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不思議な塔にまつわるあれこれ。  作者: ちびやな@やなぎ
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073 私、この人がラスボスでも驚かないよ……。

 にっこりと満面の笑みをお兄さんにむけたのに気付いたのか、ディノが動こうとしたのを左手で押さえる。


 手甲の威力に逆らえるもんならやってみろってんだ。


「あんな音波攻撃で人を殺しかねない人間を野放しにしておいて、その被害者にその言い草ですか? 私が治療魔術を使えなかったらほぼ間違いなくこいつはあの世行きでしたがそれでもくだらないことでからかうのが優先と? 現状、動かして平気なだけ回復している保証もありませんが、それでもやめろとおっしゃっるのなら立ち去るにやぶさかではありませんが、いかが致しましょうね?」


「……え?」


「何をどう勝手に想像してくださっているのかは知りませんが、あなた方に対して好意的でなければいけない必然性はまったく感じていませんので。ディノ個人に対してはそれなりに恩なり義理なり義務なりあるのは認めますが、それがあなた方への好意へと直結するという理屈は通りませんよ? 殺す気のある魔術をむけられて軽傷で済ませただけでも随分な譲歩かと思いますがそれでは足りないとおっしゃる?」


 二回の長広舌をそれぞれワンブレスで言い切った所で、一つため息をつく。


「つか、どうせあと数年って元からそのくらいだったよねぇ?

 こんなくだならい連中守るために払う価値のある代償か、本当に?

 ……むしろ、世界ごと滅んでくれたら一緒に死ねるわけだし、その方が良くない?」


 あぁ、何もかもが面倒くさい。

 どうせ二度と会えないのなら、数年あればあの人の命が縮む訳じゃないし、私にはその方がいいんじゃないかって気がするんだけど。


 つい自分の考えに気を取られていると、不意に左手を強く握られて視線を落とす。


「頭痛でもする? 顔色悪いよ」


「……そうかもしれないですね」


 強張った顔に無理矢理笑みをのせたディノは、目を伏せてゆっくりと息を吐き出した。


「どうして肝心な事は言わないんですか?」


「うん?」


 何に対してなのかわからない呟きに首を傾げてしまう。


「あなたにそんな事を言わせるような何かがあったんでしょう?

 なぜそうやって大変なことを一人で抱えようとするんです?」


「……なぜって……。普通、信頼できる人以外には話さないと思うけど?」


 何当たり前の事を言うんだ、と思いつつ返すとディノは軽く目を見開いて……、その後あきらめとも自嘲ともつかない笑みを浮かべた。


「そう……、ですね。

 少なくとも私たちはあなたにそれを望める立場じゃない」


 けれど、とディノは私を見て呟くように言う。


「それでもあなたの背負うものが少しでも軽くなればと、願っているんです」


「背負う? 私は何も背負ったりしてないよ?」


 あぁ、気付かれたな、と思ったけどどうでもいいような気もした。

 本当に知られてまずいことなら紅は口止めしただろう。

 だから気付かれたとしても、私が話したとしても、本当は問題ないに違いなかった。


「もし仮に、私が世界を滅ぼすことを選んだとして……」


 たぶん、そうしそうだなぁと思いながらディノの髪をすく。


「私は罪悪感なんて感じないよ。

 だって、それは滅んで欲しくないって思えるだけのものをくれなかった人たちのせいだから」


 やんわりと笑いながら口にした言葉が、どれだけ身勝手なものかわからない訳じゃない。


 だけど、思う。


「他人は信じるな、自分の身は自分で守れ、って思い知らせてくれたのはあなたたちだから。

 私はただ、覚えているだけ。

 私の大切な人を泣かせて苦しめて、人のことを汚物扱いしていた癖に、勝手に金になると思って気色悪い猫なで声で近付いてきたことを。

 大切な人が私に遺してくれたものを自分の好きにできないからってどんな扱いを受けたのか、私に対する嫌がらせのためにどんなものでも踏みにじれる汚さを持っているのか、見せられたから覚えているだけだもの」


「だから、滅んでしまえばいいと思うんですか?」


「別にそうは思わないよ。

 ……ただ、助けてあげる義理もないよなぁってだけのはなし」


「……そうですか」


 酷く困ったように笑ったディノが迷うように口を開けたり閉じたりしているのを眺める。


「はいはい、何こんなところで議会がひっくり返りそうな話をしてるのかな、君たちは」


 明るい声に視線をあげるといつ現れたのかザームさんがいた。


「あれ、はやかったね?」


「ミュルカちゃんが緊急事態って呼び出しかけてくるなんてよっぽどのことだろうと思って、馬飛ばしてきたからね。

 怪我人はディノ君でいいのかな?」


「一応治療魔術はかけたんだけど、治しきれてないみたい」


「了解。じゃあさくっと診ちゃおうね」


 普段とまったく変わらない調子のザームさんがディノの側に膝をつくと、状態を調べる魔術を使う。


「うぅん……。これ、また凄まじいねぇ」


「よくない?」


「いや、ほぼ完璧だね。

 さすがに細かい所で治せなかった部分が残っちゃったみたいだけど、そこも完璧に現状維持されてるし。

 慌てないで冷静に対処できて偉かったよ」


 言って、私の頭をくしゃくしゃとなでる。


「ささっと治しちゃうから少し待ってね」


 ザームさんはほんの一分程治療魔術をかけるともう大丈夫と言って立ち上がった。


「ディノ君ももう動いて大丈夫だよ。ゆっくり体を起こしてごらん」


 うながされたディノが慎重に体を起こしてベンチに座り直す。


「目眩とかするかい?」


「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」


「お礼は僕じゃなくてミュルカちゃんに言うべきだね。

 治療魔術の痕跡がちょっとあり得ない程広範囲だし、彼女の処置がなかったら今頃川向こうだったよ、君」


「笑顔で怖い台詞を……」


「そうかな? ミュルカちゃん自身わかってたんだろ?

 さっき、自分で治療しなかったら死んでたって言ってたくらいだしね」


 さらりと言われて聞き流しかけたけど……。

 そんな前からいたんですか、この人。


「まぁ、ディノに流れていく魔力の量がやばいくらい多いな、とは思ったけど」


「まだ細かい所の治療やピンポイントに治すってことができないから、魔力量で力押しに治したって感じだねぇ。

 魔力量が半端ないミュルカちゃんだからこそできる荒技って所かな」


 私の呟きにザームさんがにこにこと解説を入れてくれた。


「――それで?

 一体何があってこんなしゃれにならない怪我をすることになったのかな?」


 笑顔で聞いてくるザームさんの迫力におされて思わず体を引いてしまう。


「あのね? こんな町中で君たちが襲撃されたとなると、冗談で済まないんだよ?

 仮にも神殿の抱えるトップクラスの研究員と爵位持ちの高位魔術具の主だ。

 神殿への敵対行為の可能性もあるからうやむやにできないのはわかるよね?」


「私は別にどうでもいいしディノに任せるよ」


 正直、犯人がどう扱われようと興味がないな、と思ったんで隣にいるディノに丸投げする。


 投げられたディノは少しためらっていたけど、結局は口を開いた。


「二年程前に両親が引き取った子のまわりで不可解なことが続いたので、ミュルカに協力してもらってちょっと罠を張ってみたんです。

 その結果なので、神殿に対する敵対行動ではありません。

 ただの魔力の暴走です」


「ただの暴走、ですむレベルを超えている気がするけどね」


 説明の最後をそんな風に締めくくったディノに、ザームさんはため息をついた。


「ミュルカちゃんがいなければ確実に君は命を落としていたし、無差別広範囲への攻撃だった事を考えると死傷者が君一人で済んだ可能性は低い。

 現時点でだって、君の家族と近隣の人たちには治療が必要かどうか確認しなければいけないレベルだよ。

 悪いけど不問にはできないかな。

 その妹さんは早々に神殿に連行、ある程度の制御ができるようになったと判断されるまでは軟禁もやむなし、だね」


 そう言って、ザームさんはなにやら首輪――ネックレスと言うよりは首輪と言いたくなる形状の代物――を取り出した。


「ひとまずその子はどこかな?

 危険だし魔力封じをかけた上で今すぐ連れて行かせてもらう」


「……ですが」


「家族だから庇いたいのはわからなくもないけど、これは譲れないよ。

 魔術師ギルドではなく神殿で保護するだけでも随分な温情なんだから。

 ――わかるね?

 今の状況で魔術師ギルドに引き渡せば、ミュルカちゃんへの暴行はとても庇いきれない。

 彼女が訴えないと言っても、これだけの騒ぎを起こした以上処断せざるを得ないんだよ。

 ――みなさんも、エルさんが大切ならよそからの介入がある前に神殿に連れて行く方が安全だと納得してくれませんか?

 神殿でなら、僕やディノ君が庇ってあげられるけど、魔術師ギルドではそうはいかない」


 ザームさんの言葉に何人かが息をのむ。

 けれど、言葉を受け入れる気になったのか、いつの間にかドアをふさぐように立っていた人たちが場所を空けた。


「今はこちらが急ぎだから後にするけど、詳しい話はきちんと聞かせてもらえるよね?」


 念押しのように笑顔をむけられ、うなずくしかなかった。


 ……別に、迫力負けしたわけでは……。

お読みいただきありがとうございます♪

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