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お支払いは異世界で  作者: 恵
12/46

第十二話 修行開始

 昨日の体のだるさが嘘のように消えた琴美はシエルにお礼を言った後、すぐに家に向かった。


「ただいま」


「おかえり。はい、これ」


 勇は荷物を琴美に渡し、早速、修行を始めるためにヴァル湖に向かう。

 数十分後にはヴァル湖に到着した。


「とりあえず、どうやって修行する?」


 提案者が無計画過ぎて、琴美はこの先の修行が不安になる。


「どうせ、無計画だと思っていた。安心しろ、俺が内容を考えてきた」


 マルコは一人ずつ課題を与えていく。


「まず、フェミナは回復魔法の練習を含めて、ちょっとした傷を負ったら、すぐに回復魔法を行え」


「は、はい!」


「琴美はもちろん、中級魔法の練習。それが今回の一番の目的なことを忘れるな」


「分かってる」


 琴美は真剣な眼差しでマルコを見る


「よし。エーシャは……好きに修行していい」


「いいの? なら……」


「ただ、今朝言ったことは守れ」


 エーシャの動きが一瞬止まった。


「……ナンノコトダッケ、ボク、ワスレチャッタナー」


「ほう、忘れたのか。なら、教えてやる」


 棒読みで話すエーシャに、マルコは青筋を立てながら、今朝の話の内容を一字一句そのままで話す。


「お前は勇が何かあるたびに過剰に反応する。だから克服のため、修行している時、勇との接触は禁止だ」


「アレー、ユウジャナクテ、オジイサンジャナカッタ?」


「何故、俺が魚類の接触を禁止するんだ」


 オジイサンとは勇が以前ヴァル湖で釣った、白くてヨボヨボな魚である。


「もし守れなかったら、修行が終わってから一週間は勇と離れて暮らしてもらう」


「マルコはおもしろい冗談を言うね。ね、勇」


 勇に同意を求めようと振り返るが、勇はただにっこりと笑い、黙っている。


「……嘘……だよね?」


「勇にも同意を得ている。安心しろ、休憩の時などは接触を許す」


「目の前に勇がいるのに接触禁止なんて、マルコの鬼!」


「一週間合わないよりマシだろ? これ以上ゴネるなら今すぐにでも離れて暮らさせるぞ」


 これを聞いたエーシャは口に出しそうだった言葉を無理やり飲み込み、これ以上の反発はやめた。


「あとは勇だが……お前はどうする?一応考えてはいたが」


 勇は考える仕草をし、少し時間を置いてから答えた。


「俺は新しい武器に挑戦しようかと思う。折角マルコがウェポンホルダーを作ってくれたんだし」


「分かった。俺はもう少し、魔力を高めるつもりだ。でなければ、アーティファクトの質が上がらない」


 こうして、琴美とマルコ、エーシャとフェミナ、勇と分かれ、各々の課題を持った五人は修行を始めた。




 修行開始一日目。

 マルコと琴美はヴァル湖に残り、他の三人はヴァル湖から離れ、修行をしている。


「まず、魔力の質と量を高める。とりあえず、座禅をする」


「そんなのでいいの?」


「魔力は精神と深く関わる。だから、魔物と戦うよりは心を落ち着かせた方が魔力は高まる」


 事実、精神的に不安定になると、質の悪い魔力になったり、魔法自体が発動しないことがある。


「へー。でも、簡単そう」


 琴美は地べたに胡座をかいて座る。マルコも同様に座る。そして、二人は静かに目を閉じた。

 風が吹く音、湖がゆっくり波打つ音、鳥達の鳴き声、ヴァル湖にはそれらの音しか聞こえない。

 ゆっくりと時間が過ぎていく。


「……………………」


「……………………もうダメ!」


 琴美の集中が切れてしまい、後ろに倒れる。

 マルコはゆっくりと目を開く。


「結構集中してたと思うんだけど、始めてからどれだけたった?三十分ぐらいやった感覚なんだけど」


「……十分だ」


「じっ、十分!?」


 予想よりも三分の一しかたっていない。


「言っておくが、これは戦うよりキツイぞ」


「でも、ただ集中して、座るだけ」


「そう。だが、それだけだ」


 この時、琴美はこの修行の辛さを理解した。

 ただ座るだけ、集中するだけ、それ以外はしない、してはいけない。

 これが、簡単に見えて、とても苦しい。

 何かをしている最中は時間が頭から離れて、いつの間にか一時間になっていることはよくある。たが、何もしていないと、時間を頭から離れさせれず、本来の時間の流れを体が感じ、通常よりも体感時間が長くなってしまう。


「これを1日一時間、魔法を使う前に行うと効率的に鍛えることが出来る」


「うー。頑張るしかないか」


 辛い顔をする琴美はだが、この修行自体が自分のため、弱音を吐いてはいけない。


「なら最初からだ」


「最初から!?」


「当たり前だ。間に間に休憩して集中出来るわけないだろ」


 マルコは再び目を閉じる。

 琴美も渋々目を閉じる。


(……鳥の鳴き声って、こんなに大きかったっけ?)


 集中しなければならないと頭で理解しているが普段気にしていないはずの音が気になってしょうがない。


「……琴美、気が散ってるぞ」


「ご、ごめん」


「お前は自分の魔法のことだけ考えればいい。そうすれば、自然と集中も出来るはずだ」


「分かった」


 琴美は静か、ゆっくり深呼吸し、魔法を唱える自分をイメージする。

 魔法を唱えた瞬間、無数の氷の槍が出現し、真っ直ぐ敵に向かう。そして、敵を貫き、そのまま相手を拘束する。

 そのイメージを何回も何回も繰り返していき、少しずつではあるが想像が現実味を帯びていく。


「……一時間経った」


「えっ、もう?」


「コツさえ分かればそんなものだ」


 二人は立ち上がり、琴美の中級魔法の練習を始める。

 準備運動として琴美はフレイムを唱える。


「フレイム」


 しかし、放たれたフレイムは以前より大きさを増し、威力も上がっていた。


「えっ、何これ。フレイムってこんなんだっけ?」


「座禅をしたことで集中力と少しではあるが魔力を蓄えられる量が増えた。結果、以前よりも魔法の質が上がった」


「そうなんだ……今の私なら出来るかも、イメージもばっちりだし」


 琴美は杖を構えて、座禅の時にイメージした自分と同じように魔法を唱えた。


「フリーズ・ランサー!」


 先端が鋭く尖った複数の氷の柱が前方に向かって真っすぐ伸びていき、一直線上にあった岩に刺さった。


「琴美……もしかして、中級魔法が使えるように……」


 マルコは目を見開いている。しかし、琴美は喜んではいなかった。なぜなら、その魔法がフリーズ・ランサーではなかったから。


「違う……これは私のイメージしたものじゃない」


 フリーズ・ランスは槍のような形をした氷が一直線に進み相手を貫く。一方、先ほどの魔法はただ先端が尖っただけの氷、威力があるはずがない。


「やっぱり、うまくはいかないか……」


「そんなに落ち込むことはない。練習すればいいだけだ」


 そっと琴美の肩に手を置く。


「マルコ……ありがとう。さっ! 修行の続き、続き!」


 気を取り直して中級魔法の続きをする琴美。

 そのまま二人は他の三人が戻ってくるまで修行をした。




 エーシャとフェミナはヴァル湖から離れ、アクシス平原で修行とついでに食料の確保をしていた。

 今はリザードバードと言う、全身が白い羽毛で包まれたトカゲと戦っている。


「なかなか多いね」


「と言うか、囲まれてますよね!?」


 周りを囲まれ身動きが取れなくなっており、現在の状況を誰が見てもピンチにしか見えない。


「大丈夫、ボクがフェミナを守るから」


 エーシャは構え、逆手に持った両手の短刀で切りかかる。

 攻撃の直線上にいたリザードバード達はそれを一斉に避ける。何匹かはエーシャに噛み付こうと跳びかかるが、エーシャはすれすれで避け、その内の二匹の頭を切り落とす。



「こいつら、個体ではそんなに強くないみたい」


 しかし、その分の連携と知性を持っていた。

 エーシャへの攻撃は止め、フェミナに狙いを定める。


「フェミナ! そいつら君を狙ってる、避けて!」


「え!?」


 リザードバードはフェミナに襲いかかる。フェミナは避けようとするが、前衛のエーシャと違って、魔物と直接戦う機会が少ないフェミナは避けきれない。


「きゃーー!」


 一瞬で、フェミナは避けきれないと判断したエーシャはすかさずリザードバードとフェミナの間に割り込む。

 割り込んだエーシャを気にせずそのまま噛み付いた。

 エーシャの透き通るような白い肌に真っ赤な血が流れていく。


「エ、エーシャさん!」


 右腕と右足を噛まれたエーシャは膝をつく。


「フェミナ……言ったでしょ……ボクが守るって……それにちょうど、良かったじゃないか……これで練習出来るよ」


 だが、噛まれたエーシャの状態は相当危険だった。

 リザードバードは弱いが毒を持っていた。先ほど噛まれたエーシャにも毒が注入され、手足の痺れ、息苦しさ、と症状が出始めている。さらに、毒のせいで血が止まらなくなってしまった。

 このままではエーシャは多量の出血により死んでしまう。

 早急に治療しなければならない。


「でも、わたくし……エーシャさんを助けられるかどうかなんて」


 今までの自分の失敗を考えるとフェミナは不安でいっぱいになる。

 エーシャは荒い息遣いでゆっくり話す。


「不安にならないで……自信を持って……フェミナ……じゃなきゃ出来る魔法も……出来ないよ」


「自信を……持つ」


 リザードバードはジリジリとフェミナ達に近づいていく。


「わたくしは」


 フェミナは今までの自分を思い出す。

 回復を発動させようとした時、失敗してしまう不安を抱えながら発動させようとしていた。結果的に、それは失敗してしまった。

 支援魔法を発動する時はどうだろうか。一切の迷いはなかったはず。

 エーシャが言ってくれたおかげで、何故失敗してたのか気づいたフェミナ。


「そうです、不安になってしまったら発動出来る魔法も発動出来ません」


 フェミナに迷いはない。あるのは、成功させれると言う絶対的自信。


「クリア! ヒール!」


 クリアで状態異常を回復、ヒールで傷口を塞いだ。

 傷が治ったエーシャはゆっくり起き上がり、フェミナにお礼を言う。


「ありがとう、フェミナ。これで戦えるよ」


 立ち上がったエーシャに威嚇するリザードバード。


「さっきみたいに近くで攻撃を仕掛けると、またフェミナが襲われちゃう。なら、フェミナからは離れられないな」


「ですが、この距離からでは攻撃が」


 囲んでいるリザードバードとエーシャ達の距離は約五メートル。

 エーシャの短刀では移動しなければ届かない距離。


「大丈夫、ボクの魔法なら届く」


 エーシャは体勢を少し低くし、右腕を後ろの方に持っていく。


「ウィンドを物体として出すんじゃなくて、斬撃に乗せる」


 エーシャは勢いよく右腕を下から上に切り上げる。


「疾風!」


 風をまとった斬撃は一体のリザードバードを真っ二つに切る。


「疾風連撃!」


 先ほどより素早く、両手の短刀を交互に何回も切り上げ、風をまとった斬撃を複数作り上げる。

 斬撃は全て、リザードバードを切り裂いた。

 仲間が殺されていく光景を見たリザードバード達は周りから一斉に襲いかかる。


「フェミナ、伏せて!」


 フェミナはすぐにエーシャの指示に従い、エーシャは地面に平行な円を描くように一回転しながら短刀を振った。


「疾風円弧!」


 エーシャを中心に斬撃は円のように広がっていき、残りのリザードバードを切り裂いた。


「フェミナ、もう立ってもいいよ」


 フェミナはそっと立ち上がる。辺りにはリザードバードの死骸が散乱しており、生きているリザードバードはいない。


「エーシャさん、こんな魔法いつから」


「時間があるときに練習してた。魔物でも遠くから攻撃してくる奴はいるし、いつも自分が得意とする状況にはならない、そう思って僕はこの魔法を覚えた。勇の役に立つために」


「……本当に勇さんのことが大好きなんですね」


「うん、大好きだよ! あ、でも、フェミナも負けてないよ」


 フェミナは頭の上にクエスチョンマーク浮かばせながら首をかしげる。


「僕と同じくらいフェミナはマルコのことが大好きなんだよね」


 一瞬周りが静かになり、フェミナは硬直する。

 時間差で、フェミナの心拍数は上昇、顔はじわじわと紅潮していき、口をパクパクさせている。


「な、なななな、にゃに言ってりゅんでひゅか! わ、わたくしはマルコしゃまに助けてもりゃって、尊敬していりゅだゃけで」


 噛みまくっているが、エーシャはなんとなくフェミナの言っていることは理解出来る。


「わ、分かったから、落ち着いてフェミナ」


「た、確かにマルコ様は優しくて、強くて、頭もよくて、掃除が丁寧で、まじめで、顔もかっこいいです。魔道具を作っている最中に見せる真剣な顔は特にかっこよくて、笑っている顔はどこかかわいらしくて」


 エーシャは暴走状態のフェミナをどうやって止めるか考える。

 解決策を思いつくのにさほど時間はいらなかった。


「あ、マルコ!」


「マ、マルコさん!? ど、どこですか! マルコさんはどこに!」


「ごめん、嘘」


 暴走状態の自分をマルコに見られていないことにホッとする反面、マルコがいないことにフェミナはがっかりしている。


「ほ、ほら! 今日は終わりにして、このリザードバード回収して戻ろ」


「そ、そうですね!」


 元気を取り戻したフェミナは急いで回収を始める。


「ところで、このリザードバードどうするのですか?」


「え、食べるに決まってるじゃないか」


 フェミナは持っていたリザードバードの胴体が手からするりと落ちる。


「た、食べるのですか?」


「大丈夫、この辺じゃあまり食べないけど、他の国や街じゃ食べるみたいだから」


 とは言うものの、食したこともないトカゲを食べるのは少しばかり勇気がいる。


「これでよし、フェミナ、戻るよ」


「あ、待ってください!」


「早くしないと、二人っきりになってる琴美がマルコを誘惑しちゃうかもね」


「そ、そんな」


 エーシャは冗談でつもりで言ったが、フェミナは大粒の涙を流す。


「わーー! 冗談! 冗談だから! 琴美はなんとも思ってないから!」


 必死に慰めるが、フェミナは二十分近く泣き続けた。


「取り乱して、すいません」


「謝らないでよ、あれはボクが悪いし。さ、帰ろ」


「はい!」


 エーシャの後に続き、ヴァル湖に戻っていった。


(マルコ、フェミナを泣かせたらボクは許さないから)




 勇は一人、街に戻っていた。なぜならシエルに武器について相談しようと思ったからである。

 扉の前に立った勇は扉をノックする。


「シエルさん、いますか」


 扉が開き、家主であるシエルが出てくる


「昨日の今日でどうしたんだい?」


「シエルさんに武器のことで相談が」


「武器? 生憎私はそういったものは専門外なんだ。気まぐれで買った本ならあるから持っていっていいよ」


 シエルは部屋の奥に行き、分厚い本をもって戻り、勇に手渡す。


「ありがとうございます。……シエルさんは金属とかには詳しいですか?」


「一応調合の時に鉱石や金属とか使うからだいだい分かるけど、勇くんは何を作ろうとしているの?」


「弓を作ろうかと思って」


「弓ならデビルツリーとキラースパイダーでなんとかなるはずだけど」


「それじゃあ、ダメなんです! 作るんだったらしっかりしたものが作りたいんです! ついでに今使ってる武器も手を加えたいし」


 勇の持っている武器は片手剣と刀の二つ。しかも、片手剣はシエルに最初に貰った平凡なもの、マルコに貰った刀もお世辞にもいいものとは言えない。


「そういうことね」


 シエルは少し考え事をし始める。


「…………ならラーラ山脈に行った方が良いよ。鉱石はいいもの採れるし、糸はそこに住むアラクネの糸を使ってみたら? キラースパイダーより遥かに上質だから。……でも、少し危険だよ。それでも行く?」


「行きます」


 勇は迷うことなく行くことを決意する。


「そう……でも、なんで私に聞いたの? マルコくんなら知ってるはずだけど」


「……みんなをびっくりさせようと思って」


 シエルは勇が顔を曇らせる瞬間を見逃さなかった。


「自分の都合で危険な目に会わせたくないんだね。心配性だな勇くんは」


「そんなんじゃありませんよ。あ、この本借りていきますね」


「ちょっと待って勇くん」


 去ろうとする勇を止め、再び部屋の奥に行った。

 数分後、手紙と手書きの地図を手渡す。


「今から行ってもラーラ山脈に着くころには暗くなるから今日はその場所に行って、武器づくりを学んで来なさい。手紙を渡せばきっと現場に立ち会わせてくれるはずだから」


「シエルさん……いつも、ありがとうございます」


「いいのいいの、私が勝手にやってることだから。ほら、早く行きなさい」


 シエルに感謝を込めて一礼をしてから勇は手書きの地図を見ながら走り出した。

 目的地までさほど時間がかからずに着くことが出来た。そこには工房らしき建物があり、看板にはライザ工房と書かれている。

 勇は扉に手をかけ、開ける。


「いらっしゃい!」


 開けた瞬間、カウンター内にいた茶髪の女性が威勢のいい挨拶をする。


「あれ、見ない顔だね」


「あ、あの、勇と言います。シエルさんに紹介されて」


「シエルに?」


「は、はい。あと、これを」


「なんだい、恋文かい?」


 勇は手紙を女性に渡す。

 渡された女性はすぐにその場で手紙の封を開け、読み始める。


「…………なるほど、そういうことか」


 手紙を読み終わった女性は勇がここに来た理由に納得した。


「勇だっけ? 工房に案内するよ」


「は、はい!」


 店の奥に案内され、勇は女性の後を追う。


「ここが工房だよ」


 工房内はそこまで広くなく、金槌などの道具、火炉でほとんどスペースを取っていた。

 しかし、重要な職人がそこにはいなかった。


「あの、他の人は……」


 女性に視線を向けると突然上着を脱ぎはじめる。


「ちょっと、何してるんですか!?」


 顔を真っ赤にしながら咄嗟に勇は顔を背ける。


「別に見てもいいのに」


 ニヤニヤしながら、上半身がサラシのみになった姿でポーズをとる女性。


「な、なんで、急に脱いだんですか!?」


「作業すると暑くなるから脱いだ」


「いや、作業するからって……え、作業?」


 脱いだ服を腰に巻き、女性は鉱石を持ってくる女性。


「自己紹介が遅れた、あたしはライザ、この工房の店主兼この工房ただ一人の職人」


 屈強な男性がでてくると思っていた勇はライザという女性が職人だと知り、驚きのあまり、勇はライザに視線を戻した。


「一応言っとくけど、シエルからの頼みだからあたしは引き受けたけど、あんたの気持ちが中途半端ならやめてくれ、あたしは本気で学ぼうとする奴にしか教えたくない」


 さっきまでからかっていたライザから笑顔が消え、真剣な眼差しで勇をみる。


「俺は……やります! シエルさんにここまでしてもらったのに中途半端な気持ちでやれるわけありません!」


 勇の眼差しを見たライザはニッと笑う。


「よく言った! なら、少しの間ここに住み込んでもらう。武器作りが簡単なものだと思うなよ、いいな!」


「はい!」


 勇の決意が分かるほど、力強く返事を返した勇。

 仲間にこのことを伝えるために一旦戻ることをライザに伝え、ヴァル湖に向かった。




 空が少し朱音色に染まるごろ、マルコと琴美は座禅をしていた。


「……よし、一時間経ったぞ」


「付き合わせて悪いわね」


「気にするな。それに、終わりにも座禅するとはいい心がけだと思う」


 マルコは立ち上がり、琴美も立ち上がろうとするが足がしびれてしまい立てない。

 それに気づいたマルコは琴美に手を差し伸べる。


「俺の手を掴め」


「あ、ありがと」


 マルコの手を掴み立ち上がるが、バランスを崩してしまい二人は一緒に倒れる。


「いたたたた……」


「大丈夫か琴美」


「私は平気。あ、上に乗ってごめん」


「出来れば早く降りてくれ、少し重グヘェ!」


 琴美の正拳突きがマルコにクリーンヒットする。


「女性に対して失礼よ!」


「正拳突きをしてくる女を女として見れるか!」


「マルコさん……」


 声のした方に二人は顔を向けた。

 そこには目に涙を溜め今にも泣きそうな顔をするフェミナと無表情で光のない目でマルコと琴美を見るエーシャ。

 倒れていた二人は慌てて立ち上がる。

 そしてエーシャはマルコに近づく。


「マルコ、フェミナを泣かせたら許さないって、さっき言ったよね」


「フェミナが泣いてる理由が俺なら謝るが、お前にそんなこと言われた覚えはない!」


「そりゃそうだよ! だってここに来る前に心の中で言ったことなんだから!」


「分かるかー! 理不尽だろ!」


「問答無用! さっさとフェミナを慰めなよ!」


 エーシャはフェミナに指差す。

 マルコはフェミナに近づいていく。


「フェミナ、大丈夫か?」


 フェミナは涙をぬぐう。


「……私に気にしないでください。琴美さんが嫉妬してしまいますよ」


 無理に笑顔を浮かべる。


「フェミナ、勘違いしているようだがあれは琴美がバランスを崩して倒れてきただけだ」


「そ、そうなんですか!? よかった……」


「みんな、何やってるの?」


 最後に勇がヴァル湖に到着し、全員が揃った。


「勇遅い! 早く晩ご飯作って」


「おいおい、勇は今帰ってきたばかりだろ」


「少しは勇さんは休まれた方がいいかと」


「心配してくれてありがとう。俺は大丈夫、……だからエーシャを剥がしてくれ」


 エーシャばガッチリと勇の腕に絡みつき、離さない。


(((いつの間に!?)))


 勇を目視してから勇の腕にしがみつくまでにかかった時間は僅か三秒、驚異のスピードだった。

 結局この後、剥がされたエーシャを琴美に拘束をしてもらい、安心してリザードバードを調理し、全員で食事を取った。

 こうして本日の修行は幕を閉じた。

 余談だが、勇が少しの間みんなと別行動をすると言って街に戻ろうとした時にエーシャがが暴れたのは言うまでもない。

読んで下さり、ありがとうございます。

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