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お支払いは異世界で  作者: 恵
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第十四話 気分転換

 修行開始から四日目の朝。

 現在マルコ、エーシャ、フェミナの三人は琴美の魔法の修行を手伝っている。


「フリーズ・ランサー!」


 琴美は魔法を唱えるが氷の柱の先端は丸みを帯びているため、岩に貫く以前に氷が砕けてしまう。

 初日と比べると明らかに酷くなっている。


「琴美、初日とは全然違うぞ」


「分かってるわよ!」


「琴美、焦っちゃダメだよ。心を落ち着かせて集中するんだ」


「分かってるけど」


 一応、琴美はフリーズ・ランサーを唱える前に座禅をしていた、しかし失敗する。


「おそらく琴美さんは槍のイメージに集中し過ぎて土台を意識していないのだと思います」


「と言われても、氷の槍って私からすると少し想像しづらい」


 イメージが重要になる魔法でイメージしづらいことはなかなか致命的である。


「何故想像しやすい魔法にしない」


「探した中で想像しやすいのがこれなの」


 その場に座り込む琴美。四日間修行が続き、食事や寝る時以外は修行をしているためか疲れが見える。

 それを心配したフェミナはある提案をする。


「少し息抜きしませんか? もしかしたら気持ちがリフレッシュして魔法が発動出来るかもしれませんし」


「……それは一理あるな」


「なら、ヴァル湖を散策しようよ! 案外新しい発見があるかも」


 周りが盛り上がっているが琴美はスッと立ち上がり、修行を続けようとする。


「みんなにこれ以上は迷惑かけられない。数をこなせば成功するはず」


 しかし、琴美の修行をフェミナは優しく止める。


「琴美さん、先ほどエーシャさんが言った通り焦ってはいけません。たまに息抜きすることが成功への近道ですよ」


「フェミナ……そうね、エーシャにもシエルさんにも焦るなって言われてるのに。……よし! 散策するわよ!」


 四人は一旦修行を中断し、一緒にヴァル湖の散策しようとしたが、マルコはアイテムの補充のため一人別行動で街に戻った。


「散策始めようか」


「その前に、今日の昼と晩の食材調達するわよ」


 琴美は鞄の中から鞄の大きさに不釣り合いな釣竿を出す。

 マルコが鞄をワープインプのクリスタルで作り直したおかげで、鞄に入らないはずの大きさでも入れれることが可能なっていた。


「はぁ、しょうがないか」


「生きるためですからね」


「で、琴美、餌は?」


「現地調達」


 三十分かけて、餌取りを行ったがその際琴美の悲鳴がヴァル湖中に響き渡り、フェミナは心配するが、エーシャは気にせず餌取りをしていた。


「ヒール」


「フェミナ、ごめん」


 マウスワームに指を噛まれた琴美を回復魔法で治療するフェミナ。


「気にしないでください。私の練習にもなりますから」


 とフェミナは言うが、回復魔法はほぼ完璧に使いこなしているため、これが練習になるかは分からない。


「……ありがとう。釣りを始めましょ」


 指の傷が治り、針に餌を付けそれぞれ釣りを始める。

 数分後にフェミナの釣竿に当たりがくる。


「き、来ました!」


「フェミナ落ち着いて!」


「ゆっくりでいいから、慌てると糸が切れるから」


 フェミナは頷き、自分を落ち着かせタイミングに合わせ釣竿を上げる。


「「「きゃああぁぁぁぁぁぁ!」」」


 三人の悲鳴がヴァル湖に響き渡る。

 針に引っかかっている……いや、針を手で掴んでいる魚は日焼けしたように真っ黒な色をし、まるでボディビルダーのように筋肉がムキムキになっている。


「何これ!? なんか気持ち悪い!」


「どうするの琴美!? ボク、あいつ触りたくない!」


「はわわわわ」


 フェミナは釣竿を左右に振って落とそうとするが掴んだ針を離そうとしない。


「全然落ちません!」


「なんで自ら捕まりに来てるのあいつ!?」


「フリーズ!」


 琴美は魚を凍らせ、フェミナの代わりに釣竿を持ち、凍った魚を地面におろす。そして、魚の手から針を離した。


「二人共、これ食べたい?」


「ボクはいい」


「わたくしも出来れば遠慮したいです」


 三人がジーっと凍った魚を見ていると、魚の筋肉がピクピクと動く。


「「「いやああぁぁぁぁぁぁ!」」」


 エーシャは凍った魚を片手で掴み、湖に投げた。

 湖に落ちた魚はそのままゆっくりと沈んでいく。


「 はぁ、はぁ、……あいつが来ても絶対捕まえちゃダメだから」


「分かってるわよ」


「出来ればもう見たくありません」


 その後は順調に魚を釣っていった。

 途中、腕だけ解凍された魚がまた針を掴んでいたが、琴美が再び凍らせ、持っていた縄で石と魚を縛り、湖の底に沈めた。

 二時間で釣った魚は全部で二十二匹。十分に食材を確保することが出来た。


「よし、後は調理するだけね」


「ボク、お腹すいちゃった」


「……あのー」


「どうしたのフェミナ」


「調理って言っても焼くだけですよね?」


 エーシャと琴美はフェミナの肩に手を置く。


「誰も料理出来ないんだからしょうがないじゃない」


「フェミナは料理出来るの?」


「す、すいません」


 結局魚を六匹焼き、味付けは塩だけのとてもシンプルなものになった。


「なんか、物足りないわね」


「勇が使ってる塩があるだけマシだとボクは思うよ」


 魚を食べ終えた三人は本日の目的のヴァル湖散策を始める。


「ここって、色々な花が咲いてるんだね」


「ヴァル湖は魔物があまり近づかないみたいで植物が育つにはピッタリな環境なのだと思います」


「……綺麗」


 琴美は花に目を奪われている。


「琴美さんは花が好きなのですね」


「ええ、花の名前を覚えるほど好きよ。でも、ここにある花の名前はあまり知らないけど」


「よろしければわたくしが教えますよ」


「あ、ボクも教えてー」


 三人は楽しく時間を過ごしていった。




 三人とは別行動で街に戻っているマルコは不足しているアイテムを買おうとしたが、いつも使う店の在庫が少なかったため、他の店でアイテムを探していた。その結果、予定よりも時間がかかってしまい、昼食はパンで済ませた。

 マルコが買い終わった時には昼をとっくに過ぎていた。

 マルコはヴァル湖に戻ろうとするがすぐに歩みを止める。体の向きを変え、シエルの家に向かった。

 シエルの家の前に着いたマルコは扉を叩く。

 家主であるシエルが扉を開く。


「どちらさ……あぁ、マルコくん」


「勇が来ませんでしたか」


「……やっぱり、君にはバレてるか」


 右手で頭を掻くシエル。


「来たよ。でも、今は違う所にいるけど、会う?」


「……いえ、いいです。ただ確認したかっただけです。それにあいつが決めたことですから。でも、あいつがいなくなって悲しむのはもう琴美だけじゃないことだけは分かっててほしいですけど」


「勇くんは本当に幸せ者だな」


 シエルはボソッと言った。


「では、俺はこの辺で失礼します」


「気をつけてね」


 ヴァル湖に戻るマルコの後ろ姿にシエルは手を振った。




「何をしている」


 花の冠を頭に乗せている三人を見ながらマルコは言った。


「これはちょっとはしゃぎ過ぎただけで……」


 恥ずかしさで三人は少し顔を赤くしている。


「まぁ、いいだろ。日も沈んできたし、晩飯とかの準備でもするか」


「食材ならボク達が釣っといたよ」


「それはありがたい。と言っても料理出来る奴がいないから焼くだけだがな」


 マルコは木の枝を集め、火を付け、魚を焼き始める。


「……いい加減その冠を頭から取れ」


「えーかわいいのに」


 仕方なく三人は花の冠を取る。

 マルコはいい具合に焼けてきた魚に塩を振り、三人に手渡す。

 四人は焼けた魚にかぶりつく。


「そういえば、マルコの帰りが遅かったけど、何かあったの?」


 エーシャはマルコに尋ねるが平然とした顔で答える。


「いや、少し他のアイテムを見ていただけだ」


 勇のことは言わない方がいいとマルコは判断した。


「で、そっちはどうだったんだ? 息抜きは出来たか?」


「バッチリよ」


「なら、明日は期待できそうだな」


 魚を食べ終えた四人は明日のことで話し合いをする。


「明日も琴美の修行に俺達三人で見る。おかしなところがあったら指摘していってくれ」


「分かりました」


「分かった。琴美、明日は成功させようね」


「そのつもりよ」


 話し合いは終わり、四人はすぐに眠りについた。




 翌日、起きた四人は修行を始める。

 琴美は昨日と同様に座禅行う。他の三人も同じように座禅をする。

 一時間後、四人は立ち上がり、琴美は魔法を唱える準備をする。


「琴美さん頑張ってください!」


「魔法のイメージは大切だからね!」


 ゆっくりと息を吐き、魔法のイメージをする。

 前回よりもイメージがはっきりしている。


「フリーズ・ランサー!」


 氷の柱は真直ぐ伸び、先端は槍のような形状となって岩を貫く。


「これは……」


「琴美さん」


「琴美、これってもしかして」


「で、出来た……」


 琴美は見事にフリーズ・ランサーを発動させることに成功したのだ。


「やったー! マルコ、エーシャ、フェミナ! 私、やっと中級魔法が使えるように」


「そうだよ! 使えるようになったんだよ!」


「おめでとうございます!」


「これで、目的は達成したな」


 まるで自分のことのように三人は琴美の魔法発動を喜ぶ。

 しかし、喜ぶ四人に一つの影が近づいていた。

読んで下さり、ありがとうございます。

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