表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

乙女ゲーム世界もの

メガネ好きのメガネ好きによるメガネ好きのためのルート

作者: 花ゆき

 気がついたら、乙女ゲーム世界に転生していた。自分の名前から、メガネ男子『広瀬貴文』相手のヒロイン『笹川律』になったのだと気づいたためだ。このゲーム、攻略対象ごとに専門ヒロインがいるんだよね。そういう点も話題になったゲームだったから、覚えてる。ヒロインの名前には攻略対象を救うための願いがこめられているんだけど、とにかく第二の人生楽しみますか。



 まず出会いイベントを起こすには、ひたすら理系の勉強を一週間続けなければいけない。理系はそんな苦手でもなかったから、勉強も苦になりませんよ。いえ、嘘言いました。前世の記憶があるから理解しやすくて、それで楽なだけです。そして、一週間後電車に乗り込んだら、きたきたきました! 彼が電車に乗ってる!


 広瀬貴文こと文くんは、少し緑がかった髪の色をしている。中性的な顔立ちをしていて、少しタレ目だ。本人は幼く感じられる顔立ちに抵抗があるらしく、いつもキリッとした表情をしているが、笑うと目尻が下がって可愛くなる。そんな文くんが私は大好きだ。


 彼はハードカバーの本を熱心に読んでいた。さりげなく隣に座る。隣から見る、本を集中して読む姿が素敵。本を読む顔が色っぽい。知的に光る銀のフレームがたまんない。おっと、凝視しすぎて視線に気づかれるところだった。さりげなく見なきゃ。見るのをやめる選択肢はない! と、脳内でいろいろ考えてるうちにイベントの見せ場きたよ!


「くしゅん!」


 可愛い! 普段落ち着いた子が、このくしゃみですよ! 脳内に永遠保存します。って、あぁあああ!? 続いて、最大の見せ場きました! この肩への重み……彼の頭が私の肩にのってるぅぅぅ! 可愛い!


 そう、彼はギャップ萌えで人気を出した人物で、ファンの間では【眠り姫】とも言われてる。彼が寝てしまいやすいのは、実は夢魔だから。彼はこの寝落ちやすい癖をなんとかしたいという悩みがあって、自分を『律』する主人公笹川『律』に惹かれる。二人で問題に立ち向かいながら、次第に仲を深めるという話なんだけど、私は自分を律することなんてできない!


 わぁああああ、髪サラサラ! いい匂いがする! シャンプー何かな!? 鼻息荒くならないように気をつけなきゃ。


「ん? あ、あれ……」


 彼が起きたみたい。寝ぼけた彼もたまらない。あぁ、甘やかしたい。


「って、あれ!? すいません、肩借りてたみたいで」


 あたふたする文くん可愛いよ。非常に悶えて転がりたいが、必死に抑える。


「そんなことないよ。春の日差しって気持ちいいよね」

「その日差しにやられたみたいだ」


 恥ずかしそうに笑う彼は、私の好きなゲーム画面で見てきた笑顔そのものだ。それが私に向けられていることで、本当にゲームの世界にいるのだと実感させる。


「俺は広瀬貴文。君は? 制服から、同じ学校みたいだけど」

「私は笹川律。春吹の1-Bだよ」

「へぇ、俺は1-A。クラス隣なんだな。よろしく」

「よろしくね」


 彼の笑顔眩しすぎ! よし、イベントクリア!




 次に大事なイベントは、定期試験前の図書室でスヤスヤイベント。こっそり人気のない机へ向かうと、彼がぐっすりと寝ていた。メガネを外しているので、本気で寝るつもりだったようだ。彼のメガネが愛しくて、銀のフレームにキスをする。そして彼の寝顔を眺めた。午後の暖かい日差しに包まれて眠る彼はまるで天使のように綺麗だった。思わず髪を撫でると、彼がビクリと震えたので起こしてしまったかもしれない。慌ててその場から離れた。



****



 彼女が去っていく後姿だけを捕らえて、彼は不思議そうにする。


「笹川……どうして、あんなこと」


 メガネのフレームをなぞって、頬を染める。それに髪も撫でられた。勝手に触られると嫌悪するはずなのに、それが嫌じゃない自分がいる。何か淡く感情が芽生えたような気がした。




 それを、冷水で覚ますかのような出来事があった。昼食の時間、学食で俺がラーメンを食べていると、眼鏡がくもった。別にいつものことだし、まぁいいかと麺をすすっていると急に近づいてきた人物がいた。


「広瀬くん、私にまかせて!」


 いきなり出てきた笹川さんに驚いていると、つけ麺と交換された。これは、どう反応すればいいのだろうか。


「これなら広瀬くんのメガネ曇らないと思うから! 広瀬くんはやっぱりメガネだよね!」


 善意でやっているんだと思う。思うが……なんだかすっきりしない。図書室でも、メガネがあったからあんなことをしたということか。なんだか、胸にあった何かが冷えてきた。彼女が取り上げたラーメンを取り戻し、曇ったメガネも気にせず食べていく。


「あぁ……、広瀬くんのメガネが……。でも、曇ったメガネも素敵。曇った視界も気にせず食べ続ける広瀬くんかっこいい……」


 彼女はメガネが相当好きなようで、俺は自分のメガネに嫉妬しそうだ。



****



 登校時、彼と同じ時間になった。チャーンス! 是非とも話しかけなければ! ゲームでも登校時に会うのはランダムなんだよね。だから、会えたことが嬉しい。


「おはよう。今日も素敵なメガネだね」

「あ、ありがとう?」

「はうっ! その照れたような頭の傾げっぷり、たまんない! そのメガネの角度、最高!」

「メガネだけ?」

「何か問題が?」


 文くんのメガネは至高の存在。朝から見れるなんて幸せ。何やら周りがざわついているが気のせいだろう。


『負けるな、広瀬!』

『広瀬が哀れだ……!』



 突然、彼がプルプルと肩を震わせた。何があったんだろう。俯いた彼が心配で近づくと、彼は顔をバッと上げた。何やら強い意志を秘めた目をしている。


「今この時ほどメガネが憎いことはない。俺はコンタクトにする!」


 はらただしげにメガネをのけて、胸ポケットにしまう。

 そんなっ、文くんのメガネが! 隠されてしまうなんて殺生な!


「あぁっ! 本体が!」

「違うでしょ。本体はこっち」


 肩をポンとされて見た先は、とても素敵な笑顔の彼がいました。

 だめだー! イケメンオーラにバリケードが間に合いません! 敵襲ー! 敵襲じゃあー!


「メガネ好き?」

「うん、文くんのメガネ姿が特に! っあ」


 恥ずかしいくらいに、顔が赤くなってしまった。しかも、いきなり文くん呼びしちゃった。彼も予想外なのか、感染したように頬が染まる。



『えっ、何これ。茶番?』

『馬鹿らし』


 外野の声も耳に入らなくなって、ただひたすら見つめる。メガネも好きなんだけど、メガネは彼だから輝くわけで、メガネない彼も……その、好きです。その、梅雨の時期のスチルのメガネ無し・有りの差分スチルにドキドキして何度も見たのは私だよ。つまり文くんあってのメガネというわけで。



「じゃあ、メガネない俺は?」


 言えるわけがない。


「これから口説くときにはメガネ外すから」

「や、やめて! 私のライフが0になる!」

「メガネ馬鹿な君も、今みたいに狼狽える君も、全部好きだよ」

「あ、あう……あう」


 これは落としゲーだったよね!? なんで今こうなってるの!?


「ごめん、いつもドキドキさせられてるから仕返し」


 あれっ!? あと、体育祭と夏祭りとクリスマスと新年とバレンタインのイベントあったよね!? なんでこうなってるの!? それ以上におかしいのは私の心臓の不整脈だ。この状況になってしまったメガネを彼につけてもらわなければ。


 彼の胸ポケットに手を伸ばして、メガネを手にとると、好奇心が芽生えた。彼のメガネをかけてみたい。そのまま、自分にメガネをかけてみた。うっ、度が強いからクラクラする。けれど、彼のようにキリッとした表情を作ってみた。


「文くんの真似。どう?」

「……メガネも悪くない。その……似合ってる。でも、度が合わないメガネをかけてたら、君が目が悪くなる。返して」

「やーだよ」


 彼の手をかわす。そして、彼の真正面に立ってメガネをかけてあげる。


「うん、やっぱり文くんのメガネが好き」

「困る」

「ご、ごめんなさい」

「今すごく君に触りたいから、困る」


 胸がきゅうってなって、苦しい。触れた彼の手は、かさついていた。


「ほっぺた、熱い」

「文くんのせい」

「おでこも熱いね」

「か、か、顔近い!」


 至近距離で頬に手を添えられて、額を重ねている。心臓が、うるさいくらいにドクドクいってる。


「でも、俺も熱いからおあいこ」


 そう言った彼は、真っ赤な顔で目尻を優しく下げて笑った。私の好きな笑顔だ。ずるい。



 ▼ 広瀬 貴文を攻略しました!


 そんな画面が出てきたけれど、むしろ攻略されたのは私です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ