043 怪しい子供(?)発見?
ひとまず順調に三階までたどり着いたものの、どうしようかなぁ……。
ゴミバケツ(生)とやり合うのは遠慮したいし、できるだけ急いで四階を目指すしかないんだけどね。
うぅ……。嫌だよぅ……。
まったく気乗りしないまま、だらだらと塔の中を歩き回る。
一応、炎耐性を上げる保護魔術をかけてもらってるし、もしゴミバケツ(生)が出てきたら火属性だけにした攻撃で一撃必殺狙い。
もう一回あれを浴びるのだけは本当勘弁だしね……。
そんなことを考えながら歩いていた時だ。
「ねぇ、おねえさんー」
背後から、なんだか間延びした声がかかったのは。
驚いて振り返るとそこには、いかにも怪しい魔術師的なフード付きマントで全身を覆った誰か。
身長は百二十センチくらいだろうか。
声も高かったし、子供?
「……誰?」
「ぼくー? ぼくはねぇ、ぼくだよ」
返事になってません……。
「ええと……。どうしてこんなところにいるの?」
「おとうさんにたのまれたんだー」
「お父さん?」
「うんー」
「お父さんの名前は?」
「しらなーい」
……おいおい。
なんだかつっこみどころが多すぎて、どこからつっこんでいいのかわからない……。
最近では塔に入るのは私だけだと、ディノが言っていたから、傭兵ギルド経由で入っている人もいないんだろう。
それなのに何でここに私以外の人間がいるんだろう?
まぁ、その辺は報告もれもあり得るから絶対とは言い切れないとしても、塔の中にふらりと子供がいるのがおかしい。
普通の神経をしてたら、こんな場所に子連れで来たりはしないだろう。
それに、このくらいの年だったら自分と親の名前くらい言えるものじゃないかな。
「お父さんはどこにいるの?」
「とうのー、うえのほう?」
「上?」
ひとまず情報収集、と思って尋ねると、そいつは首を傾げながら返事を寄越した。
でも首を傾げたいのはこっちだよ……。
「上の方っていうと、具体的には何階くらい?」
「ええとー。ぼくはわからないけどー、とにかくうえのほうー?」
「……いや、そこで疑問形にされても……」
どうにも気力をそがれるスローペースなしゃべりについ脱力してしまう。
「ぼくねー。おとうさんのところにー、おきゃくさんをつれていくのー」
「はぁ……」
「だから、いっしょにいこー?」
「いや、お断りします」
つい、反射的に断ると、その子供はしょんぼりと肩を落とす。
「ざんねんー」
そして、呟くと同時にすうっと姿が透き通って消えてしまった。
「えぇっ?!」
一体何だったんだ、これは……?
怪しいことこの上ないね……。
と、とりあえず、今日は三階を少し歩き回ったら帰ろうかな…………。
部屋に帰るなり、ベッドに突っ伏す。
うん、なんというか、疲れた。
怠いなぁ、かったるいなぁ、とか思いながらベッドでうだうだするとか、駄目な大人の見本みたいな状態だけど……。
まぁ、そんな日もあるさっていうことで。
ベッドでくてぇんとしていると、ディノが帰ってきたのか、ドアの外で人の気配がした。
もうそんな時間なのか、と思うけど動くのが億劫でだれていたら、ドアがノックされた。
「いるよ~」
返事をして、流石に横になったままはどうかと思って体を起こす。
かしかしと頭をかきながらディノを向かえると、小さく首を傾げられてしまった。
「何かあったんですか? 随分とお疲れのようですが」
「ん~……。あったといえばあったし、別にたいしたことはなかったと言えばその通りかなぁ。
――ところで、塔に出入りした人間の記録って、どっかで確かめられる?」
「入り口を警備している衛兵達が記録を取っているので問い合わせればすぐにわかると思いますよ。
塔の中で誰かと会ったんですか?」
「う、ん……。そんなところかな?」
冷静になって考えてみると、あれが魔物じゃなかったという確証があるわけでもない。
かといって、人じゃないと断言できるわけでもない。
出入りの記録を見たら何かわかるかな、程度の話だ。
「何か気になることがあるのなら、話してくれませんか?」
柔らかくうながされて、今度は私が首を傾げる。
「う~ん……。今日さ、塔で人というか子供らしき人間っぽいのに出くわしたんだけど」
「……また、微妙な表現ですね。
人だと断言できるような情報にかけるということですか?」
「そんなところかな。
身長は百二十センチくらいで、声は子供っぽかったんだけど」
「――塔の中に子供ですか?」
「うん。しかも、フード付きマントで、顔は口元がかろうじて見えるくらいで、他は全然わからなくてさ。
しかも、最後には透き通って消えてったし。
人間だとも違うとも断言できない感じ」
「そういった報告は今までにはありませんでしたよ。
――少なくとも、神殿の調査隊が確認した十階までの間で、そんな相手に出会ったという記録はありません。
ただ、姿が透き通って消える、というのは魔術を使えばできないことではありませんけどね。
子供でも、魔術具さえあれば難しいことではありません」
眉を寄せたディノの返事に少し驚く。
これだけきっぱりと断言したからには、確実にそんな記録がなかったと覚えているに違いない。
「また新要素かぁ……。
なんで私が探検すると、新しい要素がさくさく出てくるんだろうねぇ」
この前の魔力結晶もディノは初めて見たって言うし。
「そうですねぇ。
単純に考えると、マーシェル・ヴィードが塔の何かと反応してそんな事態が起きているか、ミュルカ自身が影響しているのか、どちらかなのだとは思いますが」
「……嬉しくないなぁ」
いつぞや浮上した、私じゃなければいけなかった説、再浮上の気配に苦笑いになる。
私を個人指定する理由なんてないと思うんだけどな。
「まぁ、そのどちらにしてもあなたが塔の攻略に関して鍵になるのは確かでしょう。
少しずつですが、確実に成果が出始めましたね」
「そう思っておくことにするよ」
慰めなのか本心なのか、どちらともつかない言葉に一応うなずく。
「ですが、あなたは少し根を詰めすぎですよ。
もう少し羽を伸ばしてはいかがです?」
「ん~……」
「ザーム先生が、ぜひともあなたの買った普段着姿を見てみたいと言っていましたし、たまには出かけてみませんか?」
「ん? そういえば、あれ、どうなったの?」
ザームさんに会ったなら、魔力結晶の話しもしたんじゃないかと思って尋ねると、ディノは少しばかり考えるような表情になった。
「正確な鑑定はしていませんが、まず間違いないだろうと。
現物は安全な場所に保管してありますよ。
ミュルカは、今日はどんな具合でしたか?」
だいぶ曖昧な返事だったけど、これは誰かに聞かれるのを用心してと言うより、詳しい情報を知らない方が安全だからって言うことかな。
「わかった、そっちは任せるよ。
――今日は、バケツを六体倒したけど、そのうち二体が生ゴミ入りでさ」
「……それはまた……」
生ゴミ入り、の言葉にこの前の酷いにおいを思い出したのか、ディノが顔をしかめる。
「でも、強めに火属性だけで攻撃したら一撃で燃やせたよ。
ドロップ品は例によってゴミみたいなものが出ただけだけど」
「そうでしたか。それはよかったと言うべきか、災難と言うべきか、難しいですね」
こっちも曖昧に返事をしたけど、どうやら通じたらしい。
ディノが言葉通り難しい表情になった。
「まぁ帰還符があるだけで随分楽になってるよ。
ドロップ品持って帰れるだけでも大助かり」
小さく笑ってそう言うと、小さく首を傾げる。
「そういえばさ、調査隊が調べてきた情報、今度詳しく教えてもらえる?」
「どの程度差が出ているかの突き合わせですか?」
「うん。同じならある程度対策が立てられるし、違うなら私だけなのかどうか、時間が経って中の様子が変化したのかは検証した方がいいだろうしね」
「そうですね。
では近いうちにその作業をしましょうか」
「悪いね、忙しいのに」
こういう時、文字が読めないのは困ったもんだ。
読み書きができれば資料さえ貸してもらえばすむんだけど、現状だと誰かに付き合ってもらわないことにはどうにもならない。
「その辺りも仕事のうちでもありますからね。気にしないでください」
気にした様子もなく笑み混じりに返されて、小さく笑う。
本当、いくら仕事でもあるとはいえ、こいつは付き合いがいい。
「でも悪いなぁっと思ったりはするんだよねぇ」
「でしたら、たまには息抜きに付き合ってくださいませんか?」
「……あぁ、うん……。 まぁ、そのうち……?」
墓穴ほったかなぁ、とか思いつつ曖昧に応じると、今度は苦笑いが返された。
「無理にとは言いませんが、適当に休みを入れてもらわないと無理をさせすぎているとお叱りをもらうことになってしまいますからね。
ほどほどのところで休みは入れてください」
「そうなの?」
「まぁ、サエルさんや塔の衛兵達から、少し根を詰めすぎているようだからと言われた事は何度かありますね」
「……それはごめん」
なんかちょっと前にもおんなじような台詞を聞いたような気がします……。
学習してないなぁ、私。
「でも、休みを入れるって言ってもなぁ……。
魔術の訓練でもしてればいい?」
「それじゃあ休みになってないと思いますよ。
町を散歩したり、何か趣味を持ったりしてはどうです?」
「うぅん……」
ディノの言葉に返事のしようがなくてうなる。
元々私の趣味はインドアで、読書だとかパソコンだとか、こちらではできないことばっかりだというのもある。
「こっちでできそうな事っていうとなぁ……」
「別に今までの趣味にこだわる必要もないかと思いますよ。
何か新しく始めたいことだとか、興味のあることはないんですか?」
「う~ん……。魔術にはちょっと興味があるけど、それは駄目なんでしょ?」
「そうですね、興味があるのであればいくらでも教えることはできますが、それでは私やザーム先生としか接しないのには変わりがないでしょう?
あなたはもう少し世界を広げるべきじゃないかと思いますよ」
「そう言われてもなぁ」
ディノの言い分がもっともなのはわかるんだけど、あんまり大勢と関わるのも面倒だと感じてしまうし、かといって一対一の濃い付き合いもおっくうだ。
カルチャーセンターみたいな、ほどほどに人がいてあんまり関わらなくてもすむような関係の、自分の作業に没頭してればすむようなのはないかなぁ……。
「思いつかないのであれば、ひとまず私の実家にでも行ってみますか?」
「うん?」
「妹たちがいますから話が合うかも知れませんし、こちらの世界の一般的な住宅の様子や飲食店の裏側というのは面白いかも知れませんよ」
「ふむ?」
「それに、あなたは私の義妹なんですから、たまには自宅に帰らないと不自然でしょう?
両親や新しい家族が増えると聞いたみんなも紹介して欲しいと言っていますし、気分転換がてらにいかがですか?」
どこか面白がるような声音での誘いに、それも面白いかな、と思う。
手軽だし、設定上あまり戻らないのも不自然かもしれない。
「ディノは頻繁に戻ってるの?」
「ここのところはばたばたしていたので少し間が空いていますが、基本的に週末には泊まりがけで帰っていますよ」
「週末?」
その言葉に、そういえばこちらの一週間は何日くらい何だろうかと首を傾げる。
「あなたは……。本当に、もう少し一般常識を身につけなくては駄目ですよ?」
呆れた口調で言われて、曖昧な笑みと苦笑いを返す。
うん、自分でも流石にちょっと、その程度すら把握してなかったことに驚いてるよ。
お読みいただきありがとうございます♪
タイトルの連番の頭に、ここしばらく0を入れ忘れたことに今気付きました^^^;




