015 狸なお医者さんと少し見直しちゃった同居人。
ここの所、順調にアクセスがのびてるなぁ、と思っていたんですが。
ツイッターでの活動報告し忘れてたらアクセスががっつり減りましたw
フォロワーさんがいつも読んで下さってるんですね。
ありがたい限りです。
でも、逆に考えると宣伝しなくても読んで下さっている方もいらっしゃるということですよね。
アクセスゼロになったわけじゃないんですから。
そう考えると何重にもうれしいな~、と少々浮かれてますw
本当、いつも読んで下さりありがとうございます♪
なにやら肩で息をしているディノは、おじさんと私を見比べた後一つため息をついてから後ろ手に戸を閉めて中に入ってきた。
「慌てちゃってまぁ。こんな時間に走ってきたのかい?」
「……怪我人が出たから大急ぎで来いと伝言を寄越したのはザーム先生だったかと」
からかいの混じった言葉に、ディノはさらりと応じてから私に視線を向ける。
治療のために着ていたシャツを脱いだんで、上半身は薄地の肌着だけ。
あんまりじろじろ見られたくないんだけどな。
「あまり顔色が良くないですね。痛みが酷いんでしょう?
先に治療を進めてくださればいいのに」
私が座っている椅子の隣にかがみ込んで、右手をあげかけて引っ込めたディノが眉間にしわを寄せて呟く。
「まぁ、単純な骨折だと思うよ。
痛みはあるだろうけど、半端に治療を進めても君が来てくれるのなら任せる方が結果として痛みは少ないだろうと思ってね」
「骨折ですか?」
「私が診た限りでは、ね。
意識もはっきりしているし、どうも彼女の話だと、腰より少し高い辺りから石畳に落っこちたらしい。
受け身を取り切れなくて、腕をぽっきり、という所かな。
頭は打ってないと言うし、そう心配はいらないはずだよ」
私がここで話したことをざっくりまとめて説明したおじさんは、やっぱり笑顔のまま。
うん、ほどよくうさんくさい……。
医者としてどうって言うんじゃなくて、なんというか……。狸親父臭がする。
「傷の様子を診せてもらっても?」
今度は私にむけられた言葉にうなずくと、ディノは何か呪文らしき言葉を唱えながら私の右腕に手をかざす。
しばらくの間、目をつぶってそうしていたと思ったら、ひとつ息を吐き出した。
「確かに骨折と、多少の打撲といった所のようですね。
――ミュルカが嫌でなければ魔術で治すことはできますが、どうしますか?」
「……いや、治せるなら治してもらえると助かるけど……。……痛いし」
何を当たり前なことを、と思いながらも返事をすると、ディノは再度目をつぶって何かぶつぶつつぶやき始める。
たぶんこれが魔術の呪文なんだろう。
ディノが魔術を使う所を見るのは初めてじゃないけど、何度その場にいても言葉は一切聞き取れない。
何か特別な言語なのかとも思ってたけど、この国には違う言語って概念がないみたいだし、異世界補正で聞き取れないだけなのかもしれない。
少しすると、ディノの右手にふわりと光が集まって、その手で一番痛む辺りにそっと触れる。
痛むかと思って身構えたけどなぜか痛みは全くなくて、少し熱い。
丁度使い捨てカイロか蒸しタオルを押し当ててる感じが近い。
不思議と気持ちいいその感覚にほうっと息をつく。
痛みで緊張していた体がほぐれるみたいだ。
私の体感で二十秒くらい、そうしていた後ディノは手を離して立ち上がった。
「まだ痛みますか?」
「……痛くない」
聞かれて痛みがないことに気付く。
おそるおそる動かすけど、少しだるい程度の違和感があるだけで、痛みは全くない。
「魔術ってすごいんだ」
驚き半分呆れ半分に呟くと、ディノは「そうでもありませんよ」と苦笑混じりに返事を寄越した。
「まだ完全に治ったわけではありませんから。
本当は数日はおとなしく家で静養して欲しい所ですけど、そうもいかないでしょうし……。
明日の朝にもう一度治療をして、その後数時間経ってから様子を診せてください。
それで異常がなければ昼からは普段通りに動いてかまいませんよ」
「はぁい」
骨折が二十四時間かからないで治るとかどんな奇跡、とか思いつつ返事をすると、おじさんがたまりかねたように吹き出した。
「ザーム先生……」
「……いや、悪い悪い。
別に、なんて過保護なんだとか、
もっと重傷な連中を一回で処置しっぱなしにしている君の言葉だとは思えないだとか、考えている訳じゃないからね?」
「……そうなの?」
「普段から体を鍛えてる兵士達とあなたでは条件が違いますから。
それに、体質的な問題で魔術の効きが悪い人もまれにいるんです。
あなたがそうでないとはっきりわかるまでは必要な用心ですよ」
きょとんとして問い返すと、返事はディノがした。
でも、少し憮然とした表情でそんな事言っても、おじさんの言葉を思いっきり肯定しているようにしか聞こえないんだけど。
「まぁ、じゃあそういう事にしておこうか」
おじさんも思う所があるんだろう。くすくす笑いながら話をまとめた。
うん、この人やっぱり狸だなぁ。
「それで、彼女はどうする方がいいかな?
後数時間だけどこちらで朝まで預かろうか?
それとも家に帰すかい?」
「……数時間?」
おじさんの言葉に思わず首を傾げる。
私が部屋を出たのは丁度午後のお茶の時間くらいの頃だったはず。
それから数時間塔にこもっていたとしてもまだ夜中と言うには早い時間のはずだけど……。
「うん? 時間感覚がずれてるのかな?
今の時期だと一~二時間もすれば夜明けだよ?」
「えぇ?!」
ちょっと待って、それだと私は十時間以上塔の中にいた計算になるんですけど?!
というか……。
「……そんな時間なのになんであんたはきっちり普段通りの格好なわけ?」
今日は夜勤で治療院に詰めていたというおじさんはともかく、ディノも普段とまったく変わらない格好だ。
夜中にたたき起こされたなんて言われなければ絶対に気付かない。
眠そうじゃないのは驚いて飛び出してきたからだとしても、この完璧な身支度はそんな短時間でできる物じゃないと思うんだけど……。
「戻ってこないミュルカちゃんを心配して起きて待ってたわけだ?
愛されてるねぇ」
私をからかう口調で実際はディノに対するからかいの言葉を口にしたおじさんがにやにやと笑う。
「……だからそこまでしてくれなくても……」
「あいにく、私は自分の失言で怒らせてしまった相手が夜になっても戻ってこないのに、自分だけのうのうと眠っていられるような性格ではないんです。
……もし、何かあって帰りたくても帰れない状況になっていたら、と随分心配したんですよ?」
流石にもう誤魔化せないと思ったのか、苦笑混じりでディノが白状した。
「……ごめん」
「あなたが謝る事じゃないですよ。
あの驚きようを見れば、予想外に時間が経ってしまっていたのはわかりますから」
腹立ち紛れに飛び出したのはともかく、そのまま夜中になっても戻らないなんていうのはいくらなんでも私が悪い。
そう思って謝ったのだけど、ディノはわざとじゃないのならいいとあっさり流した。
……悔しいけど、ちょっと格好いいとか思っちゃったかも。
お読みいただきありがとうございます♪
相棒に「もういっそ、ディノとミュルカの恋愛ものでいいじゃん」言われてるのに、それを後押ししてる様な内容になりました。
この二人、どうなるんでしょうね?
作者にも不明です^^;




