んだまま、脚からいくつか木の枝を伸ばして、明かりの近くにいる琴美にめがけて素早く伸ばした。
数箇所明かりがけされたものの、間一髪のところで琴美は避けることが出来た。
しかし、現状は良くない。
残った明かりのおかげで微かに姿を目視できるが、枝を伸ばされたことうまく近づくことが出来ず、それに加えての再生能力の高さが厄介だった。対峙している時点でのマルコ達の勝ち目は無に等しい。
「一回この場を離れるぞ!」
無計画のままこの場に居続けてもやられるだけと判断したマルコの指示に渋々その場を離れる二人だった。しかし、躓いたエーシャはその場に倒れて逃げ遅れてしまう。
間を入れづにビッグウッドは脚を高く上げる。
「エーシャ! 早く起き――」
無慈悲にも琴美が言い終える前にその脚は地面へと叩きつけられ、明かりが消えた。
風圧に顔を触られながら目の前の現実を受けられない琴美。
しばらくの静寂の後、ビッグウッドがその場を離れる音が響く。
「まさか……エーシャ」
「そんな……エーシャ!!!!」
「ん……何?」
悲痛な叫びをあげた琴美に返ってきたのは平気そうなエーシャの声だった。
「エーシャ!?」
「お前、なんで無事そうなんだ!?」
「なんでって言われても……何故かあいつ、ボクに当ててこなかったんだよ」
ビッグウッドが脚を振り落した瞬間、流石にダメだと思ったエーシャだったが、意外にもその攻撃は何かに引きつけられるようにそれてしまったのだ。
その話を聞いたマルコは一つの答えにたどり着いた。
「もしかして……エーシャ、琴美、手伝ってくれ。あいつを倒すぞ」
「いいけど、何か作戦はあるの?」
「じゃないとさっきの二の舞よ」
薄暗い中、マルコはニヤリと笑う。
「安心しろ策はある」
静けさに包まれた森。ビッグウッドは獲物を捕らえるため暗闇の中木と同化するようにジッと動かない。
この視界の狭さに耐えかねて明かりを灯す獲物を狙っている……というよりも、相手の位置を明かりで判断していると言った方が正しい。
薄暗い森の中を住処にするビッグウッドの目に映る光景はいつも暗い。そのため、あるはずのない明かりに異様に反応してしまう。
森の中で小さな明かりが灯る。
今回も例外なく反応したビッグウッドはゆっくりと明かりの近くまで歩むと脚を高く振り上げて明かりめがけて振り落とした。
しかし、足元には獲物の気配が感じられない。代わりに足止めのトラップが作動した。ビッグウッドの体に電気が走る。
短時間だがビッグウッドの動きが止まった。
「今だ!」
一瞬見えたビッグウッドの位置を記憶したマルコとエーシャは同時に両脚を狙う。
「エレメント・コンボ!」
「疾風連撃!」
二人の攻撃は見事両脚にヒットし、大きく破損した脚は自身の体を支えきれず、不安定に揺れる。
不意を突かれ、急いで再生しようとするビッグウッドだが、
「アイスサークル!」
間入れずに琴美の氷の魔法で脚の表面を凍らされたことによりうまく再生出来ない。
自身の重量を支えきれなくなったビッグウッドはバキバキと音を立てながら地面に体を叩きつけられる。
「やれ、エーシャ!」
「分かってる!」
ビッグウッドの目の前に立ったエーシャは短刀を逆手から順手に持ち替えて、両手で二本をぴったりとくっつけた。そしてそのまま大きく振りかぶる。
「疾風破斬撃!」
振り落とされた短刀からは今までと比較にならないほどの風の斬撃がビッグウッドを真っ二つに切り裂き、木の破片が宙を舞う。
三人は無事にビッグウッドの討伐に成功したのだ。
肩で息をするほど疲弊したエーシャはそのまま地面に座った。
「お疲れ、エーシャ。はい、水」
「あ、ありがと」
琴美から水筒を受け取ると、勢い口によく流し込む。
「プハァ……生き返る」
「あとは俺達がやっておくからそのまま休んでろ」
「うん、ありがとう」
近くの木にもたれかかり、体を休ませるエーシャ。
残りの二人は急いでビッグウッドの回収を行う。
「それにしてもよくビッグウッドが明かりを狙うってわかったわね」
「エーシャの情報のおかげだ。ビッグウッドと対峙した時、あいつはエーシャや俺ではなく琴美を狙った。しかし、あの時狙っていたのは琴美ではなくおそらく明かりだったと予想しただけだ」
「その予想が的中してるんだからすごいのよ」
照れ隠しなのか、マルコの作業スピードが増す。
すぐに作業が終わり、三人はそのまま帰路に着いたのだった。
読んでくださり、ありがとございます。




