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お支払いは異世界で  作者: 恵
17/46

第十七話 闘技大会

今回で大会編に入ります。


 ギガグリズリーを倒し、家に戻った五人を待っていたのは、椅子に座っているシエルだった。


「やぁ」

「シエルさん、当然のように不法侵入しないでくださいよ」

「いいじゃないか、元は私の家だったんだから。そんなことよりもギガグリズリーは倒したのかい?」

「もちろんです! 私の魔法でとどめを刺しました」


 琴美は胸を張り、ドヤ顔をしている。


「それは凄い。なら、君達なら実力は十分だね」


 シエルはポケットに手を入れ、折りたたんだ髪を取り出し、勇達に見えるように広げた。


「「「「「闘技大会……」」」」」

「そう、君達にはこれに出てもらおうと思って」

「でも俺達じゃすぐに負けーー」

「優勝賞金は百万ジーグ」


 勇の言葉を遮るようにシエルが発した優勝賞金の額は勇達が一ヶ月半狩りをして得た金額を超えている。

 勇達の借金は現在十億五十一万ジーグ。

 この賞金が手に入れば、借金の完全返済に近づく。

 勇と琴美の目の色が変わる。


「やる気出た?」

「「出ない方がおかしいです!」」

「この機会に力を試すのも悪くないか」

「勇が出るならボクも出る!」

「わ、わたくしは……」

「そう言うと思って」


 フェミナを除く四人はこの時点で何かを察した。

 シエルはポケットから新たな紙を勇達に突き出す。


「もう済ませてるから」

((((やっぱり……))))

「?」


 いつものように本人達の了承無しで大会の登録を勝手に進めていたシエル。

 答えは分かっているが勇はあえて訊く。


「……俺達が参加しーー」

「聞きたい?」

「結構です」


 シエルも訊かれることは分かっているため勇が言い切る前に訊き、ほぼノータイムで勇が答える。


「大会はいつあるんですか? 俺達にも準備する時間があるんで」


 マルコは冷静に肝心なことを聞いた。

 シエルはニッコリ笑う。この時点でマルコの頭には嫌な予感が横切る。


「あ・し・た」


 キャハッと言ってウィンクしながら笑顔を振りまくシエル。もうマルコは頭を抱えることしか出来ない。


「そういうことだから、頑張ってねー」


 シエルは立ち上がり、風のように去っていった。

 残された五人はシエルが出した紙を見る。シエルが最初に出した紙には大会について書かれていた。


<先着十六名でトーナメントを行います。アイテム、武器の制限なし。場所はスルン闘技場。優勝賞金は百万ジーグ! 大会にはレクスさんも出場!! >


 もう一方の紙には勇達の名前があるが、フェミナの名前はなかった。


「流石のシエルさんもフェミナを大会には出場させてないな」

「よ、よかったです。わたくしが一人で戦う事なんて出来ませんから」


 安心するフェミナ。


「それよりもこのレクスって誰だ?」


 勇はみんなの顔を見るが、琴美ですら、お前本気で言ってるの? と言いたげな表情を浮かべている。


「な、なんだよ」

「お前の情報の更新はやはり遅いと改めて実感してな」

「勇さんがこの地域に住み始めて一ヶ月半ですが流石に知っていないとおかしいとわたくしも思います」


 フェミナでさえも自分を否定するため、勇は軽いショックを受ける。


「ね、ねえちゃんは知らなかったよな、な!」


 琴美は呆れた様子で話す。


「ここに住み始めてからよく見る名前だったから二週間ぐらい前にマルコに訊いた」


 同じ世界から来た琴美でさえもレクスと言う人物を知っていおり、さらにショックを受ける勇。


「勇、大丈夫?」


 勇の心配をするエーシャ。

 今の勇には心にしみるほど嬉しい。


「もう、味方はエーシャだけだよ」

「……ねぇ、勇」

「何?」

「襲っていい? てか、襲うね!」


 エーシャが動き出す前に琴美とマルコが片腕ずつ持ち、エーシャの動きを止める。


「はーなーしーてー! 勇がボクだけに心を開いてる今がチャンスなんだ!」

「させないわよ!」


 必死にエーシャを止める琴美とマルコ。こういう時のエーシャの力は異常なほど発揮される。


「フェミナ! 勇にレクスのこと教えてやれ!」

「は、はい!」


 エーシャが勇を襲う前にフェミナは少し早口でレクスについて話し始める。


「レクスさんはこのスルンで数少ない上級魔法を使える方なんです。出場した大会は必ず優勝しているほどとても強い方なのです」

「へぇー、そんな強いのかレクスって人は……もう、エーシャを離しても大丈夫」


 二人はフェミナを離した。


「うー、折角のチャンスが」

「自重しなさい。……って、そんなことより今はレクスについてよ。優勝狙うならレクスに勝たないと。どんな魔法を使うの?」

「今までの大会ではレクスは光の剣(ライトソード)と言う上級魔法だけを使っているらしい」


 勇はつばをゴクリと飲む。


右の剣(ライトソード)……右利きなのか」

「勇、多分それ違う。まぁ、今さら相手のことを考えても仕方ないわ、明日のためにも今日は体を休めましょ」


 琴美の意見にみんなは頷き、この後の狩りなどもやめ、ゆっくりとギガグリズリーとの戦いの疲れを癒した。




 次の日。

 勇達はスルンの中央にあるスルン闘技場の前に到着していた。

 ここでは月に数回何かしらの大会が行われているが、大会の規模と今回はレクスが参加しているため、アルクス中の色々な街や村から来た観客が押し寄せ、一種のお祭り騒ぎで街中賑わっている。


「なんとか着いたな」

「人多過ぎよ! この距離なら歩いて十五分で着くのにここまで来るのに三十分かかってるわよ!」

「大会の受付に遅れると思ったよ」

「話してないでさっさと受付に行くぞ。フェミナは大会に参加してはいないがサポーターとして俺達に付いてきてくれ」

「分かりました。頑張ります」


 五人は闘技場に入り、すぐ近くの受付で登録を済ませる。


「これで登録は完了です。すぐに開会式が始まりますので職員の後に付いて行ってください。サポーターの方は少しここで待っていてください。別の職員が案内しますので」

「は、はい。皆さん頑張ってください!」


 フェミナを残し、一人の職員が勇達を闘技場に続く扉の前まで案内する。

 そこには職員二人と勇達を除いた参加者が集まっていた。しかし、レクスらしい人物はそこにはいない。


「それでは開会式が始まります。扉を開きます」


 二人の職員は両扉を押して開く。

 少しづつ扉から光が差していく。そして、扉は完全に開かれた。

 扉を通り抜けた参加者に待っていたのは観客席から上がる歓声だった。


「皆さん! 今! 参加者が入場してまいりました! この大会でどんな戦いが生まれるのでしょう!」


 参加者は実況者と歓声に動じることなく歩みを続ける…………一人を除いて。


「な、何!? え、ええええ!? 」


 参加者の空気を壊す勢いで戸惑う勇。


「おっっっっっっと! 一人だけ異常に慌てているぞ! 大丈夫か!?」

「勇、慌てすぎよ」

「あいつ……」

「慌ててる勇もいいよね」


 参加者は闘技場の中心まで来ると歩みを止めた。


「参加者の入場が終わり、早速主催者のお言葉をいただきたい……と、言いたいところですが! まだ、一人ここにはいない参加者がいます。そう! スルンの誇り! 我らの英雄! レクス選手です! さぁ、登場していただきましょう!」


 勇達が出てきた扉とは反対側の扉が開かれる。そこに現れたのはまるで騎士のように全身を鎧で包む銀髪碧眼の青年が立っていた。そして、参加者の方へと歩き合流する。

 と、同時に観客の歓声は一層勢いを増す。


「流石我らの英雄! 人気は絶大です! ……では、参加者も揃ったので主催者のお言葉をいただきましょう」


 実況者に変わって、大会の主催席にいた初老の男性が口を開く。


「私も観客の皆さんも楽しみにしています。なので、私の言葉は手短に…………今までの鍛錬を存分に発揮してください。ただそれだけです」


 言い終えると初老の男性は席に座る。


「ありがとうございます。では、早速、今大会のルール説明をします! 皆さん上空を注目!」


 上空に魔法によって映像が映し出される。

 そこにはルールについてのことが書かれている。


「ルールは簡単! 相手が戦闘不能になるか、降参した時点で勝負は終わります! 武器、アイテムなどの制限はありません! なお、トーナメント形式のためランダムで振り分けさせてもらいます。その結果がこちらです!」


 ルール説明が消え、次に映し出されたのはトーナメント表だった。

 Aブロックに琴美とエーシャ、Bブロックにはマルコと勇と綺麗に分かれている。


「それでは第一回戦Aブロック! 琴美選手VSモート選手です! それでは琴美選手とモート選手以外の方は三階の観客席または二階の参加者専用の席で試合をご覧ください!」

「琴美頑張ってね!」

「あまり緊張するな。うまく魔法が使えなくなるからな」

「ね、ねね、ねえちゃんなら勝てるよ」

「あんたはいい加減落ち着きなさい」


 三者三様で琴美に言葉を贈った三人は二階に向かった。

 二階にはサポーターのフェミナがすでにいた。


「みなさん、こっちです!」


 勇達を誘導し席に座らせ、全員で観戦する。

 現在、琴美とモートと言う女性の剣士がにらみ合っている。


「それでは試合開始!」


 試合開始と同時にモートは琴美に襲い掛かる。


「てぇぇやぁぁぁぁ!」


 琴美は上手く杖を使い剣を受け止め、剣を払いのける。

 体勢を崩した相手に杖で腹部を殴る。

 モートは吹っ飛ばされるが体勢をなんとか持ち直し、ウィンドを放つ。琴美は避けずにフリーズで対抗する。

 ウィンドとフリーズが激しくぶつかり合い、高音の音がうるさいぐらいに響き渡る。

 ウィンドとフリーズは爆発し、砂埃を巻き上げ、二人の視界を狭めた。

 琴美は注意して、杖を構える。

 突如、砂埃の中からモートが飛び出す。

 琴美は驚いてしまい、バランスを崩してしまったが、そのおかげでモートの斬撃を運良く避けることに成功した。

 琴美は右に転がり、すぐに立ち上がった。


「アイスサークル!」


 琴美の周りの地面が円状に凍り始め、モートの足元まで伸びる。

 モートはその場を離れようとするが靴が凍ってしまい、動けなくなってしまう。

 琴美はさらに追撃の魔法を唱える。


「フリーズ・ブロッサム!」


 凍りの蔓がモートの手足に巻きつき、体を凍らせていく。モートはもがくがついに首から下が氷で包まれてしまった。


「まだやる?」

「くっ…………降参です」


 試合終了の合図のように観客達は声を上げた。


「決まったーー!! 勝者、琴美選手! 試合時間は短かったが試合はそれを感じさせないほどの内容でした!」


 琴美は魔法を解き、モートの体の氷を消した後、すぐにその場から離れ勇達のいる二階に上がった。


「ねえちゃん、おめでとう!」

「おめでとうございます!」

「琴美、やったね!」

「なかなかいい戦いだったぞ」

「ありがとう、みんな」


 四人が琴美の勝利を祝っている内に次の試合が始まる。


「さぁ、次はレクス選手とカエオダ選手の試合です! お二方、準備はいいですか?」


 その質問に対してレクスとカエオダと呼ばれた男は一回だけ首を縦に動かした。


「試合開始!」


 カエオダは試合開始と同時にレクスに殴りかかる。しかし、レクスは簡単に避け、距離をとる。


「ライトソード」


 レクスの右手に光が集まり、剣のような形になっていく。

 そして、レクスはただその剣をカエオダに向かって振ると、光の斬撃を生み出し、カエオダに向かう。

 カエオダは避けることが出来ず、直撃でくらい気絶する。

 試合が始まってからここまでにかかった時間は僅か十秒だった。


「決まったぁぁぁぁ! レクス選手、強い! 強すぎる!」


 カエオダはすぐに職員に運ばれ、レクスはその場を去った。


「凄い……」

「あれが……ライトソード」

「あれで決まるなら、他の魔法を使う必要がなくなるわね」

「勇、ボク達レクスに勝てるかな?……勇?」


 勇の返事がないので、勇の方に顔を向けるエーシャ。

 勇はじっとレクスだけを見ている。


「勇ってば!」

「え、何?」


 エーシャの言葉にやっと反応した勇。


「どうしたの勇」

「いや、ちょっとな……それよりも次の試合エーシャだろ」

「あ、そうだった」


 エーシャは急いで闘技場に向かった。


「それでは、次の試合!エーシャ選手VSアルトル選手です!」

「君、さっき一緒の部屋で試合見てたよね? よかったらこの後お茶しない?」


 試合前にイケメンスマイルで堂々とナンパするアルトル。


「おーっと! アルトル選手、試合前にナンパとはなんと大胆!」


 エーシャはにっこり笑って、


「無理」


 とキッパリ断る。


「ボクには大好きな人がいるの!」


 二階にいる勇を見ながら手を振る。

 された本人は恥ずかしさで頭を抱えていた。


「アルトル選手、残念!断られてしまった!」

「あの人が君の好きな人? ……あんな弱そうな男より僕を選びなよ」


 それを聞いたエーシャの目に光がなくなり、アルトルをゴミとして目視し始める。


「……さっさと試合始めて」

「へぇ?」

「ハヤク」


 実況席にいる実況者に顔を向けて催促するエーシャ。


「そ、それでは! 試合開始!」


 エーシャの表情に恐怖した実況者はすぐに試合開始の合図を出した。


「もうせっかちだな。もっと僕とーー」


 アルトルが闘技場で最後に見た光景は鬼神とかしたエーシャが短刀を振りかぶっている姿だった。

 エーシャは勢いよく短刀の柄でアルトルの頭を殴り気絶させる。

 気絶させるまでにかかった時間は五秒。

 実況者と観客はポカーンとしている中、エーシャはスタスタと二階に戻っていく。

 我に返った実況者は試合の進行を再開。


「し、勝者! エーシャ選手! 目に止まらぬ速さでアルトル選手を倒しました! さて、続いての勝負はーー」


 勇達の元に戻ってきたエーシャ。


「エーシャおめでとう」

「おめでとうございます」

「二人共ありがとう。……マルコと勇は何やってるの?」


 部屋の端でうずくまっている勇と勇の肩に手を置くマルコのことを訊くエーシャ。


「気にしなくていいわよ」

「……なぁ、マルコ」

「分かっている、お前の言いたいことはなんとなく分かっている」


 エーシャが試合の前にした行動で同じ部屋にいた参加者や観客に一斉に見られ、恥ずかしい思いをした勇だった。


「さぁ! Aブロック一回戦もただ今全て終わり、今からBブロック一回戦を始めます!Bブロック最初の試合はマルコ選手とマキシ選手です!」

「勇、俺はもう行くが気を確かにな」

「あぁ」


 勇は立ち上がる。


「マルコ、頑張れよ」

「ボク達に続いて勝ってよね!」

「負けたら許さないから」

「マ、マルコさん!がが、頑張ってください!」

「分かっておる」


 マルコは少し微笑んで部屋を去る。同時に闘技場から大男が姿を現わす。


「フン! マロコだかマルオだか知らねぇが俺のこの肉体に勝てる奴なんていないんだよ!」


 マキシは体全身を使って鍛え上げられた肉体を観客にアピールをする。


「だから! 俺はそいつに一つ選択をさせるつもりだ! 棄権するかケガして負けるかだ!」


 マキシの発言に観客のボルテージは一気に上がった。


「あいつ、強そう」

「マルコ大丈夫かな」


 エーシャと琴美はマルコの心配をしている。しかし、勇とフェミナは何かが引っかかっている。


「あの人……」

「どこかで見たような」


 闘技場の扉がゆっくりと開きマルコが入場する。そして、マキシの背後に立った。


「ほう、随分と強気だな」

「テメェがマルオか……」


 振り返ったマキシはマルコの顔を見て固まってしまう。観客も参加者もなぜ固まっているか分かっていない。しかし、勇とフェミナはこの時、マキシのことを思い出した。


「「あっ……」」


 マキシは以前フェミナが回復した時に難癖つけて金を巻き上げようとしたが、マルコにあっさりと腕を折られ、足ばやと逃げた人物。

 マキシの顔色はみるみると青ざめていき、過去の恐怖で脚がガクガク震えている。


「選択させてくれるんだったな……なら試合をする事にしよう。そして俺からもお前に選択させよう」


 不敵な笑みを浮かべてマルコはマキシに一歩近づき、マキシは一歩退く。


「気づいた時にはベッドの上にいるか、闘技場の真ん中で倒れているか……どっちだ? まぁ、どっちも両腕、両脚が使えなくて起き上がれないだろうがな」


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 マキシはその場を全速力で逃げ出した。

 闘技場では再び観客と実況者はポカーンとし、数秒の静けさが広がる。


「こ、これは……マキシ選手が逃亡してしまいました! この場合はマルコ選手の不戦勝となります」


 マルコは向きを変え闘技場を去り、二階に戻った。

 マルコを待っていた四人はなんと言っていいのか分からない。


「えーと、おめでとう?」

「流石、マルコの実力?」

「頑張ったね?」

「マ、マルコさん、あの……」

「疑問符付けるぐらいなら無理に言わなくてもいい!」


 マルコ自身も試合自体出来ていない事には少し納得がいっていない。


「そ、それでは次の試合! ウェルド選手VSべリア選手の戦いです!」


 闘技場に現れたのは大剣を持った男性のウェルドと黒い鎧を身に纏い、斧を片手で持ち、口元に黒いひげを生やす男性のべリア。


「試合開始!」


 ウェルドは一気に飛び出し、剣を大きく振る。


「はあぁぁ!」


 しかし、べリアは避けようとも守ろうともしなかった。

 ただ、棚に置いてあるものを取るようにウェルドの剣を片手で掴んだ。


「な、何!?」


 べリアは掴んだ剣をウェルドごと軽く放った。

 ウェルドは綺麗に着地した後、魔法を唱える。


「メガフレイム!」


 フレイムの大きさ、火力を遥かに超える火の玉をべリアに向かって何度も何度も放ち、べリアは爆発と砂煙に包まれた。


「なんて魔力量なの……あれだけ連続で使ってるのに魔力が落ちる様子が全然ない」


 魔法使いである琴美にはウェルドの魔法の実力が痛いほど分かる。

 ウェルドは相当強い。

 だが、砂煙が収まっていくと、そこには何事もなかったように立つべリアの姿があった。

 観戦していた全員が驚く。


「ふ……ふはははははははははは! それがお前の実力か……」

「なぜ……立っている……メガフレイムをくらったはず!」

「驚くことも無理ないな……確かにあれを全てくらったら俺は倒れていた……だが」


 べリアは不気味な笑みを浮かべる。


「俺の破壊(デストロイ)には意味はないがな!」

「クソッ! メガフレイム」


 さきほどよりも魔力を込めて放つ。

 対してべリアはゆっくりと片手を前に出す。


「デストロイ」


 べリアが魔法を唱えるとメガフレイムはべリアに届く前に爆発してしまった。


「そ、そんな……」


 圧倒的な力の差に心が折れてしまったウェルド。そんなウェルドにべリアは一歩近づく。


「ひぃっ! こ、降参です!」


 その場から逃げるウェルド。


「決まりました! べリア選手、見事勝利を手にしました! さぁ、次の試合にーー」


 試合が終わったはずのべリアはその場からすぐに離れず、大声で話し始める。


「レクス! 俺はお前に勝って名を広める! そのために俺はこの力を手に入れた! 決勝戦で待っておれ!」


 べリアはそれだけ言い残して闘技場を去った。


「べリア選手! レクス選手に宣戦布告! これは面白い展開になったぞ!」

「べリアと言う奴、強い魔法を使うな」

「でも、なんだか怖いです」

「十分注意しないと……勇と琴美もそう思ーー」


 同意を求めようと琴美と勇の方に顔を向けるが勇は憎むように、琴美は恐れるような表情をしている。

 べリアが使った魔法、勇にとっては姉を傷付けた魔法であり、琴美にとって自ら使った魔法……正確には同系統の魔法。

 二人は口をそろえて言った。


「「サクリファイス」」

「なんだと!?」

「嘘!?」

「そんな……」


 以前琴美が誤って使ったダークインパクトと同じサクリファイスだと知り、驚きを隠せない。

 五人の周りの空気が一気に重くなる。


「だ、だとしても……今は目の前の試合に集中しよ! 次は勇の番だし!」

「……そうだな」


 琴美と勇の表情が戻り、笑みを浮かべる。


「さて、次は勇選手VSクィット選手の試合……」

「みんな、行ってくる!」

「頑張れよ」

「勝ちなさいよ!」

「勇頑張って!」

「頑張ってください!」


 四人からの応援を貰いドアノブに手をかける勇。


「と、言いたい所ですが! なんとクィット選手がさきほど、体調不良のため辞退することを宣言しました。そのため勇選手の不戦勝となります!」


 勇はゆっくりとドアノブから手を離し、隅っこでうずくまる。


「「「「…………………………………………」」」」

「せめて何か言ってくれ!」

「さて、一回戦最後の試合! クルト選手VSマドリア選手の試合です!」


 勇達と同じ部屋にいた小柄で布を頭から被った人物が部屋を出て、闘技場に入場した。


「あら、子供が相手なの? これは勝ったも同然ね」


 先に入場していたマドリアと呼ばれる女性は余裕の態度をする。


「それでは試合開始!」


 クルトは被っていた布を捨てる。

 そこに現れたのはとても可愛らしい顔をした十歳ぐらいの子供だった。


「まぁ、可愛い。ボウヤ、このあとお姉さんと一緒に遊ばない?」

「オレは……ボウヤじゃない!」


 懐からナイフを取り出し、マドリアに襲い掛かる。

 マドリアは簡単にそれを避けた。


「もう、野蛮ね。しょうがない、すぐに終わらせてーー」


 マドリアは腰にある剣を抜こうとしたがあったはずの剣がなくなっていた。


「あれ、私の剣がない」


 クルトをよく見るともう片方の手にマドリアの剣らしきものが握られていた。


「ちょっとそれ返しなさい!」

「やだね!」


 クルトが逃げ回り、それを追うマドリア。まるで鬼ごっこだ。


「返しなさゲフッ!」


 クルトが捨てた布で足を滑らせたマドリア。

 すかさずクルトが鞘に入ったままの奪った剣でマドリアを思いっきり殴る。


「ぎゃぷっ!」


 そのまま意識を失ったマドリアはもう試合を続けることは出来ない。


「決まりました! クルト選手、マドリア選手が運悪く布に足を取られたすきに勝利を掴みました!」


 しかし、勝ったはずのクルトは喜んではおらず、どちらかと言うと悔しそうにしている。


「これで一回戦の試合が全て終わりました! 二回戦は十分の休憩の後始めます! ですがその前に、二回戦の対戦順をお知らせします!」


 上空に再び映像が映し出され、この後の予定について書かれている。


「まず第一試合はエーシャ選手VSベエル選手! 第二試合、勇選手VSクルト選手! 第三試合、琴美選手VSレクス選手! 第四試合、マルコ選手VSベルゴ選手! 以下のように試合を進行したいと思います。それでは十分の休憩に入ります」


 映し出された映像が変わり、十分の表示がされ、時を刻みだす。


「ねえちゃん、マルコ」

「心配しないでよね、私だって強くなったんだから」

「俺のことも心配するな、ベルゴは俺が倒す。だから勇もエーシャも負けるなよ」

「そのつもりだよ。ボク達四人で優勝を争おう」

「みなさん……無理しないでください」


 その後、各々が試合に備えて準備をし、あっという間に十分が過ぎた。

 そして、二回戦の幕が上がる。

読んで下さり、ありがとうございます。

この後の話はまだ執筆途中のため、時間がかかります。

なのでまた少し時間を空けることになりますが、どうかお待ち下さい。

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