第二十六話 返済よりもまず設備
4ヶ月ぶりです。
最近、感想を見てやる気が出たので書きました。
「もうこんな生活耐えられない!!」
琴美がそう叫び出したのはメルデルが加入して数日のことだった。
今までの生活の何に不満があるのか勇とマルコには分からないが、どうやら他の女性陣|(クルトを除く)も琴美と同じく今の生活に不満を持っているようで、頷いている。
「一体何が不満なんだよ」
不満が特に見当たらない勇にとっては当然の質問。
琴美はバンッと机を両手で叩いて、声量を大にして叫んだ。
「お! ふ! ろ! 早く設置して!!」
マルコと勇は冷静に耳を塞いぎ、耳に伝わる琴美の声を抑える。
「確かに風呂はあった方が良いが、そんなに必要か?」
塞いでいた手をどかし、マルコは不思議そうに琴美に聞くと、琴美の顔は怒りで真っ赤にさせて、今までの個々の風呂事情の不満を訴えた。
「まず! お風呂がない! それに水はいつも川かヴァル湖で汲んで来ないといけないし! そもそも暖めるのに時間がかかるの!」
不満を言うたびに机を叩く。このままでは机が壊れると思えるほどだ。
「設置するのはいいけど、借金とかお金がーー」
「もし設置しないなら、こっちにも考えがあるから」
「「考え?」」
琴美とフェミナ、エーシャ、メルデルがマルコと勇の正面に一列に並んで、琴美が代表で宣言した。
「お風呂が設置されるまで! 私達四人は狩りやその他のことに一切手助けしない!」
四人の表情は真剣そのものだった。
「流石琴美。勇と対立するのは心が痛むけど、これなら要望が通るよ」
「わたくしもそう思います」
「これでお風呂に入れる!」
「そうでしょそうでしょ」
威張っている琴美とその琴美の作戦を賞賛している他の三人。確かに同等の関係にあればこの作戦は効果覿面だ。しかし、呆れた様子で勇とマルコは深い溜息を吐き、クルトは真ん中で両者を交互に見る。
「つまり、俺達かねえちゃん達が折れるまでこの関係が続くのか?」
「そうよ」
「一緒に狩りに行った場合は折半あるいは狩った方が貰うでいいんだな?」
「すいません。そう言うことになります」
「普通の生活の中でもそれは継続されるでいいの?」
「そんな風に勇と生活をするのは辛いけど仕方がないことなんだ」
「つまり、衣食住は別々と言うことだな」
「そんなこと確認しなくても君ら理解しているでしょ」
「……最後に確認。本当にいいの?」
「男のくせにしつこいわね! いいって言ってるでしょ!」
琴美達の口からはっきりと了承を得た二人はいつも通りの生活を送り始める。
「勇、昼飯はなんだ?」
「前に残ったタウルスの肉を作って何か作るつもり。人数も少ないし、凝ったものでも作ろうかな」
二人は横目で四人を見ながらあざ笑うかのように笑みを浮かべる。
「そうだな、いつもより食べる人数が少ないからな」
琴美達はようやくここで自分達のしでかしたことに気が付いた。
この作戦は対等の立場なら効果覿面。そう、お互いが対等である時の話だ。しかし、このギルドの食事を支えているのは勇であり、狩りに関しては支援のフェミナ以外は等しく出来る。つまり、琴美達がボイコットしても勇達の狩りの効率が落ちるだけだ。一方の琴美達は狩りの効率は変わらないが、料理は皆無であり、琴美とフェミナに任せた日には全員の死亡エンドが仁王立ちで待ち構えている。
「あの……勇のアニキ」
クルトが不安そうな顔で見つめていることに気づいた勇が視線が合うように腰を低くする。
「オレも……勇のアニキのご飯……食べられないのかな」
育ち盛りのクルトにとって、勇のおいしい料理が食べられないのはとても辛いことだ。
少し涙を浮かべるクルトの頭に手をポンッと置いて、頭をグシャグシャと撫でる。
「クルトはいいぞ」
「本当!?」
「お前は今回のことと無関係だ。俺も勇もクルトを巻き込む気はさらさらない」
「やった!」
飛び跳ねるクルトを大袈裟だなと思いながら、優しく笑っている二人。そして、その三人をただ茫然と見ている四人。
「こ、琴美……ど、どうするの?」
「わたくしたちのお昼ご飯はもしかして」
「あー、これウチらのご飯は抜きの空気なんだけど」
エーシャ達の質問に何も答えず、嫌な汗をかいている。
少し考えれば、こんな展開になることは分かるはずなのたが、目の前の不満に耐え切れず、こんな無謀なことをしてしまった。ある意味生命の危機を迎えている。
自分達の愚かな行動に今更ながら後悔し、涙目の四人を視界のはじで見た二人は自分のお人好しを恨みながら深いため息を吐く。
「ねえちゃん、エーシャ、フェミナ、メルねえ。席で大人しく待っててくれ、今からご飯作るから」
勇の言葉に目を丸くしている四人。
代表で琴美がおずおずとしながら尋ねる。
「い、いいの?」
「いいよ」
琴美達は勇を崇めるように謝罪と感謝の言葉を次々と並べていく。
大事に扱われ、勇は苦笑を浮かべた。
食事を済ませ、クルトはいつも通り満足している。琴美、エーシャ、フェミナ、メルデルの四人は勇の存在のありがたさを感じながらゆるみきった笑みのまま、机に突っ伏していた。
一方、勇は食器を片づけた後、手ぶらですぐに何処かに行ってしまい、マルコは自分の部屋に籠ってしまった。
二人の行動に違和感を覚えずにはいられないクルトは口を開く。
「ねぇ、勇のアニキとマルコのアニキは何してるんだ」
しかし、四人は勇達の行動を気にしていない様子。
「さぁ? 別にいいじゃない。今日もおいしいご飯が食べれたんだから」
「琴美の言う通りだよ」
体すら起き上がらせず、突っ伏したまま琴美とエーシャが会話をする。
頼みの綱のフェミナを見るが、琴美達と同様に突っ伏したまま答えが返ってきた。
「そうですよクルトちゃん。今はただ、勇さんに感謝をすることが大事なのですよ」
「そうだねー。こんなにおいしいものをいつも食べられる人なんて全然いないんだから、ウチらは勇に感謝しないといけないよ」
フェミナの隣に座っているメルデルはアホ毛をくねくね動かし、突っ伏したままそう答えた。
「オレ知ってるぞ。こういうのを手の平を返すって言うんだ」
子供のクルトですら、現状の四人に対して溜息しかもれない。
結局、勇はすぐに帰ってきたが、片手には本が握られていた。しかし、すぐに部屋に戻ってしまったため、クルトは本の題名を目視することが出来なかった。
勇とマルコは夕食以外あまり部屋から出なくなり、やっと出てきたと思うと勇はマルコの部屋の中へと消えてしまう。他の五人は二人が何をしているのか知らせれないまま三日経ってしまった。
流石に二人が心配になって何をしているのか聞き出そうとしたある日、二人から報告があるということで五人は広間に集められていた。
「全員集まったな。今から、風呂とかの必要なものを作ろうと思う」
勇の発言に前に抗議していた四人は驚きのあまり、すぐには喜ぶことが出来なかったが、頭の中で復唱していく内に自然と笑みがこぼれ始める。
「な、なんで急に……」
「お前達の不満も一理あると思っただけだ。それに、他にも必要なものなどもあったからな」
「マルコ、みんなにあれを見してやってくれ」
マルコは手に持った二枚の紙を机の上に広げた。
紙に描かれているのは何かしらの設計図だと分かるが、一枚は風呂なのは分かるがもう一枚には見慣れない形が描かれているため、何に使うものかも分からない。
しかし、琴美は設計図に書かれている絵に見覚えがあった。
「これ、冷蔵庫?」
「ああ、マルコに頼んで設計図を描いてもらった」
「勇から頼まれたんだが見たことも聞いたこともないと思ったが、やはりお前達の世界のものか」
「ああ。でも凄いな。俺の話だけでここまで出来てるとは」
素直にマルコを感心しているが、頼まれた本人は疲れ切った様子。
「まぁ、この世界の食材置場よりか遥かに保管しやすくなるからいいのだが。しかし、勇達の世界は魔法がないのに、どうしてここまで画期的なものが出来たのか。一度見てみたいものだ」
「それについて今は置いておいて。まず素材集めをしないといけない。冷蔵庫のための金属は十分にあるけど……」
「他はウチらで見つけないといけないってことね」
「そういうこと。今回は二手に別れて行動するから。まず、風呂の木材に使うビッグウッドはミリオンの森にいるらしい。そこにはマルコとねえちゃん、エーシャの三人。冷蔵庫に使うアイスジェルはラーラ山脈のダルク洞窟にいるらしいから俺とクルト、フェミナとメルねえで行く」
勇が人選を発表すると、エーシャはこそこそとフェミナに近づき、小さい声で相談を始めた。
「フェミナ……変わらない?」
「え、でも、皆さんに迷惑が――」
「マルコと一緒に行けるけど」
フェミナは迷った表情を浮かべている中、勇が異変に早く気づきエーシャの頭をペシッと叩いて交渉を終らせた。
読んでくださり、ありがとうございます。
長い間放置してしまった中、こうして読んでくれる方がいると思うと、喜ばしい事です。
不定期になってしまいますが、なんとか書いていこうと思います。




