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お支払いは異世界で  作者: 恵
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第十話 素材集め・サイドB

今回は勇とマルコが九話に出てきた少女に出会う話です。

 食事を終え、早速本題に移る。


「で、その人とはどういう関係?」


「そうだよ! その人と勇はどういう関係!?」


「どちらかと言うとマルコの関係者? みたいな」


 勇は目だけを動かし、隣にいる少女とマルコを見る。


「確かに、俺が連れてきた」


「……で、その経緯は話してくれるの?」


「ちゃんと話す。この人、フェミナに会ったのはお前達が出てすぐのことだ……」





 エーシャと琴美が出かけてすぐにマルコと勇は支度をし始めた。


「よし、これで準備は終わった。マルコ、他に何かいるか?」


「途中でポーションと魔力回復薬を買いたい。もうそろそろなくなりそうなのでな」


「分かった」


 二人は鞄を持ち、アイテムを買うために店に向かう。

 途中、僧衣を着た人物を数人目撃し、マルコに疑問をぶつける。


「あの僧衣着てる人達は何してるんだ? ずっと立ったままだけど」


「お前、ここにきてからずいぶん経つだろ。……ちょうどいいところに人が来た。見ていろ」


 一人の冒険者が僧衣を着た人物に話しかけている。話が終わると僧衣を着ている人は魔法を唱え、冒険者の傷を癒した。そして、冒険者はお金を払い、その場を去っていった。


「ああやって傷を治して金を稼ぐんだ。あれをしていいのはクレリックの職業を持つ者だけだ」


「へー、また新しい知識が更新された」


「お前の知識の更新はずいぶんと遅いんだな。行くぞ、店は目の前だ」


 二人は店に入り、ポーションと魔力回復薬を買う。金額は合計、千五百ジーグ。また、資金が底をつく勢いでなくなっていく。


「はぁ、今日も夕飯の分しか稼げないな、きっと」


「そう落ち込むな。鞄さえ拡張できれば、荷物の制限が緩和される。そうすれば、前よりも多く稼げる」


「そ、そうだな」


「あぁ! なんだこれ! こんな程度の回復でこの値段って、ボッタクリじゃあねえか!」


 急に店の外が騒がしくなり、二人は急いで外に出る。

 外では二メートル以上ある大男と手下の二人が、一人の少女を囲んで何やら文句を言っており、勇と同い年くらいの長い青髪の少女は恐怖で体を震わせていた。


「で、ですから。傷はちゃんと……治しましたから……その代金を払ってもらわないと」


 メイスを強く握りしめながら、か細い声を震わせ必死に抗議をするが大男の一言で全てかき消される。


「だ か ら! 手が動かねえんだよ! 完全に直ってないのにこんな金額払えるか!」


 右腕をさすりながら怒声を上げる大男。


「兄貴! もしかしたら手が動かないのはこいつの魔法が失敗したからじゃないですかね」


「絶対そうですよ! 逆にこっちが金を貰わないと」


「そうだな、お詫びとして貰っとこうか……まけて、百万ジーグ」


「そ、そんなに払えません」


 払えないと聞いた大男は一歩ずつ少女に近づく。


「なら、体で払ってもらおうか。なかなか上玉みたいだしな」


「い、いや……誰か……助けて……」


 目に涙を溜め、周りの人に助けを求めるが、人々は見て見ぬふりをし、少女を助けようとはしなかった。


「どうやら、誰も助けてくれないようだな。さっさとこっちに来い!」


「いやーーーー!」


 この光景を目の当たりにした勇はじっとしていられるはずがない。


「マルコ! 助けに――」


 だが、勇以上にじっとしていられなかったのはマルコだった。

 マルコは一人で大男に話しかける。


「おい」


「あぁ?」


 邪魔をされたことで不機嫌になった大男はマルコの方を向く。


「俺はお前らみたいな奴を見ると、気分が悪くなる。だから俺の視界から消えろ、ゴミ屑が」


「なんだと!」


 大男は右腕でマルコの胸倉を掴む。


「なんだ、やっぱり治っているじゃないか」


「そんなのどうでもいい! 今はお前を殴りたくて仕方がないんだよ!」


 大男が左腕を振り上げ、殴る体制を取るが、マルコは動じることなく、落ち着いて話をする。


「知ってるか、体のつくりは魔物の方が複雑らしい」


「それがどうし――!」


 マルコは胸倉を掴まれた状態で大男の右腕の肘を思いっきり殴る。すると、大男の腕は本来曲がってはいけない方向に曲がってしまい、激痛が走る。


「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「人の腕など簡単に折ったり外したりできる。よかったな、これで腕は動かなくなった。嘘が本当になったぞ」


「く、くそ! 覚えてろよ!」


「あぁ?」


「ひぃっ! す、すいませんでしたー!」


「「兄貴! おいて行かないでください!」」


 大男と手下二人はマルコの強さに怖気づいて、その場をこけながらも急いで走り去っていった。


「大丈夫か」


「あ、ありがとう……ございます」


 少女は頬を赤く染め、潤んだ瞳でマルコの目を見る。


「マルコ! 大丈夫か!?」


「心配するな。この後の狩りに支障はない」


「ならいい。じゃあ、向かうか」


「あ……」


 その場を立ち去ろうとする二人を少女は勇気を振り絞って止める。


「あ、あの!」


 呼び止められた二人は少女の方に振り向く。


「わ、わたくしもご一緒してよろしいでしょうか!」


「「はい?」」


 唐突に同行させてほしいと頼まれ、二人の思考の処理が追いついていない。


「え、でも、俺達今からミリオンの森に行くから危ないよ」


「それにクレリックだろ? 戦闘には向いていないはずだが」


「お願いします! お礼がしたいんです!」


 一歩も引かずに頼み続ける少女。二人が先に折れ、少女の同行を認めることにした。


「勇、同行させていいか? この感じだと、俺達が首を縦に振らない限りやめないだろう。俺が責任をもって守るから」


「別にそれはいいけど、守るのは俺達二人でだ」


「あ、ありがとうございます! お役に立てるように頑張ります!」


 深々とお辞儀をしてお礼を言う少女。


「一緒に行くなら自己紹介しないとな。俺は勇」


「マルコだ」


「わたくしはフェミナ。クレリックをしています」


 お互いの自己紹介を終えた三人はミリオンの森に向かって行った。





 ミリオンの森についた三人は早速タウルス狩りを始めた。が、三人は苦戦していた。正確には二人が苦戦していた。

 タウルスは二足歩行の牛の魔物、最大の武器は腕力であり、過去に勇とマルコが戦ったヴァンの攻撃よりを強く、一筋縄ではいかない強敵。だが、一番の強敵は……フェルミナのドジだ。


「フ、フェミナ!?」


「タウルスを回復してどうする!」


「す、すいません!」


 タウルスをだいぶ弱らせ、自分達も相当ダメージを受けた勇達はフェミナに回復を頼んだが、見ての通り、フェミナが間違えてタウルスを回復してしまい、タウルスは元気を取戻した。


「とりあえず、逃げるぞ!」


 勇の指示でその場を全速力で逃げる。が、ここでもフェミナのドジが発動。何もない所でこけてしまう。


「きゃっ!」


「フェミナ! くそっ!」


 マルコはすぐに鞄からスパイダーネットを取り出し、タウルスに投げつけた。

 スパイダーネットはそのままタウルスに当たり、絡みつき、タウルスの足止めをした。

 このすきにフェミナを起き上がらせ、また転んでしまわないように、フェミナを抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこをした。


「マルコ早くしろ! すぐに追いかけてくるぞ!」


 その場を無我夢中で走り去った。

 数分間走り続け、タウルスから逃げ延びた三人はたまたま見つけた洞穴で休むことにした。


「はぁ、はぁ……ここで少し休憩す……マルコ! フェミナの顔が真っ赤だぞ!」


「何!?」


 マルコに抱えられているフェミナは顔を真っ赤にさせ、あたふたし、目をぐるぐる回していた。


「フェミナ! しっかりしろ!」


 マルコの呼びかけでフェミナは我に返った。


「あ、あの、降ろしてほしいのですが……」


 マルコは優しくフェミナを降ろす。

 まだ、少し顔が赤いが、タウルスのことを思い出したフェミナは顔を曇らせる。


「すい――」


「フェミナ、大丈夫か?」


「え?」


「辛いなら辛いと言え。鞄にポーションと魔力回復薬があるから好きに使ってもいい」


 さきほどの失敗を責めることよりも、フェミナの心配をする勇達の優しさに触れたフェミナは涙を止めることは出来ない。


「ちょっ!」


「やはり、何か体に異常が!」


 心配する二人に、首を横に振る。


「違うんです……わたくしのせいで危険な目に合ったのに……どうして優しくしてくれるんですか?他の人は……回復を全く使えないわたくしを……」


 それを聞いた二人は安堵の表情を浮かべ、マルコは優しく話しかける。


「常に成功している奴なんていない。誰でも失敗する。……しかし、失敗を目から背けてはいけない。失敗を糧にして人は成長する。フェミナは失敗したら、何もしないのか?」


「……いいえ、次に失敗しないように練習していました」


 マルコは少し笑う。


「なら、フェミナは成長できる。これからもそのようにしていれば、必ず」


 さきほどまで暗い表情をしていたフェミナは元気になり、力強く「はい!」と答えた。


「それと、回復だけがクレリックの仕事じゃない」


「? マルコ、それって――」


 勇が言いかけたところで、魔物の鳴き声がした。

 勇達はその鳴き声をごく最近に聞いた覚えがある。


「しまった! 俺としたことが」


「どうした、マルコ!」


「ここは奴らの住み家だ。タウルス達は穴を作って住み家にする習性がある」


「タウルスが来るんですか!?」


「……マルコ、達ってことは」


「ああ」


 洞穴の入り口にタウルスの影が浮かび上がる。しかし、その影は二つある。


「タウルスは複数いる」


 洞穴に二体のタウルスの鳴き声が響き渡る。


「どうする、勇」


「どうするって言っても、これ選択が一つしかないけど」


 出口はタウルスでふさがれている。出るには倒さなければならない。

 タウルス達は一斉に突進を仕掛ける。

 しかし、勇達は動こうとしない。いや、動くことが出来ない。なぜなら、洞穴がそこまで広くなく、確実にタウルス達の攻撃が当たるからだ。


「まずい! この広さじゃ避け切れない!」


「仕方がない、耐えるしかない!」


 しかし、タウルスの攻撃を耐えるほどのパワーを持ち合わせていない二人が、二体のタウルスの突進を受け止めれるはずがない。だが、耐えなければ三人ともやられてしまう。

 決死の覚悟で防御の構えを取る。


「パワード! パワーダウン! ハーフグラビティ!」


 勇達はタウルス達の攻撃を受け止めることに成功した。


「あれ、軽い」


「勇! 今は戦いに集中しろ!」


 二人はタウルスを払いのけ、のけ反ったタウルスにありったけの力を込めて切り捨てる。

 絶命したタウルス達はその場に倒れ込んだ。


「今のは一体」


「フェミナの魔法だ」


「フェミナが!?」


 勇はフェミナに視線を向けた。


「……マルコさんはいつ気づいていたんですか」


「タウルスに魔法をかけた時だ。あれではクレリックの試験を受かることは出来ない。しかし、支援系の魔法が優れていれば、試験を合格できる」


「支援系?」


「さっきフェミナが使った魔法だ」


 フェミナが使った三つ魔法はどれも攻撃系ではなく、支援系の魔法。

 パワードは対象のパワーを上げる初級魔法、パワーダウンは対象のパワーを下げる初級魔法、ハーフグラビティは対象の重さを半分にする中級魔法。

 フェミナは中級魔法のハーフグラビティが使えたため、支援系魔法が優れていると判断され、試験に合格していた。


「でも、なんで最初から使わなかったんだ」


「それは本人しか知らない。まぁ、なんとなくわかるがな」


 俯いているフェミナは顔を上げ、何故、回復魔法しか使わなかったかを話し始めた。


「わたくしは前に別の人達と一緒に組んでいました。最初の内は回復が使えなくてもいいと言ってくれましたが、ある日、少し遠い所で狩りをすることになりました。わたくしは回復が出来ないから、もう少し腕を上げてから言った方がよいと言いました。しかし、他の人はそれでもかまわない、と言って、結局行くことになったのですが……」


「相手を見誤り、危険な目に合ったわけか」


 勇の言葉にフェミナは首を縦に動かす。


「その際、一人が命を落としてしまい、皆は回復魔法が出来ないわたくしを責めました。わたくしが……回復魔法を少しでも使えていたら。その後、皆はわたくしから離れ、一人になったわたくしは必死に回復魔法の練習をしました。そして、回復魔法がちゃんと使えるまでは他の魔法を使わないことを決めました」


 フェミナの話が終わると、マルコは深く息を吐いた。


「聞く限りでは完全にそいつらの判断ミスだ。自分の力を過信していたそいつらが悪い」


「……ありがとうございます。それだけ言ってもらえるだけ、わたくしは嬉しいです」


 笑顔を見せるフェミナ。そして、フェミナはその場を立ち去ろうとする。


「どこに行く?」


 フェミナを呼び止めると、フェミナは振り返り、答える。


「マルコさん達にたくさん迷惑をかけました。それに、目的の魔物も倒したんですよね」


 タウルスを二体倒したことで、四人分以上の鞄を作れるほどの量になっていた


「ならここまでです。わたくしとマルコさん達が一緒にいる理由はありません」


「いや、あるぞ」


「え?」


 マルコは勇の方に体を向け、頭を下げる。


「頼む、フェミナをギルドの一員にしてくれないか」


「……マルコ、頭を下げるな」


 マルコは頭を上げ、勇を見る。


「友達に頭を下げる必要なんてないだろ。それに俺もそのつもりだった」


 勇はにっこりと笑う。

 そして、フェミナに問う。


「フェミナ、どうする?」


「どうすると言われましても、わたくしがギルドに入ってもお役に立つことは……」


「今さっき、フェミナのおかげで助かったよ」


「でも、回復が……」


「焦らず、練習すればいい」


「でも……」


 次々に自分の発言に対して返してくる勇に、フェミナは他に何かないかと考えるが、もう思いつかない。


「フェミナ、さっきから自分の悪い所を見つけようとしてるけど、完璧な人なんていないと俺は思う。だからこそ仲間を作って互いで補う。だから、俺達のギルドに来てくれ、フェミナ」


 回復魔法を使えない自分を必要としてくれる。あの時とは違う、勇とマルコは離れようとしない。むしろ、向こうから歩み寄ってくれている。

 フェミナは涙を堪らえ、力強く言う。


「はい!」


「よし! なら、帰るか。マルコ、いつまで膝ついてるんだよ。さっさと素材を回収するぞ」


「ああ!」


 マルコは立ち上がり、二人で解体を始める。


 十分後、解体を終えると、三人は帰る支度を始める。


「よし、帰るか。フェミナを行くよ」


「はい、きゃっ」


 ェミナはよろめき、その場で尻餅をつく。どうやら、魔法を使い過ぎたようだ。


「大丈夫か」


 フェミナを心配して駆け寄るマルコ。


「大丈夫です。少し疲れただけですから」


「……勇、荷物を頼んでいいか?」


「任せろ」


 マルコは荷物を勇に渡し、フェミナを抱き上げる。


「え、え!?」


 お姫様抱っこを再びされ、フェミナの顔が紅潮していく。

 しかし、マルコはその紅潮を体調不良からなったものだと勘違いする。


「勇 、急ぐぞ! 魔力の使い過ぎで枯渇症と言う病気になっているかもしれん!」


「分かった!」


「あ、あああああの! これは枯渇症ではありませんから降りしてくださああああああい!」


 フェミナに言葉が耳に入らず、二人はそのまま走り出した。

 この後、家に無事にたどり着いき、フェミナの治療を始めた。もちろん、フェミナはただの魔法の使い過ぎなだけで、枯渇症ではなかった。しかし、フェミナの顔の紅潮はしばらく続いたのだった。




「と、言うわけで、フェミナはここのメンバーになったわけ」


 一通り話を終えた勇は水を飲み一息つく。

 話を聞いた琴美とエーシャは他の三人には聞こえないように話し始める。


「琴美、ボク聞いてて思ったことがあるをだけど、フェミナって……」


「マルコに惚れてるわね。でも、あいつを好きになる要素なんてないと思うんだけど」


 二人はマルコを注意深く観察する。

 口調は少しキツイが最初よりも遥かにいい印象が持てる。顔は整っており、背もそこそこ高い。性格に関しては勇並みに優しい。

 このことから、二人が導き出した答えは…………誰だこのイケメン! であった。


読んで下さり、ありがとうございます。

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