068 懐かしさに負けて特技披露。
三人と分かれてからジュースを買い直して飲みながら人波に乗る。
さっき歩いた時より出店も人も増えている中を、適当に出店の商品を冷やかしながら歩きまわる。
様々な食べ物に始まって、アクセサリーや服、民芸品のような物や文房具、古本、と本当にいろんなものが並んでいて、フリーマーケット状態。
こんな様子なら、仲のいい相手と見て回ればずいぶん楽しめるだろうな。
出店の商品を眺めるふりで時々辺りの人波にも目をやるけど、さっき感じた敵意のこもった視線は感じられない。
気のせいではなかったと思うんだけど……。
結局、何の収穫もないまま小一時間も歩いた頃、お祭りの範囲の端の方にたどり着いたらしく出店の列の途切れる所にたどり着いた。
このまま他の場所に出て行ってみるべきか、引き返して反対側の端を目指すべきか考えてしまう。
どうしようかな、と思っているとふと覚えのある楽器の音が耳に滑り込んできた。
あれ、と思って見回すと、一軒の出店が楽器も扱っているらしい。
この辺のものとは違う服やアクセサリーに混じって、ギターに似た楽器が並べてあり、店員が客引きなのか暇つぶしなのか、それを弾いていた。
音を聞いている限り、ほぼ同じような気がする。
ただ、調律が違うのか多少違和感があるけど。
ついついじっと眺めていると、楽器を弾いていた店員と目があい、笑いかけられてしまったので近付く。
「この楽器が珍しいですか、お嬢さん?」
「以前習ったことのあるものに似ていたから。
なんて楽器なんですか?」
「これ? ギタアというんですよ。
昔、異世界から召喚された勇者様が私たちの故郷に伝えて下さった楽器なんです」
「……異世界から?」
思わず硬直したのを誤魔化すように、どうやら男の人だったらしい店員さんに尋ねる。
「そう。いい音色でしょう?
教本もついているし買ってみませんか?」
「…………いや、でも弦が切れちゃったら買い直すあてが……」
「あぁ、大丈夫。
これ、魔術で強化してあるからめったやたらに切れたりしませんよ。
それにね、心配なら弦だけも売っているから予備を買っていけばいいんです。
私の様にこの楽器を売り歩いている仲間が大勢いるから、このくらいの規模のお祭りには大抵一軒くらい来ていますしね」
話ながらも弦をかき鳴らす店員さん。
うぅん……。そういわれると懐かしさで手を出してみたくなるような……?
「ちょっと、試しに弾いてみていい?」
まぁ、少しくらいはかまわないだろうと思って尋ねると、商品として並べてある物の中から一つを渡してくれた。
ついでに椅子も借りて鳴らしてみると、音が狂ってる以外はまんまギターでした。
この世界ではこの音であってるのかも知れないけど、私が弾くにはこれじゃあ無理だ。
かといってチューナーなんて便利な物もないし、耳を頼りに大体で調律していく。
「おや? ずいぶん変わった音に合わせるんですね」
「昔教えてくれた人がこういう音にしてたから」
不思議がられたんで、曖昧に返す。
……別に嘘は言ってない。地球ではこの音で弾くんだし。
ざっと調律をしてからさて何を弾こうかと考える。
うぅん……。
よし、折角お祭りだし、夏じゃないけど某太鼓ゲームで流行ったあの曲でいいか。
しばらく弾いてなかったんでだいぶ指が硬くなっていたみたいで、ずいぶん間違えるけど、あまり気にせず曲を止めないで弾いてしまう。
こういう、間違いを気にしない所が上達の妨げになっているって何度も怒られたんだけど、楽しければ別にいいと思うんだよね。
一曲弾いたら楽しくなってしまって、そのまま思い出せる曲を適当に流していく。
『本当、君は楽しそうに弾くよねぇ。
絶対普通に歌ってる時より弾きながらの方が楽しそうだよ』
おかしげに笑いながらの言葉を思い出して、自分でも表情がゆるんでいるのを自覚した。
うん、だって今ものすごく楽しいもの。
『君のギター、昔から好きだったけどさ、歌うようになってからの方が好きだよ。
でもまぁ、歌うようになったら君の声がこんなエロいとは予想外だったけどねぇ』
楽しげに褒めているのかけなしているのかわからないことを言っていたのはいつだったかな。
『だからさ、もっと歌ってよ。
この声と音がどこまで、どれだけの人に届くのか、知りたいんだよねぇ。
君も僕も知らない所で君の歌を聴いた誰かが喜んでくれたら、それってとても素敵な事じゃないかな』
目の前に居るあの人さえ喜んでくれればいいと思っていた私に、もっと広い世界を見ろと繰り返していた優しい声。
あの人がいなくなった世界でも生きていかなければいけない私のために、言ってくれていた言葉だと知っている。
だから私は、あの世界を目指したんだから。
「ミュルカ姉ちゃんすげぇっ!」
突然の声に、驚いて手を止める。
何事かと思って視線をあげると興奮した様子のアイクが側に駆け寄ってくる所だった。
そして、まわりにはなぜかものすごい人垣が。
……え? ……一体何事?
とりあえず頬を上気させて私を見上げているアイクの頭をなでてやりながら首を傾げる。
うん、さっぱり状況がわからないんだけど……。
ゆったりとした拍手が聞こえて振り返ると、そこには店員さん。
「素晴らしい演奏でしたね、お嬢さん」
「……え? いや、それ程でも?」
ぎこちなく返事をすると、店員さんが周りの人達に向かってにっこりと一言。
「それじゃあ可愛らしい歌姫の晩餐費用にご協力お願いしますね」
言って、商品らしき箱を取ると人垣に近付く。
するとみんなそこに小銭を入れてくれている。
……あ、なんか大道芸の人になった気分です……?
「そういえば、ディノ達とは一緒じゃないの?」
「一緒だよ。ほら、あそこ」
アイクの返事に指さされた方へ視線を向けると、確かにディノとエルさんがいた。
って、人垣の最前列だしほぼ正面なんだけど……。
まったく気が付いてなかった私って一体……?
私が二人に気付いたのを察したのか、ディノがエルさんをうながして近付いてきた。
「こんな特技があるとは知りませんでした」
「特技になるのかは知らないけど……。
とりあえず、この辺りでもこの楽器があることに驚いたよ」
少し複雑そうな笑みと共に声をかけられて、抱えたままのギターを軽くなでて答える。
本当、まさかこっちにあるだなんて思っても見なかったや。
「楽しそうで安心しました」
「うん?」
「しばらく前からずいぶん根を詰めているようでしたし、昨日今日と何か考え込んでいる様子でしたから。
気分転換になったならよかったと思いまして」
言葉と共にくしゃりと髪をなでられ、きょとんとする。
……ええと……。兄妹モードが半端に発動中?
小さく首を傾げると、ディノは何も言わずに手を引いてエルさんの方を見る。
「エルもずいぶん熱心に聞いてたみたいだけど、気に入ったのかな?」
話題を振られたエルさんはほんのわずか間を置いてからうなずく。
……なんか、微妙な敵意を感じずにはいられないんだよなぁ……。
徹頭徹尾無言だし……。
「エル姉ちゃんも歌うまいんだって、ラル姉ちゃんが言ってた。
俺、いつか聞いてみたいな」
無邪気なアイクの言葉にエルさんはうつむいて頭を振った。
……あぁ、なんだかこの無言対応、だんだん腹立ってくるんですけども。
ちょっといらついた気分でため息をつく。
「疲れましたか?」
「さほどかな。しばらくやってなかったからなまってたけど、まぁこの程度ならね」
昔は練習し始めると一日に四~五時間は当たり前だったから、このくらい弾いたからって別にたいしたことはない。
さすがに年下の、仮にも義妹だ。
あたるわけにもいかなくて手慰みに弦を弾く。
「まだ弾くんですか?
聞かせてもらえるのは嬉しいですけど、無理はしないで下さいね?」
笑いの混じったディノの声に、小さく頭を振る。
別に今は歌う気分じゃなくなっちゃったからなぁ。
――そこは私の場所なのに。
公園でも聞こえた妙な声に、視線を走らせるけど、怪しい人間は見あたらない。
まぁ、この人混みじゃあわかる場所になんていないだろうけど、一体何なんだ?
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