005 溜まったストレスはいつか爆発するものです。
生活費はもらったけどすることもないので今日も塔にこもるか、と宿を出ようとしていたら、男からの伝言が届いていた。
どうやら昨日の夜遅くに届いたらしい。
起きてきたら私に尋ねてくるように伝えて欲しい、というだけだったけれど向こうからの呼び出しなんて始めてだ。
それに、五日分の生活費をもらったのに三日目に呼び出しとは思ったより早かった。
何か決まったのかなぁ、と思いつついつも通りに男の部屋を訪ねると、そこには一人見たことのない男の人がいた。
呼び出した当人がいないし……。
誰だろうなと思いつつひとまず会釈だけして部屋の隅に逃げる。
だってこの人、いかにも鍛えてますって感じの細マッチョだし、背は高いし、目がつり上がってるし露出高めの革鎧だし……。
色々怖いんだもの。
ちなみに、たぶん四十半ばくらいと思われる。
居心地の悪い気分を味わいながら部屋の隅で小さくなってると、思いっきりこっちを観察していた男が盛大なため息をついた。
「ただの小僧にしか見えないな」
「ただの役立たずです。何もできないから何も期待しないでください」
たぶん、私を『異世界から召喚された勇者』だと思ってるくちだろうと思って先に主張する。
勝手に期待して勝手に失望して、なんてえらい迷惑なんだけどな。
ある意味雇い主的立場の相手でもあるし、難しいところ。
結果、一応丁寧語で返事をしてみたら、更にため息をつかれてしまった。
「声も細いし、体もひょろひょろ。
なぜこんなのが伝説の防具に選ばれるのだ?
相応しい相手などいくらでもいように」
ああうん、私もそう思ってるよ。
でも面と向かって嘆かれると割と腹が立つんですけれども。
けど、逆らって怒らせてもいい事なさそうだし黙っておこう。
なんだか愚痴モードに入ったらしいおっさんはそのままぶつぶつ言っているけど放置。
私は部屋の本棚に並んでいる本の背表紙を眺めて時間をつぶすことにした。
この世界の文字は読めないけれど、何となく本を眺めるのは楽しい。
本好きの血が騒ぐのかな。
時間ができたら読み書きを習ってこちらの世界の本を読んでみたいと思っていたけれど、そんな余裕が生まれる日は来るんだろうか?
つい現実逃避に走っていると、愚痴り飽きたのか、おっさんが不意に近付いてきた。
そして……。
「お前、そのひょろっこいなりで本当についてるんだろうな?」
言葉と同時に伸びてきた手が…………?!
「やめてくださいっ、それ以上は本当に危険ですからっ」
いつの間に現れたのか、諸悪の根源に横からきつい口調で言われ、そちらをにらみつける。
「こんな変態、万死に値するっ!」
思いっきり握り拳を固めて断言しつつ、だむっ、っと足を踏みならす。
――げはっ
なんかちょっと床が柔らかい気がしたけどどうでもいい。
きっと、クッションでもふんだに違いない。
「そりゃ、私は役立たずでしょうけどもっ!
だからといって見知らぬおっさんに痴漢されて許せようか?!
いや、そんなことできるかーっ」
雄叫びと共にびしぃっと男を指差す。
と、男が慌てた様子でわきに避けた。
一瞬遅れてさっきまで男がいた背後の壁が軽く陥没。
「だいたい、他力本願に解決しようとしてるお前らが悪いんだろうがっ!
貴族待遇で向かえろとは言わんが最低限の生活くらい保障するのが筋じゃないの?!
ふざけんなーーーっっ」
たまりにたまったストレスで叫ぶと周囲で何やら爆発音が連鎖。
流石にこれには驚いて動きを止める。
何があったのかと周りを見ると、室内は嵐か大地震でも来たかってカオス具合。
壁の至る所にはへこみがあって、本棚は倒壊。
床には本と机の上にあった書類が雪崩れてる。
床も天井も、至る所がすすけてるし窓ガラスは木っ端微塵。
机もひっくり返ってるし天板割れてるし、椅子も再起不能の主張をしつつ転がってる。
……あ。謎球体もひび入ってる。
そして、足の下にはさっきのおっさんが半死人の体でのびていた。
流石に足蹴は酷い。
というか、なんで足の下にいるの、このおっさん。
危ない趣味でもあるの?
やだやだ、と足をどけて小首を傾げる。
「何この情況?」
お読みいただきありがとうございます♪
次話は8月22日17時投稿予定です。




