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不思議な塔にまつわるあれこれ。  作者: ちびやな@やなぎ
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018 暴言吐かれて聞き流すかどうかは・・・ね?

 翌日、目が覚めると既に日が高かった。


 ……というか、もう午後の様な気がするんだよねぇ……。

 私の部屋には時計がないからよくわからないけど。


 昨日はよっぽど疲れたのか随分よく眠ったみたい。

 ディノは翌朝もう一度診察、と言ってたけど、起こされても起きなかったのか、起き出してこなかったからそっとしてくれていたのか、どっちなんだろう?


 首を傾げながらも着替えを済ませて部屋を出る。


 すると、居間のテーブルの上に小さな置物があった。

 手のひらに収まる程の大きさで、ガラス製だろうか。

 透明でだいぶデフォルメされた可愛らしい猫の形だった。


 こんなもの、昨日はなかったはず。

 だとするとディノがわざわざ置いて行ったって事なんだろう。


 何なんだろうな、と思って手に取ると、置物が淡く光る。


「ん?」


『疲れている様なので起こさずに出かけました。

 食事は時間がずれると伝えておいたので、サエルさんに言えば出してもらえます。

 食事が済んで落ち着いたらいつもの部屋で仕事をしているので顔を出してもらえますか?』


「うわっ?!」


 誰もいないはずなのに不意に聞こえてきた声に驚いて置物の猫を放り投げかける。

 思いとどまったのは、いかにも壊れやすそうに見えたから。


 声がやんでから置物を見直すともう光ってない。


 ……これも魔術だったのかな?


 びっくりした……。


 けれど、聞こえてきたのは確かにディノの声だったし、内容もこの状況ならあいつの言いそうなことばっかりだ。


 確かに、こちらの文字が読み書きできない私に伝言を残すには便利な方法なんだけど……。

 こういう魔術があるならあるで先に教えておいて欲しかった、と思うのはわがままなのかしら……?



 折角の心遣いなので、サエルさんの所に顔を出す。

 すると、とっておいてくれたご飯を出してもらえた。


 ……やっぱり昼を過ぎてて、折角だからと朝ご飯と昼ご飯、まとめてに出されたのにはちょっと困ったけども。


 でも、今までの宿で出てきたご飯とは雲泥の差の、とってもおいしい食事だった。

 おいしいおいしいと連呼しながら食べてたら、調理人の資格を持っているというサエルさんの旦那さんが照れくさそうに、でも嬉しそうにしてくれていたのがちょっと可愛かったです。



 のど元までたっぷりご飯を詰め込んでから道順を聞いてディノの仕事部屋に向かう。


 前も思ったけど、ここの敷地はかなり広くて、寮も同じ敷地内にあるんだけど歩くと結構時間がかかる。


 散歩気分で歩きながらディノの部屋のそばまでたどり着いた。


 ……けど、実は窓の外だったりして。

 寮からだと建物の外を通って一旦入り口に回り込まないといけないんだけど、その途中で一回ディノの部屋の窓の外を通るんだとか。

 教わってもいないのにどうしてここがディノの部屋の外だとわかったかというと……そこだけ窓ガラス?が割れてて布でふさいであったから。

 

 ……うん、私が壊したまんま、まだ修理が終わってないみたいです。


 少しばかり反省モードになった私が窓に近付くと、部屋の中から話し声がもれてきた。


「……から、これは彼女が……けでは、……」


 いくぶんとがったディノの声に、これじゃ盗み聞きになっちゃうな、と思い当たってこっそり離れることにする。


「これだけ派手に部屋を荒らした上、怪我人まで出しておいてあの子供のせいじゃないと?」


 ……ん?


 次に聞こえてきた声に動きを止める。誰の声かはわからないけど、これって、私がやらかした事が問題になってない?


「何度も言っている様に、先に失礼な振る舞いに出たのは相手の方です。

 非公式とはいえ、彼女は貴族待遇を得ているのですから、正式な裁判になれば終身労役か去勢されかねなかった所ですよ?

 それをあの程度の怪我で治療も受けられたのだから問題ないかと思いますが」


 うわ……。ちょっと怖い単語が聞こえませんでした?


 ディノの冷たい口調にも驚いたけど、内容の方が余計に驚きだった。


 終身労役か去勢ですって……?

 流石に、痴漢は許せないけどそこまではちょっとかわいそうだなぁ……。


「本人はそれでいいとして、この部屋の惨状はそれではすまないかと?

 貴重な本や魔術具の破損、それ以外の家具や建物自体にまで被害が及んでいる。

 ここまでは明らかにやりすぎだろう」


 応じた声は怒っているのを無理矢理押し殺している様な雰囲気の、いい年した親父なんじゃなかろうかという感じ。

 正直に言えば権力を振り回すことを当然だと思ってるタイプっぽい。


「彼女が故意にここまでやったというのならやり過ぎなのは認めます。

 けれど、あの子は自分が魔術を使えることすら知らなかったんですよ?

 急激な感情の振れによって魔力が暴走することは、未熟な魔術師にはままあることです。

 まったく教育を受けていないあの子に責任を負わせるのは魔術師教育指針に反するかと思いますが?」


 いたって冷静に返すディノ。

 ……でも、庇ってもらっておいてなんだけど、その理屈で納得してもらうのは難しいと思うんだよねぇ……。


 案の定と言うべきか、部屋の中から壁か机を平手で叩く様な派手な音が響いてきた。


「未熟を理由にこの損害を不問にしろと言うのか?!」


「不問にする気はありません。

 二度とこんな事態を引き起こさない様、あの子にはこれから毎日魔術の訓練をしてもらいます。

 一刻も早く、きちんと魔術を制御できる様になってもらいますよ」


「だから! その程度では手ぬるいと言っておる!

 そんな爆弾の様な小娘、腕を落としてマーシェル・ウィードを取り上げてしまえばいいではないかっ!」


 聞こえてきた怒鳴り声にぴくりと眉がはねたのが、自分でわかった。


 ……勝手に呼びつけておいて、なんだ、その言いぐさは。


 でも、ここで私が切れて乱入したらまずい、と判断する理性は残っていた。

 だけど不愉快な会話をこれ以上聞いていたらその理性も怪しいと思ったんで、そうっと窓から離れる。


 ディノが弁護してくれたみたいだったけど、何を言っているのかまでは聞こえなかった。

 このままこっそり離れて、テラスでお茶でも飲みながらしばらく時間をつぶしてから部屋に行こう、と思っていたら……。


「だいたい、お前やザームが甘やかしているのも…………からだろうっ?!

 そんな事だからあんな事をしでかすんだっ!」


「何をおっしゃいますかっ?!」


 相手に発言にディノが声を上げる。


 …………。

 うん、今の一言はきれても許される。


 聞いても決して気分のいい言葉じゃないからあえては伝えませんけど。

 ここできれなかったらそれは逆に、私だけでなくて、名前を出された二人への侮辱にもなる。

 そりゃ、全面的に感謝しているだけではないけどね。恩はあるんだ。


 だからここは思いっきりきれておくべき所だ、と決めた。

 やるといったらやる。



 ゆっくりときびすを返すと窓に近付き、外側から窓を覆っている布に手を伸ばす。

お読みいただきありがとうございます♪


次回は大魔神降臨でしょうか?w

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