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入隊


「君が常田ときた君だね」


「は、はい」


 P.K.D.Fは各地域の中で一番大きな都市にある基地で一日に3回の採用試験を行ったいる。

 あれから1時間。

 俺はこの日の最終の採用試験に来ていた


「試験会場へ案内するよ、ついてきて。」


「はい。」


 試験会場の受付前に立っていた人に黙ってついていった。

 それにしても、他に受けに来た人の姿は見られない。


「急な試験受付だったけど、何かあったのかい?」


 本来、P.K.D.F側からのスカウト以外は試験を受ける前に、意思表示の申込書を希望日の前日までに提出しなければならい

ない。

 俺は医院長の“コネ”とやらで急遽受ける事が叶ったのだ。


「その……助けたい人がいるんです。」


「そうか…だとして自分が死ぬなよ。ここではそう言って命を落とした奴が何人もいるからな。さて、ついたぞ。ここが会場だ。」


 案内された場所は、訓練用に作られた無人の大きな屋内市街地だった。


「今回のP.K.D.F入隊希望者は三人。常田ときた 優心ゆうしん川嶋かわしま 東夜とうや福島ふくしま りょうだ。」


「東夜!?」


「常田!?」


 俺と東夜は同時に互いの名前を呼んだ。


「東夜、どうしてここに?」


「俺は、…実はさっきの避難所襲撃のとき──」


 東夜は暗い顔をして語りだした。


 話によると、俺と黒雨くろさめが自宅から逃走している最中に起きていたP.K.D.Fの基地の襲撃。

 東夜と東夜の母さんは共にその現場にいたらしい。


 東夜は緊急でその場にいたP.K.D.Fの隊員と戦闘を共にしたらしく、なんとか基地の防衛に成功したそうだ。


 しかし、東夜の母さんを含める多くの人が流れ弾などて重症を負っているらしい。

 そこで、P.K.D.Fに入隊している者の家族は優先的に治療を受けられる制度があって、東夜の母さんだけでもとその場にいた隊員の推薦で東夜は入隊することになったらしい。

 

 勿論、意思表示を求められたらしいが東夜は了承したそうだ。

 

「ところで常田、お前は?」


「俺は……俺は助けたい人がいるから入隊を希望したんだ。」


 俺はフラッシュバックするように黒雨くろさめの事を思いだした。

 守ってやれなかったという罪悪感が心の奥底で渦巻いている。


「そこ、いいかい? 試験の内容を説明するよ。」


「あ、はい」


「試験は君達三人で協力して現役のP.K.D.Fの隊員5人とペイント弾で模擬戦闘をしてもらう。勝利条件は5人全員にヒットさせるか制限時間終了まで生き残ることだ。失格基準は全員ヒットした場合のみ。その時点で試験終了とし、全員不合格だ。」


「「了解です。」」


「装備はそこの更衣室にあるから着替えてくるといい。」


 その人は更衣室を指差した。

 俺たちは小走りで中に入ると、各自の名前が書かれたロッカーから装備品を出した。

  戦闘用の衣装は警察の特殊部隊が着るようなスーツで全身が固い骨格のようなモノで覆われていている。かなり丈夫そうだ。


「バトルスーツのサイズは問題ないか? それが実戦で使用する君達の正装になる。」


 試験監督の人は更衣室の扉を開けてそう言った。


「俺はバッチリです。」


 俺が言うとその試験監督の人は更衣室の中に入ってきた。


「試験前にそのスーツの説明をさせてもらう。…えーと、そのスーツは防弾、防刃、クライシスの酸などを防ぐ防酸や強い衝撃を吸収する機能などがある。また、少しだがパワースーツの機能もあって、跳躍力などは自分の筋肉量に比例して数倍の力が出せる。それと、左腕にウェアラブル端末があると思うが、それは味方の生存状況の確認などいろいろな機能がある。あと、今は無いが装備にはヘルメットもあって、そのヘルメットのシールド部分もウェアラブル端末になっていて味方との視界を共有シェアできたり、ライブで地図を見たりする事ができる。…簡単だがとりあえず以上だ。」


 試験監督が説明を終えると俺達は更衣室を出た。



「よし、全員準備オッケーだな。武器はそこにあるSOPMOD M4を使ってくれ。マガジンは各自三本までだ。もし弾が無くなった場合はこの市街地フィールドのあちらこちらに隠して置いてあるから、それを探して使うといい。説明は以上だ。もう現役組はフィールドで散開して待機している。5分後に開始のアナウンスをするから君達はここから移動して好きな場所からスタートするといい。開始までは発砲禁止だ」


「「了解です。」」


 そうして俺達三人は市街地フィールドの奥へと向かった。




「ねえねえ、自己紹介がまだだよね。僕の名前は福島 諒、これからよろしくね!」


 諒はとてもテンションが高い人だった。


「えーと、俺の名前は常田 優心。呼び方は常田で構わない、よろしく。」


 とりあえず印象を悪くしないためにも俺は挨拶を優先した。

 人間、第一印象は大切だ。


「俺は川嶋 東夜。よろしく!」


「常田と東夜は知り合いのようだね。」


「ああ、俺と東夜は幼なじみだからな。」


 にしても諒はどうしてP.K.D.Fに入隊したのだろうか…。

 全然戦闘ができそうな性格には見えないが。


「これより試験を開始する。総員戦闘開始!」


 話をしているうちに5分が過ぎてしまったようだ。いよいよ試験が始まったのだ。


「よし、俺らは未熟だ。単独行動はなるべく避けるようにしよう。」


 俺は真っ先に離れないように指示した。

 それからは三人一組スリーマンセルで背中合わせの陣形を組ながらゆっくりと前進した。


 すると、さっそく最初の襲撃がやってきた。


 俺達はすぐにビルの影に隠れて顔と銃だけをだして射撃した。

 相手は一人のようだがヒットされるのが怖くて上手く照準が定まらない。むしろ反撃されている。


「さすが現役は違うな…」


 東夜はそう言いながらマグチェンジを行った。


「よし、俺が突撃する。そのあとを追うように進みながら援護を頼む。」


 俺はそう言いビルから相手に向かってジグザグに走りながら前へと進み、射撃を繰り返した。

 すると相手はビルの後ろに隠れてしまい姿を消した。

 だが俺は止まることなく前進した。

 

 隠れたビルに到着すると襲撃してきた奴がマグチェンジを行っている姿が見えた。

 申し訳ない気がしたがなにも言わず発砲した。


「現役チーム1人目撃破!」


 撃つとアナウンスが流れた。


「あと4人だよ!」


 諒は嬉しそうに言ってきた。


「あまり調子はこいていられんぞ。」


 俺がそう言った時である。前方から2人の人影が見えた。


「おっと、さっそくおでましのようだ…。」


 すぐに俺達はビルとビルの隙間に隠れて様子をうかがった。


「な、なんだあの武器は…。」


 東夜があまりにも驚いていた様子でそうつぶやいた。

 奴ら2人はどちらもミニガンを装備しているからだ。


「まじか、闇雲に突っ込めないな…。」


 俺は辺りを見渡した。

 あらためて確認すると今いるビルの隙間の奥にあるゴミを入れる大きな箱の上にアタッシュケースのような物が見えた。


「あれは…?」


 俺は二人にもその箱のことを伝えて、それに走って向かった。


 近くで見るとそのアタッシュケースは言うほど大きいものではなかった。中を開けてみると予備のマガジンが三本と何か筒のようなものが二つ入っていた。


「これは…」


 その筒のようなものを取り出して見ると、表面に英語でスタングレネードと書かれている。

 訓練用に威力を下げた物だろうか。


「スタングレネード…大きな音と光がでるやつだったかな…」


「常田!なんか入ってたか?」


 俺の元についた東夜が小声で聞いてきた。


「ああ、これをみてくれ。予備の弾倉とスタングレネードが入っていた。」


 俺はそう言いながら2人に1つずつマガジンを渡した。


「ほほう、そのスタングレネードとやらを奴らに投げてやろうぜ。」


 東夜がそう言った後、俺達はさっきの場所に小走りで戻った。

 

 ミニガンを持った2人組はビルの前で立ち止まっている。

 俺達の大まかな居場所はバレているようだ。


「よし3、2、1でこいつを投げるからな。耳と目をちゃんと閉じとけよ。」


「オッケー」


「了解!」


「3、2、1」


 カウントを終えると俺は安全装置を外してスタングレネードを2人組に投げた。


「うん? なん飛んできたぞ。」


2人組は逃げようとせずむしろ投げたものが何なのかを確認しようとした。


 ピカ!


 そして2人組が近づこうとした瞬間、大きな音と光が一気に放たれた。

 俺達はすかさず2人組に制圧射撃をした。


「現役チーム2人目、3人目撃破!」


 再びアナウンスが流れた。


「ふう、何とかなったな…。」


 ビー!ビー!


 一安心したところにいきなり施設中の警報が鳴り響いた。


「な、なんだなんだ!」


 諒は慌てて座り込んでしまった。


「緊急警報発令。街の中心部でクライシスの出現を確認! 民間兵の動きもあります! 出撃可能なP.K.D.Fは直ちに出撃してください!繰り返します──」


 警報に続いて出撃を連絡するアナウンスが辺りに響いた。


「お前ら緊急事態のため試験は中止だ。さっきの更衣室まで来てくれ!」


 すると試験監督のアナウンスが流れた。俺達は走って更衣室に向かった。



「よく戻ってきた。すまない、まだ君達の入隊も決まってないのだが、こらから実戦とする。」


「え!俺達まだ訓練すら受けてませんよ!」


 東夜の言う通りではあったが、俺は今すぐにでも民間兵の奴らに会いたかった。 


「この間の避難場所襲撃でこの基地は隊員不足なんだ…。それに上からの命令もある。そのかわり、生きて帰ってくれば無条件で入隊確定にしてくれるそうだ。」


「本当ですか!?」


 東夜は嬉しそうだった。

 正直俺は入隊とかには興味はない。


「そうだ常田、お前は別行動だ私についてこい。あとはそこの先輩達についていけ。」


 そう言うと東夜達は先輩P.K.D.Fについて行ってしまった。

 試験監督の人は俺についてくるように手招して歩き出した。

 俺は東夜達を見送りながら小走りで試験監督についていった。



「なんで俺だけ別なんですか?」


「今回の奴らの目的はクローンの完全処理…とか言ってたな。」


「クローンの…!3日後とか言っていたのに…。その情報はどこで?」


「さっき、ここの無線情報班が傍受したと司令官から聞いたんだ。」


 俺は胸が苦しいような感覚に被われた。

 黒雨を失いたくないという感情からなのだろうか…。


「そこで司令官の命令で君にはそのクローンの救出作戦に参加してもらう。」


「俺が…?」


「ああ。人は誰も殺すなよ。殺していいのはクライシスだけだ。」


「…それは分かっています。でも、もし殺らなければならない事態になったら…?」


「そのために麻酔銃を渡す。お前が眠らせた奴らはあとで回収班が牢にでも送るさ。」


 試験監督の人は出撃準備室と札がある部屋の前で立ち止まった。


「さあ、中に入れ。」


 そう言われ中に入ると10人程の人が装備を着用したりと準備をしていた。


「あら、あなたが常田…優心君だったかしら?」


「あ、はい。」


 いかにもリーダー感のある年上の女の人が話しかけてきた。


「常田、紹介しよう。この人はここのチームの隊長の天野あまの 美穂みほだ。今回はこのチームと一緒に活動してもらう。」


「了解です。」


 返事をすると試験監督の人は部屋を出て行ってしまった。


「さあて、クローン少女とやらを救出にいきましょ!」


 美穂さんはそう言うと俺に銃を渡した。


「そのアサルトライフルはあなたが試験のときに使ってたものと同じよ。あとこのハンドガンなんだけど、中身は麻酔弾だからね。」


「わ、わかりました。」


「さあ時間がないわ、行きましょう!」


 他の人達も立ち上がって一斉に移動を開始した。

 俺はボーッとしていると、隊員の1人が俺の手を引っ張ってきた。


「うわ、ととと」


 いきなり引っ張られたため、俺は転びそうになりながらもついて行った。


「大丈夫ですの? 早く行きましょう。」


 手を引っ張ってきた彼女は俺を心配そうに見つめると、再び手を引っ張って歩き出した。

俺は彼女につれられるがままに黙って進んだ。


進んだ先にあったのは装甲車がたくさん並んでいる車庫ガレージのようだった。


「さあ、中に乗って。」


 俺は彼女に引っ張られたまま美穂さんのいる装甲車へと乗り込んだ。


「全員乗ったわね。さあ、出発して!」


 美穂さんがそう言うと装甲車は後ろの扉を閉じて走り出した。

 ちなみに彼女はまだ手をはなしてくれなかった。


「あの…そろそろ手をはなしてもらっていいかな?」


「あ、申し訳ございません!」


 彼女は今になって何故か顔を赤らめた。


「えーと、名前は?」


「私はさくら 有美ゆみと申します。あなた様は常田さんでよろしかったですよね。」


「うん、そうだよ」 


 彼女の話し方には少し個性が感じられる。



「ついたわ。ここがクローンの人を処理する場所らしいわ。」


 到着したところは古びた工場のようなとこだった。


「多人数でいくとバレるかもしれないわ。…そうね、私と常田君だけで行くわ。後の人はここで待機よ。他の装甲車に乗っている隊員にも伝えておいて。」


「なんで一緒に行くのが新人なんだ?」


 隊員の一人が納得していないのか質問してきた。


「私にも分からないわよ。司令官に中に潜入する時は必ず新人も連れて行くようにって言われたのよ。」


「そうだったんですか、なんかすんません。」


「謝る事なんてないわ。」


 美穂さんはそう言うと俺の手を引っ張って外にでた。

 今日は引っ張られてばかりだな。


「さて、健闘を祈ってちょうだい。」


 美穂さんがそう言うと装甲車の扉が閉まった。

 あらためて外にでると辺りは真っ暗闇だった。

 昼でも薄暗いのに夜となればただの闇としか感じられない。


「さて、行きましょう。」


「は、はい。」


 これでいよいよ、黒雨を助けることができる…。


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