010 引っ越し作業。
その後もしばらくディノと話をした後、
今後私の部屋にもなるディノの部屋に案内してもらい、
生活に必要そうなもののリストを作り、寮で生活する手続きをした。
どうやら先に話を進めてあったらしく、
今日からでもいいという話になったので、
私は宿に少ない荷物を取りに行くため一旦別行動になる。
寮の部屋には最低限の家具――ベッドと簡単なタンスと机と椅子――はあったし、
寝具はディノが購入費用を立て替えて用意してくれていたので本当に身一つで事足りるらしい。
もっとも、こちらに来てからの私の持ち物は着替えだけなのだけど。
宿の部屋に帰って、着替えをひとまとめにして袋に詰めると引き払う手続きをする。
特に何を聞かれることもなく、さっくりと手続きが済んで宿代を精算するとそのままとって返した。
そのまま部屋に戻ると、今度は鍵を受け取ったり寮の規則の説明を聞いたりと手続きがあった。
寮の責任者は元気のいいおばちゃんとおっとりしたおじさんの夫婦で、触れ込み通り私をディノの遠縁で最近引き取られてきた子供と思っているらしい。
……なんか、十五~六だと思われているみたいだけどあえては否定しなかった。
あまり話をしていて世間知らずがばれると困るなぁ、と思ったけれどなんとかなったので一安心。
一通りの話と寮の案内が終わって、ようやく部屋で一息つく。
いや、いい人達だったんだけどなんか疲れた。
嘘設定がばれても困ると思うと緊張しちゃって。
ちなみにディノが寮として使っている部屋は、私の感覚で表現すると三LD。
居間兼応接室に寝室二つに書斎、という構造。
お風呂とキッチンがなくてトイレはある。
ただ、魔術の便利な所、というべきか熱湯はいつでも使えるからお茶がいれられるし冷蔵庫的な保管庫もあるので食品の備蓄はできる。
ただしコンロはない、という感じ。
お風呂は共同だけど大浴場の他に小さな浴室があって、四日に一回の割合で小さな浴室が使えるらしい。
男子寮なのかと思っていたら、ここは単身+従者もしくは夫婦か兄弟での入居を前提とした寮らしく、男女どちらも入居しているとのこと。
ディノは数年前に今の役職に就いた時、それまでいた男子寮からこっちに移ってきたそうで、でもずっと一人暮らしだったから時々管理のおばちゃん――サエルさん――が掃除をしていたそうな。
おばちゃんが話し好きなのはこの世界でも共通の属性らしく、サエルさんの話によると、ディノは十一人兄弟の次男で、上から三番目。
兄弟十一人のうち、両親から産まれたのは二人だけで他は何らかの理由で引き取られてきた子供だという。
よく子供を引き取っているとは聞いたけどまさかそこまでの人数とは予想外で、目を丸くした私に、サエルさんは、私で十二人目だと笑っていた。
流石にもうあの家にはこれ以上住めないだろうからディノがここに置くことにしても不思議じゃない、とサエルさんは笑っていたから、どうもディノの両親とは知り合いらしい。
……あとで私の話が出ておかしな事にならないといいけど。
そんな事を考えながらベッドに転がってぼんやりする。
このベッド、木製のフレームでファブリックはアースカラーの綿っぽい素材、と飾り気はないけど寝心地はかなりいい。
けっこういいお値段したんじゃなかろうか。
しばらくしてドアがノックされた。
玄関ではなく部屋のドアなことで誰だかはすぐわかる。
「いるよ。開けて平気」
少し疲れてたんで、そのまま返事をするとドアを開けて今日から家主になったディノが顔を出した。
「少し打ち合わせがてらお茶でも……、と思ったのですが、お疲れなら後にしますか?」
ベッドに転がっているのを見てか、引き下がりぎみの提案に起き上がる。
「大丈夫。
そこまで疲れてるわけじゃないし、むしろお茶にできるならその方がありがたいから。
――ベッド、寝心地いいね。ありがとう」
きっとそれなりのものを、と選んでくれたんだろうな、と思ったので礼を言うと、ディノは小さく笑って首を振った。
「気に入っていただけたなら良かったです。
詳しくないので人任せで手配したので、お礼はそちらに伝えておきますね」
誰に頼むかの人選とか、ある程度の指示はしたんだろうに、と思ったけど食い下がってあれこれいうのも何だったので頷いてお願いする。
人をたてるのもいいけど、礼ぐらい素直に受け取ればいいのに、とか思わないでもなかったけれど。
自己評価が低いタイプなのかな?
お読みいただきありがとうございます♪
う~ん……。予想以上に塔内部の話にならない……。
もうしばらくは生活基盤を整えるお話が続きそうです。
次話は9月1日17時投稿予定です。




