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いざ初任務へ


 時刻は朝の6時。

 

 まだ約束の時間には1時間の余裕はあったが、俺と黒雨くろさめは既にロビーに来ていた。

 というか本当はもう少し遅く来るつもりだったが黒雨くろさめが以外にも早起きをしてお腹を空かせていたため、なんやかんやとしていたらここについていたと言う流れだ。


「あら、もう来てたのね。」


 後ろから紗織さおりさんがやってきた


「いろいろあって、早くきました。」


「あら、そうなの。早くきたならせっかくだし1時間早くブリーフィングしよっか。」


「何のブリーフィングですか?」


「それは後で教えるわ。とりあえずついてきて。」


 そうすると紗織さんは会議室のある通路にむかった。

 俺は黒雨についてくるように手招きして紗織さんの後を追った。


「さ、入って。」


 連れてこられたところは第一小会議室と札がついている部屋だった。


 中に入ると部屋の中心を囲むように座席が配置されていて、その各席のテーブルには電子端末のようなものが設置されている。


「あれ、もう来たのか。」


 そこにはひろしさんや朧丸おぼろまる、そして鈴鳴すずながすでに席に座っていた。

 しかし、俺からしても既にここで待機している皆は早いと思うのだが。


常田ときたと黒雨も適当に座っていいわよ。」


 そう言われ手前の席にサッと座ると、その隣に黒雨がちょこんと座った。


「よし、全員揃ったし早めにミッションブリーフィングを行うわね。」


「ミッションブリーフィング?」


「要するに任務の概要を説明するのよ。」


「え! 任務って実戦のですか?」


「…ええ、そうよ。実はね、私達のこのチームってまともに潜入できる人がいなかったのよ。そのせいで、いつもいろんな任務から除外されてばかりだったの。そこへあなたと黒雨が来てくたってわけ。」


「でも弘さんや朧丸は?」


「弘は体躯は勿論、重火器をメインに使う戦闘スタイルだからい潜入員よりも陽動員としてクライシスを攻撃したりして囮になってるほうが向いているの。朧丸は潜入はできなくはないけど、ああ見えてかなりの腕のいいスナイパーなのよ。だから潜入より、後ろで援護にまわってもらった方が有効だわ。勿論、鈴鳴はパートナーだから朧丸のそばにいなきゃだめだし…。」


 そう言われると他にやってくれそうな人はいないようにも思える。


「あとね、潜入する人には後ろでバックアップしてくれる人がいなきゃ駄目なの。それが朧丸の役目ってわけ。それに今回の任務はあなたと黒雨の実力テスト兼、このチームの自体の実力テストも兼ねているのよ。」


「はあ。」


 紗織さんはそう言うと部屋の中央へホログラムでどこかの施設の立体的な地図を映し出した。

 座席のテーブルにあるホログラムモニターには、その施設の航空写真が映し出された。


「今回の任務は人質の救出ってところね。」 


「人質の救出?」


「ええ。民間兵の奴らが一般人である子供三人を人質にとって廃工場に籠もっているの。要求は飲料水を三十リットルだそうよ。」 


「ほお、相変わらずくだらんな。」


 弘があきれたように言った。

 この時代で水はそれなりに希少価値がある。生物兵器が暴れまわる日本では水の供給が間に合わないたに尚更だ。


「他に条件みたいなものはありますか?」


 俺は裏のP.K.D.Fが出るのだから、ただ水をよこせと言うだけとは思っていなかった。


「そこが今回の重要な点よ。民間兵の奴らは四十八時間以内に今映っている廃工場の屋上に要求分の水を設置して、そこからP.K.D.Fが全員撤退したら合図に警報を慣らせと言ってるそうよ。条件が満たされた場合は屋上に人質の子供を開放するそうで、満たされない場合は人質の子供をネットのライブ配信で殺すそうよ。」


「面倒くさい条件だな…」


 朧丸がボソッと言った。


「今回の目標は一般戦闘員が人質の子供3人を救助するのを援助する事と、その民間兵を生け捕りにすること。」


「なるほど。」


 俺は相づちを打つように喋った。


「まず、現場近くまでは装甲車で移動してもらうわ。付近についたら徒歩でその工場に向かってちょうだい。」


「オッケー!」


「了解。」


「わかりました。」


 俺たちが返事をすると、沙織さんはイメージ映像らしいものを中央のホログラムモニターに映し出した。


「到着したらまず、常田と黒雨ペアには主力として施設内部へ潜入してもらうわ。朧丸と鈴鳴ペアは後方でバックアップしながら、常田と黒雨ペアの出口を確保して。弘は民間兵に見つからないように外で待機ね。4人の身に何かあったら直ぐ駆けつけられるようにして。」


「おう、任せろ。」


 弘さんはやる気満々に言った。


「常田と黒雨ペアの細かい動きについては現地ついたら私が指示するわ。」


「わかりました。紗織さんはどこにいるんです?」


「私? 私はオペレーターだもの。ここに残ってあなた達をサポートするわ。…ブリーフィングは終了よ、さあ、準備をして。」


 紗織さんは優しく微笑んで言った。


「了解です。」


 俺は返事をすると皆と一緒にチームルームへと向かった。



 チームルームへ入ると目の前のテーブルにアタッシュケースが2つ置かれていた。


「そういえば常田ってP.K.D.Fの装備は身につけたことはあるのか?」


「一応あります。黒雨を助けに行ったときに入隊試験用の装備を着てました。」


「ほほう。まあ、一般戦闘員の正規装備はその試験の時のとほとんど変わらないんだけどな。」


 弘さんはそう言うとアタッシュケースを開けた。


「これがお前と黒雨の今日からの装備だ。」


「装備は昨日受け取ったと思いますが…?」


「実はあの装備は朧丸の戦闘スタイルをベースに開発した狙撃主スナイパー向けの装備なんだ。昨日お前が帰った後に高松たかまつ大佐と相談して、やっぱり潜入員は潜入員専用の装備があった方がいいって話になったんだ。それで直ぐに作ってもらったんだよ。」


 弘さんはそう言いながら俺に装備を渡した。


「装備って直簡単に作れるんですね。」


「そんなことはないぞ。ここの研究所の奴は少し変わり者だが、絵描きが一枚の絵を簡単そうに描いたり、料理人が短時間で創作料理を出すように見えない努力があったからこその今の技量だ。」


 なかなか説得力のあることを言う……。


「なるほど。」


 装備を受け取ると外観を確認するため広げてみた。

 戦闘スーツは相変わらずの黒ばかりを組み合わせた色で、ゴム質と鉄やカーボンのような素材で構成されているようだ。

 昨日受け取ったものに比べれば丈夫そうである。


 俺は部屋の角にある簡易的な着衣室に向かい装備を着用しようとした。


「あの常田?」


 着衣室に入ってカーテンを閉めようとしたら紗織さんが呼んできた。


「どうかしましたか?」


「黒雨の装備は私が着せてあげるわね。」


「あ…そうですね。お願いします。」


 そして俺はカーテンを閉めた。


「そういえば特殊戦闘員の人達は、装備品や武器は統一しないんですか?」


 俺は質問をしながらスーツを着始めた。


「いい質問だな。」


 俺の質問に朧丸が答えた。


「ここの連中は同じ装備の奴はほとんどいないだろう。」


「なんでです?」


「そうだな…特殊戦闘員は入隊する時に実戦に近い訓練をいくつか受けさせられる。その訓練結果から照合した戦闘データで戦闘スタイルに合わせた兵種に分けられる。例えば俺の場合は狙撃主スナイパーだ。それで弘が言ってた研究所の奴が、戦闘スーツや銃のホルスターなどの全ての装備を戦闘データとその個人の身体データに合わせたものを開発してくれる。武器に関しては毎回自由に本人の体に馴染む武器に変更できるんだ。

「俺はその訓練を受けてないんですがどうやって装備を作ったんですか?」


「ああ、お前は彼女くろさめを助けるのに一度実戦をしている。あれだけでも十分なデータなんだ。」


 そうも話をしているうちに俺はスーツを着終わっていた。カーテンを開けると目の前に朧丸が立っていた。


「ほほお、なかなか似合っているじゃないか。」


 朧丸はグッドと俺にやってきた。


「おーい、常田これを!」


 弘さんがさっきより一回り小さいアタッシュケースを投げてきた。


「おわとと……軽い。」


 無事にキャッチした最初の印象は軽いことだった。


「中にはいろいろと機械が入っている。全部お前のスーツに取り付けられるから、付けておくんだぞ。もし、取り付けに困ったら朧丸に聞くといい。その機械は朧丸の装備と大して変わらんからな。」

 弘さんはそう言うとチームルーム内の椅子に座った。 


「わかりました。では、朧丸さんお願いします。」


「おう。と、その前に朧丸で構わん。前にも言ったがこう見えて俺のパートナー以外の年齢はお前と差がほとんどないからな。もっとこう…マイルドにいこうぜ。」


「わ、わかった。」


 俺はぎこちなくもため口で喋ってみた。


「そうそう、そんな感じ。んじゃ、機械について説明していくぜ。」


「り、了解だ。」


「まずはコイツ。コイツはスーツの左腕にを取り付けられるようになっている。」


すると朧丸は画面が5インチほどのスマートフォンのような端末を俺に渡してきた。

 言われるがまま左腕に取り付けると、スーツにぴったりとはまった。


「この端末は…?」


「それは武器以外で使用する大事なコンピューターだ。これから装備する機械系統の装備は大半がその端末を経由して使用可能となる。」


「端末単体には何かあるんですか?」


「そうだな。本体の単体機能としては物事を調べたりする辞書みたいな検索機能、敵のコンピューターや電子ロックの扉などのハッキングとかだな。あとは一般戦闘員の装備にある端末にアクセスする事ができるぞ。他は…やっぱり何やかんや別の機械を操作や制御するための機能だな。とりあえずこれを両腕にはめてくれ。」


 すると朧丸はゴムバンドみたいなリングを二つ渡してきた。俺はなにも言わずそれを両腕にはめた。


「これは?」


「それはホログラムモニター展開装置といったところかな。それがあればどこでもホログラムモニターを展開でき、立体的な地図とかも場所を選ばず見れるぜ。」


「展開方法は…?」


「お前が脳で展開したいと考えてからどっちかの手を前に出すだけだ。」


 俺は言われたとおりにして右手を出すと、リングが薄く光りだし、ホログラムモニターが目の前に出てきた。


「最初に言っておくがそのモニターも左腕の端末があって機能するものだからな。」


「そうなのか。」


「あとは…このインカムくらいかな。」


 俺は渡されたインカムを左耳につけた。


「よし、装備は完璧だな。なにか質問はあるか?」


 俺はふと昨日手にしたVRバーチャルゴーグルのようなものを思だした。


「んー、機械の操作はある程度できそうだし…昨日から気になってたんだが、VRゴーグルみたいなやつについて教えてくれないか?」


「ああ。それについて説明するの忘れていたな。えーと、このゴーグルは暗いところや特殊な身体のクライシスに対抗するために、様々な状況と環境をアシストするぶいゴーグルだ。空気の汚染などがある場合にもそなえて、ゴーグル型じゃなくてフルェイスのガスマスク型のやつもあるんだぜ。」


 朧丸はそう言いながらそのゴーグルを俺に渡した。


「ガスマスクですか…」


「ま、緊急時の備えさ。」


 俺は受け取ったゴーグルの全体を見渡してみた。一見は高性能な機械には見えない。


「取りあえずつけてみな。バンドの調節とかもしたほういいだろうしな。」


 俺は慣れないな手つきでそのゴーグルを付けてみた。

 付け方はいたって簡単。普通のゴーグルをするように顔に付けるだけ。

 付け終わると自動で電源が入るのか、覗いた先には周りの風景が映し出されていた。それにしても、覗く所はあるのに映し出すためのカメラのようなものなどが一切無いという不思議なゴーグルだ。


「お、いい感じだな。そのゴーグルは暗視、サーマル、赤外線、電子スコープなど様々な機能がある。切り替えの仕方はさっきのホログラムモニターと同様で“脳で機能の切り替え”を指示すれば、脳波を読み取り、自動で切り替わる仕組みとなっている。」


 俺は黙って“暗視”と思った。すると視界が暗視モードに切り替わった。


「便利ですね。」


「だろ? 他にそのゴーグル付けていれば左腕の端末を経由でレーダーや地図をゴーグル内に表示できたりもするぞ。」


 俺は一般戦闘員の試験の時のヘルメットの話を思い出した。


「いろいろ機能豊富ですね。」


「他は実際に使いながら学習してくれ。あとゴーグル付けないときは、装備に持ち運ぶためのポーチがあるからそこに入れておけよな。……さて、説明はこんな所にして出撃前にコーヒーでも飲むよ。」


「わかった。…ありがとう。」


 お礼を言うと朧丸は微笑んで、“どういたしまして”と手を振りながらチームルームにあるコーヒーメーカーへと歩いていった。

 俺は近くにあった椅子に座って一息ついた。


「常田ぁ~」


 すると疲れきった様子の紗織さんが後ろから話しかけてきた。


「ど、どうしたんですか?」


「あのね…、黒雨が巫女装束以外着たがらないのよ。」


 するとさっきと服装が変わってない黒雨が紗織さんの後ろから歩いてきた。


「別に巫女装束でも構わないんだけど、基本その格好じゃ何も防ぐ事できないし、機動性とかも皆無だし、黒雨は民間兵の事もあるから服装変えた方が良いと思うののよね…。」


「まあ、あたり前だと思いますけどね…。」


 黒雨は俺の隣にある椅子に座った。

 ひとまず俺と沙織さんが打開案を出し合っていると、それをみていた朧丸が言った。


「着替えたくないならその巫女装束の上に何か着せればいいんじゃないか? …ちょっと待ってろ。」


 朧丸はそう言って自分のロッカーからデザートカラーのレインコートのような物を取り出してきた。 


「ほれ、これを巫女装束の上に着せればいい。フードもあるから頭も隠せるし、いいんじゃないか?」 


「どうも……でも、これは何なんだ?」


「俗に言うポンチョコートだな。一応、防水防塵の防刃そざいだぜ。しかし巫女装束の上に羽織ってるだけだから、走ったりすると袴が見えたりするし、機動性とかも良くなるわけでもないが…仕方ないだろう。」


 すると朧丸はそれを俺に渡してきた。


「ありがとう…。」


「問題ない。」


 俺は椅子に座った黒雨を立たせて、巫女装束の袖をまくって、たすき代わりの紐で固定してからコートを着せた。

 黒雨は特に抵抗することなくそれを受け入れて着てくれた。


「ふう、これでとりあえずは一件落着ね…。皆準備が整ったのかな?」


 佐織さんはそう言うと全員の姿を見渡した。

 気がつくと弘も準備を済ませて、朧丸の隣でコーヒーを飲んでいた。


「私は先にオペレータールームに行ってスタンバイしておくから、あんた達もコーヒー飲んだらさっさとゲートに急ぎなさい!」


「あいよ~。」


 佐織さんはそう言うと部屋を出て行った。


「常田、緊張してるか?」


 弘が聞いてきた。


「それなりにってくらいは…」


「そうか。まあ、無理しない程度に頑張ろうぜ。」


 弘はそう言うとコーヒーを一気飲みした。


「よし、行くか!」


「ですね。」


 そして俺達はチームルームをあとにして出撃ゲートに向かった。




「うおお!」


 出撃ゲートの中に入るとそこにはたくさんの乗り物や武器、弾薬などが置かれていて、俺はつい興奮して声を出してしまった。


「はは、こう言うのに興味あるのか? 俺たちのチーム専用のゲートは4番だ、覚えておけよ。」


 弘は指を指しながら言った。


「了解だ。」


 俺は弘達について行くように“4”と地面とゲートに書かれたレーンに向かった。

 レーンには小さな端末が一つ設置してあった。


「さて、今回は装甲車で向かう事になってたな。」


 朧丸はそう言いながらその端末を操作し始めた。

 レーンの床が動き出して装甲車が運ばれてきた。どうやらその端末を操作して乗り物を出し入れしているようだ。


「さあ、乗れ!」


 そして弘は装甲車の後ろの扉を開けた。

 俺は黒雨を先に乗せてから後に乗った。


「運転は任せろ。」


 朧丸はそう言うと前の運転席に乗った。


「もしもーし、聞こえてるかな?」


 しばらくすると佐織さんが確認の無線通信をしてきた。


「あ、はい」


「よし、皆乗ったわね?」


「いつでもオーケーだぜ。」


 弘はそう言いながら後ろの扉を閉めた。


「了解。それじゃゲートを開けるわよ。」


 ゆっくりと“4”と書かれたゲートが開かれた。


「検討を祈るわ。」


 佐織さんがそう言うと装甲車は走り出した。



 いよいよ正式入隊初の任務開始だ…。


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