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不思議な塔にまつわるあれこれ。  作者: ちびやな@やなぎ
53/96

40-10 フラグ未回収につき。

 出てきたばっかりなのに部屋に戻るのもなんだろうってことで、結局ディノの仕事部屋で話をすることにした。


 部屋に戻ってドアを閉めれば、元から部屋に施されている遮音の結界があるから話を聞かれる心配もないそうだ。


「……まぁ、それ程変わった話でもないんですけどね」


 そう話し出したディノは、少し考えるように間を取った。


「私の母は、ヘルベルト様の父上である、現ハーフベック伯爵家で侍女として働いていたんです。

 その時、手が付いたということですよ」


「……合意の上で?」


 私がありがちな想像で質問すると、ディノは苦笑いで首を振った。


「あまり詳しい話は聞いたことはないんですが、おそらく母には全くその気がなかったんだと思います」


「うっわ、最低」


 権力に物言わせて強姦ですか。


 つい吐き捨てる口調で言うと、ディノは咎めるわけでもなく曖昧にうなずいた。


「母が身ごもったことがわかった当初から、私が産まれてしばらく間ではあれこれもめたそうですが、結局、三ヶ月遅れで正妻との間に弟が産まれたことで決着しました」


「幾重にも最低な男だねぇ」


「……はい?」


「正妻腹の跡取りが産まれた以上、庶子の男なんて跡目争いの種はいらないって話でしょう?

 最低と言わずしてなんと言う」


 そんなところだろうと思って決めつけると、ディノは眼をぱちくりさせた。


「……なぜ、そんなことまでわかるんですか?」


「お約束でしょ、そういう展開は。

 ――でも良かったんじゃないの? そんなのに引き取られてたらうっとうしい思いさせられただろうし」


 脳裏をかすめたいくつかの面影に、いっそう渋面になって吐き捨てると、ディノは不思議そうに首を傾げる。


「本当、なんでそういう最低なことができるんだか。

 自分より弱い存在は守るべきものであって、虐げていい存在じゃない。

 その程度すらわからない馬鹿ばっかりで嫌になる」


 言って雑に頭をかいていると、きょとんとしているディノと視線があった。


「……なに?」


「…………いえ、その……。

 随分話が早いな、と……」


「そう?」


「はい。……その、あなたの周りではよくある事なんですか?」


「そうしょっちゅうあってたまるかって気はするけど、他にも三つばかり知ってるよ。

 ――まぁ、あんた以外は結構辛辣な報復をしたみたいだし、ちょっと手を貸したりもしたかなぁ」


「参考までに、どんなことをしたのかお聞きしても構いませんか?」


「ん? 一人は自分で会社起こして、くそ親父の会社乗っ取りかけて吸収したねぇ。

 もう一人は、本妻側の息子と手を組んで、子供できた、とかふかしてたなぁ。

 最後の一人は――、まぁ、黙秘しておこうかな。

 あんまり楽しい話じゃないから」


 くすくす笑いながら説明すると、ディノは呆れていいやら、感心していいやら、と言った表情だった。


「……あなたが何に手を貸したのか、若干気になるところですが……」


「大したことはしてないよ?

 ただ、ちょっとばかりアイディア考えるの協力したり、撒き餌になったり程度かな」


「撒き餌、ですか?」


「うん。妻子持ちのおっさんとお茶してご飯おごってもらってお小遣いもらう的な?」


「……そんなことをして大丈夫なんですか?」


 頭痛でもするのか、ディノが額をおさえた。


「大丈夫じゃない?

 少なくとも体の関係がなければ法には触れない。

 道徳的な責任はあるかも知れないけど、それは私が関知するところではないね」


「そういうものですか?」


「だって、私、相手から妻子持ちだとは一度も言われてないし?」


「……悪辣ですね」


「褒め言葉と思っておくよ」


 笑顔で返すと、ディノは大きなため息をついた。


「だからまぁ、話すのも話さないのも好きにしていいよ。

 おおよその事情は察しが付いたから」


「その……、聞きたいことがあるんですが」


「答えるかどうかは保証しないけど、言うのは自由だよ」


「そうやって復讐して、関係のない兄妹たちを巻き込んでしまうことを皆さんどう思っている様子でした?」


「そればっかりは本人にしかわからないことだよ。

 でも、少なくとも無関係ではないでしょう。

 それまでの安定した生活のために切り捨てられたものがあったことは確かなんだから」


「それはそうですが……」


 納得できない様子のディノを見て、小さく笑う。


「ディノはどうしたいの?」


「……はい?」


「思うところがあるからこそ、気になるんでしょう?

 言わないでいる言葉があるから、弟と関わるのが嫌なんでしょう?」


 薄い笑みを浮かべたまま尋ねると、ディノが言葉につまる。


「まぁ、みんなそんなもんだよね。

 親を憎むっていうのは結構精神力がいるみたいだから、みんなどうにかこうにか目をそらそうとするみたいだね。

 ――まぁ、無関心でいられない以上、何らかの形で決着をつける方が建設的だとは思うけど、それを決めるのは本人であって、私じゃない」


「自分次第、ということですか?」


「そうだよ。

 そんなの他人がどうこうできる問題じゃないし、わざわざ首を突っ込むほどお節介でもないつもり。

 まぁ、一つ私見を言わせてもらうとすれば、私を使って誤解させて和らげて断ったところで、どうせ似たような事を始めると思うけどね」


 さっきの男が本当に引き下がるとはどうも思えないんだよね。

 ああいう、自分は正しい事をしてるって思ってるタイプは徹底的にわからせないとすぐまた同じようなことを始めるものだ。


「なんだかミュルカにかかると随分わかりやすい問題に思えてきますね」


「そう?」


「はい。――正直、彼があれこれ関わってくるのが迷惑だとは感じているんですよ。

 けれど、どこから聞いたのか事情を知って償いたいと言ってくるのをむげにもしにくくて、あんな感じなんですけどね」


「迷惑ならきっぱり言ったらいいじゃない。

 それこそ、兄弟なんだから喧嘩でもなんでもして悪いことないでしょう」


「それはそうですが……」


「これだからいい子ちゃんは……。

 ストレスため込むといつか爆発するよ?」


 苦笑いのディノにこっちはため息をつく。


 こいつ、この調子じゃ今の家族にもどうせろくにわがまま言ったりもしてないんだろう。

 いつかトラブルを呼び込むんじゃないかな。

 ――まぁ、私に関わらないならどうでもいいけどさぁ。


「あぁ、そうだ。

 もし、あいつが私に声かけてきたら私は私の基準で対応させてもらうけど、一応つじつまは合わせておく?」


「さっきのことですか? ミュルカが嫌なら否定しても構いませんよ。

 どのみち、はっきりと何かを言ったわけではありませんし」


「確かにねぇ」


 私もディノもこれといって何も言ってない。

 ただ、相手が勝手にあれこれ思い込んで誤解しただけだ。


「んまぁ、だからこそ逆に否定しなくちゃいけない何かがあるわけでもないんだけど。

 そういうことにしておくなら、ザームさんには口裏合わせというか、事情だけは話しておかないとややこしいと思っただけ」


「あぁ、そうですね。ついでのあった時にでも話しておきましょうか」


 のんびりとした返事をして、ディノはふと思い出したように私を見る。


「ところで買い物はどうしましょうか? 少し遅くなりましたし、明日にしますか?」


「うぅん……。全部は無理でも一カ所くらいは済ませられそうだし、行ってこない?」


「では、ひとまずあなたの服を見に行きましょうか」


 立ち上がったディノにあわせて、私も立ち上がる。


 ――まぁ、話題終了はいいけど、なんかまだ解決してない気がするんだよね、この騒動。

お読みいただきありがとうございます♪


少しのつもりで差し込んだ話が延々続いてしまう・・・。

もうしばらくしたら諦めて番号ふり直すことにします^^;

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