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友人達の助け


 「う、ぅぅうん?」


 頭が…いや、全身が痛い。


 視界が霞んで見えるし、なんか変な体制をしてるみたいだ。


 おまけに背負っている銃に体を圧迫されて苦しい。


 …ああ、そうか。


 やっとで車を運転して基地から脱出できたと思ったら、いきなり車が吹っ飛んで…吹っ飛んでどうなったんだ?



 意識がはっきりとしない中、状況を少しずつ整理しながら徐々に霞みか晴れていく視界で周りを見渡した。

 

 車は逆さまになってしまい、屋根ルーフが地面についている状態になっているようだ。

 そのせいでシートベルトをしていなかった俺は天井に頭をぶつけて気を失ったのかもしれない。ど


 の程度の勢いで車が吹き飛んだのかは知らないが車窓は全部割れている。


 周りの状況を少しずつ把握していると、自分のそばでもぞもぞ動く影が視界に入った。


「く、黒雨くろさめ…大丈夫か?」


 黒雨も天井に頭をぶつけたのか、うつ伏せの体制のまま片手で頭を押さえながら、もう片手で起き上がろうとしていた。


 なんとか顔だけを後部座席の方に向けると、外傷があまり見られない沙織さおりさんと車が吹っ飛んだ時にきっと沙織さんをかばったと思われるサードの姿が視界に入った。


「さ、サード?」


 サードの腹を見ると包帯で止血していた傷口が広がってしまったのか、血がにじみ出ている。

 そのせいで傷口がかなり痛むのか、ただ苦しそうにうに息をして目を閉じていた。


 一刻も早く応急処置をしなければならないが、道具も知識もない。


 状況の打開策を必死に考えていると、サードの後ろ側にある割れた窓からグリードの兵士が3人歩いてくる姿が見えた。

 さっきの爆発で俺たちがどうなったのかを確認しにきたのかもしれない。


「サード、さっき使ってた痛覚遮断薬はまだあるか?」


「あ、あと2つ…ある。」


 サードはそう言いながら、さっきまで肩に掛けていたカバンの中を片手であさり始めた。


「貸してみ…」


 俺はうつ伏せの体制のままサードに近づき、彼女の手からカバンを取った。

 カバンの中を見るとMP7の拡張弾倉ロングマガジンが3つと2本の注射器だけが入っていた。


「これか…?」


 俺は1本だけ注射器を手に取ってサードに質問した。

 サードは黙って頷いた。


「後ろからグリードの兵士が近づいてきてる。俺がどうにかして片付けるから、そうしたらここから逃げるぞ。」


 サードは顔を背後の窓に向けて、グリードの兵士が近づいてくるのを確認した。


「とりあえずこれを注射するから、奴らを排除したら黒雨の肩を借りてここからなるべく離れろ。俺は沙織さんを抱えてから直ぐに後を追う。」


「わかった…」


 サードの返事を受けると、俺はサードの着ている装束の白衣の右袖をまくり、血管を探りながら腕に注射を刺した。

 注射を刺しながら後ろを確認すると、奴らは話声が聞こえるくらいにまでに近づいていた。


「はあ、はあ、少し痛みが和らいできた。」


 注射を刺し終えて数秒、早くも薬が効き始めたみたいだ。


 グリードの兵士たちはひっくり返った車の前まで来ると立ち止まった。


「おい、車の中から話し声が聞こえないか?」


「まあ、あの程度で死ぬような連中ではないさ。」


 グリードの兵士の一人が中を覗こうとしゃがんだ。

 俺は学校を出た時に回収していたグロック拳銃をレッグホルスターから抜き取り、車内を覗こうとする兵士の股間めがけて引きトリガーを引いた。


「ぐああ!!」


 一人が発狂しながら倒れ込むと、残りの二人が動き出す前にすかさず足に向けて銃弾を何発か撃ち込んだ。


「よし、今だっ」


 俺がそう言うと、黒雨はサードの手を引いて外に出て行った。


 俺は這いつくばって車を出ると、沙織さんも車から引っ張り出した。足を撃たれた痛みを訴えている二人のグリードの兵士に背を向けて沙織さんを抱えた。

 

 それから黒雨とサードの元へと小走りで向かった。


 サードが歩いた道は血でマーキングがされている。

 いくら薬で痛覚が一時的に遮断されてるとは言っても、血を失いすぎてはもともこもない。早く何とかしないと。


「早々と追手が来たみたい…。」


 サードが後ろも振り向かずに言った。

 耳を澄ませてみると何台かの装甲車らしきエンジン音が近づいてくるのが聞こえる。


「早く移動しな──」


 俺が喋ろうとすると足元に数発の銃弾が飛んできた。

 後ろを振り向くと3台の装甲車がこっちに向かってきているのが見える。

 各装甲車の上部の銃座では、こちらにマシンガンの照準を合わせているグリードの兵士らの姿が目に入った。


 このままだとハチの巣にされてしまう。


「っく、逃げないと!」


「こんなんじゃダメっ、私の事を置いて行ってっ!」


 サードは体に残っている力を振り絞って喋った。


「そんな訳にいくかっ。」


 確かにここでサードを置いていけば、黒雨が身軽になり少しでも逃げれる可能性が上がる。

 しかし、ここまで一緒に来ておいて見捨てるなんて選択は俺にはできない。


 激しい葛藤で頭が一杯になったその時、前方右の方向から一台のP.K.D.Fの装甲車が勢いよく飛び出してきた。


「な、なんだっ?」


 装甲車は俺たちの進みたい道をふさぐように停車すると、車両の左右についている小型のロケットランチャーを後ろから追ってきていたグリードの装甲車に向けて射出した。

 射出された弾は着弾すると白いガスを大量に噴射し始めた。


「これは煙幕スモークか…?」


 モクモクとたかれる煙の中で、道をふさいでいる装甲車の後ろの扉が開き、中から人が出てきた。


「乗れ、常田ときた!」


 この声は東夜とうやだ。


「東夜、どうしてここに!?」


「いいから早く乗れ!」


「お、おう。黒雨、中へ!」


 俺は急ぎ足で装甲車の中に入り、空いている席に沙織さんを寝かせた。

 黒雨も中に入ると、寝かせた沙織さんの隣にサードを座らせていた。


「扉を閉めるぞ。安奈あんな出発だ!」


「了解っ」


 東夜が安奈という女性に出発の指示をすると、装甲車はもの凄いスピードで走り出した。


「うぅ…。」


 信用できる人がいる団体に助けてもらって一安心した所で、サードの容態が心配だ。


「サード、気をしっかり持て!」


 サードはもう限界そうだ。


「その二人、酷い怪我をしてるな。」


 東夜はぼそりと言った。


「ああ、早く手当てしてやらないと…。」


「ん、怪我してるのかい?」


 突然、車内の奥にあるコンピュータ前に座っていた一人の男が立ち上がって声をかけてきた。


「あんたは…福島諒ふくしまりょうさん?」


 声をかけてきたのは、いつぞやの入隊試験で共に戦った人だった。東夜と一緒に活動していたのか。(第5話入隊より)


りょうでいいよ。」 


 彼は優しげな笑顔で微笑むと、サードと沙織さんの元に交互にしゃがんで傷口を確認し始めた。


「もしかして治療できるのか?」


「安心しろ、諒はこの部隊の中で一番のメディックだぜ。」


 東夜が誇らしげに喋っていなか、諒は背中に背負っていた大きなバックパックを床に置いてあさりだした。中には色々な治療道具や薬品などが見える。


「2人ともずいぶんと無茶したね。こっちのバトルスーツを着た人は内臓にダメージを追ってるけど、簡易的ながらも的確な応急処置をされてるから、ここにあるものでなんとかなりそうだ。」


 諒は沙織さんのバトルスーツを必要最低限脱がせると、腹部の傷口を開いて、俺にはよく分からない道具と薬で治療を始めた。


「サードはどうなんだ?」


「そっちの女の子はここにある道具と薬だけじゃ少し厳しいかも。そもそも血を輸血しないとヤバイかもだし……。それでも応急処置はできるから、遅くても24時間以内に本格的な治療ができる場所を探す必要がありそうだね。」


「そ、そうか。とりあえず2人を頼む。」


 俺は2人の無事を祈りながら黒雨が座っている座席の隣に座り、重みのあるため息をついた。


「そういえば、東夜はどうしてここに?」


「ああ…。お前を疑ったわけじゃないが、ここにいる俺の仲間が学校に到着したときに、外でお前とそこの見慣れない制服を着た女の子が学校を出ていくのを見たって言ったもんでな。もしかしたら武装集団テロリストの協力者かもしれないと思ってな…。」


「なるほど……。」


 黒雨と援護したP.K.D.Fの装甲車はこれだったのか。

 しかし、あの状況でなにも言わずに学校を出て行ったのだから怪しまれても仕方ないだろう。


 まあ、喋ったところで“特殊戦闘員”なんて信じてくれるかは怪しいがな。


「それで、外に停まってた武装集団テロリストの装甲車の中にドローンが一機あってな。妨害電波のこの状況でも遠隔操作が可能だったから、空から常田おまえを監視してたってわけさ。でも、追われてる状況をみて多分協力者ではないだろうって判断して急いで駆けつけたってとこかな。」


「そうだったのか…。本当に助かったよ、ありがとう。……それで、学校の方はどうなったんだ?」


「それなら俺の仲間が到着したあと、すぐに他の味方の部隊も合流して何とか敵は制圧はできた。ただ、外の酷い有様で生き残った人たち全員が帰宅難民扱いで学校に残されているけどな……。」


「そうか…。」


 会話が終わりかかったとき、突然車内が大きく揺れた。


「どうした!?」


 東夜は立ち上がって運転席の方へと向かった。


「さっきの奴らがまだ追ってきてるのよ。しかもRPGロケットパンツァーグレネードを撃ってくるっ!」


 安奈は焦った様子で喋っていた。


「くそっ。とりあえず俺が相手してやる。」


「お願いよっ。」


 東夜は車両中央の銃座になっている天井扉から上半身だけ外に出して、追ってくる装甲車に機関銃で制圧射撃をした。


「くそっ、あいつら強化装甲で車体を覆ってるな…。」


 俺が黙ってその様子を見ていると黒雨が俺の肩を叩いてきた。


「どうした?」


 黒雨は俺が背中に背負っている弘のロッカーから拝借してきた変態銃を指さした。


「これで何とかなるだろうか?」


 とりあえず変態銃を手に持って弾倉マガジンを確認した。

 あと3発入っている。


「東夜、これ使えるか?」


「なんだ、その銃は……。まあ、今のままじゃ火力不足だし、とりあえず借りるぜ。」


 東夜はそれを受け取ると早速とばかりに追ってくる装甲車に一発撃ち込んだ。

 耳に響く大きな銃声が聞こえてくる。


「どうだ?」


「すんごい銃だ。一発で強化装甲の装甲車を廃車にできたぞ…。」


 東夜はそう言いながらもう一発撃った。


「おっ、奴ら撤退していくな。」


 どうやら生き残りの装甲車は変態銃の威力に警戒してか退散したようだ。

 東夜は俺に銃を返すと、上部扉を閉めて銃座から降りた。


「これからどこに…?」


 俺が質問すると東夜はさっきまで諒が座っていたコンピューターのある席に座った。


「今は通信障害のせいでP.K.D.Fはまともに機能してない。だから、ちゃんとした目標は無いんだ。それでだな、勝手な行動で皆に迷惑をかける事になるが、俺の家族の安否の確認に行こうと思う。」


「家族って、この状況でどこにいるか分かるのか?」


「その点は大丈夫だ。大抵のP.K.D.Fに所属している人の家族は、各地域の特別避難所に避難してるはずだ。」


「ああ、そうか…。」


 P.K.D.Fに所属している者の家族は、一般より設備が充実していて、警備が厳重な安全性の高いシェルターに避難する権利が与えられる。

 それを理由にP.K.D.Fへ入隊する者やさせられる者がいるのだ。


 どこか不公平で皮肉なシステムだと思う。


 ちなみに俺はそのシェルターに入る権利がなかったので、中がどうなっているかなどは知らない。


「常田の前では申し訳ない話だが、母さんが無事だといいが…。」


「…そうだな。」 


 家族という言葉を聞いて、ふと医院長いいんちょうの事を思い出した。


 医院長は無事なのだろうか……。

 朧丸おぼろまる鈴鳴すずなひろし田中たなかさん、ファースト達も無事に生きているだろうか。


 突然、仲間の安否が心配で頭が一杯になってしまった。

 一つだけ幸いだと言えるのは、唯一の家族といえる黒雨が直ぐそばで軽症で生きているということだろう。


 ……俺もこれからどう行動するか考えるべきだろう。


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