初任務開始
「そろそろ目標の廃工場へ到着するようね。各自、準備をしてちょうだい。」
佐織さんのその無線が来ると一気に緊張が高まった。
「お、おい常田、深呼吸しろよな。」
弘は心配したように言ってきた。
とりあえずその場でニ回、深く深呼吸をした。
「常田と黒雨、ここにある武器で自分が一番使いやすいと思う物を取っていってくれ。」
弘は俺達の目の前にいくつかの銃を並べた。銃の種類は全部バラバラのようだ。
俺は端から見てみたが、やはりアサルトライフルが使いやすいだろうとそれを手にとった。
黒雨は小さいサブマシンガンのようなものを1つとハンドガンを2つを手にして、コートに付けているベルトのホルスターにしまった。
「すまないな、俺の倉庫にあったものを適当に持ってきたからな…。」
「私物ですか。」
「まあな。どれどれ…常田が選んだ銃は対クライシス用にカスタマイズされたアサルトライフルで名前は89式小銃だったかな。」
「86式なんてレトロな感じがしますね。」
俺はじっくりと銃をみた。
「安心しろ。ちゃんとメンテナンスはしてあるから撃てるよ。」
弘は慢心の笑みを浮かべた。
「ついでに黒雨が選んだのは対クライシス用にカスタマイズされたMP7とか言うPDWと、ハンドガンは対クライシス用のカスタマイズがされたUSPだな。2つ取ったてことは2丁持ちするのか? 面白い使い方だ。よし、これも活用してくれ。」
弘はニヤリと笑うと俺と黒雨に各銃の拡張マガジンを3つずつ渡した。
俺と黒雨はそれを銃に装填すると、余った分をマガジンポーチに入れた。
「それは全部俺からのプレゼントだ! あとこれも持っていけ。」
みたことないハンドガンを俺と黒雨に渡してきた。
俺はそれを無言で受け取った。
「それの中身は麻酔弾が入っている。装弾数は8発だ。あと予備のマガジンを2つ渡しておく。俺達には人に対する発砲及び殺傷のラインセンスがでているが、できる限り殺さない方向で頼むぞ…」
「…わかった。」
そして俺は麻酔銃をレッグホルスターに入れた。
「おーい、ついたぞ。」
朧丸はそう言うと鈴鳴と共に運転席から後ろにきた。
「了解、それじゃ今から任務を開始するわ。まずは目的の廃工場へ向かってちょうだい。」
佐織さんがそう言うと弘は装甲車の後ろの扉を開けた。
「よし、行こう」
俺達は警戒しやがら外に出た。
外は相変わらず薄暗く空気の濁った世界が広がっている。
全員が外に出ると朧丸は左腕の端末を操作して装甲車を透明にした。
「そんなことができるのか。」
「ああ、敵に見つからないように離れる時は光学迷彩を起動させて見えなくしておくんだ。ただ安ものを使ってるから肉眼以外で見られるとアウトだがな…。」
朧丸はガッカリしたように言った。
「準備終わったなら行こうぜ。」
弘はそう言い目標の廃工場の方向を指差した。
「こっちはオッケーだ、行こう。」
朧丸はそう言い歩き出した。
俺はその後を追うように後をついて行った。
「ここが目標の廃工場だな。」
朧丸はそう言うと背負っていたライフルを手にした。
「中へ入ろうか…」
「ああ。」
朧丸は廃工場の扉を静かに開けた。
廃工場の中は暗く、老朽化が進んでいるのか壁は所々がもろくなって穴が空いていた。
「よし、俺はここにいる。何かあったらすぐに行くからな。」
弘はそう言うと、入って目の前にあったゴミの収集箱に似た鉄の箱に隠れた。
「さて、俺と鈴鳴は目の前のビルに登ってお前たちの援護と出口の確保をしておく。人質を頼むぞ。ただ、無理するな…。」
「常田、黒雨…無茶しないで」
鈴鳴も心配したように言ってきた。
「了解。」
そして俺と黒雨は奥へと向かう事になった。
俺達はすぐにVゴーグルを付けて暗視機能を作動させた。
辺りを見渡すと沢山の木箱が積み上げられている。ここは運ばれた荷物を置いておく倉庫のようだ。
「聞こえる?」
突然の佐織さんの無線にドキッとした。
「は、はい…」
「再確認するけど、あなたの役目は覚えてる?」
「えーと、人質を救助しに来る一般戦闘員の援助ですよね。」
「その通り。その部屋の奥にある扉を抜ければ様々な部屋につながっている中央廊下になってるわ。まずはそこへ向かって。」
「了解です。…そう言えば佐織さんはどうやって俺達の状況を把握しているんですか?」
「皆の状況は左腕に付けている端末に搭載されているGPSで把握してるわ。ジャミングされない限り、余計な行動したらばれるわよ。」
「わ、わかりました」
まさか端末にGPSがついていたとは。いや、今時は普通か。
俺はミッションブリーフィングの話を思い出しながら置くへと進んだ。それを思い出しているうちに沙織さんが言っていた廊下へつながっている扉にたどり着いた。
「黒雨、扉を開けたら素早く廊下に出るんだ。」
黒雨は静かに頷いた。
俺は深呼吸しながら静かに扉を開けた。扉は思ったより錆びていて重く、ギギギギという大きな物々しい音を辺りに響かせる。
扉を完全に開けると黒雨は素早く廊下に出て警戒するように麻酔銃を構えた。
「よし…!」
俺も直ぐに廊下へ出た。扉から手を離すと再び物々しい音とともに勝手に閉まった。
「常田、人質はこの工場の地下にいるらしいわ。その廊下を右に向かって進むと地下へ行ける階段があるはずよ。その階段へ向かって。」
「了解です。」
無線を終了すると、物音をたてないように廊下をゆっくりと進んだ。
すると驚いた事に少し進んだところに電源が入ったエレベーターをみつけた。
「廃工場なのに電源が…」
「たぶん民間兵の奴らが、必要最低限の電力をどこからか供給して局所的に流してるようね。」
エレベーターを見ていると黒雨が俺の腰あたりをトントンと叩いてきた。
「どうした?」
俺が質問すると黒雨はスっとエレベーターの扉の上にあるメーターを指差した。
メーターをよく見るとエレベーターが地下から上に動いてきているようだ。
「まずいっ!」
黒雨の手を引いて直ぐそばにあった部屋に逃げ入ると、扉を軽くだけ閉めて、隙間からエレベーターを覗いた。
エレベーターはこの階で止まると、武装した一人の男が出てきた。
「こちら常田…朧丸、さっき俺が通った道を見回りだと思う兵士が向かった。」
俺はゴーグルの電子スコープの機能を使ってズームして相手を確認しながら朧丸に連絡をした。
「了解、少し様子を見よう。下手に行動すれば他の連中に感ずかれるかもしれんしな。」
「わかった…。」
俺は床に座り込むと、民間兵が行ってしまうのを黙って見送る事にした。
すると黒雨が隣にそっと座った。
「どうした?」
言葉を話せないのについ質問してしまった。
黒雨は黙って下を向いている。ただ隣にいたいだけなのだろうか…。
「こちら朧丸、お前の言ってた奴が外に出てきた。多分しばらくは中へは戻らんだろうから、今のうちに奥へ進むんだ。」
「了解。」
俺は黒雨と目を合わせてゴーグルを再び付けると、その部屋から出た。
部屋を出て何気なく考えると、エレベーターを使用して降りる方が楽なのではと思ってしまった。
「沙織さん、エレベーターがありますがどうしますか?」
「堂々と行くのもありだけど、今回は隠密に行動してほしいから悪いけど階段を使って。」
「了解です。」
よく考えてみると、そんな事をしたら敵に即見つかってしまい、作戦が失敗してしまうかもしれない。そんな簡単な事にも気づけないとは…。
そんなことを考えながらも再び階段へ向かった進んだ。
目標の階段は暗い照明がポツンと点灯していたのですぐにわかった。
俺は慎重に近づき、人がいないことを確認した。
「沙織さん、目標の階段を確認。周囲には人がいないようです。」
「わかった。そのまま階段を降りて、子供達を探して。」
「了解。」
それから黒雨に静かについてくるように手で合図をして階段をゆっくりと降りた。
階段を降り切るとかなり近くで人の話声が聞こえる。
近くに見回りの兵士でもいるのだろうか。
「沙織さん、聞こえますか?」
「なにかあったの?」
「階段を降りたのですが、すぐ近くで人の話し声が聞こえていて、闇雲に動けない状態です…。」
「じゃあ、あなた達のバトルスーツの機能を使うといいわ。」
「機能?」
「ええ、腕につけている端末を見て。」
俺は端末を見た。端末は俺が見た瞬間画面が点灯した。
「画面の左にある“システム”をタッチして。」
俺は言われるがままに操作した。
すると画面中央に“光学迷彩”と文字が表示された。
「あなた達の着ているスーツの標準機能よ。文字をタッチすれば起動、もう一回タッチすれば解除よ。…あまり詳しくは説明していられないけど、それを有効に活用して潜入してちょうだい。」
「了解です。」
俺は“光学迷彩”と書かれた文字をタッチした。
するとブオオという低い音と共に姿が見えなくなった。同時にゴーグルの視界に俺の姿が薄い青色で映った。どうやらゴーグル上では見えるように補正してくれるようだ。ふと、後ろを見ると黒雨もいつの間にか光学迷彩を起動していた。どうやら黒雨のコートにもその機能があるようだ。
「よし、上手く起動できたようね。人質のいる部屋は、階段を降りた先の通路を右に進んだところにある第三倉庫って書かれた部屋よ。」
「わかりました。」
俺はそう言い通路の右を向いた。
すると、ちょうど声の主の民間兵2人か近づいてきた。思ったより近くにいたようだ。
だが、俺達は光学迷彩で姿を隠しているため2人の男は何も気にせず話し続けて歩いた。
「カウント3で右側の男を麻酔銃で眠らせる。黒雨は左の男を頼む。」
黒雨は頷き麻酔銃を構えた。
「よし、3、2、1…」
麻酔銃の銃声はかなり静かな音だった。
麻酔弾が2人に命中すると、カクンと倒れて眠りについた。
「常田、その2人を拘束してちょうだい。あとで回収する人が来るわ。」
「了解。」
俺は装備品にあった結束バンドで2人を拘束した。
それから直ぐに奥へと進んだ。
しばらく奥へ歩いていくと、第三倉庫と書かれた錆びた扉の部屋を見つけた。
「ここがその部屋か…」
黙って耳を傾けると中から鼻水をすするような音が聞こえる。
人質かは分からないが中に人がいるのは確かだった。
「沙織さん、人質がいる部屋の前へ来ました。一般戦闘員が来るまで待機していればいいですか?」
「数分前から外で大きな戦闘が起きていて、救出隊の到着が遅れているの。あなたが人質と接触してその施設の安全な場所へ移動させてちょうだい。」
「了解です。黒雨、光学迷彩を起動したままここで警備してくれ。」
黒雨は静かに頷いた。
それを確認した俺は光学迷彩を解除して扉を静かに開けた。
「だ…誰?」
扉を開けている最中に一人の女の子の声がした。
声の主を確認しようと中へ入ったが部屋は真っ暗だった。
俺はゴーグルの暗視機能で見えていたが、とりあえず装備にあったフラッシュライトを使用して辺りを照らした。
「君達を助けにきた救出隊だ。君達が人質かな?」
「は、はい。」
そこには平均12歳だと思われる少女1人と少年2人がいた。
「沙織さん、人質3人を無事に確保しました。」
「了解、よくやったわ。」
「それでどうすれば…?」
「そうね…。安全だと思われる最適な場所を今から急いで調べるから少し待ってちょうだい。とりあえずさっき降りた階段を登ったらもう一回連絡して。」
「わかりました。よし、君たちを安全なところまで案内するからついて来て。」
「うん…」
「わかりました」
「はい」
3人は返事をすると恐る恐る俺に近づいてきた。
ゴーグルをつけているせいなのか、変に警戒されているのかもしれない。警戒と誤解を解くために俺はゴーグルを外した。
「そんな警戒しなくても大丈夫だよ…。さあ、行こう。」
なるべく優しく話しかけるようにした。
部屋の外に出ると、透明化した黒雨がいそうな所を見て話しかけた。
「黒雨、さっきの階段まで戻ろう。」
3人は黒雨が見えていないため、俺が話しかけているのを見てポカンとしていた。
「あ…黒雨、光学迷彩は解除してもいいぞ。」
俺の一言で直ぐに光学迷彩を解除した。
黒雨は俺の向いている方向とは反対の所に立っていたようだ。
少し俺は恥ずかしくはなったが、3人は黒雨が現れて何か納得したように顔を見合わせて黙ったので何も言わなかった。
「よし、行こうか…」
仕切り直す様にそう言うと、静かにゆっくりと進んだ。
あれから、しばらく無言で歩き続けて、階段まであと5メートルという所まで進んだ。
その時、階段の方向から激しい銃声が聞こえたのと同時にカサカサという音が背後から聞こえた。
俺は後ろを振り向いて麻酔銃を構えるとクリアリングを始めた。
「誰かいるのか…?」
キシャーー!
俺の問に、いかにも人ではない声で返答してきた。
姿がしっかり確認できないため、声がするだいたいの方向に麻酔銃を撃った。しかし、当たった感覚はない。
するとその声の主が俺の身体目掛けて飛んできた。
「うわっ」
声の主は小型のスパイダータイプのクライシスだった。
そのクライシスは小型のと言えども俺の身体くらいの大きさはある。
それを身体から離そうと抵抗したが、クライシスは足でしっかり固定してくるため全然離れられない。
「くそっ」
気がつくとクライシスは口をパクパクとして俺を補食しようとしてきた。
パパパパパ!
すると急に辺りに銃声が響き、そのクライシスがぐったりとなり動かなくなった。
俺はそれをどかして辺りを見渡すと、MP7を構えた黒雨がいた。どうやら黒雨が助けてくれたようだ。
「黒雨、ありがとう…。」
俺はいろいろな意味でほっとした。
しかし辺りからはあのスパイダータイプのクライシスの声がまだ響いている。どうやらまだ何匹かいるようだ。
「よし、俺から離れないでついてくるんだ。」
それから今だに聞こえる銃声のもとに向かった。
階段を駆け上るとそこには銃を撃っている朧丸と鈴鳴の姿が見えた。
「朧丸、鈴鳴大丈夫か?」
「ああ、なんとか。」
朧丸達は隣のビルで俺と黒雨を援護することになっていたはずだが…。
「隣のビルにいたんじゃないのか?」
「あれを見るんだ。」
俺は朧丸達が銃を撃っている方向を見た。
そこには数十匹ものスパイダータイプのクライシスが壁や天井を歩いて近づいてきていた。
「あれが見えたもんでな。直接行った邦画早いと思って来たんだ。」
「これじゃ、その方が正解のようだ。」
俺はゴーグルを付けると、黒雨にも援護射撃するように指示をしてクライシスに射撃を始めた。
「ふう、このあたりのは片づいたな…」
朧丸は一安心したように言った。
しばらく攻撃を続けているとスパイダータイプのクライシスは現れなくなった。
「出口は確保できてるのか?」
俺は出口確保役の朧丸達がここにいるために不安になっていた。
「俺達がエレベーターから上がって来たとかいう男を監視していたら、突然あのクライシスが大量に現れて施設に入っていったんだ。あまりの数だったから急いでここに来たもんで、悪いが確保は間に合っていない。」
「それもそうか。」
「きっと民間兵の奴らに気づかれたんだろう。とりあえず、弘と連絡をとって出口を確保してもらおう。」
「そうだな。」
そう言い朧丸は弘に連絡をとった。
「こちら朧丸。弘、聞こえるか?」
「聞こえているぞ、なにかあったのか?」
「人質は無事に確保できたがクモ型のクライシスが現れた。そっちにも何匹か向かっているかもしれない。俺達用の出口を確保を頼みたい。」
「了解、まかせろ!」
弘との連絡を終えると朧丸は無言でこっちを見た。
「まだ、クモがいるかもしれん。俺もついていく。」
「それは心強いな。」
俺はそう言い、沙織さんと連絡をとることにした。
「沙織さん、階段を登った所まで戻りました。」
「お疲れ様。いろいろ検討したけど一番いい部屋はそこから左に進んだ先にある“休憩室”だって事になったわ。そこに向かって。」
「了解。」
「…それとクライシスが出たようね。気をつけて。」
「お気遣い感謝します。」
俺は連絡を終えると朧丸に場所を伝えてそこに向かうことにした。
「にしてもこのクライシス、何なんだろうな…。」
俺はボソッと言った。
「俺の仮説だが、ここにいる民間兵が人間や機械以外に偵察する手段として使っているものだと思う。」
「根拠はあるのか?」
「断言はできないが、あのクライシスの目は一部機械化されている。たぶんここにいる民間兵がその機械から映し出されている映像を見て行動していると思う。」
朧丸の話を聞いてさっき襲われたときのことを思い出した。
そう言えば、あの時のクライシスの目にも機械がついていた気がする。
「ここが休憩室ですね。」
俺達が話をしていると鈴鳴が報告するように喋った。
「こちら弘、常田か朧丸は応答できるか?」
俺達が休憩室に入ろうとすると弘から無線がきた。
無線には銃声も混ざっていた。
「こちら常田、どうした?」
「噂のクモ型のクライシスが現れた。しかも凄い数だ。」
「俺達が向かうまでもちそうか?」
「もたせるさ。だが長くはない…早めに頼んだぞ!」
「了解。」
俺は連絡が終わるとすぐに休憩室に入った。
「君達はここで待っていてくれ。」
俺は少年達にそう言った。
少年達はさっきのクモ型のクライシスのせいか、泣きそうな顔をしていた。
「沙織さん、休憩室に着きました。」
「了解。来る予定の一般戦闘員がなんとか突入開始できたわ。あなた達は光学迷彩でそこに残って少年達を護衛しなさい。」
「分かりました。」
無線を終えると朧丸が出口に向かった。
「常田、俺と鈴鳴は一足先に装甲車を持ってきて弘と合流する。その後で合流しよう。」
「了解、健闘を祈るぜ。」
「おう、お互いにな。」
朧丸はそう言うと鈴鳴と一緒に走って出ていった。
「これから別の人が救出にくる。それまでここで待っているんだぞ。」
「う、うん」
俺はそう言い残して黒雨と廊下に出た。そして光学迷彩を起動して休憩室の入り口で立って少年達を護衛する事にした。
あれから直ぐに一般戦闘員が来て、休憩室へ真っ先に入っていった。
「君達を助けにきた! さあ、ついて来るんだ!」
中で一般戦闘員の人が少年達にそう言ってるのが聞こえる。
それから少年達を連れて外に向かった出ていった。
「沙織さん、無事に一般戦闘員と合流して外に向かっていきました。」
「了解、良くやったわね。人質を保護できた事によって一般戦闘員の総突入ができるようになったわ。そこの民間兵の拘束も時間の問題ね。私達の役目は終わりよ、あなたも早く脱出して。…まだあのクモ型のクライシスや民間兵も残っていると思う。注意してね。」
「了解です。」
俺は黒雨に“行こう”とアイコンタクトをして、入ってきた場所に小走りで向かった。
最初に入って来た倉庫へ入ると、頭上から大きな物音がして立ち止まった。
俺は何かを感じて天井に向けてアサルトライフルを構えた。
ゴーグルの暗視機能を使ってよく見るとそこには大きなクモ型のクライシスが一匹いるではないか。
その大きなクモ型のクライシスはサッと地面に降りてくると、いきなり黒雨に襲い掛かった。
「黒雨!」
俺は黒雨に当たらないように射撃をした。
すると黒雨を投げ捨てるように飛ばすと、俺の方に走ってきた。
「それはマズイ!」
俺は倉庫の棚をジグザグに移動しながら射撃しつつ、黒雨の元に向かった。
「黒雨、大丈夫か!?」
黒雨はよろめきながらも立ち上がった。
「よし、アイツから距離を取ったら早く外にでよう。」
そう言って移動しようとしたとき、黒雨の体に鉄のワイヤーのような物が一瞬で巻きついてきた。
上を見上げるとあの大きなクモ型のクライシスがこちらを見つめて待機していた。
このワイヤーのようなものは、そいつの糸だ。
「くそっ!」
俺はそのクライシスに荒く射撃した。
しかし、クライシスは黒雨に巻きついたワイヤーのようなクモの糸を引っ張って自分のもとへ引き寄せ始めた。
俺はその糸に向けて射撃を試みたが、なかなか当たらない。
クモの糸はキツく巻いているのか黒雨は苦しそうにしていた。
俺は焦りながらもクライシスに射撃した。クライシスはダメージを食らっているようだが、なかなか怯む様子を見せない。
「常田!」
俺が酷く動揺していると入り口から弘の声が聞こえた。
「弘!!」
弘は両手に持った機関銃を構えると、そのクライシスに集中砲火した。
するとキャオーという弱々しい叫び声と共にに黒雨を地面に落とした。
俺は糸に巻かれたままの黒雨を抱いて抱えると、出入り口まで全力走った。
「常田、乗れ!」
外に出ると朧丸が装甲車で迎えに着てくれていた。
「助かる…!」
俺が装甲車に乗ると弘も走って乗ってきた。
「よし! 出せ!!」
弘がそう言うと、装甲車の後部扉が閉まりながら走り出した。
「常田、大丈夫か?」
「な、なんとか。それよりもこの糸切ることはできないか?」
俺はワイヤーのような糸に巻かれたままの黒雨を弘に見せた。
「任せろ。」
弘は大きなナイフを取り出して糸をブチブチと切り始めた。
「凄い切れ味だな」
「研究所の連中がクライシス用に研究して作ったナイフだからな。…よし、全部切れたぜ。」
「ありがとう。」
黒雨は気を失っていた。
その顔を見て、黒雨を助けることができなかった事に罪悪感を感じ始めた。
「まあ、なんだ、初回の任務にしてはよくやったよ。」
「まだまだだよ…」
俺が直ぐに否定すると弘はフッと軽く笑った。
「俺も最初は無茶してな、皆に迷惑かけたことがあるんだぜ。今はそんなに追いつめても何も得るものはないぞ?」
弘は俺を励まそうと必死になった。
「弘は初回の任務で私達の装甲車を一台まるまる壊したじゃないですか…」
鈴鳴がボソッと言った。
「ああ! その話はもうやめてくれよぉ!」
いったい何をして壊したのだろうか…。
「常田、心配する事はないです。常田も黒雨も、これから強くなっていきますよ。」
鈴鳴も俺を励まそうとしてくれてた。
「…そうだな、ありがとう。」
「まあ、今はとりあえず戻って一休みしようじゃないか。」
弘は笑顔でそう言った。
「そうだな…」
今は弘の言う通りに、少し休むとするかな。