009 実は異世界召喚チートついてたわけですか?
二人ともご飯を食べ終わって、前回同様飲み物とデザートを買い足してからディノがいくらか態度を引き締めた。
「ところで……。先程の攻撃や魔術は元々使えたのですか?」
「……魔術は私の世界にはないし、運動神経はゼロどころかマイナスって言わなかったっけ?」
何の事だろうと思いつつ首を傾げると、聞き返された方は何とも言いがたい表情になる。
「それは確かに前回お聞きしましたが……。
では先程のあれは一体?」
「先程のあれ?」
歯切れの悪い質問に眉を寄せる。
何かしたっけか?
ふと気付いたら部屋がカオスになってるとは思ったけど。
「覚えてないのですか?」
「ん? あのおっさんの痴漢行為に対しては許したつもりはないけどそれが?」
「……おっさ……、いえ、彼と部屋にいた時、随分大暴れでしたよね?」
ついなのかおっさんと言いかけて訂正した。
やっぱりおっさんだと思ってるんじゃん。
「暴れたっけ?
いつの間にか部屋がカオスになってるとは思ったけど」
「……いつの間にかって……。
あなたがやったんですよ?」
「はぃ?」
芸もなく同じ問い返し方をしてしまった。
「……えぇ~?」
だけど、私そんなことしたっけか?
言われて少しばかり真剣に思い返してみると……。
…………あ。
「思い出しましたか?」
表情の変化を読んだのか、ディノが苦笑混じりの体で尋ねてくる。
「……なんだか、殴る蹴るの暴行を加えたような記憶がかすかに……」
「ですね。
私が部屋に入った時は怖いくらいの笑顔で胸ぐらをつかんでつるし上げていましたが」
……あぁ、そういえばなんだか足腰立たなくなってるおっさんの胸ぐらつかんでこんこんと説教したような記憶があるなぁ。
…………って、なんでそんな事できたんだろう?
「あのおっさん、見た目に反してとっても体重が軽かったりするの?」
「いえ、そんな事はないと思います。
むしろ筋肉質なので見た目より体重があるかと思いますが」
「……だよね。どうして持ち上げられたんだろう?」
普段だと五キロぐらいが持ち上げられる限界重量なんだけど……。
どういうことなのやら。
ひとしきり首を傾げてからふと左手に視線を止める。
「もしかして、これ?」
「はい?」
「これの能力、なんて可能性は?
仮にも希少装備っていうくらいだしそのくらいの機能はあってもいいんじゃない?」
思いつきで尋ねると、ディノは少し考え込む。
「確かにマーシェル・ウィードには装備者の潜在能力を引き出す効果もありますが……。
いくら何でもあれはでたらめな気が……」
「…………ごめん、良く覚えてないんだけど、私何やったの?」
昔っから本気でぶち切れた時の記憶が飛ぶ体質なんで、何かやらかしたのかなぁと心配になってきた。
過去にも全開笑顔で教師を論破したり、クラスで調子に乗ってた馬鹿(男)を半泣きになる程言葉攻めしたことがあるらしいけど……。
「ひとまず、あなたを個人的に敵に回すのは絶対にやめておこうと思うくらいには凄まじかったですよ」
「あ、あははは……」
……うん。
友達に大魔神降臨とかいわれたレベルのきれっぷりだったみたいだ。
まぁ、今回は明らかに向こうが悪いんだから自業自得だけどね。
「具体的に言うと、全身の筋力の強化――彼を持ち上げていたことからの推測です。
後は系統ははっきりしませんがいくつかの攻撃魔術を使っていたようですね。
見た感じの印象からしておそらくは火属性と地・風・重力属性のうちのどれかのようでしたが」
「……へぇ?」
どう反応したものか決めかねてとりあえず曖昧な返事をすると、ディノは深々とため息をついた。
「触媒を使ってならともかく、そういった補助なしに複数属性の魔術を使うなど、余程高位の魔術師でなければできないことです。
やはり、マーシェル・ウィードに選ばれただけのことはあるということなのでしょうね」
「……この装備自体が触媒の役目をしてるって可能性は?」
少しでも事態を小さく収めたくて切り返すと、ディノは頭を振る。
「それはあくまで本人の能力を引き出して強めるだけです。
……そうですね。
自転車に乗れば早く移動はできても、自転車に乗れるだけの運動神経がなければそもそもどうしようもないのと同じだと言えばわかりますか?」
「つまり、そもそも本人に才能がなければ魔術が発動するはずがない、と?」
「そうなりますよ。
しかも、あなたは魔術を使う気もなしに発動させていたわけですから、意図して狙いを定めて使えるようになれば相当な破壊力になるでしょうね」
「……それって暴走してたっていうんじゃないかな?
すごく危険なことだと思うんだけど……」
「もちろん危険です。
なので、あなたには改めて魔術を学んでもらうことになります。
実践的な技術から基礎的な理論まで、大変ですが当面毎日数時間くらいはそちらに裂いていただく事になりますね」
笑顔であっさりと言われて思わずちょっと脱力する。
もちろん危険ってそんな軽く言われても……。
「笑顔で言われると危険なんだかどうだかわかりにくいんだけど……?」
「まぁ、側にいる人間の危険度としては、火の気のある場所で火薬を扱う程度ですね」
「……それ、すごく危ない気がするんだけど……」
「ええ。
けれど、扱いを心得ていない幼児に抜き身の刃物を渡すに等しい危険な状態にあるとわかっていながら放置するわけにはいきませんから。
ミュルカが魔術を制御できるようになるまで、きちんと付き合いますよ」
何でもないことのように微笑まれ、曖昧な返事を返す。
……別に、ちょっとかっこいいとか思ってないもん。
お読みいただきありがとうございます♪
本人はまったく無自覚ですが、どうやら召喚チート、ついているようです。
ただし、本人の意思でコントロールできるようになるのかどうかは……。
次話は8月30日17時投稿予定です。




