021 雑談もたまにはいいものです。
また評価が入ってました♪
じわじわ読んで下さる人が増えているようで、嬉しい限りです♪
ありがとうございます♪
結局、その日は気分的に疲れたのもあって、塔に行く気分にならなかった。
どのみち、お給料は塔に行ってない日は発生しないんだから行かない日があっても別にかまわないわけだしなぁ。
行きたくない日まで無理に行かなくてもいいような気がする。
……生活に余裕が出たからついそう思っちゃうのは認めるけれども。
かといって、塔に行かないとすることもないわけで……。
そんな風に困っていたら、ディノが昨日のザーム先生に会ってきてはどうかと言い出した。
「あの方は魔術全般に詳しい方ですし、時折初心者向けの魔術の講義を受け持っているんです。
なので、患者がいなければ色々面白い話が聞けると思いますよ」
「それは面白そうかも……」
うん、折角だからちょっと顔を出してこよう。
「おや、お二人そろってどうしたのかな?」
私達が顔を出すと、ザーム先生がにこにこと迎えてくれた。
「私は道案内です。
彼女が今日は塔に行かないというので、それならば先生のお話を聞ければ楽しいのではと思ったものですから」
言って、ディノが途中テラスで買ってきたお菓子とジュースの袋を差し出す。
こいつの言った通り、道順を覚えていなかった私を案内がてら、手土産まで買ってくれたというわけ。
……ありがたいんだけど、いつもお金払ってもらってるからなんだかたかってる気分になってきて少し微妙なのは内緒。
「なるほどね。そういう事ならお土産はありがたくいただくよ。
丁度今は患者もいないし」
笑って袋を受け取ったザーム先生は私に椅子を勧める。
ディノは仕事があるのでそのままいなくなったけど。
「はい、どうぞ。君も遠慮なく食べてね。
――それで、どんな話が聞きたいかな?」
ララムのジュースのコップを渡してくれたザーム先生がいたずらっぽく首を傾げる。
「ディノ君からは君に魔術の講義と簡単な応急処置の仕方を教えてあげて欲しいと頼まれているんだけどね。
そんな話をしたって僕は楽しくないし。
君が聞きたいなら講義もやぶさかではないけど、他愛のない話程楽しいことはないからねぇ」
あはは、と笑いながらの言葉につい吹き出す。
確かにディノのやりそうな手回しだけど、必要なことだからといってもそういうことばかり詰め込まれるのも疲れるのは確か。
「ええと……。ザーム先生はなんで先生って呼ばれてるんですか?
やっぱりお医者さんだから?」
なので、どうでもいいような疑問を口にしてみた。
「う~ん。この国では医者を先生と呼ぶことはあまりないね。
特に、僕みたいな治療魔術中心の人間につける敬称は治師のことが多いんだよ。
逆に、魔術を使わない医者にはなんとか医師って呼ぶかな」
「じゃあ、ディノは何で先生って呼ぶんですか?」
「その丁寧語をやめたら教えてあげようかな」
笑顔で言われ、ちょっと困った。
「ええと……。私、あんまり親しくない年上の人にため口は苦手なんですけど」
「それは困ったなぁ。
僕は若い子に丁寧な口調でかしこまって話されるのが嫌いなんだ。
だから、ため口までいかないまでも、ですます調はやめて欲しいな」
……それ、ため口って呼びませんか……?
でもこの人、言うこと聞かないと絶対質問に答えてくれなそうだし……。
「ええと……。じゃあ、努力するってことで?」
少し逃げ腰な返事をすると、ザーム先生は一応納得してくれた。
「じゃあ、質問に答えようか。
ディノ君はね、昔僕の下で治療魔術を勉強していたんだ。
だから彼が先生と呼ぶのは魔術の師匠、という意味での先生、なんだよ」
「なるほど。それでちょっと頭が上がらない雰囲気なんだ」
つい思った事をそのまま口に出すと、ザーム先生が面白そうに笑った。
「なるほど、君からはそう見えてたんだ」
「そう見えますねぇ。
普段は結構図太そうなのに、先生の前だと子供の頃の悪さを知られてる親戚のお兄さん相手にしてる感じっていうか」
正直な感想を言うと、今度は思いっきり吹き出されてしまった。
「あはは、そりゃあいい。確かに僕はディノ君のことを昔っから知ってるし、そんな気分になるのかも知れないね」
ひとしきり笑った後、先生が私を見て首を傾げる。
「そういえば君もいつの間にか先生呼びだけど、僕は君の先生じゃないし、できれば違う呼び方をして欲しいな」
「違う呼び方、ですか?」
「そう。先生呼びをしているから余計丁寧語になっちゃうんだろうからね。
流石に呼び捨ては難しいだろうけど、名前で呼んで欲しいな」
「じゃあ、ザームさん、で」
「うんうん、その方がずっといい。僕もミュルカちゃんって呼んでいいかな?」
「は~い」
はい、と返事をしたらまた丁寧語って言われそうだったんで、ちょっと間延びした返事にしてみる。
これなら多分、多少は違うはず。
「ミュルカちゃんって呼び名は、どこから?
明らかにこっちの発音だし、本名じゃないよね?」
「あぁ、それは私の名前、なんだかこちらの人には聞き取るのも発音するのも大変みたいなんで……。
ディノに頼んで手頃な呼び名をつけてもらった、の」
うぅ……。語尾をですます調にしない様に気にしながらしゃべるから変な間があいちゃうな。
けれど、せんせ……ザームさんはそこに触れることなく、少し驚いた様子で目をしばたかせた。
「……呼び名を? また、随分思い切ったことを頼んだねぇ」
「ディノも微妙な反応してたけど、そんなに深い意味があることな……の?」
危ない。つい、なんですか? って聞きそうになった。
「う~ん……。こちらの常識だと、結婚前の男女が名前をかわすのは、何らかの理由で結婚できないけど心はあなたのものですって主張している様なことかな」
「ぶふ……っ。げほっ」
飲んでいたジュースを吹き出しかけて、更に思いっきり咳き込んでしまった……。
「……それで微妙な反応してたのか……」
「まぁそうなるだろうねぇ。けど、彼は良く引き受けたね?」
「う~ん……。なんだか翻訳魔術の加減なのか、私が自分の世界の人の名前とか物の名前を言うと、どうにも聞き取れないらしくて。
私が別の呼び名考えた所で結局同じだろうから、養子に迎えた子供に呼び名つける感覚でお願いって頼んだんだけど……。
まずかったかな?」
「なるほどねぇ。時に、ミュルカちゃんの本名はそんなに聞き取りにくいのかな?」
「うぅん……。私、召喚された直後以外で本名名乗ったのってディノにだけなんでわからなくて。
ちなみに、本名はレン・シヅキです」
「――うん、ごめん。名前の所だけ何か妙な感じに聞こえるよ。
他の音が重なってかき消されている様な、変な感じだね」
「ちなみに、レンが意味する所はクモネって野菜と似た植物の花なんですけどね」
「うぅん、面白いねぇ。
クモネは普通にわかるのにその前の……レ、ン? かな?
そこだけはなんだかすごく聞き取りづらいし、発音するのもすごく難しいね」
二度目の太鼓判をもらった私の名前は、本当にお蔵入りだね……。
少し、聞き取れないのはディノだけだったら嬉しいなぁとか期待してたんだけど。
「これじゃあ確かに、誰かがこちらで使える名前を考えないと無理だね。
世界を渡るって言うのは本当に大事なんだと改めて感じるよ。
……本当に、大変な環境でよく頑張っているね」
そういってザームさんが私の頭をぽんぽんっとしてくれた。
うわ、なんかすっごい嬉しいかも……?
「……って、うん? どうしたんだいっ?」
なんか、ザームさんが慌ててる……?
お読みいただきありがとうございます♪




