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不思議な塔にまつわるあれこれ。  作者: ちびやな@やなぎ
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40-8 今後の予定と見知らぬ人。

 テラスであつあつの揚げパンを頬張りながらララムのジュースを飲んでいると、いくらか気分が上向いてきた。


 うん、やっぱり美味しいものは最強だね。


 ……でも、本当、なんだってこう精神的にくる攻撃をしてくる奴が多いんだろうなぁ。

 塔に上る気力をくじこうとしてるとしか思えないよ。


 ふぅ、と小さくため息をついてなんとはなしに周りを眺めていると、やがてディノがリヴァ茶を持って現れた。


「お待たせしました。

 ザーム先生のところで服を買い取ってもらえましたよ」


「いくらになった?」


「洋服一式と交換、という話になりました」


「……うん?」


 曖昧な返事に首を傾げると、ディノが小さく笑う。


「要するに、金額は設定してないんですよ。

 提供したものと同等品の交換、という形になります。

 これからあなたと買い物に行く予定だと話したら、とりあえずの費用を預けてくれましたよ。

 あとで、領収書を持って行って精算すればいいそうです」


「なるほど。それなら簡単でいいね」


 話がわかる人が相手だと助かるなぁ、なんて思いながら揚げパンを頬張る。


 あっつあつの揚げパンの中にはあんこがぎっしりで、表面には砂糖がまぶしてある。

 つまり、揚げあんパン。

 これが美味しいんだよね。


 地味な外見だけど、実はここの人気ナンバーワンを争う名物で、結構競争率が高いとか。

 揚げ上がり直後に来ないと手に入らないという。

 しかも、その揚げ上がりが毎日同じじゃないから、余計手に入らないっていう、ちょっとレアなパンだったりするそうな。


 もちろん、全部ディノの受け売りですよ?


「あれ? そういえばディノは揚げパン食べないの?

 売り切れちゃってた?」


 ふと気付くと、ディノはお茶しか持っていない。


 テーブルにあるのは、食べかけと私用にとテイクアウトのクッキーと揚げパン二つの入った袋だけ。


「売り切れていたには売り切れだったんですけど、それ程お腹が空いている訳じゃありませんから」


「ふぅん?」


 確かに、あんこぎっしりの揚げパンは結構お腹にたまる。

 一個食べるほどお腹が空いていないと言われば、確かにそうなんだろうとは思うけれど。


 ひとまず、かじりかけの揚げパンを、半分くらいの大きさにわる。

 もちろん口つけた部分は片方に寄るようにして。


 そしてわった半分をディノに差し出す。


「あげる」


「……いいんですか?」


「一人で食べててもつまらないし。ちょっとで悪いけど」


「では、ありがたくいただきます。

 一つは重い気分だったので、このくらいが丁度いいですよ」


 柔らかな笑みを浮かべたディノは、受け取った揚げパンを早速かじる。


「服はこの前のところで買えばいいかな?」


「それでも構いませんし、別の店でも構わないと思いますよ。

 ザーム先生からは、提供した分の服の他に、もうひと揃い、選んでくるようにと言われましたから」


「うん?」


「ミュルカは塔に通うための服しか持っていないでしょう?

 一着くらい、普段用の女性向きの服を持っていた方がいいですよ」


「……わからないでもないけど、先立つものがね」


 確かに、私が持っているのは最初に支給された服がひと揃いだけ。

 もうひと揃いはこの前駄目にされちゃって、買い直した新しい分はザームさんのところへ行っちゃった。


 ただ、服って結構高いんだよね。

 特に私が買うのは、日本でいう結構本気はいったアウトドア用のものに近い。

 だからその分割高なんだよねぇ。


「あなたのことだから、絶対にそう言って買おうとしないだろうから、ついでに見立ててくるように、とお金を預かっているんですよ。

 それを買ってこなかったら、服代は払ってくれないそうですが」


「はぃ?!」


 思わぬ台詞に聞き返すと、ディノがおかしそうに笑う。


「私も一着くらいは普段着を用意しておくべきだと思いますよ。

 ついでに言えば、それにあわせた靴と髪留めくらいは持っていないといけません」


「だからそんな余計な出費……」


「小物類は私からの差し入れですから、今日まとめて選んでしまいましょうね」


「……二人とも、なんで私を着飾らせたいわけ?」


 笑顔で言われて、思わず遠い目になってしまう。


「なぜと言われる方がわかりませんけどね。

 私はあなたの後見役なんですから、日常生活に困らない程度のものは用意する権利があるかと」


「なぜそこで権利……?」


「私とザーム先生があなたの世話を焼きたいのに、ミュルカが逃げ回るからじゃないですかね?」


 しれっと言われ、苦笑するしかない。


 確かに、今までにも二人が何かを用意してくれるというのを何度か断っている。

 別になくても最低限の生活をするのに困る訳じゃないものが多かったからね。

 アクセサリーとか本とか、部屋に飾る小物とか、そんなものなくても大丈夫だし。


「後はまぁ、色々あるんですよ。

 あなたがいつも同じ服で、しかもそれが男物だったりするでしょう?

 サエルさんに、妹に服も買ってやれないほど薄給じゃないんだから出し惜しんじゃ駄目じゃないの、と怒られてしまったとか、そういう事情が」


「……あぁ、なんかごめん」


 さすがに苦笑いになったディノの言葉に謝るしかない。


 そういえば、この前私も言われたんだよね。

 いつも同じ服ばっかり着て、若い女の子がかわいそうに、とか。

 ディノは高給取りなんだから、洋服の一着や二着、ねだって買ってもらってごらん、とかあれこれ……。


 実際には義兄でも義妹でもないんだからそんなことできるはずがないし、曖昧に笑って誤魔化していたんだ。


 ……考えてみれば、私が言われている以上、ディノが言われてないはずもなかったか。


「別にミュルカが謝る事じゃありませんよ。

 ただ、悪いと思うのなら、数着服を買わせてもらえると色々助かるんですが?」


 いたずらっぽい笑みと共に言われて、これには苦笑するしかない。


「ザーム先生も、奥さんに叱られてしまったそうですよ。

 親しい女の子が生活に困っているのなら、服や石鹸類、化粧品は差し入れてあげるのが甲斐性ですからね?

 と、それはもう迫力の笑顔で言われてしまったそうです」


「……いや、さすがに化粧品は……」


「まぁ、そんな事情ですから、これからも時々後見役の権利を主張させてもらうかも知れませんけど、抵抗しないでくださいね?」


「わかった、塔用の服の他に、上着みたいなのを何枚か選ばせてもらうよ。

 で、寮を出入りする時はそれを着ておいて、塔に入る前にしまうことにするから」


「そうしていただけると助かります。

 あと、できれば髪留めか何か、小物を数点お願いしますね。

 ザーム先生が言うには、アクセサリー類を少し身につけるだけで随分印象が変わるそうですから」


 あぁ、うん、そうだよね。

 でも好きじゃないんだよなぁ。


「……そういえば、魔術具の形状は決まったの?」


「まだ込める魔術の微調整中なので、最終的な形状は未定ですよ。

 何かぱっと見でアクセサリーをしているように見えるようなものにしますか?」


 少しばかりおかしそうなディノは、どうせなら一個で目的二つを済ませてしまおうという私の考えを見透かしたらしかった。


「難しくなければそうしたいなぁって」


「アクセサリー形状で問題ありませんよ。

 ミュルカは長袖の服が多いですし、指輪にしてみますか?」


「そうできると助かるな」


「どのみち耐久性を考えると金属製が望ましいですし、ついでにその手の店ものぞいてみますか?」


「うわ、なんか予定がいっぱいに……」


「まわりきれなければ明日にすればいいでしょう。

 私としても魔術具の形状が決まれば作業がしやすいですし」


「……形状に左右されるものなの?」


「魔術陣を刻むわけですから、本体の大きさや材質には影響を受けますね。

 まぁ、今想定している性能であれば、少し幅広の指輪にしていただければやりやすい、程度ですね。

 もしくは魔術陣を転写できる貴石をはめ込むデザインのものだとやりやすいですし、逆に細身で石も使っていないものだと少し難しくなりますね」


「貴石って、要するに宝石のこと?」


「ええ。硬度と透明度の高い貴石は、魔術陣を転写して封じやすいんです。

 専用の紙に書いた魔術陣を転写することで、縮小できますからね。

 まぁ、どの程度の威力の魔術陣まで転写できるかは貴石の種類や純度にも関わってくるので一概には言えませんが」


「面白いことになってるんだねぇ」


 宝石に魔術陣を刻めるってことは、アクセサリーじゃらじゃらつけている人は要警戒ってことになるんだろうか?


「そういう、アクセサリータイプの魔術具って一般的なの?」


「貴族や富裕層は護身用に防御魔術を込めたアクセサリー流用の魔術具を使うことがありますね。

 傭兵達の中にも使っている人達はいるようですが、一般的と言うほど普及するには高価すぎるかもしれませんね」


「そんなに高いの?」


「まぁ、単純に計算すると魔術具の値段にアクセサリーの値段が乗るわけですからね。

 くわえて、明らかに魔術具とわかるような意匠を嫌えば、その分手が込むわけですから、割高になっていきますし」


「なるほど。

 ……家一軒ですまなくなりそうだねぇ」


「まぁ、以前、貴族から注文を受けて魔術具を作った時はその位の値段がついたこともありますが、あれは特殊な例ですよ」


 私の言葉にディノがなんとも言い難い表情になった。


 ……あれ、この話題、地雷っぽい?


 なんか別の話題に変えようかな、と思っていたら、テーブルの側で誰かが立ち止まる。


 なんだろうと思って顔を上げると、見知らぬ男の人がこっちを見ている。


 ディノと同じくらいの年だろうか。

 どことなく似ているような気もするけど、なんか高級そうな布地を使った服を着てるし、仕立てもちょっと庶民の服とは違うような……。


 そして、なんか私の嫌いなタイプっぽい。

 なんていうかさ、顔が良くて色々オプションも着いてて、それに人が寄ってくるのを自覚してるタイプっていうの?


 てか、誰、こいつ?

お読みいただきありがとうございます♪

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