013 足下注意・・・?
お気に入り登録がまた一件増えてました。
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何度か頭をなでた後、ぽんぽんっと軽く叩いてから手を引いたディノはテーブルのクッキーを一つつまんで私の手に握らせた。
「心配事のある時は甘いものを食べるといいそうですよ」
「……そうなの?」
「甘くておいしいものを食べると気分がほぐれるから、悩み事には一番の薬になるんですよ。
――母の受け売りですけどね」
少しばかりいたずらっぽく笑ってディノもクッキーを一枚かじる。
「確かに、あなたに関することで色々動いた分仕事は増えていますけど、実家にいた頃よりは楽ですよ。
寮に入るまでは仕事が終わって帰ってから、店の手伝いと弟妹の相手もしてましたからね」
さらりと言われ、瞬きをする。
「店の手伝い?」
「両親は食堂をやっているんですよ。なので、家にいれば必ず手伝いにかり出されます。
寮に入ってからは随分楽になっているので、一日に数時間、あなたのために裂いた所でさほど負担にはなりませんから」
いたって平然と言われ、あえて反論する所でもなかったので頷いておく。
実際がどうであれ、ディノの好意に甘えるしかないのは事実。
ならば変な意地を張っているように思われてもお互いやりにくい。
「それに、私が何に対して責任を感じるかは私が決めることでしょう?
あなたがそれに対して負い目に思う必要はありませんよ」
「……まぁ、そうなんだけど」
正論に言い返せなくて曖昧に応じる。
そして、持たされたままだったクッキーをかじる。
薄いお菓子はさくっと砕けて、甘いミルクの香りが広がった。
「……あ、おいしい」
「ありがとうございます」
思わずもれた言葉にディノがなんだかすごく嬉しそうに礼を言った。
「これ、妹が作ったんですよ。
お菓子屋で働いていているんですが、一昨年くらいからクッキーを任せてもらえるようになったそうで、時々持ってきてくれるんです」
なるほど、そういう事か。確かに身内の作った物を褒められれば嬉しいだろう。
「まぁ、あなたも色々思う所はあるかも知れませんが、あまり難しく考える必要はないと思いますよ?
一旦、この世界での足場を固めることに専念してもいいのではありませんか?」
「私としては早く帰りたいから、そんな事をする暇があったらさっさと塔を攻略したいんだけどね」
相手の言うことに一理あるのはわかっていたけど、つい本音がもれる。
さくさくとクッキーをかじりながらついついため息がこぼれてしまう。
「不在期間が長引けばそれだけ向こうでの生活に戻るのも難しくなるからね。
……正直、そろそろ戻れないと帰った所で生活の基盤がなくなっててもおかしくない」
色々と微妙な立場にいた私の居場所など、不在が半年を超えたらなくなっていると考えた方がいい。
大学も二~三ヶ月ならまだしも、休学が半年を超えたら単位が取れなくて卒業時期に影響が出る。
一年分の学費をどこから捻出するかも問題だし、昨今の就職事情を考えると、有名でも何でもない大学で留年の憂き目をみていたら雇ってくれる会社などないだろう。
そうなればバイトで食いつなげればまだまし。へたをすれば生活保護だの路上生活だのという言葉が現実味をおびてくる。
「……そういうものですか?」
「まぁねぇ。
私のいた世界ではほとんどのことが一年単位で進んでいくから。一つ失敗すると一年無駄になる」
ため息混じりにそう言うと、ディノも一つため息をついた。
「なぜそういう事を最初に言ってくれないんです?
そうとわかっていればこちらにも対応のしようがあるんですが」
「見知らぬ他人の何ヶ月かかるかもわからない一方的な要求に応じてる程暇じゃない、今すぐ帰らせろって、散々言ったよね?」
言わなかった私が悪い、みたいな口調がかんに障って、満面の笑みを浮かべて言い放つ。
すると案の定、男は言葉につまった。
この世界に召喚された直後、半月以上の間はその押し問答しかしていなかったのを思い出したんだろう。
勝手に呼びつけた上、こっちの意思を無視して国宝級の物を身につけさせた上にそれが外せなくなったなんてのは私の都合じゃない。
こっちの言い分を無視して勝手に進めておいて今更何を言うんだか。
「……その、それではあなたが塔の問題が解決した後、場合によっては相応の待遇でこちらへ定住する権利を、と言い出したのは元の世界へ帰っても生活できなくなっている可能性を考慮してのことですか?」
「そういうこと。
あの時点で、どう考えても安全圏の二ヶ月以内での帰還は不可能だろうってわかったからね」
その程度の日数であれば、大学も補習なりレポートなりで単位がもらえる可能性が残されていた。
ただ、恐らくもうそれも無理だろうけど。
「私が言うのも何ですが……。
ある日突然行方不明になって、それきり戻らないのではご家族が心配されるのでは?
大変でしょうが戻られた方がいいのでは……?」
「うるさい」
ためらいがちな、けれど正論ではある発言をひとことで切り捨てる。
「今更感はぬぐえないにせよ、環境を整えてくれたことには感謝してるよ。
でも、知りもせずに余計な事を言うのはこれっきりにして」
いらだち紛れに言い放った台詞は、自分でも驚く程冷たく響いた。
言われた方もかなりの地雷を踏みつけたことに気付いたのか思いっきり凍り付いている。
「ごちそうさま。この空気で顔つきあわせてるのもだし出かけてくる」
ひらりと手を振ると返事を待たずに部屋を出る。
とりあえず時間つぶしに塔にでもいくとするか。
お読みいただきありがとうございます♪
お気に入り登録が増えていたので、前書きを書き足したら・・・。
禁則処理のミスだの誤字だの、一杯見つけてショックを受けましたorz
投稿前に気づけて良かったです。
お気に入り登録してくれた方、幾重にもありがとうです><
2013/10/22 誤字修正




