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不思議な塔にまつわるあれこれ。  作者: ちびやな@やなぎ
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002 ……もしかして餌付けされてるんでしょうか?

「……まぁ、私が愚痴を言ったところで事態は変わりませんね……」


 たっぷり五分は愚痴を言った後で男がそう呟いた。


 うん、言うだけ言ってすっきりしたんだね。


「私も今のままではとは思っていたのですが……。

 今日は少し付き合っていただけますか?

 ――無論、今日の生活費は宿に泊まるに足りる分だけお渡ししますよ」


 言葉に眉を寄せたのを見て、男が付け加えた。


「そういうことなら喜んで」


 うん、こっちはかつかつの生活してるんだからその位の配慮は必要だよ。


 私がうなずくと男は場所を変えようと言って部屋を出た。


 今までいたのはこいつの執務室?らしき場所で、私が給料をもらう時はいつもここに来る。


 ちなみにここは何か宗教施設が研究施設のような雰囲気の建物だ。

 基本は中世ヨーロッパ風ファンタジーという感じ。

 正直に言えばやっぱり鳥が主人公の不可解迷宮風。


 しばらく歩いてたどり着いたのは、建物の庭に面した一角にある小さな屋台の側だった。


 いくつか用意されているテーブルに着くと、待っているように言って男は屋台に向かう。


 そういえば、私こいつの名前知らないな。

 最初に名乗られたような気もするけど、ばたばたしてて覚えてない。


 じっと眺めているほど面白いものでもないし、初めて来た庭に視線を移す。


 今は丁度真夏で、午前中といえどきつい陽射しの下で草や木の葉がゆるい風にそよいでいる。

 陽射しはきついけれど湿度が低く、都心と違ってアスファルトやコンクリートで埋め尽くされているのとは違うさわやかな空気。

 観光できたのなら楽しめそうな光景なんだけど。


 あ~……。

 夏になったら会いに行くと約束してたんだけど、あいつは私が現れないことを心配してるかな?

 それとも怒っているのかな?


「どうかしましたか?」


 去年の夏に会ったきりの面影を追っている時に声をかけられ、驚いて体を引く。


 その勢いに椅子が傾いで慌ててテーブルにつかまった。


「……一体どうしたんです?」


「いや、……ちょっと驚いただけ」


 文句を言うのも筋違いな気がして、小さくため息をつく。


「少し早いですが昼食にしましょう」


 男は何か問いたげな気配を見せたけど、結局は何も言わずに持ってきたトレイをテーブルにおいて向かい側に座る。


 トレイには大きなバゲットサンドと飲み物のコップが二つずつ。

 それに野菜の素揚げが盛られた籠が乗っている。


「……ええと……?」


「誘っておきながら女性に払っていただくつもりはありませんからご安心を。

 飲み物はララムのジュースとリヴァ茶、どちらがいいですか?」


「……あ、気付いてたんだ?」


 意外に思ったんでつい言葉がもれた。


 身長もそこそこあるし痩せてて体型も何なので、昔っから男に間違われることの方が多い。


 こと、こっちに来てからはあまり身綺麗にしていない

 ――お風呂は別料金で結構高いから、基本水で絞ったタオルでふくだけ。

 髪も水洗いで放置。石鹸を買うような余裕はない――上、

 服も最初に支給品だといってもらった冒険向きの、要するに男物のいくらか厚地の上下と下着二組で着た切り雀状態。


 はっきり言って、こちらで女だと言われたのは初めてだったりする。

 宿のおばちゃんすら私を男だと思ってるし。


 まぁ、女だと知れていい事があるわけでもなさそうなんで敢えて訂正したこともないけれど。


 男はいくらか驚いた様子で瞬きをしたが、数秒の沈黙の後でふっと表情を和らげた。


「私が召喚したわけですからね。

 ……それで、どちらになさいますか?」


「どっちも飲んだことないからわからないんだけど……。

 ジュースって甘い?」


 実は、どっちも私の収入だと贅沢品になるので口をつけたことがない。


 宿の食堂ではしょっちゅう注文が入ってるから一般的なものなんだろうけどね。


「ララムは甘いと言うよりは甘酸っぱいですね。

 後味がさわやかなので夏には果汁を冷たい水で薄めて飲みます。

 冬には暖めてお湯や葡萄酒で割って飲みますよ。

 リヴァ茶は、茶葉を発酵させたお茶です。

 香りが良くて若干苦みがありますね。

 冷たくしても熱くしても飲みますが、好みで砂糖や乳を入れてもおいしいです」


 つまり、柑橘系のジュースと紅茶なんだろうか?


 首を傾げていると男は苦笑してコップを両方差し出してきた。


「悩むのでしたら試しに一口ずつ飲んでみてはどうですか?

 私はあなたが選ばなかった方をいただきますから」


「じゃあ遠慮なく」


 確かに百聞は一見にしかずというし、折角なので試させてもらうことにした。


 その結果、ララムのジュースはオレンジっぽい味で、リヴァ茶は見た目は紅茶で味と香りはコーヒーに近かった。


「ジュースの方にする」


 何となく今の気分にはジュースの方が合う。


 味見をさせてもらったお茶のコップを返すと、男は受け取ったお茶を一口飲んでからサンドイッチを勧めてきた。


「あなたから見て右にあるのがタムと野菜をはさんだもの、左がフームのフライですが、わかりますか?」


 これはわかる。


 確かタムが鶏肉っぽくて、フームは白身魚っぽいもの。

 要するにチキンサンドとフィッシュフライサンドな訳か。


「タムがいい」


「ではそちらを。付け合わせも適当につまんでくださいね」


 言って、男は短く食前の祈りの言葉を唱えてから食べ始める。


 こちらでは常識、と言うわけでもないらしいが。

 宿ではそんなことをしている人はほとんどいないし。


「いただきます」


 私は私で習慣に従って、手を合わせて軽く頭を下げてからサンドイッチを手に取る。

 どっちかというとハンバーガーのサイズだ。


 付け合わせの野菜の素揚げは、何種類かの野菜が手でつまみやすい形に切ってから揚げてある。

 ポテトっぽいにおいがするから、塩がふってあるのかも知れない。


 久々にまともな食事だなぁ。


 いつもはかったい黒パンに薄いスープをかけたものに焦げたり崩れたりして他の客に出せなくなった料理一品、という感じだから。


 決してまずい訳じゃないけどさ、日本人にはちょっと切ないの。


 柔らかいパンとか、本気で三ヶ月ぶりです。

 いや、日本のパンよりだいぶ硬いけど、でもスープに浸さなくてもかみ切れるパンってこっち来てから初めてですから。


 ほくほくとサンドイッチをかじり、時々揚げ野菜やジュースで舌を休め、またサンドイッチをかじる。


 ……あれ? なんでこいつと差し向かいで食事してるんだっけか?

お読みいただきありがとうございます♪


ちなみに、サブタイトルは主人公なら言いそうな一言、でチョイスしてます。

性格をお察しくださいw


次話は8月14日17時投稿予定です。

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