ようこそ我が家へ
「ついたぞ、ここが俺の家だ。」
避難場所を出てから民間兵とやらに襲われるかと警戒してきたが、何事もなく家に到着できて一安心だ。
「とりあえず中に入ろうか。」
黒雨は静かに頷いた。
玄関に入ると黒雨は草履脱いで家にあがり、黙って辺りを見渡した。
「しばらくは、ここがお前の暮らす家になるんだ。自由にくつろいでくれよな。」
グウウウ
すると黒雨のお腹から食べ物を要求する音が聞こえてきた。
彼女はは恥ずかしそうに下を向いた。
「はは、腹空いてたんだな。チャーハンでも作ってやるよ。」
そして黒雨の頭をそっとなでて、台所に向かった。
「そうだ黒雨、チャーハンできるまで適当な所で休んでてもいいし、家の中を探検しててもいいからな。」
俺はそう言い残してチャーハンを作り始めた。
「おーい、できたぞー」
チャーハンができあったので皿に盛り付けながら黒雨を呼んだ。しかし、黒雨は返事をできないのを忘れていた。
仕方ないので自分から探しにいくか。
台所を出ると客間用の和室に明かりがついているのが見えた。
和室に入ってると、黒雨が畳に座って何かを見ていた。
「どうかした?」
問いかけながら同じ方向を見ると、そこには俺の父さんと母さんの写真が置いてあった。
「ああ、この写真の人は俺の父さんと母さんだよ。父さんと母さんは6年前に結成されたばかりの頃のP.K.D.Fに所属してたんだ。…それで、その年の戦いで死んだんだ。」
すると黒雨は申し訳無さそうに下を向いた。
「お前が気にすることはないさ。チャーハン冷める前に食べよ!」
俺はそう言い黒雨を連れて台所に戻ると、二人で向かい合うように座ってャーハンを食べた。
誰かと晩御飯を食べるのは久し振りだ。
食べ終わると食器を手短に片づけて、俺の自室に黒雨を案内した。
「ここが俺の部屋だよ」
俺の部屋はそう広くはなく、父さんと母さんがP.K.D.Fで使って銃や装備品が壁にかけられている。
それらは形見として父さんと母さんの所属していた部隊の人から貰ったものだ。
ちなみに銃は撃てないように改造されている。
黒雨は興味心身にその銃を見ていた。
「興味あるのかい?」
彼女はなにも反応しなかった。
やはり戦闘用のクローンというだけに、そういうのに興味があるのだろうか。
黙ってみていると黒雨は一つの銃を手にした。
「ん、それはUSPとか言う名前の拳銃だな。」
黒雨はなにも言わずその銃をもとの場所に戻した。
ただ触りたかっただけなのだろうか。
「まあ、好きに見ていいよ。俺の家なんてめったに他人が来ることはないしな。」
そして窓を見たときだった。
ウー!ウー!
「避難警報!?」
街中にクライシス発生による避難警報が鳴り響いた。
プルプルプル
同時に俺の携帯電話も鳴った。
端末の画面を見ると連絡してきたのは医院長だった。
「もしもし…」
「常田くんかい!?」
医院長はとても慌てているように喋った。
「そうですけど、なにかあったんですか?」
「民間兵が動き出したのよ。クライシスを使ってP.K.D.Fの目を引いている間にあなた達二人を殺す計画をたてているわ。」
「え、マジですか!?」
「さっき、P.K.D.Fの無線連絡班が民間兵の無線の一部を傍受して聞いたらしいの。家に滞在しているのは危険よ。早くそこから移動して!」
「わ、わかりました!」
俺が返事をすると、電話越しで医院長の側から別の人の話し声が聞こえた。
「こっちもトラブル発生みたい、また後で連絡するわ。その時まで生きていてね…。」
そして電話は切れた。
なんとも厄介なことに発展してしまったものだ。
「黒雨、俺達の命が危ないみたいだ。ここを移動しよう。」
俺はそう言い、黒雨をつれて家を飛び出した。
しかし、いざ家を出てしまうとどこに行けばいいのか、まったく分からない。
多分避難場所に行く道は奴らが待ち伏せしているだろう。
とにかく俺は一定の場所にとどまることは避けて移動し続けることにした。
プルプルプル
しばらく移動を続けていると再び電話が鳴った。
「もしもし、医院長?」
「常田くん、聞こえるかい!?」
確かではないが電話越しに銃声が聞こえてくる。
「そっちで何かあったんですか?」
「こちらの避難場所が襲撃を受けているのよっ。いい? こっちにだけ来てはダメよ!」
「…了解です。」
俺が行った所で何もする事はできないのだから指示に従うことにした。
「私はこれから救護車で移動しようと思っているの。それで常田くんと合流したいのだけど、どこにいるの?」
「医院長の端末に位置情報を送りますよ。」
「わかった、それを見て合流するわ。油断しないでね。」
そして電話は切れた。
俺は急いで医院長の携帯端末に位置情報を送った。
そこで今更ながら俺は黒雨がそばにいないことに気がついた。
「黒雨!?」
俺は辺りを見渡した。
パン!
黒雨の名前を呼んだ瞬間、火薬が破裂する音が聞こえて俺は全身の力が抜けて倒れてしまった。
「ふはは、チョロいな。」
俺は顔だけを声のする方へ向けた。
そこには首にナイフを突きつけられた黒雨と民間兵だと思われる数人の男の姿があった。
「ごほ、く…ろさめ…」
どうやら腹部を撃たれたようだ。
「ああ? まだ喋る元気あるのか」
「お…前、く…さめを、どうする気だ…?」
俺は今ある力を全て出して喋った。
「どうするって、処分するんだよ。ボスが3日後までに新たに処分する場所を決定するそうだからな。まあ、お前は先にあの世で待ってな。」
視界がだんだん歪んできた。もう、目を開けているのも辛いレベルだ。
銃を持った民間兵は俺の頭に銃口を向けた。
「く、そう…」
諦めかけたとき、一台の救護車が目の前にやってきた。
「常田くん! 」
そして飛び降りるように医院長と数人のP.K.D.Fの隊員がでてきた。
「い、いんちょう…くろ…さめが…!」
「今はあなたの治療が最優先よ!」
そう言うと医院長は俺を救護車に運んだ。
「常田くん、治療するのに麻酔を打つわよ!」
そうすると医院長は麻酔を打った。俺は直ぐに意識を失ってしまった。
「黒雨…」
俺はそうつぶやきながら目を覚ました。
身体を見ると傷は完治していた。さすが医院長だ。
「目が覚めたかい?」
ベッドのそばには医院長が座っていた。
辺りを見渡すとここは救護車の中ではないようだ。
「あの、ここは?」
「ここは、隣の地域にあるP.K.D.F基地の医療棟の病室よ。私達の所は避難場所も含めて基地も襲撃を受けちゃって……防衛はなんとか成功したけど後片付けとかで、今は使えないからね。」
「そうですか…。黒雨はどうなりましたか?」
すると医院長は首を横に振った。
まあ、分かりきっていたことではあったが。
「でも黒雨ちゃんは死んではないわ。…常田君は彼女をそんなに救いたいのかい?」
「俺はまだ何も言ってませんよ…。」
「言わなくても顔に書いてあるわよ。」
医院長はそう言うと俺のおでこを突っついた。
「そうですね…助けたいですよ。」
「そっか、じゃあP.K.D.Fに入隊しないかい?」
「え?」
「P.K.D.Fは中学生からなれるからね。君は高校生だし、年齢はクリアだ。それに黒雨ちゃんを救うにはもってこいの武装も揃っているよ。」
正直、黒雨を助けられるのであればそれでもよかった。
……俺は黒雨の事をどう思っているんだろうか。自分でもよく分からない。
「心に迷いがあるのかい?」
「いえ、俺はどうしてこんなにも彼女の事を助けたいと思っているのか、疑問に思って仕方がないんです。」
「それは、好きだからじゃないかな。」
「好き…?」
「そう。好きとは恋人関係に限られたものではないだろう? 友達や親友としての意味での好き、家族としての好き…その他にも好きとは沢山あるのだよ。」
そう言われれば黒雨の事が好きなのかもしれない。
「P.K.D.Fに入隊すれば直ぐに出発はできますか?」
「入隊試験と初期訓練がスムーズに終われば、最短四十八時間以内には短い時間の実戦には出発できるわ。まあ、私がコネを使って黒雨ちゃん救出作戦を作ってあげるからそのあたりは気にしなくて大丈夫よ。」
コネとは何か分からないが、ありがたい話だ。
「わかりました。……入隊します。」
「よし、その心意気だ!」
流れはともかく、俺は黒雨を絶対に助けると心に誓った。